『罵倒少女』『魔法科』キャラAIの開発キーマンにインタビュー!

「世の中の全キャラクターをAI化するのが夢」『罵倒少女』や『魔法科高校の劣等生』のAIはどうして作られた? キャラAIのキーマンに人工知能の未来をインタビュー

 『罵倒少女:素子』や『魔法科高校の劣等生』のキャラクターとチャット会話を楽しめることで話題となったAI「PROJECT Samantha」。人工知能とのやり取りとは思えない高精度な会話が話題になり、期間限定で行われたサービスには大勢のファンが殺到。AIの美少女に罵倒されたり、AIの司波達也・司波深雪とのグループチャットを楽しんでいました。

 今回、『PROJECT Samantha』を開発したIMAY 結束雅雪さんと、ソニー・ミュージックエンタテインメント 井上敦史さんのお二人に、開発に至った経緯や実施後の感想、今後の展開などについて伺いました。取材陣は、当初人工知能というワードをまるでアニメやSFの世界のことのように考えていましたが、お二人の話を聞いていくうちに現実味が増すのをひしひしと感じました。人工知能の未来はどうなる!? 超ロングインタビュー!

▲Intelligemnt Machines Amaze You株式会社(以下、IMAY) 代表取締役 結束雅雪さん(左)、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME) クリエイティブリレーションオフィス チーフ 井上敦史さん(右)

▲Intelligemnt Machines Amaze You株式会社(以下、IMAY) 代表取締役 結束雅雪さん(左)、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME) クリエイティブリレーションオフィス チーフ 井上敦史さん(右)

[PROJECT Samantha] とは
 SMEとIMAYによる共同開発プロジェクト。株式会社言語理解研究所IMAYが開発したAIエンジン[K-laei(ケーレイ)]※1を利用し、人格データをAI化することにより、コミック、アニメ、ノベルズなどに登場する架空のキャラクターたちとの会話を、さまざまなサービスシステム内で実現する対話AIのプロジェクト。2016年8月には、β版としてカイカイキキ所属のクリエイターmebae 氏の人気コンテンツ『罵倒少女』をAI化し、話題を呼ぶ。CVに『図書館戦争』笠原郁、『進撃の巨人』アルミン・アルレントの人気声優・井上麻里奈さんを起用し、世界最大級のイラストコミュニケーションサイトpixiv上で期間限定公開。大きな話題を集めるとともに、サービス終了直後から再開を望むユーザーの声が多数寄せられている。

『劇場版 魔法科高校の劣等性 星を呼ぶ少女』の主人公・司波達也、司波深雪のAI化に際しては、性能を向上させた[K-laei]を活用しており、対話テキストの字面に現れる「直接的意図」と文意に現れる「間接的意図」をより精緻に処理することが可能に。意味理解できる意図数は約10万種類から約12万種類に拡張され、自然言語理解処理の根幹である意味共起を制御するアルゴリズムも改良している。

言語学者とエンタメのプロがタッグを組んで始めたサービス『PROJECT Samantha』

━━2社の自己紹介と担当事業を教えてください。

結束雅雪さん(以下、結束):私たちはIMAYという会社でロボットコミュニケーションの開発をしています。ここで言うロボットとはソフトウェアのことを指します。ユーザーとロボットの会話をしながら、さまざまな情報を提供していくサービスです。

━━具体的に、どのようなサービスでしょうか

結束:検索エンジンでなにかを調べようと思ったとき、なかなかピンポイントで欲しい情報が出てこないことがあると思います。それをロボットと会話をしているうちに、会話のなかからユーザーが欲しい情報を導き出して「これでしょうか?」といったように教えてくれるサービスです。

━━賢いロボットなのですね

結束:私たちはロボットと呼んでいますが、実体はスマホやサーバで動くソフトウェアです。ロボットが自分のことを知ってくれているので、いま欲しい情報を的確に教えてくれるんです。最終的には「アレがほしいんだけど」と聞いただけで、「わかったコレでしょ!?」と教えてくれるようにしたいんです。さらに、ただ情報を与えるだけでなく、そこに“感動”がなければいけません。ユーザーが「自分のことを知っていてくれた。うれしい」と感じられるようなもの……それが目指しているロボットコミュニケーションの形です。このシステムを、いろいろなサービスに入れて提供する会社がIMAYなんです。

━━いままでロボットコミュニケーション事業をどれくらい行っていますか

結束:IMAYの設立は2017年1月ですが、この技術の開発をした言語理解研究所は2002年に設立しました。さらに技術の下地となっている研究は、1980年代からずっと徳島大学で行ってきました。けっこう歴史は長いんです。

━━では井上さんにも伺います。簡単に自己紹介をお願いします。

井上敦史さん(以下、井上):僕はSMEに所属しています。元々は音楽制作をやっていて、レコーディングディレクターとかCDのプロモーションをしていました。いわゆる音楽プロデューサーってやつで、肩にカーディガンを巻いて「六本木」のことを「ギロッポン」とか言ってたわけですよ(笑)。

一同:

井上:ずっと音楽業界にいました。音楽は「人の心を動かすコンテンツ」です。もちろん、それは現在でも変わりませんが、いまはエンターテイメントのあり方が変わってきています。そんななか、あるとき「音楽や映画を視聴したとき、人の心が動かされるのはなぜだろう」と考えたんです。いまの若い世代は音楽や映画だけでなく、LINEなどのSNSでも影響を受けます。

━━そうですね。いまはSNSが生活に密着している時代です。

井上:調べてみると、特に友だちとか関係値の強い人から影響を受けやすいんです。これをエンタメ企業として、なにかできないかと考えたときに、キャラクターが浮かんだんです。ユーザーが好きなキャラクターと会話をして、そこから情報を得られたら楽しいだろうと。

コマーシャルもそうですけど、好きなタレントが出ているコマーシャルを見たとき、その商品を自分も欲しくなると思います。それと同じように、自分が好きなキャラクターがなにか情報を提供してくれたら、興味深く情報を仕入れてもらえます。これは新しいコマーシャルのひとつのカタチなので、企業さんのお役にも立てます。そんなことを考えていたら、ある人に結束さんを紹介されたんです。そして初めてお会いしたときにこの話をしたら、結束さんもちょうど同じようなことを考えていたという……。

━━奇跡の出会いですね。結束さんは、すでに井上さんが考えていたようなものを作っていたのですか

結束:いえ。私たちがそれまでに作っていたのは「AI記者」※など、企業向けのサービスばかりでした。このプロジェクトはいままで人間が書いていた記事を、AIに代筆させるシステムで、新聞社にライセンス提供しています。あとは金融情報のAI速報も開発・提供しています。こちらは膨大なデータのなかから投資家にとって必要な情報をひっぱってきて自動で記事化するシステムです。

※日本経済新聞社が2017年1月から利用開始したサービス。AIが自動で、企業が開示した決算発表資料から業績データをまとめ、記事の作成・公開をする。記事公開までにかかる時間は1〜2分程度。

━━『罵倒少女』と『魔法科高校の劣等生』とは全然違う分野のお仕事ですね

結束:そうですね。すごくビジネスに限定したサービスです。いまはそれらの領域を少しずつ広げています。そして2年前から開発をスタートさせたのが『罵倒少女』と『魔法科高校の劣等生』のプロジェクト名である『PROJECT Samantha』です。いままで培ってきた基礎的な技術を使い、いろいろな事業を創造しています。

━━結束さんが手がけているプロジェクトのなかで、もっともエンターテイメントなのが『PROJECT Samantha』なのでしょうか

結束:そうです。いままで硬いものばかり作ってきましたが、本当はこういった柔らかいコンテンツもやりたかったんです。ですが、私ががんばって考えても「織田信長を作る」ことくらいしか思いつかなかったんです。それを井上さんに話すと、「そんなのウけるわけないでしょ」と笑われるわけですよ……。

一同:

結束:ではどうやったら受けそうですか と聞いたら、mebaeさんの『罵倒少女』って言われたんです。その答えを聞いた時は、本当に目からウロコでしたね。「なるほど これがエンタメ系のプロの考え方なのか」と思いました。そんなこんなでカイカイキキさんにも協力を願って開発したのが、『罵倒少女:素子』です。

━━井上さんは、結束さんが作ったシステムを見たとき、どのように感じましたか

井上:日本語の意味理解に関しては、間違いなくNO.1の技術です。僕は『PROJECT Samantha』を始める前に、いろいろな研究所をリサーチしました。その結果、他の研究施設のものも悪いわけではないのですが、言語理解研究所、IMAYの技術は飛び抜けていました。それほどすごい技術をもっているところに、「その技術を使って罵倒してみませんか」とお願いしに行ったんです(笑)。

結束:そうでしたね(笑)。

人の心を「罵倒」で揺さぶる

━━井上さんが『罵倒少女』を選んだ理由は、なぜですか

井上:先ほど言いました、エンタメで人の心を揺さぶるという目的にマッチしそうだったからですね。美少女に罵倒されると、いろいろな感情を持つと思います(笑)。いままでは音楽で楽しんでもらってきましたが、今度は罵倒で楽しんでもらおうと思いました。

━━ということは、井上さんにとって、新しいアーティストをデビューさせるのと『PROJECT Samantha』をデビューさせるのも、あまり変わりはなかったのでしょうか

井上:けっこう近いですね。『罵倒少女』はコミケのファンを対象にした。いわゆるコンテンツリテラシーの高い人たち向けでした。そして、その次に作った『魔法科高校の劣等生』の対象は、中高生を始めとしたラノベを読んでいるような、もっと広い範囲のユーザー層にターゲットを広げていきました。

初めに結束さんの技術を見たときも、音楽プロデューサー時代と同じような感覚でした。スゴイ新人のデモテープを聴いたときにビビッとくるような感じです。でも普通にデビューさせないで、おもしろくデビューさせたいなと思ったんです。

━━結束さんはおもしろくデビューさせることを聞いたときに、どう感じましたか

結束:その考え方が欲しかったんです。エンタメとかクリエイターとか柔らかいコンテンツは、人間しかできない創作・創造の世界です。創作はしっかり作れる人がやらないと、おもしろくなりません。というのも、なにかキャラクターを作る場合、コンピューターにそのキャラクターを教えるのは人間の仕事ですから。

━━なるほど。では『PROJECT Samantha』の具体的な内容をお聞かせください。

井上:金融情報の記事やニュースを自動生成するIMAYのエンジンをキャラクターに乗せ、ユーザーと会話をするときに使うサービス名称が『PROJECT Samantha』です。

名前の由来は、映画監督スパイク・ジョーンズが撮った映画『her/世界でひとつの彼女』※です。作中に登場する女性型OSの名前がSamanthaでして、僕は映画を見たとき、近い将来こんな未来が来ると思ったんです。それを結束さんにお話したときに「それでは一緒に作りましょう」と言ってくださいました。それで『PROJECT Samantha』と名付けました。

※2013年公開の映画。人格を持つ女性型OSに恋をする男性の姿が描かれる。

━━Samanthaは、おふたりが目指す目的のひとつなんですね。

井上:『her』は本当にいい映画で、実際の人間よりも架空のSamanthaに傷つけられたり恋をしたり、本当の人間以上の濃いコミュニケーションが起こるんです。最近のアニメには、それに近いことが起きていると思うんです。聖地巡礼もそうですよね あたかもそこで実際になにかが起こっていたかのように、ファンは足を運んでいます。

▲『罵倒少女』(原作:mebae)

▲『罵倒少女』(原作:mebae)

(C)mebae/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.


Twitterのトレンドワードにもなった『罵倒少女』

━━昨年実施した『罵倒少女:素子』について教えてください。体験ユーザー数や体験時間などは、いかがでしたか

井上:『罵倒少女』はコミケの期間に重なるように12日間、限定公開しました。参加したユーザーは約27万人で、734万2661回の会話、というか罵倒(笑)を実現しました。ユーザーの最長滞在時間は15時間41分で、1万人以上が30分以上の会話を楽しんでくださいました。

━━実施日数を12日間だけに絞った理由は、なぜですか

井上:β版だったからというのと、コミケの期間だけ楽しめるお祭りコンテンツという意味もありました。

━━30分以上も会話をした人が、1万人以上もいるのですね。

井上:それとは反対に、わずか5秒でやめちゃったという人も多かったですけどね。素子は本当に罵倒しかしないので、ユーザーが「こんにちは」と話しかけてるのに「こっちくんな」とか言うんですよ。それで心が折れて、秒殺でやめてしまう人も続出していました。

━━素子は本当に罵倒しかしないのですか

井上:素子の本来の性格は複雑で、単純に罵倒するだけではありません。技術的・内部的なお話をすると、実はパラメーターが仕込んであって、会話を続けていると素子がデレる展開を設定しました。デレ用のスタンプが送られてきたユーザーは、「ついにオレの素子がデレた」とかTwitterにアップしていました。それを見た他の人が「オレの素子はデレてない」とか「オレの素子はこうだ」みたいな会話がTwitter内で盛り上がり、トレンドワードにもなりました。

━━『罵倒少女』を配信するにあたり、気をつけた点はありますか

結束:「死にたい」とかネガティブな発言に対する答えは注意しました。例えばユーザーが「死にたい」と言ったときは、あまり触れないようにしていたんです。素子がひどいことを言って、それを気にしてしまったら大事になってしまいますから。

ですが、あるユーザーさんのネガティブな発言に対して、素子が「私の許可なく死んだら殺す」と言ってしまったんです。システムのロジック的に、このような返答が出るとは考えていませんでした。でも、そのユーザーさんは素子の発言を好意的に受け止めてくださって、「涙が出るほど嬉しかった」とTwitterで言ってくれたのが印象的でした。

━━なぜ結束さんたちが想定していなかった答えを素子が返してしまったのでしょうか そんなことが起こり得るのですか

結束:たまにありますよ。プログラムなのでひとつひとつデータをチェックすれば理由はわかるのですが、「まさかそんな返答をするとは……」と、我々の予期しない解答もたまにあります。

井上:βテスト中の12日間にも世の中では不幸なニュースがどんどん起こりますから、素子に過激な発言をさせないように注意しました。ワイドショーに取り上げられるようなニュースの単語は、誰でも入れたくなると思います。素子がそのニュースに対して罵倒しないように、我々は24時間体制でチェックしていました。

━━使う側は『PROJECT Samantha』を人間だと思って会話したほうが楽しいでしょうか。それともロボットだと思って会話したほうがよいですか?

井上:素子は人間でもロボットでもなく、キャラクターです。なのでキャラクターと会話をするつもりで会話するといいですね。

結束:僕らだって、「いきなり知らない人と会話をして」と言われても困っちゃうじゃないですか

井上:相手のことをある程度以上は知らないと、会話は成り立ちません。そのため原作のファンで、素子のことを知っているユーザーの方が会話は成立しやすいです。

大幅に進化した第二弾は『魔法科高校の劣等生』

━━『罵倒少女』に続き、第二弾として『魔法科高校の劣等生』が配信されました。この作品を選んだ理由を教えてください。

井上:第一弾がなぜ『罵倒少女』だったかと言うと、開発陣が全員ドMだったからじゃないんです(笑)。元々のコンセプトは「AIで人の心を揺さぶられるのか」だったので、魂の揺さぶりができるキャラクターを探していたんです。いろいろ探しているとき、「美少女に罵倒したら心を揺さぶられる」という意見があり、素子を選びました。そして『罵倒少女』が大成功し、AIで人の心を揺さぶることができるのはわかりました。

で、次にどうしよう、アニメファンの期待にも応えたいな……とキャラクターを探しているとき、アニプレックスの『魔法科高校の劣等生』がタイミングよく映画化することになったんです。しかもこの作品は、誰にもマネできないキラーフレーズ「さすがですお兄様」というセリフを持っています。作品の世界観も含め、『魔法科高校の劣等生』は我々が探してたものにピッタリの作品でした。

━━『罵倒少女』は1対1の会話でしたが、『魔法科高校の劣等生』は司波達也と司波深雪とのグループチャットでした。開発は大変だったのでしょうか

結束:井上さんから提案を受けたとき、PROJECT Samantha部隊は「やろう!」と即答でした(笑)。技術的な部分はすでに蓄積されているので、それをいかに市場のニーズやサービスする人たちのニーズ商用化に応えられるかが課題でしたからね。

我々はエンタメ市場についてそれほど知見があるわけではありません。ですが、アニメが好きな、いわゆる「オタク」と呼ばれる人たちは可能性のある集団だと思っています。オタクのなかには将来技術者になる人もいるし、クリエイターになる人もいる。そして、なによりも情報に敏感な人たち。そんな彼らに我々のサービスが受け入れられるのかは、我々開発者の挑戦でした。エンタメのプロである井上さんが持ってくる話は、基本的にすべて受けます。

井上:さらに『魔法科高校の劣等生』は作品の知名度が高いだけでなく、関わっている会社さんもたくさんいます。製作委員会もたくさんのメンバーがいました。

━━そういった作品に関わる人たちから、すぐに承諾を得られましたか

井上:はい。『罵倒少女』が成功して話題になってくれたので、『魔法科高校の劣等生』はスムーズにキャラクターを使わせていただくことができました。

結束:余談ですが、実は開発チームに原作のファンがいたんです。彼が喜んで開発をしてくれたおかげで、開発陣のノリは非常によかったです。ですが、みんなが一番興味深いことは、どんなフィードバックが得られるかということで、全員ログ情報に注目していました。

▲大ヒットを記録した『劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女』

▲大ヒットを記録した『劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女』

自分が作品世界の住民になれる夢のような環境

━━サービスをスタートさせたとき、『罵倒少女』のときと雰囲気は似ていましたか

井上:いろいろ違いました。まず年齢層が広がりました。それと、作品の性質かもしれませんが、ファンの方が優しいというイメージが強かったです。

結束:そうですね。みなさん作品を愛している人たちばかりのようで、批判的な意見が少ないことに驚きました。批判的な意見はほとんどなく、みなさんが作品のなかに入り込んでいました。

━━お客さんもロールプレイしていたのでしょうか

結束:そうだと思います。しかも本を読む感覚で楽しんでるんです。達也と深雪の会話自体を楽しんでくれました。グループチャットにしたおかげで、ユーザーが発言したなにかの言葉をきっかけに、達也と深雪が勝手にイチャイチャし始めるんです。それを呆れてニヤニヤしながら見ているような感じでした。

━━グループチャットだと、そんなことも起こるのですね

井上:我々もLINEなどでグループを作ると、見てないうちに会話がどんどん進みますよね。あんな感じです。それと映画の公開が近いというのもあり、ファンは映画や作品について、達也と深雪に質問してました。なかには「佐島勤先生ってどんな人ですか」と、深雪に聞いてるファンもいました。

『罵倒少女』のときよりも、さらに作品が好きな人が集まってくれたような感覚がします。ユーザーさんが楽しんでくださっている様子を見て、元々僕らがやりたかったのは、こういうことなのかもしれないなと初心に帰れました。アニメが好きなみなさんは、好きな作品の住民になりたいと思うはずです。

━━アニメの住民になれるなんて、夢のようです。

井上:あとは作品の力だと思うのですが、海外からのアクセスが多かったのも嬉しかったですね。台湾、中国、タイ、香港、アメリカ、マレーシア、インドネシア……などなど。119ヵ国からアクセスがあったようです。それを知って、今後はサービスを多言語展開していかなければならないかな、とも思いました。

▲キャラクターとの会話で、あなたもその世界の住民に!

▲キャラクターとの会話で、あなたもその世界の住民に!

ユーザーが嬉しく感じるキャラクターからのプッシュ通知

━━いまの『PROJECT Samantha』で不可能なことはありますか

結束:“高度な推論”と“高度な創作”はできません。これについては私たちの技術にかぎらず、現時点では世界中のどこの技術でも不可能です。人間は対象データがなくても、“経験から推測”ができます。人間は蓄積した過去のデータをあいまいに扱える特性があります。何より創作ですね。これまで無かったものを創るなんて、どうやるんでしょうかね。

井上:僕はこのプロジェクトを初めて、機械が推論と創作ができなくてよかったと思います。キャラクターの世界を作っているのは原作者です。なので誰かが勝手に設定を創作するのでは困るんです。原作者が考えていないことはAIの仕組みに入れるべきではありません。

━━『魔法科高校の劣等生』の体験ユーザーのレポート情報を教えてください。

結束:作品の世界に入り込んでくれて、なおかつ本を読む感覚で、達也と深雪の会話を楽しんでもらえました。ユーザーそっちのけで、達也と深雪が勝手にイチャイチャするのですが、それも好評のようでした。

井上:映画のプロモーションは日々いろいろなことが起こります。例えば特典付きのチケットが発売されたとか、いろいろなコラボレーション情報とか。そういったニュースにファンは敏感で、当然ユーザーはそのことについて話しかけてくるんです。我々はそういった単語をキャラクターに覚えさせ、日々アップデートをし続けました。

━━『罵倒少女』と同じですね。

井上:また、ユーザーがなにもしゃべってないのに、達也の方から話しかけてくることもやりました。「今日は映画の公開日だ」とか、ファンとしてみたら最高のプッシュ通知的な演出です。「どこの映画館でクリアファイルがもらえるぞ」と達也が話すと、深雪が「ステキですお兄様」みたいな会話が勝手に繰り広げられるんです。

━━DMだったら事務的だけど、兄弟の会話だったら楽しいですね。

井上:達也・深雪とユーザーとのチャットルームが成熟した上でニュースが送られてくるので、ユーザーは決して嫌な思いをしません。これは実際に製作委員会からもお褒めの言葉をいただきました。

━━では、結果について反響はいかがでしたか

井上:なによりも映画がヒットしたので、みなさん喜んでくださいました。思い返すと、初めて発表したAnime Japanのステージで達也役の中村悠一さんが「達也と深雪がAIになります」と発表したときから話題になりました。あのステージでは、早見沙織さんが深雪と会話をしたのですが、多くのメディアに取り上げていただけました。

━━『罵倒少女』から『魔法科高校の劣等生』になって、システムは進化しているのでしょうか

結束:『PROJECT Samantha』を動かしているシステム『K-laei』は進化させています。具体的には人の発言を理解する能力が向上しました。ユーザーが入力した文字情報が、なにを意図しているのかを解釈するんです。その解釈する能力が1年前よりも進化しています。

━━口語と文語、どちらが理解しやすいですか

結束:我々は“知識駆動方式”をいう仕組みですので知識さえあれば、どちらも変わらず理解できます。我々のAIでは感情・感性を400億くらい理解できます。でも人間は頭がいいから、まだ足りません。なので毎日機械に頑張ってもらっています。

『PROJECT Samantha』と人間の一番大きな違いは、話題分野がいきなりどんなに変化しても会話についてこられるかどうか。人間はどういう話題になったとしても、たいてい判断して次につなげられる。ですが機械はそれができないんです。これを“充足関係理解”と言います。

━━なんだか難しい話になってまいりました……。

結束:例えばみんなでラーメンの話をしているとします。なのに、いきなりアイスクリームの話を始める人が居たとします。

井上:空気読まない人がみなさんの周りにもいるかと思います(笑)。

一同:笑。

結束:でも人間は場の雰囲気を壊したくないから、「そうだよね。もしかしたらラーメンにアイスを入れたら美味いかもね」とか、会話を続けられるんです。でも、機械にこれはできません。上手な返答はできないんです。

━━なるほど

結束:さらに、例えば「やめたい」という言葉がありますが、この言葉の意味は文章によって変わります。例えば彼女に「あなたとの関係をやめたい」と言われたら「別れたい」という意味です。ショッピングサイトで「やめたい」と言えば、サービスから「退会」したいのか、一度カートに入れた商品を「購入したくない」のか、どちらかです。このように、言葉は状況によって意味がどんどん変わるんです。そんな無限に存在する関係性を動的に判断できるのが人間で、機械にはできない。

━━でも、いずれそれも可能になる時代が来るのでしょうか

結束:いま努力しています。方法論が未定の「高度推論や創作」と違い、いつかはできるようになると思います。

▲達也と深雪が会話するシーンも! 進化し続けるAIに注目です!

▲達也と深雪が会話するシーンも! 進化し続けるAIに注目です!

世の中のすべてのキャラクターと会話できる日がやってくる!?

━━『罵倒少女』と『魔法科高校の劣等生』の経験を経て、対話AIの展望についてお聞かせください。

結束:目標はすべてのキャラクターをしゃべらせたいんです。井上さんがOKするかわからないけど、ゆるキャラとかを含めた、世の中のすべてのキャラクターと会話可能な状態にしたい。みなさんも話したいと思いませんか?

井上:僕も同じです。地球上のすべてのキャラクターとコミュニケーションを可能にするのが野望ですね。アニメだけではなく、ルーク・スカイウォーカーとか、キャプテン・ジャック・スパロウとか。役者本人ではなく、あくまでも誰かが創造したキャラクターです。あとはドラマのキャラクターもいいですね。古畑任三郎とか。これが進むと、教育や介護にも活用できると思います。

結束:介護はすでにいくつかの大学や病院と一緒に開発も臨床試験も行っていて、改善が見られた結果が出ています。

井上:まだ詳しく言えませんが、実はいま、次の『PROJECT Samantha』に載せる新しいキャラクターを開発しています。少しだけヒントを出すと、女性のアニメファンに喜ばれるような作品です。ご期待ください。

罵倒少女
(C)mebae/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

[PROJECT Samantha]
(C)Sony Music Entertainment(Japan)Inc. (C)Intelligent Machines Amazes You Inc.

(C)pixiv

(C)2016 佐島 勤/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/劇場版魔法科高校製作委員会

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