2017/10/24 18:30

著者本人がラノベ主人公!? 『オール・ジョブ・ザ・ワールド』で小説家デビューしたのは『はじめてのギャル』シリーズ構成・アニメーションプロデューサーの百瀬祐一郎氏!

デビュー作にして超人気作家ヤスダスズヒト氏がイラストを担当し、荒木哲郎監督、速水奨さんなど19名もの業界関係者から応援コメントをもらう新人作家。

小説大賞の受賞歴もなく、どこから来たのか謎の人物と思いきや、2017年の夏アニメ『はじめてのギャル』でアニメーションプロデューサー・シリーズ構成・脚本と八面六臂の大活躍をしたのが他ならぬ百瀬祐一郎氏です。

2017年9月に富士見ファンタジア文庫より『オール・ジョブ・ザ・ワールド』で小説家デビューを果たした百瀬氏は、なにより本人の経歴がラノベの主人公ばりの波乱万丈さで、それが作品にも色濃く滲み出ているため、非常に面白い読み応えの本となっています。

今回はその百瀬祐一郎先生自身にも切り込みつつ、『オール・ジョブ・ザ・ワールド』について語っていただきました!

■オール・ジョブ・ザ・ワールド
著者:百瀬祐一郎 イラスト:ヤスダスズヒト
発売日:2017年9月20日
価格:648円(税込)

せがむな、せびるな、つかみ取れ。金も仕事も運命も――
転職を繰り返すことで強くなる世界で、世界初の転職ができない最底辺の職業(ジョブ)である【遊び人】となってしまった少年ホールデン。さらにはトラブルに巻き込まれ、100億の借金まで負うこととなり――!?

著者の経歴が小説の主人公に負けない波乱万丈ぶり!
――まずは百瀬先生について教えてください。小説のあとがきにもありますが、最初はアパレル業界に進まれたそうですね?

百瀬祐一郎先生(以下、百瀬):文化服装学院を卒業する前、来年就職となった時に、自分が好きなブランドにどうにか入りたくて、なんとか面接まで漕ぎ着けて、バイトだったんですけど2005年の年末に入社できたんです。

そこから3年くらい、販売をやっていました。元々スタイリスト科なので、服を作るほうではなかったんですね。一応、基本的なものは作れるんですけど、超高度な3Dの裁断とか、パターンを作るのは非常に難しいんですよ。

――その後、何がきっかけでアニメ業界に入ろうという熱が高まったのでしょうか?

百瀬:元々アニメがすごい好きで、小学生の頃からずっと継続して観ていたものだし、文化服装学院の時も仕事を始めてからも、家に帰ったら観ていたんです。そして『空の境界』を観た時に、そのクオリティの高さに驚いて、アニメを作ってみたいと思ったんですよ。ただ、何をすればいいのかわからなかったので、調べてみたところ、どうやら制作進行というのが車の免許さえ持っていればなれるらしいぞと。

最初に入りたいと思ったのはufotableなんですが、募集していなくて。そこでちょうど募集をかけていたJ.C.STAFFに応募したら、今度は履歴書で弾かれたんですよ。「未経験者は厳しいのかもしれない」と思って、改めてufotableのサイトを見たら、どうやらカフェをやっているらしいとわかったんです。

カフェの方はバイトを募集していて、応募したら受かったので、アパレルの仕事を辞めてカフェに行きまして。ufotable Cafeの上の階が制作会社だから、たぶん会社の人も来るだろうし、仲良くなれば上に入れるかなと思いながら10ヶ月くらいカフェで働いていたんですよ。そうしたら案の定いっぱい来るので、プロデューサーさんと仲良くなって、「制作進行やりたいんですよね」って言ったら「じゃあ明日から来いよ」と。

それで面接もなく、次の日から上に行ったんですけど、そこから先は放置でした。わからない単語は「ググれ」って言われましたからね。でもググったら、わからない単語がわからない単語で説明されているんですよ。それでもがんばって、『Fate/Zero』という作品で制作進行をやりました。

その頃、僕が一番好きだった『空の境界』の第五章(「矛盾螺旋」)を手掛けられた平尾隆之監督がずっとスタジオにいらっしゃって、仲良くなりまして。平尾監督自身が元制作進行だったので、めちゃくちゃよく教えてくださったんですよ。平尾監督がいなかったら、仕事にならなかったです。だから師匠みたいなものですね。

そうやってどうにか喰らいついてやってきたんですけど、『Fate/Zero』が終わったことで「やりきったかな」と思って。制作進行って夜中にむちゃくちゃ動くんですよ。車で深夜移動している最中って、本当に孤独なんです。何時間も車に乗っていると、「俺はいったい何をやっているんだ」って思うんですよ。こんな下っ端のままで終わったらマズいぞと。それでちゃんと小説を書こうと思ったんです。

小説自体は、アパレルに勤めていた頃から書きたいなと思っていたんですよ。『ゼロの使い魔』を読んで、「これなら俺も書けるんじゃないか?」という、よくある勘違いです(笑)。で、やっぱり書けないんですよね。書いても100ページ近くになると、手が止まるんですよ。それでも「小説家になりたい」とはずっと思っていて、制作進行をしながら書き始めたんです。

その小説が制作進行モノで、絶対に面白いと思ったんですよね。内容は全然違うんですけど、僕の発想のほうが、『SHIROBAKO』より全然早かったですよ(笑)。それを書き終わったところで会社を辞めて、とあるバーに行ったら、隣に編集者がいたという、すごいミラクル。

担当編集さんにも言われましたけど、僕みたいなライトノベル作家の成り方は、他には絶対にいないと思います。何の賞も取っていないですし、元々コネがあったわけでもない。バーで偶然編集者と出会って、ちょうど書き終わった小説があって、「見てあげるよ」「持っていきます」っていう流れなんですよ。それが5年くらい前ですね。

その時はもう会社を辞めていたので、編集さんに「じゃあ一緒にやろう」と言ってもらえて。とはいうものの仕事はしないといけないので、文化服装学院の友達の紹介でとあるブランドを紹介してもらって、そこには正社員として入りました。そこで3年くらい働いたんですけど、裏ではずっと担当編集さんと作品を作り続けていたんです。

その間、2つくらいボツになっているんですよ。その次の3作品目が『オール・ジョブ・ザ・ワールド』で、2015年の年末くらいにこれをやりたいなと思って、書き始めると同時にブランドも辞めたんです。

そうやって作家専業で書き始めたのですが、またこれも友達の紹介で「ちょっとうちの会社手伝ってよ」と言われて行ったのが、アニメの制作会社だったんです。また制作進行かなと思ったら、ひとつ手掛けたPVがけっこう評判良くて、「じゃあちょっとお前、プロデューサーやってよ」と言われて。「えっ!? デスクやってないけどいいんですか?」って思ったけど、プロデューサーになって手掛けたのが『はじめてのギャル』なんですよ。

▲本作のヒロインにしてスーパーお姫様、メグ・フラワーズ。金髪ツインテールのみ百瀬先生の要望で、あとはヤスダスズヒト氏にお任せでデザインされたという
▲本作のヒロインにしてスーパーお姫様、メグ・フラワーズ。金髪ツインテールのみ百瀬先生の要望で、あとはヤスダスズヒト氏にお任せでデザインされたという

――こんなすごい経歴は、これまで聞いたことがないですね。

百瀬:バイトもいっぱいやりました。

――コミュニケーション力の高さから来る、人の引きの良さが理由でしょうか?

百瀬:人の引きは、ものすごくいいんです。人との出会いでしか生きていないので。あと、僕のコミュニケーション力は、高いんじゃないんです。「オフェンス型のコミュ障」ってよく言っているんですけど、ひたすら喋り倒すんですよ。とりあえず僕がずっと喋っているだけなので、コミュ力が高いとは思わないですね……。

――『はじめてのギャル』ではシリーズ構成と脚本も手掛けられています。それに関しては制作進行の時の平尾監督のような師匠は、どなたかいらっしゃったのでしょうか?

百瀬:まったくいないですよ。

――そうなると、制作進行の時に読んでいた脚本で身についた知識という感じですか?

百瀬:脚本を読んだこともなかったです。

――ええ~っ!?

百瀬:だから脚本の形式も知らなかったんですよ。脚本会議も出たことなかったので、どういう風に書くのかもわからなかったんです。自分がプロデューサーだったので、シリーズ構成を決める時に、いずれは自分もやりたいと思っているんだから今でもいいだろうと思って「俺やります!」って。それでシリーズ構成と脚本をやっていいと言われたので「ラッキー!」って感じでしたね。

ただ、自分から手を挙げて決まったはいいけど、どうしようと思ったんです。脚本のフォーマットがわからないから。そこで会社のアーカイブを見たら、昔の脚本があったのでそれを見て、ト書きとか柱の立て方とかだけ憶えて、あとはオリジナルです。それでなんとかなりましたよ。もう終わってますし(笑)。たぶんこのパターンも、他では絶対にないと思います。

――でしょうね。こんなの聞いたこともないです。

百瀬:そういうこともやらせてもらえたのはラッキーです。手を挙げるの、大事ですね。

――チャンスというのは、目の前にあってもそれを掴もうと手を伸ばす度胸がなければ、掴めないんですよ。

百瀬:それは一番思います。わからないけど手を挙げておけば、あとはなんとかなるだろうって。小説もそうですよ。隣に編集者がいても、物怖じしていたら「見てくれ」なんて言えないし。ただ、もちろん怖いんですよ。それまで誰かに読ませたことがないから。でも、こんなことは二度とないだろうと思って見てもらったら、こうなったんです。本当に運と出会いと度胸だけですよ。

王道は王道としてやったほうが気持ちいい!
――小説を読ませていただいて一番感じたのは、キャラクターたちの働いている感じが生々しいんですよ。これは様々な職歴を重ねてきたご自身の経験が滲み出ているのかなと思いました。あと、主人公のホールデンとヴィンセントとの出会いは、編集との出会いという実体験が元なのかなとか。

百瀬:それは全然違うんですよ。単純に僕が、ああいうのが好きなんです。ヴィンセントが一番好きなキャラクターなんですけど、こういう奴とどこで出会うのがいいかなと考えたら、やっぱり酒場だろうと。いつも飲んでるだろうし。だから自分の実体験とかは考えなかったですね。言われてみれば、確かに重なるなという感じなんですけど。

――ここから若干ネタバレに触れていきますが、ホールデンの職業が【遊び人】となった時に、『ドラゴンクエストⅢ』のプレイヤーならば、おそらくピンと来るものがあったと思うんです。そして実際にオチがこうなったわけですが。

百瀬:これは別に隠すつもりもないです。最初はオチとして別の職業も考えたんですけど、そうする意味もないし、わかりやすいほうが読んでいて気持ちいいんじゃないかなと。それにライトノベルの読者層はゲームをやっているという前提で書いている部分もあるんです。ある意味古いパターンですけど、それを王道としてやったほうが気持ちいいと思うんですよ。

やっぱり『ドラゴンクエスト』のジョブチェンジシステムと『ファイナルファンタジー』は、小学生の頃にワクワクしたんです。あと異世界転生モノってものすごくたくさんあるじゃないですか。だからそこじゃないところで勝負するとなった時に、ファンタジー世界に会社というものを持ち込んで、みんなが会社に所属してお金を稼いでいる。ファンタジーだけど、わりと現代的な社会構造を取り込んでいるので、見え方としては新しいと思うんですよ。

展開に関しては、今回はわかりやすさ重視です。読みながら「たぶんこうなるだろうな」と予想して、その通りに行く気持ち良さってあるじゃないですか。バレバレだと言われても、わかるように提示しておいたほうがいいかなと。最後のドタバタ感も、高橋留美子さん的なノリですよね。

――まさに『うる星やつら』的な終わり方でしたね。

百瀬:『うる星やつら』すごい好きなんですよ。読後感も賑やかな感じで終わるので。

――ホールデンというキャラクターは、どのように作っていったのでしょうか?

百瀬:簡単に言うと、僕が好きな主人公像を当て込んだんです。最初はもっと毒舌だったんですけど、担当編集さんに「読者に受けない」と言われて色々考えた結果、妹を助けるために金を稼ぐという目標を持った、熱めのキャラに出来上がったんですよ。

ただ、これを読んだ友達に言われるのは「お前にしか見えなかった」と。たぶん、普段僕が喋っているようなことが、無意識に出ているんでしょうね。でも、かっこいいと思って書いたヤツが自分だったなんて、そんなナルシストじゃないですよ!(笑)

▲主人公ホールデン・ドハーティ。何の因果か【遊び人】という職業に就かされ、与えられた装備はステテコパンツ……
▲主人公ホールデン・ドハーティ。何の因果か【遊び人】という職業に就かされ、与えられた装備はステテコパンツ……

――ひとつ気になったのは、ホールデンのジゴロVer.のセリフはどんな顔で書いているのかなと。

百瀬:ノリでパァ~っと書いてます。何も考えてないです(笑)。

――作家さんが陥る罠で、口説き文句に自分の実体験が出るという。

百瀬:あんなこと言ったら僕、ヤバくないですか!? 頭おかしいヤツですよ! まぁ、あれを口説き文句で言えるヤツがいたら優勝ですね。

――今回ヒロインとして、メグとティアの2人が出てきます。こちらはどのように作っていきましたか?

百瀬:最初はダブルヒロインではなかったんです。僕はツンデレが大好きで、何も考えないで書くと、女の子は全員ツンデレになってしまう(笑)。きっかけは『めぞん一刻』で、響子さんが完全にツンデレじゃないですか。あれが楔のように打ち込まれているんです。

だからティアも最初は全然違うキャラだったんですよ。お嬢様だけど、気が強くて口が悪いみたいな。でも、それだとメグとほぼキャラが一緒だと言われて、クールでなおかつグイグイ攻め込んでくるキャラになったんです。一方、メグはもう何も迷わずに、僕が考えるライトノベルヒロインの一番かわいい感じを好きに書いています。

▲もうひとりのヒロイン、ティア・ラブ・ヒューイット。愛は無いものの、事あるごとにホールデンに婚約届へのサインを薦めるトラブルメーカー
▲もうひとりのヒロイン、ティア・ラブ・ヒューイット。愛は無いものの、事あるごとにホールデンに婚約届へのサインを薦めるトラブルメーカー

――あと、カースティのキャラ立ちもすごいですね。思わず直立不動で「イエッサー!」と服従したくなるような女王様キャラで。

百瀬:やっぱりああいうキャラが好きなんですよ。あれも気が強いじゃないですか(笑)。次の巻で大活躍する予定です。

ライトノベル作家にあるまじき、女の子を書くのが最初は苦手だったんですけど、『はじめてのギャル』に関わらせて頂いたことによってかなり鍛えられた部分があって、今は書くのが楽しくなってきました。

――著者からの本作のおすすめは?

百瀬:読み進めていくにつれて、冒険しているようにワクワクしてくる感じだと思いますね。小学生の頃にゲームで感じたワクワク感みたいなものをがんばって入れたつもりです。

あとは、ジョブチェンジというシステムをベースにしたライトノベルってあまりないと思うんですよ。このシステムを使ったお話というのがウリだと思います。そして続けられるのであれば、主人公が女の子を助ける話を書き続けたいので、熱い展開に注目してもらいたいなと思います。

――授職の儀(レンダージョブ)で天職が決まる感じは、『ハリー・ポッター』の組み分け帽子の場面を連想しました。グリフィンドールを願っているのに、スリザリンと言われてしまったハリー・ポッターみたいな。

百瀬:天職というシステムは面白いなと思って、みんなが見ている前で決まるのをどういう風に見せたらいいか考えた時に、『ハリー・ポッター』でそんなのがあったなと。やっぱり王道のものを思い浮かべると、『ハリー・ポッター』は出てくる作品ではありますね。

――今後の野望をお聞かせください。

百瀬:かわいい子をいっぱい書きたいタームになってきたので、かわいいヒロインを書ければいいなと思います。あとは、想定しているものがいくつかあるので、長く続けられたら嬉しいです。もちろん商業でやる以上、数字が伴わなければ閉じられますから、そこは覚悟の上です。

――アニメ化は?

百瀬:そこも目指してはいますが、アニメがゴールではないので。僕が想定しているこの作品のゴールまで書きたいなと。こうして商業でデビューさせていただいたからには、長く作品を続けていきたいなと思います。

[取材・文/設楽英一]

>>富士見書房「オール・ジョブ・ザ・ワールド」サイト



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