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ネトフリ独占配信アニメ『A.I.C.O.』監督が“バイオSFアクション”をテーマに描いた世界とは

ネトフリ独占配信アニメ『A.I.C.O. Incarnation』村田和也監督が“バイオSFアクション”をテーマに描いた世界とは/インタビュー

2018年3月9日(金)からNetflixで全世界独占配信がスタートしたばかりのバイオSFアニメ『A.I.C.O. Incarnation』。迫力あるアクションと映像美、そして感情移入できるキャラクターなど、ストーリー以外にも多くの見どころがあり、1話を見てしまえばすぐに作品の世界に没入できる魅力たっぷりな作品となっています。

今回は、本作により入り込みやすくなってもらうべく、村田和也監督に作品について話を伺いました。

気になる企画、そしてネトフリ独占配信の経緯

――今回、アニメを制作するに至った経緯をお伺いしてもよろしいですか?

村田和也監督(以下、村田):『翠星のガルガンティア』の最終話あたりをプロダクションI.Gさんで作っている頃に、ボンズの天野プロデューサーから、一緒にオリジナル作品を作りませんかと声をかけていただいたのが最初です。

企画当初はTVシリーズとして作品の開発がスタートしました。プロデューサーからは企画のコンセプトとして「チームによるアクションもの」というお題をいただきました。

いろいろ考えていく中で、近未来の日本を舞台にして、ある生物的災害により閉鎖された地域に特殊任務を負ったチームが潜入してミッションを達成する、という話を物語の骨格にしようということになっていきました。


そこで思い至ったのが、私が以前から考えていたバイオ系SF作品で「体を奪われてしまった少女が謎の少年の導きにより自分の体を取り戻す旅に出る」という企画です。

自分の体を失ってしまうという極限状況に陥った少女はいったい何を感じ体験するのか。そういうことを描こうとした企画でしたが、その設定が今回の企画にそのまま取り込めるのではないか、ということを思い立ちました。

大規模生物災害という状況に対して、それを解決する糸口になる存在が普通の女子高生であるというそのコントラスト。特別な知識を何も持たず事態について何も知らない女の子の目線で、さまざまな事実が徐々に明らかになっていくスリリングさ。

そういったものが、視聴者を引き込む面白さに繋がるのではないかと思いました。生命工学の技術が今よりも格段に進歩した時、実際に起こるかも知れない出来事として、視聴者に生々しい体験として感じ取って頂けたらなと思っています。

――『A.I.C.O』はNetflix全世界独占配信となりますが、オファーを頂いた時から決まっていたのでしょうか?

村田:制作途中でNetflixさんで配信という形式になりましたが、NetflixさんからはTVシリーズのフォーマット構成のまま配信したいという意向を受けましたので、配信だからということで特に変わった部分はありません。

事前にTVのように放送枠が決まっているわけではなくなりましたので、スケジュール面で融通していただけたのが、現場的には大変ありがたかったです。また、表現上の規制がなくていいのかなと思っています。

開発スタートの時点から配信優先の作品と決まっていれば、1話の尺や話数構成の仕方に違いがあったかも知れません。

人々に襲いかかるマターとは?

――バイオ系SFというのは、日本のアニメではそれほど馴染みのあるジャンルではないのかなと思ったのですが、制作にあたっての困難などはありましたか?

村田:バイオ系という素材自体は、僕がもともと興味を持っていたものではあるので、大変さというのはなかったです。ただ、表現上の大変さはありました。つまり暴走人工生体であるマターを描くのがとても面倒臭いっていうことなんですけど(笑)。

造形が不定形で、かつ線が多いんですよ。しかもそもそも何なのかよくわからないという。アニメーターさんや私自身も見たことがないものだから、物理的にも感覚的にも掴みどころがなくて大変なんですよね(笑)。


――もっと形がある、わかりやすく「敵」みたいものがあったほうがわかりやすいのでは?と思ったりしたのですが……。

村田:逆に、あまりにもはっきりと個体としての姿・形があると「怪獣もの」になってしまうなと思ったんです。それだとちょっと「科学シミュレーションもの」とはテイストが違ってきてしまうので、個体としてのキャラクター性が出ないようにしたいと思いました。

――なるほど。先ほど暴走人工生体とおっしゃりましたが、マリグナント・マター(マター)と呼ばれるものが襲ってきます。マターとは一体何なのかというのを、もう少し知りたいのですが。

村田:わかりやすく言うと、超強力ながん細胞みたいな感じなのかなって思います。増幅することを止められなくなってしまって、しかもその速度が異様に速い。普通の生き物であれば、何ヶ月も何年もかかるようなものが一瞬のうちに行われてしまうみたいな感じなんですね。そこが人工生体技術のすごいところでもあるという裏返しになっているのですが。

人工的に生体細胞を作るということは、その速度をコントロールできるようになったということで。その速度をコントロールできるということは、つまりスピードアップができるということなので、暴走が始まると大変なことになる、ということですね。

――すごく分かりやすいです! ただ、実際は今の説明がなくても楽しめるような作りにはなっていたと思います。映像に落とし込むときに監督が気にかけた部分はどこですか?

村田:この作品は、基本的に主人公のアイコ(CV:白石晴香)の視点に乗って物語を見てほしいというのがあったんです。アイコって事態について一番何も知らない子なんですよね。大前提である状況もわかってないし、人工生体に対する知識があるわけでもない。

しかも自分の体がどうなっているのかもわかっていないんです。それはある意味、視聴者と同じ立ち位置になるので、アイコに乗っかってもらえれば、アイコが置かれている立場や考えていること、感じてることをそのまま感じてもらえるのかなと思いました。

――確かに、徐々に事実を知っていく感覚はありました。

村田:だから、一番何も知らないアイコと一番知っている神崎雄哉(CV:小林裕介)がペアになることによって、この作品が進んでいくんですよね。

――見ていて、アイコが神崎雄哉を信じていく過程がとてもスムーズに感じたのですが、その理由は?

村田:自分の体が偽物だと言われても、簡単には信じられないと思うんですよ。だってこれまでは普通に機能していたんだから。そこで一番要になったのが、お母さんと弟が生きているかもしれないということなんです。つまりそこがアイコにとっての最大のモチベーションになるんだろうなという考えがありました。

自分の体がわけがわからないことになっていて、死んじゃうなら別に死んじゃってもいいのかもしれない。アイコは家族を事故で失っているので身内がいない状態なんですね。

しかも病院施設の中で生きなければいけない状況なので、ある意味絶望的だと思うんです。でもそれと引き替えに、お母さんと弟を助けられるのなら、その可能性に懸けたい! そういうアイコの気持ちには共感してもらえるのではないかと思いました。

同時進行する物語、そのバランスはひたすら調整

――物語の構成でいうと、アイコと雄哉のラインがあり、ダイバーチーム、そして科学者のラインがありました。追えるラインが複数あったと思うのですが、それがとてもうまいバランスで組み上がっていたと感じました。

村田:お話の中で個々の出来事が起こる順番、それは要するに謎が解き明かされていく順番でもあるんですけど、そこに関わるキャラクターたちの行動が同時進行しているんです。この瞬間にこの人たちがオンになって、こっちがオフになるという、その情報を整理するような感じでした。

あとは作品のバランス上、特定の人間がやたらと出てきて、他の人たちがオフになり過ぎてしまうと、それはそれでついていけなくなるというか。

キャラクターの存在を忘れられてしまうことにもなりかねないので、適度なタイミングで別のラインに切り替えていくようなことをしました。そのバランスは、ひたすら調整をするしかなかったですね(笑)。


――同時進行でいろいろ動いているところが、最後に交わっていくカタルシスみたいなものは感じました。次に美術やキャラクターについて伺いたいのですが、SF作品というところで、美術が素晴らしかったです。どういうところに一番こだわりましたか?

村田:基本的には黒部平野から黒部峡谷にかけての実在の場所をベースにしつつ、その実在の場所がマターに覆われてしまって大変な状況になっているということを描いていますので、実在の場所がそうなっちゃっている感じというのを出さなくてはいけないと思いました。なのでリアリティにはこだわりましたね。


――これは美術の話ではないかもしれないのですが、マターの描き方も気になりました。手描きでしたよね?

村田:全部手描きですね。動いているマターはアニメーターさんに描いてもらい、止まっているマターは美術さんに背景として描いていただきました。マターデザイナーというセクションがありまして、マターデザイン・マター作画監督として三輪和宏さんに担当してもらいました。

私のほうから、マターってこういうイメージなんですとお伝えして、こういうデザインを上げていただいたんですけど、それをベースにしつつ、美術は美術で動かなくなったマターの描き方を考えていただきました。ここは試行錯誤でしたね。

――手描きだと大変そうですが、CGではなく手描きだったのはなぜですか?

村田:結局、今だと手描きのほうが速いんですよ。こういう不定形のものに関しては、3Dで作っても、結局3Dのアニメーターさんが手でコントロールしていくしかないんですね。

乗り物は別で、あれは形が変わらないものなので、正確な立体を追い続けなければいけない。だから人の手で描くよりもCGのほうが速いんです。でも不定形なものはまだ手描きのほうが速い。

もちろん一概には言い切れないんですけど、2Dアニメーションの制作現場的にいうと、手描きでやったほうがいいものができるという判断になりました。

鳴子ハナハルさんのキャラクターデザイン、そして演じるキャスト陣

――次にキャラクターですが、『翠星のガルガンティア』に引き続き、鳴子ハナハルさんの原案でした。鳴子さんの絵の魅力を、どう考えていますか?

村田:ひとつは、鳴子さん特有のキャラクターの柔らかさであったり、愛らしさですよね。エリアの中って殺伐感があるので、キャラクターへの愛着をとにかく持ってもらいたかったんです。

そこで感情移入をどっぷりしていただくことでお話に乗ってもらう必要があったんです。あとは実在感ですね。鳴子さんは、キャラクターのリアルさ、生身っぽさのバランスが非常に優れている方だと思います。

――アイコが途中から可愛くて仕方なく思えましたからね。

村田:そこがすごく大事なところだったんです。アイコって突出して際立ったキャラクター性を持っている人ではないので。普通の子が特殊な状況に追い込まれ、巻き込まれてしまったときに、「そうそう! わかるわかる」っていうリアクションや感情表現をしてほしいと思いました。

そもそもアイコって結構ポジティブというか、基本能天気な子なんですよね。だってわけがわからない状況だし、境遇じゃないですか。その中で最後まで気持ちを保って、周りの人のことを思いやることができるので、そういう人であってほしいなと思って描いていました。

――しかも動きが細かくて……。

村田:作画セクションすべてにおいて、非常に高い能力と負荷を要求する作品だったと思います。

――キャストについてはいかがですか?

村田:オーディションで決めたのですが、メインキャストの方々にはキャラごとの台詞を読んでいただきました。その中で、アイコ役の白石晴香さんは本当にアイコらしかったというか。

キャラクターの造形に見合っていて、かつ我々が求めているアイコ像に一番近かったんです。アイコの心情をとても感情豊かに表現していただけていたので、ベストだと思い選ばせていただきました。

雄哉役の小林裕介さんも、淡々としていて良かったです。神崎雄哉って、突出した強烈なベクトルがあるというよりはブラックホールのような存在なんです。

情報も発信しなくて「コイツ何なんだろうな」っていう人なので、その突出しない感じ、かつ冷静沈着で謎を秘めているという雄哉のキャラクター性を表現していただく上で、非常に自然でピッタリくる声だったので、選ばせていただきました。

――どのキャラクターも、本当に違和感なく、絵と声がリンクしていると思いました。

村田:良かったです。それを一番目指していたので。

疑問や興味を抱くことで、最後まで一気に走り抜けられるはず

――今作は、Netflixで一挙に放送されますが、配信を控えた今、どのような心境ですか?

村田:すごく待っていたんです。制作中から待っていたんですけど、制作が終わってから配信開始までも時間があるので、早く多くの方に見ていただきたいという思いです。一刻も早く感想が聞きたいなという気持ちです。

――初めて見る方に、どの辺をじっくり見てほしいですか?

村田:どの辺というポイントは特にないんですけど、アイコの身に起こっていることや雄哉の存在であったりに、何かしら疑問や興味を持っていただければ、最終話まで一気に乗り切っていただけるのではないかと思います。

――途中から、人工生体についての説明に追いつけないところもあったのですが、一気に見ることができました。なので、何度も見て楽しめる作品なのかなと。

村田:そうですね。人工生体に対してまったく理解ができなくても楽しめる作品にはなっていると思います。それに一度結末まで知って、そこからもう一度リピートしていただけると、さらにいろんなことが見えてくるんじゃないかと思うので、何度でも見ていただければと思います。

――最後になりますが、OPとEDテーマもすごく良かったです。

村田:OPはカッコ良かったと言っていただけていますし、EDもすごく雰囲気良くできました。EDテーマ「未知の彼方」は白石さんに歌ってもらったんですけど、すごく良くて。

本人はみんなから冷やかされて恥ずかしがっていましたけど、すごく清楚な感じで良かったですね。共に、深く見ると本編の内側とリンクしていることがわかると思いますよ。

[取材・文/塚越淳一]

作品概要

<配信情報>
★3月9日(金) より、Netflixにて全12話を全世界独占配信開始!

【Netflixについて】
Netflixは、190ヵ国以上で1億1700万人超のメンバーが利用するエンターテインメントに特化した世界最大級のオンラインストリーミングサービスです。アワード受賞作を含むオリジナルコンテンツ、ドキュメンタリー、長編映画など、1日あたり1億4000万時間を超える映画やドラマを配信しています。メンバーはあらゆるインターネット接続デバイスで、好きな時に、好きな場所から、好きなだけエンターテインメントを楽しむことができます。当社サービスには、広告や契約期間の拘束は一切ない上、Netflix独自のレコメンデーション機能が一人ひとりのメンバーの好みに合わせて作品をオススメするため、お気に入りの作品が簡単に見つかります。

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月刊少年シリウスにてコミカライズが連載中!

<STAFF>
原作:BONES
監督:村田和也
シリーズ構成:野村祐一
キャラクター原案:鳴子ハナハル
キャラクターデザイン・総作画監督:石野聡
コンセプトデザイン:岡田有章
メインメカニックデザイン:高倉武史
マターデザイン:三輪和宏
美術監督:東潤一
色彩設計:岩沢れい子/
CGIディレクター:太田光希
撮影監督:福田光
編集:坂本久美子
音楽:岩代太郎
サウンド・プロデュース:UTAMARO Movement
音楽制作:ランティス
オープニング主題歌:TRUE
エンディング主題歌:白石晴香
音響監督:明田川仁
音響効果:古谷友二
アニメーション制作:ボンズ

<CAST>
橘アイコ:白石晴香
神崎雄哉:小林裕介
相模芳彦:古川慎
水瀬一樹:村田太志
芹遙香:名塚佳織
三沢楓:M・A・O
篠山大輔:竹内良太
白石真帆:茅野愛衣
黒瀬進:大川透
伊佐津恭介:子安武人
南原顕子:田中敦子

<あらすじ>
人工生体の研究中に起きた大事故“バースト”により、黒部峡谷一帯は暴走した人工生命体“マリグナント・マター”に侵蝕された。その2年後、2037年夏。バーストで家族を失った15歳の少女・橘アイコは、謎を抱えた転校生・神崎雄哉と出会う。彼はアイコの身体に隠された“秘密”と、それを解くことができる“鍵”の在り処を告げる。

「この災厄に終止符を打てるのは……君しかいないんだ」

運命に翻弄された少女が、辿り着く先とは――。

「A.I.C.O. Incarnation」公式サイト
「A.I.C.O. Incarnation」公式ツイッター(@Project_AICO)

(C) BONES/Project A.I.C.O.
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