「怒ってるだけじゃないし、寂しいだけじゃない」神崎エルザ starring ReoNa 原点を描 いた『Prologue』に込めた割り切れない感情【後編】
「エルザってそこで涙を見せることはしなかったんだろうなって」
──3曲目はバラード「葬送の儀」(ソウソウノウタ)。インパクトのある言葉ですよね。
ReoNa:「葬送」って普段あまり聞かない言葉じゃないですか。ふと耳に入ってきたときにタイトルになることで「葬送」という言葉がより伝わりやすくなったなぁと。
この「儀」と書いて“うた”いう読み方にしたのは(ReoNa楽曲である)「おやすみの詩(うた)」「怪物の詩(うた)」との紐づけはあまりしたくないなと思って。
でもひらがなでもないし、歌でも唄でもないし……と思ったときに、「儀でうたってどうだろう?」ってふわっと伝えたものが形になりました。エルザの祖父母に向けて歌った歌なので、結果的にはよかったのかなと。
──恩人であり、亡くなった祖父母に対するレクイエムで。
ReoNa:エルザにとっては、特定の何かに向けて歌っている唯一の曲です。“あなた”が見えるのはすごく珍しい曲。
きっと祖父母のお葬式とかもしたと思うんですけど、エルザってそこで涙を見せることはしなかったんだろうなって。彼女の弔いの最たる形がこの歌なんだろうなと思うとこのタイトルでしっくりきたんです。
もともとエルザが歌い始めたキッカケとして祖父母の言葉が言ってくれたある言葉を「正しかったことにしちゃおう」ってところからはじまってるので……本当にエルザの原点です。
──色々な情景が思い浮かぶ曲ですよね。
ReoNa:私としては『よだかの星』(宮沢賢治)のイメージがあって。作中にも出てきたんですが……祖父母が飼っていた猫の話があるじゃないですか。
──祖父母の飼っている猫の名前が星の名前でしたね。
ReoNa:そうなんです。
──なるほど。『よだかの星』は周囲から疎まれていた鳥のよだかが星になるお話ですが、諸説解釈のあるお話ですよね。
ReoNa:はい。どの星がよだかかっていうのも諸説あるんですが……。(祖父母は)自分が星になることを認めてくれた存在で。そこが<いつか朝日に灼かれて体が炎になって小さな光放つときは見つけてくれるかな>ってところに『よだかの星』を感じています。
『よだかの星』って気が付く人がいるか分からないですけど、もしかしたら何か感じてくれる人がいるかなと。色々な気持ちが入っている分、知っているものによって見え方が変わってくる曲だとは思いますが。
──ところでド頭、いきなり声からはじまっていきますが、声質がちょっと違うような気がしたんです。
ReoNa:あ! あれ、コレ(スマホ)で録りました!
──えーーっ!!! あんなに綺麗に成立するものなんですね。
ReoNa:スマホを立ち上げてボイスメモで録ったものを送って頭に入れてもらったのがあの音源なんです(実際の音を聴かせてくれる)。これをそのまま。
──素晴らしい。CDとは違う、本当の生の声。なんでこういう声を入れたんでしょうか。
ReoNa:今作は神崎エルザの原点を描くシングルなんですけど……私の原点は「nana」というアプリでお歌を録ってSNSで広めていたお歌を拾ってもらった。私の原点として“スマートフォンで録ってたお歌”というものがあったので、そこを今回リンクさせたんです。
原点を描くシングルとしてすごく面白いことができたなと思っています。とは言え、まさかスマホでド頭録るとは思ってなかったんですけど(笑)。
──ReoNaさんのアイディアだったんです?
ReoNa:もともとこのフレーズがなかったんです。普通にイントロからはじまる予定だったんですけど、この曲の楽器のレコーディングにお邪魔したときに、堀江さんが「ブレスが入るような声を聴かせたいんだけど、こういう始まり方ってどうだろう?」って提案してくれて。
それでその場でパッと歌ったら「そうしよう!でも普通にはじまるのはちょっと違うよね」と。イメージとしては目の前にケータイを置いて録音をまわしたエルザが歌って掲げたギターをジャン!と弾いてはじまるような絵が浮かぶと良いよねってところがキッカケでした。じゃあ、本当にスマホで録っちゃおう!と。だからこれは最初のレコーディングのデータなんです(笑)。