音楽
ナノ ベストアルバム『I』インタビュー

「曲は自分の傷跡」──アイデンティティが刻み込まれたベストアルバム『I』 8年間の軌跡を振り返る | ナノインタビュー

NY出身のバイリンガルシンガー・ナノさんが、3月18日(水)にベストアルバム『I』をリリースする。

2012年にリリースした1stアルバム『nanoir』(ナノワール)でデビューして以降、テレビアニメ『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』、『ケムリクサ』など数々のアニメのオープニング/エンディングを彩ってきたナノさん。

ベストアルバムにはアニメタイアップ含むシングル曲やアルバムのリード曲に加えて、新曲「INSIDE MY CORE」、最初期の楽曲で人気の高い「magenta」のセルフカバー、ナノさんの出自であるボカロ曲のカバー(2曲)がパッケージされている。今回のインタビューでは、ボーカリストとして駆け抜けた8年を振り返りながら、ベストアルバムに収録された新曲、カヴァー曲について教えてもらった。何事もストイックに向き合ってきたナノさんの心の変化にも注目してほしい。

そろそろ新しい扉を開けたいと思っていた

──デビューから約8年。数多くの楽曲を歌われてきたナノさんですが、ベストアルバムをリリースする心境はどんなものでしょうか。

ナノ:実は去年からベストアルバムの話は上がっていたんですが、かといってそれに向けて具体的な行動を起こしていたわけではなく、頭の片隅にあったような感じだったんです。でも考えてみたら、 “歌ってみた”の初投稿からベストアルバムの発売日までがちょうど10年だったんです。だからベストを選んだわけではなく、つい最近気づいたんですけど(笑)。でも10年ひと区切りというか。ひとって10年何かをやっていると、次にいきたいという変化を欲してくるのかなと。自分と自分のチーム、ファンの方々の間にも「そろそろ新しい扉をあけたい」という共通の想いがあるように感じていたんです。だからベストを出すタイミングとして、今がちょうどいいのかもしれないなと思っていました。

──すごく自然な流れでベストアルバムに向かったんですね。

ナノ:そうですね。あと、去年出会ったリスナーさんが多かったんですね。そういうかたの場合、最新のナノの作品は聴いていても、過去の音源って何を聴いていいのか、どこから聴けばいいのかも分からないじゃないですか。ベストを出すことで、過去の音楽を知ってもらったり「ナノってこういうアーティストなんだ」と分かってもらえる機会にもなるかもしれないなと。もちろん、今までずっと応援してくれている方にも届けたいなと思っています。

──去年出会いが多かった背景には、テレビアニメ『ケムリクサ』のオープニング「KEMURIKUSA」を歌われた影響もありますか。

ナノ:『ケムリクサ』は大きかったです。いろいろなタイアップをやらせていただいていますが、『ケムリクサ』は異色だったというか、異世界に飛び込んでいったような感覚があって。多分、ほとんどのかたがナノと「はじめまして」だったと思うんです。作品自体もすごく大きな世界だったし、作品のファンだけではなく、たつき監督のファンもいて。そんな作品に踏み入っていいのか、最初は怖かったですね。でも結果的に大正解だったというか。お互い「ありがとう」という気持ちで向かい合えた気がします。

──それこそ新しい扉を開くキッカケに。

ナノ:本当にそうですね。去年は「KEMURIKUSA」が一作品目で、2019年は最初からいい扉を開けることができたなと。そこからの1年間だったので、ベストに向けて良い流れができたのかなと思っています。

今までのナノと新しいナノをハイブリッドに合体させた曲に

──新曲「INSIDE MY CORE」は去年作られた曲なのでしょうか。

ナノ:はい。秋には制作していました。実はベストが決まってから作った曲ではないんです。ですので、時間をかけてじっくりといい作品を作れたという気持ちがあります。曲として独立している感じもすごくいいなと。

──ナノさんの曲は毎回チャレンジがありますが、この「INSIDE MY CORE」は初期衝動と、今のナノさんのモードを感じるようなサウンドになっているように感じています。

ナノ:ああ、ありがとうございます。音的にはガラッと変わっているわけではなくて、初期の「SAVIOR OF SONG(ナノ feat.MY FIRST STORY)」(2013年発売の3枚目のシングル)のような躍動感があります。でも今回は歌い方をすごくこだわっていて、テイストはナノなんだけど「なんか違う、なんか新しい!」というものをものにできたらなと。「“なんか”」がポイントで。新しくなりすぎて変わるのではなく、ちょっとした違和感を与えられるような曲にしたかったというか。だからこそベストに入れる意味があると思っていたんですね。今までのナノと新しいナノをハイブリッドに合体させた曲になったので、本当に“ベスト”にピッタリだなという。

──レコーディングはいかがでしたか。

ナノ:レコーディングも去年後半に終わっていて。去年はライブが多かったこともあって、のどが温まっていて。
おかげで声は絶好調でした。でもなんだかんだいってもレコーディングで歌っているときは計算できなくって。ただただ、今出せるすべてを使ってレコーディングしようと。年月を経て、自分がスタートした時よりも納得できる歌が歌えるようにはなりました。最初の頃ってレコーディングが結構つらくて。曲があまりにも良すぎたので、それに見合った声を出せていない自分に対して、葛藤があったんですよね。

──そういう時って自分とどう対峙されるんですか?

ナノ:歯を食いしばって「次は、もっと頑張る」って言い聞かせていました。とは言え、過去の作品が納得いってないわけではなくて、それぞれに誇りがあるんです。その葛藤や苦しみにも意味があると思っていて。一個も無駄なものはなかったし、すべてベストアルバムに並べる価値のある曲だなと思っています。

後ろめたい気持ちが少しでもあったら「ベストアルバムです」と胸を張って言えないので。「これが全部自分の傷跡です。全部大好きな曲です」と心から言えないと曲に申し訳ないなと。

──「傷跡」という表現がナノさんらしいですね。

ナノ:カッコつけて聴こえるかもしれませんが、自分でも好きな表現なんです。以前は、曲ってトロフィーやメダルのようなものじゃないといけないのかなと思っていたんです。でも、WEST GROUNDと曲を制作していくなかで……御幣があるかもしれませんが、「楽しい」「幸せ」と感じることよりも「苦しい」と思うことのほうが多かったんです。そういう意味では、“傷跡”という表現がしっくりくるなと。

──葛藤やもがきって、ナノさんの声の成分でもありますよね。

ナノ:苦しんでこなかったから、こういう曲は歌えてなかったと思いますし、WEST GROUNDの曲を歌うにあたって、苦しみは重要な材料だったのかなと。

──少し話はそれてしまいますが、歌うことに対しても苦しいという感情があるんでしょうか。

ナノ:正直、自分は「歌が大好きなボーカリスト」ではないし、天性のボーカリストと思ったこともないんです。いろいろなタイプのボーカリストと出会ってきましたが、なかには「歌うことが幸せで仕方がない」という友達もいて。そういう人を見ていると自分ってボーカリストには向いてないのかなと思うこともあります。自分がイメージした声を表現できず、もどかしい気持ちになることもたくさんあります。

そんななかで何が自分を突き動かしてきたかというと……歌う行為そのものではなく、人と接すること。つまりはライブですね。自分の歌を聴いている人たちが楽しんでいる姿を見るのが大好きで仕方がないんです。ステージ上から感じる、みんなのパワーや感動に自分の意味を感じています。みんなと直接会えるライブが大好きで、ライブをやるために音源を出しているというか。ステージで一緒に楽しい思いをして、進化をして、もっと良い未来を作っていきたい。それがいちばんの目的です。

──1stライブは2013年の3月でしたが、それまではどういう気持ちで音楽と向き合っていたんでしょうか。

ナノ:今とは真逆のスタイルで、音を作ることがすべての基準でした。でもそれだと物足りなくって。人と接することって怖いことではあったんですが、ライブをやりはじめてからどんどん貪欲になっていって。音作りだけ重視してたら物足りない自分でいたような気がします。ライブを重ねることで「もっと成長しなきゃいけない!」と思うようになりました。

──そこからライブがナノさんのクリエイティブの源になっていったんですね。

ナノ:はい。音源を重視している人って物凄い歌唱力を磨いていて、ボーカリストとしてうまい人だと思うんです。自分はステージを追求してきたので、歌唱力は納得していないし、まだまだだと思っています。でもそれがリアルの自分だし、これから磨いていきたいとすごく思っているところです。全部が納得いくようなミュージシャンになるのは目標ですね。

「今の自分の精神があらわされている曲に」

──新曲「INSIDE MY CORE」の話に戻るんですが、そうやって自分自身と戦ってきたナノさんの今の気持ちと、これからへの決意が歌詞に描かれていて。<どんな過去も、どんな未来も、背負っていくんだ>というストレートな言葉も心に響きました。

ナノ:振り返らずにここまで走ってきたんです。振り返る余裕もなかったですし、自分を見つめなおす瞬間も全然なくって。でもベストの話がきたことで振り返る機会をいただけて。

この8年間を振り返ってみたら、奇跡のように、綺麗な流れができてて。「INSIDE MY CORE」は今回のアルバムのために作ったわけではないのに、ベストを迎えての今の自分の精神があらわされている曲になりました。    

──今の自分の精神というところ、もう少しうかがってもいいですか?

ナノ:今までは自分を疑っているところがあって、「本当にこれでいいのか」って思うことが多かったんです。というのも、自分は異例のパターンというか、コツコツ積み上げてきたアーティストではなくて、デビューからバンドもスタッフさんもしっかりついてて、1stライブでいきなり2000人以上のお客さんがきてくれて……という状態から出てきたので、そこにたどり着くまでの苦労があまりなかったんですよね。贅沢な話だとは思うんですが、だからこそ自分に自信がなかった。人間って与えられてしまうと、「それがなくなったらどうしよう」という思考になってしまうんです。音楽をやりたいという気持ちはあるものの、不安なまま、自信が持てないまま、活動を続けてきて。

ようやく8年目でベストを出すとなったときに「もっと自立しなきゃいけない」と。アーティストとして生き延びるためにも、先頭を切っていかなきゃいけないなと。そのためには自分を信じなきゃいけない。自分を信じないとリーダーになんてなれないじゃないですか。だから「自分は大丈夫、自分の信じてることをやればいい」って言い聞かせていたんです。自分への怒りもちょっとあるんですけどね(笑)。もう「いい加減にしろよ」というか。自分の信念が例え間違っていたとしても、それをやるしかないだろうっていう気持ちで書きました。

──ナノさんの音楽への向き合いかたって、ハードコアパンクにも通じるものがありますよね。

ナノ:確かにそうですね。怒り、フラストレーションって自分の原動力にもなっているんです。でもちょっと面白いなと思うのが、怒りをポジティブに変えられるんですよね。どんなことでも前向きになってしまう。歌詞以外ではネガティブなところを出していないので、実際に会った人からは「喋るとフレンドリーだね」「ダークなひとを想像してたらすごいライトな人だった」って言われることも多くて(笑)。

結局はナノの歌がハードコアパンクとどう違うかと言うと、怒りになりきれないというか。苦しみからはじまった曲も、出口は希望なんです。そのポジティブさが出てしまうのが、昔はコンプレックスだったんですよ(苦笑)。ダークな曲を書きたいという憧れはあるんですが、どうしても書けないんです。

──でもそのポジティブさが、日本のアニメとリンクしたのではないでしょうか。

ナノ:そうですね。日本人って苦しみを美的に捉えているところがあると思うんです。苦しみをポジティブに変換しているというか。どんなに苦しくても、なんとか良いものにしたいという精神が根付いているんだと思います。自分は本当に日本人らしいんだなって思います。

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