「曲は自分の傷跡」──アイデンティティが刻み込まれたベストアルバム『I』 8年間の軌跡を振り返る　| ナノインタビュー

出会ってくれたひとたちへの感謝を込めてカバーを

──2017年あたりから曲の幅が増えていったように思います。例えば和ロックに挑戦した「ウツシヨノユメ」（アニメ『かくりよの宿飯』OP曲）が象徴的ですよね。

ナノ：少し余裕ができて、もっと挑戦したいという気持ちが出てきて。もっとライブで盛り上がる曲を増やしたいと思っていた時期だったんです。「ウツシヨノユメ」も「KEMURIKUSA」も、ここ数年リリースした曲はライブですごく盛り上がります。ライブ中心で音楽に向き合っていることが、曲に表れているのかなと。

──そうした軌跡を感じられる曲に加えて、原点であるボカロ曲のカバーも収録されています。カバー曲をパッケージしようと思った理由はどんなものだったんでしょうか。

ナノ：最初はずっとカバーをしていましたが、プロのミュージシャンになったらカバーはできなくなるんだと思い込んでしまっていたんです。デビューしてからは、オリジナルの音楽を自分のモノにして、世の中に届けるということに精いっぱいになっていたので、素直な気持ちでカバーすることができなかったというか……。もしかしたら抵抗すらあったかもしれません。

でも8年間やってきて、今はカバーを誇りに思えるんです。カバーをやっていたころって本当に楽しかったですし、“良い曲”に自分のテイストを込めて世の中に送り出すって素晴らしいことだなと。

今回はカヴァーを通して出会ってくれたひとたちへの感謝を込めてやらせてもらおうと。あと自分自身、当時の楽しかった気持ちを思い出したいというものと、カヴァーをやることによって新しいリスナーさんとも出会いたいなと。決してなにひとつマイナスの点がないなと思いました。

──「ロキ」、「ECHO」、どちらも有名な楽曲で。

ナノ：そうなんです。そこは失礼のないようにというか。「違うけど、ありだな」と思ってもらえたらすごく嬉しいです。両曲ともアレンジはアコースティックな雰囲気で、カッコよくなっています。「ECHO」はパーカッションも入っていて、洋楽っぽい感じに。

「ロキ」は日本語の歌詞の曲なので、数年ぶりに英訳をしたんです。眠っていた脳みそをたたき起こすような感じでしたが（笑）、ワクワクしてることが自分で分かりました。「ロキ」は自分が英訳をしたことのないタイプの歌詞なんです。英訳自体難しいんですが、ぐいぐいいかせてもらいました。その分、音、リズムはすごく大切にしています。歌い方も研究してチャレンジをしました。楽しく聴いて欲しいですね。

──さらに、1stアルバムに収録されていたダルビッシュPとのコラボ曲「magenta」のセルフカバー曲も。

ナノ：今回のアルバムは主にシングル曲を入れているので、「magenta」は本来入らないんですよね。でも自分の原点でもあるので、絶対に入れたいと思っていたし、この曲がないと今まで応援してくれていた人たちもガッカリすると思ったんです。でも8年前の「magenta」を入れるのもちょっと違うなと思っていて。自分の原点であり、基準となる曲だからこそ、カヴァーすることで、この8年ナノがどう変化したかが分かってもらえるんじゃないかなと。だから“今の自分”として「magenta」を歌っています。正直言って、過去の「magenta」をブチ壊しています。それを踏まえたうえで聴いて欲しいです。これからもナノの軸となっていく曲なので10年後も、歌いなおしたいと思ってます。

話がそれるんですが、ライブのリハーサルの音合わせで必ず使うのが「magenta」なんですよ。だからライブの基準にもなってるんです。切っても切れない、切りたくもない、大切な曲なんです。そういう意味で、この曲をみんなに受け取ってほしいなと思ってパッケージしました。

──いまサラりと「10年後にも歌いなおしたい」とおっしゃっていましたが、そういうことも考えていらっしゃるんでしょうか。

ナノ：もちろんです。人と接したり、人にパワーを与えることは、一生続けたいんです。10年後、何かしらの形で進化した自分を届けたいと思っています。10年後にどういう形になっているかは自分も分からないし、歌という形じゃなくてもいいと思っているんですが、みんなと一緒にチェックアップできたらいいなと思っています。

──表現の仕方はどんどん進化していきますもんね。それこそ、音楽を取り巻く環境もどんどん変わっていっていますし。

ナノ：そうなんですよね。音楽って年々変わっていっていて。音楽で世界が#### ──簡単にひとつになれる時代がそのうちくると思っているんです。いずれ境界線がなくなって、ボーダレスな世界になって。先頭を切ってその世界に飛び込んでいきたいとも思っています。どうやって実行していくかは、これからの自分の課題ですね。

約束のベストアルバム

──タイトルの『Ｉ』はダブルミーニングでしょうか？

ナノ：はい。もともとタイトルのついていないベストにするつもりだったんです。でも、パーソナルな言葉が欲しいなと思って。いちばんのパーソナルは「これはナノだ」と言えることだと思ったので、“自分”という意味で「Ｉ」を。それと、ファンに対しての「“愛”情」という意味を込めました。

あと、パッとみた感じ数字の「1」にも見えるなと思って。1があるってことは、その次もある。ベストの2じゃなくても、「この続きがあるよ」って約束ができるなと。

──今までリリースしたシングルの枚数もちょうど11枚ですよね。

ナノ：ああ、確かに！　そこ初めて気づきました！

──ナノさんの生きざまを刻んだベストでもあり、新しい扉を開くためのベストでもあり、ファンとの“約束”をするベストでもある。本当にベスト・オブ・ベストな作品ですね。

ナノ：まさしく、それです！　それが伝わってくれたらいちばん嬉しいです。

──5月からはじまる“BEST ALBUM TOUR 「I」”も楽しみにしています。ありがとうございました！

[取材・文／逆井マリ]

CD情報

【アルバム】ナノ/BEST ALBUM I

価格：3,850円(税込)

≪収録内容≫
■Disc-1
1. Now or Never （TVアニメ『ファイ・ブレイン神のパズル』第2シリーズオープニングテーマ）
2. No pain, No game (TVアニメ『BTOOOM!』オープニングテーマ)
3. SAVIOR OF SONG (TVアニメ『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』オープニングテーマ)
4. Born to be (TVアニメ『魔法戦争』エンディングテーマ)
5. INFINITY≠ZERO (映画『幕末高校生』主題歌)
6. SABLE (TVアニメ『M3?ソノ黒キ鋼?』エンディングテーマ)
7. Bull's Eye (TVアニメ『緋弾のアリアAA』オープニングテーマ)
8. DREAMCATCHER (TVアニメ『魔法少女育成計画』エンディングテーマ)
9. MY LIBERATION(アニメ『チェインクロニクル～ヘクセイタスの閃～』テレビ版オープニングテーマ)
10. PARAISO (アニメ『チェインクロニクル～ヘクセイタスの閃～』イベント上映版エンディングテーマ)
11.ウツシヨノユメ (TVアニメ『かくりよの宿飯』オープニングテーマ)
12. Star light, Star bright (TVアニメ『CONCEPTION』オープニングテーマ)
13. KEMURIKUSA (TVアニメ『ケムリクサ』オープニングテーマ)

■Disc-2
1. neophobia
2. Nevereverland (ライトノベルオリジナルBlu-rayアニメーション『アークIX』主題歌)
3. Rock on. (アニメ映画『劇場版蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- DC』主題歌)
4. The Crossing
5. INSIDE MY CORE（新曲）
6. ロキ（カバー曲）
7. ECHO（カバー曲）
8. magenta（BEST ALBUM ver.）