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野上武志×むらかわみちお×吉田創によるガルパンコミック作家座談会【後編】

野上武志×むらかわみちお×吉田創によるガルパンコミック作家座談会【後編】! ガルパンコミックで『ガルパン』に挑んだ表現者たち!

戦車モノに関しては、ひと通り全部やり切ったと思っています(野上)

――その延長線上で、黒田鉄山先生まで出てきて。

▲黒田鉄山(くろだてつざん)。武術家。振武舘黒田道場館長。身体動作の最適化の極致である“消える動き”を体現する、現代の達人のひとり。映像で何度見ても、抜く動作がわからないほど速い「神速の居合」の動画でも有名。その黒田師範の納刀をモデルにしたシーンがこちら(『プラウダ戦記』4巻)
 

吉田:あれは元々、俺が武道が好きだからってこともあるんですけど。武道の世界って、信じられないようなことをやる人がいっぱいいるじゃないですか。黒田鉄山先生の、いつ抜いたのかわからない抜刀とか。

だから武道としての戦車道を考えるときにも、本物の武道を踏まえないといけない。剣道でボコボコにされた道場主の娘のイメージから、その子は道場主の娘として普段どういうふうに生活しているんだろうと。

そうすると、やっぱり西住まほも子供のころから自分が西住流を継ぐんだと思って生活しているだろうから、一挙手一投足、呼吸することですら西住流っていう感じになっていく。

それに対して、西住流にそこまでの体重をかけていないみほっていうのはどうなんだっていう。そこも対立軸で考えていますね。

野上:『ガルパン』というものにおいて、テレビ版のほうがけっこう等閑視している部分ですよね。せっかく主要なテーマになり得るのに、あまり描いていない分野がそのふたつなんです。

ひとつは、武道としての戦車道というものをどういうふうに捉えるのか、その中で職業的な武道家としてやっていくというのはどういうことなのか。

あとひとつが、「これはスポーツなの? 武道なの?」という部分です。スポーツは競技、勝負で、武道ならば武術という技術体系を後世に伝えるというお話になるわけです。

『劇場版』で僅かに描いていましたけど、テレビ版ではその辺りはあえて削ぎ落していますよね。人間ドラマとしては非常に魅力的な部分だと思うんですけど。

むらかわ:テレビ版は芯が見えないときがあるんだよね。戦車道というものに武道としての核がないから、「あれ、こっちに行っちゃったんだ」っていうブレが見えて。

流派なのか、勝手なのか、みんながそれぞれの解釈をしているじゃない。コアに何があるか見えてこないんだよね。

吉田:見えてこないというよりはドラマに必要な部分だけ設定を作っているので、その辺はあまり詰めて作ってないんじゃないかと思いますよ。

野上:あくまで「戦車で女子高生が戦う」ということを成立させるための設定としてしか使っていないし、それ以上踏み込むと面倒だから、踏み込まないという認識だと思うんですよ。

吉田:そこをやるとしたら、1クールじゃ収まらないし。

野上:それに、楽しいものにはならないですよ。武道とかスポーツとか言い出したら。

吉田:「スポーツマンシップってなんなの?」という話にもなってくるので。“スポーツマンシップ”で検索すると、「相手の弱点を攻めることがスポーツマンシップ」だという記述と、「相手の弱点を攻めないことがスポーツマンシップ」という記述の両方が出てくるんですよ。

野上:『リボンの武者』でそこを描きましたけど、ルールが厳格なアメリカ系競技のやり方と、ルールに曖昧さがあるヨーロッパ系スポーツの違いとか、競技にも色々ある中で、日本人は競技をルールの枠内でしか捉えない。でもヨーロッパはルールメーカー側がいくらでもゴールポストを移動できるわけですよ。

▲『リボンの武者』第8巻より
 

吉田:水島監督はそこでブレーキをかけているわけだし、水島監督のようなことを俺たちがやってもうまくできないと思うので、そこをあえて踏むっていうのが――

野上:贋作作家の務めでございます。二次創作というのは公式のほうで出た手掛かり、フックに対して、「これ使われてないですよね!? じゃあ僕的なものを作ってみたいです!」みたいな遊びですから、あくまでも庭先で遊ばせていただいているという意識を忘れずに。

――そうなると、たくさんの方が同じフックを使って二次創作を行っているというのはどうなのでしょうか?

吉田:世界観は使うけど、二次創作でも自分の創作ですから、やりたいことをやるだけです。たとえば『劇場版 Variante』はコミカライズなので、スピンオフというよりは、アニメをマンガにしたものなんですよ。

それだけだと商品価値として、絵が動かなくなって音もなくなっただけの『ガルパン』になってしまうから、『劇場版 Variante』は隙間にガルパンらしいものを足していくことで、伊能(高史)先生の作家性というのが出てくると思うんですよね。

野上:あれは非常に珍しいアプローチの仕方だと思います。前回の座談会で、間に入れているネタは公式から何かサジェスチョンがあったのかと聞いたら、伊能先生がすべてご自身で考えているというので、それはすごい二次創作のやり方だと。足し算で作っていくというのは非常に興味深いアプローチだなと思っています。

吉田:伊能先生の性格というか、作家性もあるんだろうけど、ガルパンの火加減みたいなものからはみ出さないんですよ。俺はもう強火でガーッと行っちゃうから(笑)。焦げようが知るか! ガーッ! みたいな。

むらかわ:あっはっはっ!

吉田:その辺の火加減の調節も本当に神経使ってやってるから、あれは頭が下がりますね。

野上:『もっとらぶらぶ作戦です!』の弐尉マルコ先生もそれに近くて。いかにキャラクターの小さなフックを掴まえて、アニメになかったキャラクターの組み合わせで楽しさを生成していくかっていうことに注力しているからこそ、あと15巻は続いてくれるだろうと(笑)。

いろんな性格の女の子が、ああいうふうに絡んでわちゃわちゃするマンガというのは、すごく魅力的で、誰でも読める作品だし、愛がなければ描けないですよ。

――伊能先生が描かれると、全キャラクターがいい人になるというのは、すごい作家性だなと思います。

▲『ガールズ&パンツァー 劇場版 Variante』第5巻より
 

吉田:役人ですら(笑)。俺にはできない。俺は、悪いヤツは3倍くらい悪く描いてしまう。

むらかわ:あっはっはっ!

野上:今ちょうどガルパンコミックが一区切りついた段階で、ここから先は公式側がこの空いた時間をどう考えるかという話なので、我々としては進めようがないんですよ。

――これからのガルパンコミックを考えた場合、既存ジャンルのパロディ的なものではなく、むらかわ先生が描かれたような独自路線がどんどん出てくれば、またガルパンコミックから立ち上がる何かも生まれると思うんですよ。『リボンの武者』はゲームに登場したり、プラモデル化までされたわけですし。

むらかわ:描きたい方はいるので(笑)。

吉田:俺はいつも外部の人間で、頼まれもしないのに持ち込むほうなので。やったらやったで大変だけど(笑)。やっぱりファンがいるから、色々言われるわけですよ。

むらかわ:俺、何も言われない。反応ないから。

吉田:『樅の木』は、言ってはいけない雰囲気がある。

むらかわ:そうかなぁ? 主要キャラクターがあんまり出ないから。サンダースしか出ないから。

吉田:何かを言うほど、キャラクターに対して過激なことをしていないので。綺麗な世界に浸っている感じなんですよ。

むらかわ:アクション作品のセオリーで描いていないから。どちらかというと少女マンガの『おにいさまへ…』みたいなマンガだから。

吉田:賛否両論あるのも大変だし、ないのも寂しいし。

むらかわ:反応があるのはいいことですよ。

――同じ素材を使ってそれぞれで作家性を出した場合、同じ高校でも先輩たちの顔ぶれが違うとか、どうしても出てくるわけで。そうなると、この作品の先輩は好きだったのに、こちらの作品だと違うとか、色々あるでしょうね。

吉田:エリカの描き方が特にそうで。ガルパンのスピンオフで、エリカが出てこない作品はないでしょ。全部違う描き方をしているんですよ。

野上:それぞれの作品に出てきたエリカの論評をしている野生のレビュアーの人がいて、鋭いので、見ていてとても面白かったですね。

――描き終えてみて、いかがでしたか?

野上:私の場合は『ガルパン』以前から戦車モノをやってきたわけですし、愛と憎しみが半ばするような想いを全部叩きつけて、すべて吐き出し終わったので、今はもう真っ白の灰になっているんですよ。戦車モノに関しては、ひと通り全部やり切ったと思っています。

今、毛色の違うお仕事をやっているので、その中でまた違うアプローチの仕方が見つかれば、次の機会もあるかもしれません。ともあれ、非常に魅力的な仕事をさせていただきました。

――『プラウダ戦記』はいかがでしたか?

吉田:本当に楽しかったですよ。楽しい以外の感想が出ないくらい。

作品の感想が欲しくてやっているので、あれだけ感想をもらえた自分のマンガはほかにないんですよ。当然ネガティブな感想もありましたけど、圧倒的にポジティブな感想のほうが多いので、じゃあいいんだろうと。

51%に好かれれば成功だと思っているので、俺の中では大成功だし、仕事をしてごはんも食べられたし。『ガルパン』という作品に関われて、アニメのスタッフロールにも名前が載ったんですよ! こんな嬉しいことはもうないですよ。

――会心のシーンは?

吉田:アニメにつながったという意味では、みほの顔が初めて出るシーンですね。

▲『プラウダ戦記』5巻
 

色々やってきたことがここにつながるよってことで、ここを目標にやってきたので。だからそれまでわざとみほの顔を映さなかったし。それ以降は後始末みたいな感じなので、あそこで終わってもいいくらいの話なんですよ。

あとはアールグレイの最後のシーンですかね。

▲『プラウダ戦記』5巻
 

何年も温めてきた伏線で、こういう場面にしようと思って描いてきたので。俺の『プラウダ戦記』は全部、最初に結末を思いついて、そこから遡る描き方をしてきたんですよ。

――アールグレイとダージリンの一連のやり取りは面白かったです。

吉田:ダージリンに関しても、先輩の前でどういう反応をするのかを考えるのは楽しかったですね。

野上:『ガルパン』の戦車道、学校の授業としての戦車戦というものを考えた時に、実はアニメでオミットされていることのひとつが、体育会系の部活とかにおける先輩後輩の軋轢というやつなんですよ。

コミカライズでは、才谷屋さんの作品もそうだったし、吉田先生の作品もそうだったけど、先輩後輩の軋轢のストレス展開というのをフィーチャーしている作品が多くて面白いなと思いましたね。

80年代スポコンマンガだと、けっこうそういうところがありますしね。

吉田:俺らの世代はそうですね。

野上:ガルパンは戦争アニメではなく、スポコンアニメなので、スポコンアニメの中でどこを活かしてどこをオミットしているかっていうのは、アニメを観ていてすごく面白いですよね。

吉田:先輩OBが来ると、現役の隊長が委縮しちゃうというのは現実でもありますからね。

――最後にむらかわ先生、ここまでやってきていかがでしたか?

むらかわ:吉田さんが仰っていたように、自分も感想が欲しいというか、お金の問題よりはお友達が欲しいなと思ってマンガを描いている側面が大きいんですよ。

でも『ガルパン』を描いていると、だんだん人と疎遠になっていくというか(笑)。誰とも会わないし、誰とも口を利かないし、感想もあまり来ないし。寂しいなって思うことが多かったかな(笑)。

吉田:だってSNSやってないんだもん。

むらかわ:僕はツイッターをやらないので。インスタグラムはやっているんですけど、そちらは『宇宙戦艦ヤマト』の絵しか載せないことにしているので。だからガルパン関係の情報発信は全然していないんですよ。

吉田:自分から発信して、自分の居場所を言わないと、そもそも来ないです。

むらかわ:そうなんですよね。でも、僕がやると炎上するからやめろってみんなが言うんですよね。

吉田:そっか(笑)。なんだかんだ言って、俺ですら気を使って書いてますからね。

むらかわ:『ガルパン』のマンガを描いていて思ったのは、戦車がとても大変というのはありますね。自分はかっこいい戦車戦を描きたいというわけでもなく、戦車に強いこだわりがあるわけでもなく、戦車素人ではあるんですけど、“もの”としてそこにあるものを、それっぽく描くことが好きで。

戦車だったら、履帯のカバーのところの鉄板が、長年使っていると直線定規では描けないような歪みがあったり、傷がついていたり、そういうのを描くのがすごく好きなんですよ。

だから、そういうものを描けていることがすごく楽しいんですけど、そうすると戦車1輌に7時間とか8時間とかかかってしまって、気が付くとひと月10ページ少々しか描けなかったっていうことになってしまって。戦車ってすごく大変というか、描くのはつらいけど楽しくて、でも大変という感じはしていましたね。

▲『樅の木と鉄の羽の魔女』上巻
 

吉田:ひとりであれだけの量の戦車を描いているんですからすごいですよ。アシスタントは背景とか仕上げくらいでしょ?

むらかわ:アシスタントはスキャンしてゴミを取るのと、トーンだけ。草の1本まで全部自分で描くので。僕は自分に鞭を打ちたい人なので。戦車もコピペを使ったのは2回くらい。あとは全部、1輌1輌描いているので。でも、なかなか得難い経験をしているなとは思いますね。

最初は戦車のせの字もわからない状態で、斎木(伸生)先生の世界の戦車の本を図書館で借りて、あとは野上さんがやっている『萌えよ!戦車学校』を読んで、戦車って何なのかを1から勉強して始めましたから。『ガルパン』のマンガで自分の世界がすごく広がった感じはしましたね。

[取材・文/設楽英一]

ガルパンコミック情報

『ガールズ&パンツァー リボンの武者』
 野上武志×鈴木貴昭/原作:ガールズ&パンツァー製作委員会
 株式会社KADOKAWA MFコミックス フラッパーシリーズ
 第16巻好評発売中

大洗女子との試合、ついに決着――!

ついに西住みほの背中をとらえたしずかたち!
大洗女子との試合のゆくえは――!?
「ガルパン」の大人気スピンオフコミック、堂々完結!!


 
『ガールズ&パンツァー プラウダ戦記』
 吉田創/原作:ガールズ&パンツァー製作委員会
 株式会社KADOKAWA MFコミックス フラッパーシリーズ
 第5巻好評発売中
 
ついにカチューシャとノンナの夢が目の前に!!
 
王者・黒森峰、そして怪物・西住まほを打倒すべく、ついにカチューシャたちは全国大会決勝戦に挑む!!
しかし、天候不良、地滑り発生など最悪の状況のまま試合が続けられ、まさに泥仕合の様相を呈していた…。
ノンナ、カチューシャの戦略は…?
そして怪物、西住まほがプラウダの前に立ちふさがる!!


 
『ガールズ&パンツァー 樅の木と鉄の羽の魔女』
 漫画:むらかわみちお/戦術構成:才谷屋龍一
 原作:ガールズ&パンツァー製作委員会
 コミックウォーカーにて5月20日に最終話掲載
 
伯爵高校2年生、小檜山野咲。車長として初めての試合は――。
伯爵高校2年生、小檜山野咲。
III号戦車N型の車長として臨む初めての試合に臨む。
対戦相手は強豪・サンダース大付属高校――。
戦いの場の緊張感を肌で感じるとき、野咲は“魔女先輩”のことを思い出す――。


 
ガールズ&パンツァー最終章
ガールズ&パンツァー公式ツイッター (@garupan)
月刊コミックフラッパー オフィシャルサイト
野上武志ツイッター (@takeshi_nogami)
吉田創ツイッター (@sabo666)
 
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