TVアニメ『異世界おじさん』セガ・奥成洋輔さんインタビュー|“異世界に行かなかったおじさん” が語る、セガとの出会いと『異世界おじさん』の魅力
“テイルス”を“テイルズ”と呼ぶとおじさんが怒りますよ!
――SEGAの中で『異世界おじさん』の関連業務としてはどんなことをやられているんでしょうか?
奥成:クレジットにも入っていて恐縮なんですが、「僕、そんな何かしているかな?」くらいのところがありまして(笑)。一応、企画書などを見せてもらって、監修をしているということになるんですが、どちらかというと、アニメの制作現場から「セガサターンの効果音が欲しいのでください」とか、「『エイリアンストーム』(※35)のメガドライブ版の1面の曲が欲しい」とか、指定がハッキリしている音素材のリクエストがあるので、それを用意してお渡しするとかですね。
あとは、ティザーや本編での『ガーディアンヒーローズ』(※36)の映像が「(プレイヤーは)2人いるのに、1人プレイの映像になっているので、2人プレイの映像に変えてください!」と言ったら、もう撮る時間がなさそう、みたいな感じなので、慌てて僕が両手でコントローラーを2つ使ってプレイして、映像をお渡しする、なんて事もありました(笑)。
※35:エイリアンストーム
『ゴールデンアックス』の流れを組むベルトスクロールアクションで、アーケードからの移植作として、メガドライブで発売。
※36:ガーディアンヒーローズ
2話でおじさんが「なんで、『ガーディアンヒーローズ』じゃないんだ!」と叫んだり、エルフの姿になっての実況プレイ動画がバズったりした際のゲームがこの『ガーディアンヒーローズ』。1996年にセガサターンで発売された、6人同時プレイ可能な格闘アクション。現在はXboxでも遊ぶことができる。
――奥成さんが『異世界おじさん』という作品を知ったのはいつごろでしたか?
奥成:僕が初めて知ったのは2018年の6月くらいで、WEBで原作コミック第3話が更新されたタイミングくらいですかね。
――その時点ではまだお仕事として関わりはなかったんですね。
奥成:SEGAにはまったく案内などなかったです。「SEGAのメガドライブの濃い話が載っている漫画がある」と聞きつけて読んだら『ガーディアンヒーローズ』の話が出てきてビックリしました。すぐに『ガーディアンヒーローズ』を開発したトレジャー(※37)の前川正人社長に「読みましょう!」と連絡しました(笑)。
そこから何年も経ってアニメ化の連絡があって、次に何かプロジェクトをやるなら『異世界おじさん』と何かできるといいな、とは思っていたんですが、アニメもコロナの影響等でいつできるか分からないですし、それに合わせて何か仕込むということもできないので、上手く合えばいいなくらいで。今回アニメの放送開始タイミングと一致したので、原作の方ですが、「メガドライブミニ2」の発表会のために描き下ろしでオープニングを飾ってもらったんです。結果的にタイミングとしてはピッタリでしたね。
※37:トレジャー
『ガンスターヒーローズ』、『ダイナマイトヘッディー』、『エイリアンソルジャー』などの、セガファンから熱狂的な支持を集めるソフトを多数開発したメーカー。ゲーム性を見つめる「職人集団」として、名作を多数生み出している。
――実質、SEGAの公認アニメですよね。
奥成:今はそうですね。KADOKAWAさんから初めて正式に『異世界おじさん』の話が来たのは、単行本化のタイミングだったと思います。1巻の単行本の奥付には「(C)SEGA」と入っていると思いますが、そこ以外何も入っていないので、一応知ってますよ、くらいの話で。他の作品とかもアニメや漫画の話は来ることがあって、よく監修もするんですが、『異世界おじさん』に関しては漫画の監修があったのは伏字のない「メガドライブミニ」の回だけですね。ただ小ネタの部分は、弊社のライセンス部門の担当が連載更新前に確認をしているみたいです。
関係者というと変ですが、関わっている人間はみんな一読者というか、いちファンとして参加させていただいて、みんなおじさんのことが大好きですね。
――アニメが放送する前、どんな反響があると思いましたか?
奥成: 初めて見たときは音声がほぼ完成していた状態でコンテを見たんですが、完全にセリフが原作のままで、いわゆるアニメとしてまとめるためのカットはあっても、内容もほぼノーカットだったので「ここまでハッキリなぞるのか」と驚きました。そのあと、一番ビックリしたのはオープニングですね。
――オープニングは最初から監修していたわけではないんですか?
奥成:最初に見たときはオープニングはまだ入っていなかったですね。ファンのみなさんが「さすがSEGAが監修しているだけある」と言っていたんですが、あれは実は完成してから僕たちも見ているんですよ(笑)。
完成したものを見たのは放送直前でしたが、コンテの段階で、『デジタルダンスミックス』(※38)してるとか、『NiGHTS(ナイツ)』(※39)のように空を飛んでるおじさん、みたいなことがすぐに分かったので、これは完全にSEGAファンに向けて作っていて、おじさんのSEGA好きという部分を忠実に作品に落とし込もうとしている、と思ってすごくビックリしました。
実は最初にコンテ画像で見たときにちょっと違うな、と思った部分もあったんです。戦闘シーンでRPG風の絵が出たときに、『FF』のような戦闘絵だったので、「う~ん、おじさんはRPGやらないのになんでこんなシーンなのかな?」と思っていたんですが、上がったものを見たらRPG風と見せかけて、『ゴールデンアックス』(※40)で、攻撃を仕掛けるおじさんだったという(笑)。このスタッフは間違いない、という作りになっていて、非常に喜ばしいというか、感心しました。
※38:デジタルダンスミックス
1997年に『デジタルダンスミックスvol.1 安室奈美恵』として発売。『バーチャファイター』などで有名なAM2研制作で、ポリゴンの踊りまくる安室奈美恵に、多くのセガファンが驚愕。
※39:NiGHTS(ナイツ)
1996年発売のセガサターン用アクションゲーム。『ソニック』シリーズを作った、ソニックチームが、ポストソニックを目指し作った作品。正式名称は『NiGHTS into dreams...』。大空を飛び回る夢の中の住人・ナイツを操作し、悪夢の怪物・ナイトメアンを倒していく。3D空間を飛び回る独特の操作性や、作りこまれたステージ、世界観などが人気を博した。アニメにも登場した『マルコン(サターン用アナログコントローラー)』は、『NiGHTS(ナイツ)』と同時発売。
※40:ゴールデンアックス
1989年に稼働したアーケード用ベルトスクロールアクションゲーム。魔人デス=アダーによって肉親の命を奪われた3人が魔人討伐の旅に出る、剣と魔法のファンタジー・アクション作品。
――OP映像の序盤のおじさんは、サターンの『心霊呪殺師 太郎丸』(※41)がモチーフになっているようですね。ただ、「これはSEGAのソフトじゃないのに……」と思ったんですが、あれはSEGAさんが監修していないから入っているのかな、と思いました。
奥成:アニメを作っているスタッフの方々があまりそういうことを意識していないところは、ほとん先生(原作者・殆ど死んでいる先生)と同じなのかなと。いい意味で大人の忖度をしていないんだろうなと(笑)。
※41:心霊呪殺師 太郎丸
1997年に発売されたセガサターン用横スクロールアクションゲーム。一部のファンの間では、熱狂的人気。また、ソフトの出荷量が少なく、希少価値が高い。
――放送が始まった後の反響としてはいかがですか?
奥成:ファン視点でいえば、原作のファンなら満足できるだろう、という予感はあったんですが、アニメから入ったファンはどうなんだろうと思っていました。おじさんというキャラクターをどういう風に捉えるかということだと思うんですが、「こんなに愛されているキャラクターだったのか!」とビックリしましたね。
原作を初めて読んだ人もみんなそうだったと思うんですが、「おじさんは自分だ!」と思っている人がアニメ視聴者にもすごく多くて驚きました。
サターンが“討ち死”にしてから4半世紀が経っているんですが、そのサターンファンをおじさんという魔導士が、アンデッドヒーロー(※42)のごとく蘇らせたんじゃないかと感じました(笑)。
みんな多分忘れていた、当時の“セガサターン魂”みたいなものをおじさんが呼び起こしたんだと思います。そういう意味ではこのタイミングで「セガサターンミニ」が出せなかったのはすごく歯がゆく感じています。
あとはやっぱり、原作を読んでいた人が満足するというのは分かるんですが、原作を読んでいなかったアニメファンの方々までもが、おじさんに同情したり、同感したりしている人が多かったのは意外でしたね。アニメでも言っていましたが、“SEGAファンっていうのは選ばれた人”(※43)たち、みたいな感じだったんですが、あそこまで受け入れられると、誰もがみんなどこかでセガファンだったのかな、という気がしますね。
※42:アンデッドヒーロー
1996年に発売されたセガサターン用アクションロールプレイングゲーム『ガーディアンヒーローズ』に登場するキャラクター。「伝説の剣」を携える屍の戦士。
※43:SEGAファンっていうのは選ばれた人
『異世界おじさん』第1話でも、おじさんが「SEGAのハードを選んだ人間が、そういった人生を歩めると思うなよ」と発言。たかふみもおじさんのことを、ゲーム機に人生を引っ張られていると評している。
――アニメ『異世界おじさん』の第4話までで、おじさんに「SEGAのこと分かっているなあ」と思うところはありましたか?
奥成:ベタなところでいくと、3話の最後で、エルフ化したおじさんを、たかふみがひっかけるために「テイルズ」と言ったのを「テイルス!」と直したところですかね。
SNSを見ていても「テイルズ」と書いている人が多いですが、『テイルズ』(※44)だとバンダイナムコさんの作品です(笑)。
上辺じゃない、生々しいセガファンっぽいツッコミがところどころにあるのが、SEGAファンにとっておじさんから目が離せない要因なのかな、と思いますね。
※44:テイルズ
ソニックの相棒は「テイルズ」でなく「テイルス」。おじさんだけでなく、セガ・奥成さんにも怒られます。ゲームとしての『テイルズ』は、『テイルズ オブ』シリーズのことで、バンダイナムコエンターテインメントの作品です。