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春アニメ『僕ヤバ』小沼則義(音響監督)インタビュー【連載第3回】

春アニメ『僕の心のヤバイやつ』連載インタビュー第3回:音響監督・小沼則義さん|「今 市川のような青春を過ごしている人に対して“ちゃんと救われる時期が来るんだよ”と作品を通して伝えたい」

赤城監督は「恩人」

――赤城博昭監督とはお付き合いも長いと思うのですが、おふたりの直接的な出会いはいつごろだったのでしょうか?

小沼:これは話すと少し長くなります(笑)。僕は今はフリーの立場なのですが、以前はAUDIO PLANNING Uという会社に務めており、ミキサー(録音調整)という仕事を専門にやっていました。その中で、本当にさまざまな経験を積ませていただきました。当時のお仕事を通じて、シンエイ動画の荒木(元道)プロデューサーが私のことを買ってくださっていて。独立することになった時に退職のご挨拶を兼ねて、荒木さんと食事に行くことになったんです。それで後輩と一緒にその場へ行くとなぜか赤城監督がいらっしゃったんですよ(笑)。そこでいろいろな話をして盛り上がって。

で、その後『ましろのおと』という作品の音響監督にオファーをいただきました。今考えると、あの食事会は面談だったんだなと(笑)。

――なるほど(笑)。『ましろのおと』が音響監督としてははじめての作品になりますよね。

小沼:以前から「音響監督をやらないの?」とは何度か言われたことがあったんですが、実際自分にできるのかなと思っていました。お話をいただいたときは不安や葛藤もありましたが、オファーをいただけたことがとてもうれしかったので、ぜひやらせていただこうと。それが赤城監督との出会いです。

――素人目線で恐縮なのですが、ミキサーから音響監督に進まれる方というのは多いように思います。でも役割としてはまったく違うスキルを求められると考えて良いのでしょうか。

小沼:そうですね、基本的には別種です。音響監督はサウンドメイクに対して意見を述べ、最終的な音の演出を決めていきます。音に関する決定権を持つのが音響監督です。僕の場合、もともと音楽の知識があったのと、以前の会社の現場で音響監督の先輩たちの姿を見てきたからこそ、比較的スムーズに進めたというのもあるのかもしれません。「門前の小僧習わぬ経を読む」っていうのは本当だなと思います。

――赤城監督は小沼さんの人生においての重要人物でもあるのですね。

小沼:赤城監督には足を向けて寝られないですね。荒木さんにもです。今でこそ音響監督がメインのお仕事になっていて。ミキサー時代の仕事を見てくれた方がチャンスをくれたおかげで、今のお仕事ができています。

赤城監督は僕にとって恩人であり、「絶対に裏切ることのできない人」。だからこそ赤城監督とのお仕事はとても緊張感があります。もちろん他の作品でも手を抜く事はないですけど、この先……例えば不義理をしてしまったら、赤城監督や荒木さんにも恥をかかせてしまうじゃないですか。皆さんに「こんなやつを使っちゃったのか」と感じさせるようなことは、絶対にしたくないなとも思っています。

アフレコでは「おふたりの想いを大切にしながら」

――『僕ヤバ』にまつわるお話に戻させていただくと、アフレコ時に「目標とするべきもの」が明確だったとおっしゃっていましたが、それはどういったものなんでしょうか。

小沼:まず堀江瞬さんと羊宮妃那さんに決まった際に……アニメーションのキャラクターとして成立させると言うよりも、本当に市川と山田がそこに生きているという表現にした方が良いと思ったんです。「日常の延長」。僕は「等身大」という言い方をしています。

羊宮さんが今の年齢だからこそ持っている雰囲気や声色が山田に合うんじゃないかと思いましたし、堀江さんが持っているパーソナルな部分に市川が見えたんですよね。

――赤城監督も堀江さんに市川を感じたとおっしゃっていました。

小沼:勝手に決めつけるのは申し訳ないんですけど、堀江さんは「自分が好きじゃない」かたのような気がしたんです。どことなくそういう匂いがして。そして、堀江さんは「生々しい中学生感」を持って、オーディションに挑んでいた印象がありました。

そのおふたりの声を聞いたときに、さきほど話した「等身大」、つまり自然と想いがにじみ出てくるような演出にしたいなと思いました。その方向性が見えたら、あとはおふたりに寄り添うだけです。だからディレクションでリテイクをする際にも「そうじゃなくて〜」などと話すのではなくて、「似たような体験はなかった?」などと問いかけ、当時の追体験をしていただくような感じでした。

キャラクターに近い状態になって頂いて出てきたお芝居に関しては、僕が思っていたものとは例え違ったとしても、おふたりが解釈したものなので良いのかなと。そこはミクロでは見ないようにしています。特に堀江さんのお芝居に関しては、彼の中から出てきた市川像を大事にしています。

――おふたりの声が作品を導いた部分も大きいんですね。

小沼:そうですね。2人の持つ声やパーソナリティが出たら、良い市川と山田になるんじゃないかなと思っていました。演技指導の定義が少し難しいですが、基本的には正解があったとしてもそれを直接示すことはしません。そこに至る理屈や感情の流れ、解釈を説明して役者さん自身でそれを解釈して正解に辿り着くのが理想です。もちろん、音としてこの「これじゃなければいけない」という場合もあるので、言うこともありますが、解釈と感情の流れを説明して後は好きに演じてもらう形です。

――小沼さんの中で印象に残っているアフレコはありますか?

小沼:シリアスなシーンで言うと、第3話ですね。保健室のベッドの下で潜って市川が自分の気持ちを自覚する場面。堀江くんに「市川にとってはこのシーンは絶望なんです。手の届かない存在を好きになってしまったってことを自覚するのは辛いことじゃない? だって叶わないんだから」と説明をした上で「そういう気持ちを込めて欲しいんだ」って伝えると堀江くんが......「あぁ 」って唸っていて。そしたら本番のテイクが凄く良くて、素晴らしいお芝居だったなと思います。

その前の山田が鼻を怪我してしまうシーンの際には、羊宮さんに「自分の善意が原因で、良くないことに相手を巻き込んだ経験はある?」って聞いてみたんです。そしたら、追体験としてお芝居してくれて、そこも凄く良いシーンになりました。

――具体的なエピソードを交えてディレクションもされているんですね。

小沼:大事なシーンに関しては細かくやっていますね。

――ではコミカルなシーンで印象的なアフレコというと?

小沼:はっきり言うのが憚られるシーンではありますが……飛行機の音や、蛇口の水が滴る音がある場面……要は、中学生らしい性的なことの隠喩したシーンですかね(笑)。市川が「うわあああ!」って言うところがあるんですけど、「もっとしっかり昇天してください!」と堀江さんに言ったことです(笑)。「初めてこんなディレクションしたな」と思いましたね。

――堀江さんのリアクションはどうでしたか?(笑)

小沼:「はい!分かりました!」って。『僕ヤバ』ならではのエピソードですね(笑)。羊宮さんに関してはコミカルな部分では「羊宮さんここはファンの方へのサービスだよ!」って言いながらやってもらっていました。

――赤城監督は羊宮さんの声を「最近では珍しい声だ」と評していました。「演技にも緩急があって、バランスの感覚が巧い」とおっしゃっていたのですが、アフレコ中小沼さんはどう思われましたか?

小沼:それは僕も感じていましたね。僕は勝手に「羊宮節」と呼んでいました。彼女独特の抑揚の付け方があるんです。少し跳ねたような、屈託のない声。天真爛漫さ、飾らなさを感じるお芝居をされるんですよ。

実写っぽいお芝居も、アニメーションならではのデフォルメのお芝居も、どちらもできるからこそ、そのあいだといいますか。独特のお芝居ができる。それがとても良いなと思っていました。

―― 牛尾憲輔さんが作品の素晴らしさを際立たせていますが、小沼さんは完成したアニメーションを見てどのような印象を受けましたか?

小沼:画の付き方や、映像表現が想像以上に美しくて、牛尾さんの音楽も作品の世界観にマッチしていたと思います。特に1話の最後の音楽と映像が素晴らしかったです。

――1話のラストシーンは赤城監督も素晴らしいとおっしゃっていました。ところで、本作のアフレコ現場の雰囲気はどのような感じだったのでしょうか?

小沼:コロナ禍とあって基本的には少人数のグループで収録していたんです。堀江さんが自分から声をかけられないタイプなんですよ(笑)。また、羊宮さんも年齢が一番下ですし、最初はお互いに様子を見ながらという感じだったんですけど、小林ちひろ役の朝井彩加さんや、関根萌子役の潘めぐみさんや、男3バカを演じるキャストの方々が良い感じに場を和ませてくれて、最後の方は和気あいあいとやっていました。

――本当に教室のような現場ですね!

小沼:そうですね。その空気感が作品としても良いのかなと思います。

――桜井のりお先生もアフレコ現場にいらしたそうですが、お話はされましたか?

小沼:少しだけお会いしましたね。ただ、たくさんお話できたわけではなかったので、桜井先生の表情を確認しながらディレクションをしていました。喜んで頂けていると聞いています。とてもうれしいです。

 

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