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『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』原作・鴨志田一インタビュー

『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』スタッフインタビュー第1回 原作・鴨志田一さん|「花楓とかえでから何かを感じ取ってくれたら嬉しいです」

 

あったかもしれない“シリーズを終わらせる”という選択

――原作でもアニメでも『ゆめみる少女』で大きなお話がひと段落した印象があります。そこからの『おでかけシスター』や『ランドセルガール』の構想はどの段階からあったのでしょうか?

鴨志田:少なくとも花楓とかえでの境遇や同じ身体でふたつの人格が入れ替わることは、企画立ち上げ当初から想定していました。かえでから花楓に戻っても彼女の問題は全て解決ではないので、花楓にスポットを当てた物語も必要になると頭の片隅に置いていたんです。

最初は『ゆめみる少女』と『ハツコイ少女』までを区切りとしていたのですが、形にしていったのは原作で『ゆめみる少女』の執筆を始めたくらいのタイミングです。

その頃から『青ブタ』をシリーズとして続けていく意思が編集部で明確になったので、『ゆめみる少女』『ハツコイ少女』の次にやるエピソードとして『おでかけシスター』を考えました。

――今のお話を伺った印象として、『ゆめみる少女』と『ハツコイ少女』まででシリーズ自体が終わってしまう可能性があったようにも思えました。

鴨志田:それも選択肢のひとつでした。僕に続ける意思があったとしても色々な事情があるので、細かな内容までは考えず構想だけに留めていたんです。

元々『おるすばん妹』と『ゆめみる少女』『ハツコイ少女』まではやる想定で構想を作っていて、その後の花楓のエピソードに関しては必要になると思いつつ、内容的にしっとりとした邦画みたいな作品になるのではないかと考えていました。

緩急があるお話ではなく、日常の積み重ねが大切になってくると言えばいいでしょうか。一応エンターテイメントとして作っていたので、毛色の違うものに見えるかもしれないという懸念もありました。

けれどそこに至るまでに、咲太や麻衣たちもステップアップしているし、色々な事を乗り越えて成長している。その過程の先として、この問題もきっと乗り越えられるだろうと考えました。

そして『ゆめみる少女』『ハツコイ少女』まで読んでくださった方なら、この先何があっても協力して対処できるだけの心の強さを、咲太たちはもう持っていると理解してくれるのではないかとも思ったので『おでかけシスター』を形にしていくことになりました。

 

 

――『おるすばん妹』と『おでかけシスター』の間に翔子のエピソードを挟んだ理由はなんだったのでしょうか?

鴨志田:最初の企画書みたいなものを作った時点では、かえでのエピソードは翔子のエピソードの後に置いていました。詳細な理由まではもう思い出せないのですが、執筆を続ける中で逆の方が良いと感じて今の形に落ち着きました。

――今その理由を考察するとしたら、どんな答えになりますか?

鴨志田:基本的に『青ブタ』は咲太の視点で物語が進むので、彼の心境のステップアップを考えるとこの順番が最適解なのかなと。咲太たちがかえでの問題を乗り越えてから翔子のエピソードに行くほうが、しっくりハマると考えたのだと思います。

翔子さんという存在は咲太にとって初恋の相手なので、彼女を作中でも特に印象に残るような存在にもう少し育てたかったところもあります。そうして布石を打った上で、牧之原翔子とは何者なのかを描きたいと思った事も大きな理由ではないかと。

――ここで改めて、ヒロインたちの個性にもなっている思春期症候群の症状はどのように考えていったのかも聞かせていただけますか?

鴨志田:最初に『青ブタ』の企画を考えている時から「悩んでいると何か不思議な現象が発生する」というアイディア自体はあって、その組み合わせを考える時にざっくりと「認識されなくなる」「未来をシミュレートする」「ふたりに分裂する」「入れ替わる」みたいなよくあるネタをストックしていました。

そこから、例えば麻衣というヒロインをどういうキャラクターにするか考えた時、この子は芸能人にしてみよう、芸能人だったら常に人から視線を浴びているだろうから、その反動で認識されなくなるのはどうだろう? みたいな連想ゲーム的に組み上げました。

朋絵なら周りの空気を読もうとする、なぜなら自分の未来が平穏であることが大事なので、様々なパターンをシミュレーションできるようになる、みたいな流れです。作中の見せ方としては、ループしているかのように錯覚させていましたけれども。

そうやってキャラクターの心境と相性の良さそうなネタを合体させてお話を作っていきましたね。

 

咲太は相手に対して鏡になるような立ち位置のキャラクター

──ここからは『おでかけシスター』について伺います。鴨志田先生がアニメ化にあたって期待しているシーンはどこでしょうか?

鴨志田:花楓が入学願書を持って峰々原高校に向かう一連の雪のシーンは、映像的期待感があるシーンです。じっくりじわじわと何かが伝わってくると思います。緊張感とここからがスタートだという想いなど、色々なものが混ざりあったかのような感覚があります。

 

 

――受験や進路、それも通信制高校や不登校となった生徒さんたちの描写がしっかり描かれているように思えました。こちらは執筆される上でリサーチされたのでしょうか?

鴨志田:受験に関しては僕自身も経験したことですし、視聴者のみなさんも当たり前に経験することだと思うので、誰が見ても共感できる風景になったかと思います。

スクールカウンセラーや通信制高校などの描写は、編集に掛け合ってもらい取材させていただき、そこで生徒さんたちや先生方とお話をさせてもらいました。

取材したときに印象に残ったのは、どの生徒さんもみんな明るかったことです。ここは大きなポイントだったのかなと思っています。やはり自分でその学校を選んで来た人たちばかりだったんです。

作中でもそういった部分はキャラクターたちの台詞として書いているのですが、僕自身も今後はこういった学校が普通になっていくかもしれないという感覚になったので、前向きに捉える事ができました。おかげであのお話はかなりスムーズに書けましたし、ビジョンも明確にできたと思っています。

もちろん不登校が理由で選んだ生徒さんもおられましたが、やっぱり理由は人それぞれなのだろうなと。どんな人にも選択肢が増える事は良いことだと捉えて、『おでかけシスター』の中でもそのように描きました。

――主人公である咲太も妹である花楓が主軸となることから、今回は出番が多かったかと思います。改めて彼を生み出すきっかけや、彼のキャラクターとしてのコンセプトみたいなところも伺いたいです。

鴨志田:『青ブタ』以前に執筆していた『さくら荘のペットな彼女』では、自分より才能のあるヒロインと出会い1から成長する主人公・神田空太を描きました。完結までに彼は大きく成長するのですが、新たに『青ブタ』を始める時に咲太を空太と同じように1から成長する主人公にしてしまうと、子供っぽく見えてしまうのではないかと考えました。

後は単純に、僕自身がもう少し『青ブタ』はヒーロー型の主人公にしたかった事も大きいです。咲太が周囲の女の子をひとりずつ助けていくのが『青ブタ』序盤の構図になっていますが、そこに辿り着くまでに既に嫌な経験をして捻くれた性格になっていたり、何かしらを割り切っている、諦めている要素を持ったキャラクターにしたかったんです。

物事に対して全部を取りに行かない主人公と言えばわかりやすいかもしれません。多くを諦める代わりに、欲しいものや譲れないものは確実に取りに行く。最初からそういう選択のできるキャラクターを目指していました。なのでそれを理解しやすくするためにも、頑張るところと頑張らないところをはっきりさせるように描いています。

それにプラスして、やはりああやって女の子たちに関わっていく主人公という立場上、ある程度はモテて欲しかった。その理由が理解できるキャラクターになるよう考えていった上で、斜に構えて飄々としたわかったような事を言うキャラクターになっていきました。

 

 

――譲れないものと諦めるもののバランス感覚は確かに絶妙なように思えます。例えばあまり仲良くない人の切り捨て具合などは印象に残りますし……

鴨志田:咲太の対人関係でいうと上里沙希というキャラクターがいますよね。彼女は咲太に優しくないじゃないですか。

咲太は相手と同じベクトルでものを返すんです。基本的に相手に対して鏡になるキャラクターみたいな立ち位置で作っていたので、相手が攻撃してくるなら反撃する。なので、上里さんに対して言い過ぎだと思っている方も多いと思いますが、上里さんも咲太に相当酷いことを言っているので……そこもバランスのひとつなのかなと思います。

例えば麻衣の話でも、咲太は駅で勝手に写真を撮ろうとするカップルに盗撮野郎ですかと声をかけています。あれは咲太ではなく麻衣へ向けられた悪意を反射しているのですけれど、それが彼なりのバランスの取り方なんです。

――興味深い話をありがとうございます。また、今回の『おでかけシスター』を見終わった後には何か心が温かくなるような感覚があったように思えます。そういう点は意図していたのでしょうか?

鴨志田:『ハツコイ少女』までは思春期症候群を主軸とした物語でしたが、ひとつ大きなエピソードを乗り越えた後になるので、『おでかけシスター』では少し日常に戻ったかのような景色を、あの世界の中で描いてあげるべきだと思ったのが大きいかもしれません。

後は本当に一歩ずつ花楓が前に進んで、彼女自身が自分で何か納得を得ていくしかない物語なので、それを思春期症候群として乱暴に語れるエピソードではないとも思っていました。だからしっかり向き合わなければいけないと考え、あの形になっていったのだと思います。

――最後に公開を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをお願いします。

鴨志田:本当に花楓が一歩ずつ、小さな一歩ですが前に進んでいきます。静かな物語ではありますが、だからこそ劇場の大きな画面で見るとキャラクターたちの心情の重みをより強く感じていただけると思います。ぜひ劇場に足を運んで、花楓とかえでから何かを感じ取ってくれたら嬉しいです。

 

アニメ映画『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』作品情報

公開情報

2023年6月23日(金)公開!

Introduction

心揺れる少女たちとの切なくも瑞々しい思春期ファンタジー

原作は累計発行部数250万部を超える鴨志田 一の人気小説“青春ブタ野郎”シリーズ。
2018年にはTVアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」、劇場版「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」が公開。

可愛くて、切ない不可思議な物語が大きな反響を呼びました。
そして今、空と海に囲まれた街“藤沢”を舞台に新たな“思春期ファンタジー” が描かれます。

監督・増井壮一、脚本・横谷昌宏、キャラクターデザイン・田村里美、制作・CloverWorks、前作のスタッフが再集結し、かけがえのない“当たり前”が詰まった物語が幕を開けます。

Prologue

『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』

高校二年生の三学期を迎えた梓川咲太。
三年生の先輩であり恋人の桜島麻衣と、峰ヶ原高校で一緒に過ごせる学生生活も残り僅かとなった。
そんななか、長年おうち大好きだった妹の花楓は、誰にも明かしたことのない胸の内を咲太に打ち明ける。
「お兄ちゃんが行ってる高校に行きたい」
それは花楓にとって大きな決意。
極めて難しい選択と知りながらも、咲太は優しく花楓の背中を押すことを決める。
『かえで』から『花楓』へ託された想い。二人で踏み出す未来への物語。

Staff

原作:鴨志田 一(電撃文庫刊「『青春ブタ野郎』シリーズ」)
原作イラスト:溝口ケージ
監督:増井壮一
構成・脚本:横谷昌宏
キャラクターデザイン・総作画監督:田村里美
プロップデザイン:道下康太
美術設定:塩澤良憲
美術監督:大久保 聡
色彩設計:横田明日香
3Dディレクター:織田健吾 田中葉月
2Dワークス・特殊効果:内海紗耶
撮影監督:楊 暁牧
編集:三嶋章紀
音響監督:岩浪美和
音楽:fox capture plan
制作:CloverWorks
製作:青ブタ Project

Cast

梓川咲太:石川界人
桜島麻衣:瀬戸麻沙美
梓川花楓:久保ユリカ
古賀朋絵:東山奈央
双葉理央:種﨑敦美
豊浜のどか:内田真礼
広川卯月:雨宮天

公式サイト
公式ツイッター(@aobuta_anime)

原作情報

原作小説"青春ブタ野郎"シリーズが累計発行部数250万部を突破!
2023年7月7日には待望の最新第13弾『青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない』が発売決定!

電撃文庫刊「『青春ブタ野郎』シリーズ」著/鴨志田 一 イラスト/溝口ケージ
第1弾 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない
第2弾 青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない
第3弾 青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない
第4弾 青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない
第5弾 青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない
第6弾 青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない
第7弾 青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない
第8弾 青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない
第9弾 青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない
第10弾 青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない
第11弾 青春ブタ野郎はナイチンゲールの夢を見ない
第12弾 青春ブタ野郎はマイスチューデントの夢を見ない
第13弾 青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない(2023年7月7日発売予定)

『青春ブタ野郎』シリーズ特設サイト

 

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