
『今日も吹部は!』は吹奏楽部のちょっと変な人間模様が凝縮した漫画! “変”だからこそ面白いキャラクターたちと作品の魅力を解説
モラトリアムを謳歌するやる気ない勢の首領。副部長・倉見陽子
例えばやる気ない勢のトップである、倉見陽子。彼女の動機はただひたすらに青春を謳歌すること。
「じゃあ部活にやる気を出せばいいじゃない」という意見もあるとは思いますが、彼女にとっての青春とは、ダラダラと取り留めのない日々を過ごすという方向性。そのためにやる気のない吹奏楽部を維持しているわけです。
「部活とも人生も、いかに怠けられるか……じゃない?」という行動理念のもと、この部活をとにかくダメにしていく、びっくりするぐらい人間ができてない存在。それこそがラスボスである副部長になります。ちなみに、何故か人心掌握には長けているようで、人を堕落させるのが異常に上手いのも恐ろしいところ。西洋の悪魔みたいな説明になってしまいましたが、実際にそういうキャラクターなのでしょうがないですよね。
これまで紹介した人たちは、まだこの吹奏楽部にはびこる変人たちの一角に過ぎません。殺人級の戦闘合気を使いこなす先輩、高校生活という人間関係のるつぼを眺めるのが趣味の教師など、ほかにも“変”なキャラクターが大量に登場します。
あと、そのせいかやたらと殴り合いの描写が多いです。「吹奏楽部なのに?」という疑問も湧いてきますが、そもそも戦闘合気を使いこなす先輩がいる時点で色々とおかしいので、今さらな問題なのかもしれません。
しかしながら、この“変”さがこの漫画の大きな魅力に繋がっているのです。
揉めごとを楽しむ、吹奏楽“部”マンガの魅力
とはいえ、『今日も吹部は!』は青春コメディ。笑える要素はありつつも、根底としては“一度折れてしまった野球少年が、別のフィールドで再起する物語”という青春ど真ん中のストーリーが展開されます。つまるところ、物語の骨子としては非常にシンプルなものになっているわけです。
しかしそこに、クセの強い部員たちという要素が加わっている。それこそが本作独自の魅力を生み出しています。例に挙げた“恋に狂ったリード強奪魔”を筆頭に、ヤバい部員が勢ぞろいした吹奏楽部。そんな伏魔殿を汐見がどう攻略していくのか? というのが最大の見どころになっています。
練習の大変さとか、楽器ごとの繊細な事情とか、そういう部分ではなくて“部内の揉め事”のみにフォーカスしている。だからこそ個々人の変な部分や特徴が際立ち、それだけで話が成立する。そういう人間模様のおもしろさがこの作品のキモなんです。吹奏楽の漫画というより、“吹奏楽部”を楽しむ漫画なわけですね。
作品全体を通して言えることなのですが、とにかく汐見がすげーいいヤツなのも最高です。ズレているし、常識がちょっとなかったりするけど、とにかく芯が強く「頑張る」と決めたことには折れない。物語を追っているうちに、彼のことをいつの間にか好きになっている自分がいます。そんな彼が一度は失いかけた青春を、別の形で取り戻していく。そういう姿に惹かれるんです。
そんな汐見への愛が重すぎる系ストーカーこと、ヒロインであるルーシーとの関係性も見逃せません。彼女はドがつくほどにおかしい人ではあるのですが、意外と汐見への想いは純情そのものだったりします。想い人とともに吹奏楽部で頑張ることを喜んだり、汐見のふいな一言でドキっとしたり、そんなラブコメらしい甘酸っぱさも、この作品の大きな魅力です。
時折、独占欲にまみれた恐ろしい顔も見せたりしますが……そこも含めてこの作品らしい味ではないでしょうか。
長年蓄積された、変人の人間関係を描く上手さ
というように、たくさんの変人たちによる人間関係を描くのが『今日も吹部は!』という漫画になっています。
これは筆者の私見も入っていますが、作者の宮脇ビリー先生は長年こういった“尖ったキャラクターが織りなす人間模様”を描いてきた方です。前作である『シネマこんぷれっくす!』もそうですし、それ以前に書かれていた漫画にもそういった特徴がありました。なので、そもそも作風自体が宮脇先生の十八番のようだと感じています。
それゆえに、まだ刊行されている数が2巻(2025年5月当時)ではありますが、これから先の物語も面白くなることに、筆者としては疑いがありません。題材もそうですが、それらを描く際のテンポや間の取り方、構図やキャラクターの描き方など、どれをとっても一級品。こういった濃いキャラクターたちの関係性を追うのが好きな人であれば、絶対にハマる漫画だと自信を持ってオススメできます。
現在はサンデーうぇぶりに加えて、マンガワンでも追いかけで連載が始まっていますので、気になる方はそちらから追うのもよいかと。ぜひとも汐見の青春をかけたちょっとおかしな部活動の日々を、笑いながら見守ってみてください。
[文/オクドス熊田]




















