映画
『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』夏油 傑役・櫻井孝宏インタビュー

変わっていたかもしれない夏油の行く末。でも"闇堕ち"だとは思わないーー『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』夏油 傑役・櫻井孝宏さんインタビュー

櫻井さんにとっての『呪術』

ーー櫻井さんは『呪術廻戦』という作品全体をどう捉えていますか?

櫻井:仮にこの作品が私の子供時代に作られていたら、相当マニアックな作品だったと思うんですよ。それこそ『ドラゴンボール』や『ワンピース』のようなジャンプ作品らしい、連綿と作り続けられているような冒険・活劇とは少し方向性が違いますよね。専門用語も多いし、難解でダークな作風ですし。

ーー能力バトルとしても複雑ですよね。

櫻井:数学とか物理チックな能力も多いです。この作品がこんなにも受け入れられているのが新鮮ですね。私も歳を重ねていますが、未だに夜中にアニメが放送されていることを不思議に思うことがあります(笑)。19時とかに、ご飯を食べながら見る、みたいなイメージがまだあるんですね。

いわゆる深夜アニメみたいな枠だからこそ、尖ったものをたくさん作ることができて、それを理解して楽しんでいる視聴者がいる。今は、考察とかをインターネットで調べたりもできますけど、それにしても皆さん理解力が高いなと思います。

また、『呪術廻戦』の根底にはドラマやテーマがしっかりと根づいています。今回のような群像劇の中で個々の人間模様が丁寧に描かれ、それを経て、誰も想像しなかった展開が口を開けて待っている。この先の『死滅回游』なんてとんでもない話になってくるので。

ーーより複雑になりますね(笑)。

櫻井:また、読んでいると「冨樫先生が好きなんだな〜」ってわかったり。ジャンプの歴史的な作品をサンプリングするかのような作り方も感じて、芥見先生凄いなと。とても頭の良い人なんでしょうね。一見とっつきにくそうなテイストなんですけど、設定がしっかり構築されていて、作品としての説得力がある。

ーー役を演じていたり、台詞を読んでいる際にも、そのような魅力を感じますか?

櫻井:ありますね。この仕事のあるあるなんですけど、アニメならではの真似したくなっちゃう台詞とか言い回しがあるじゃないですか。「なにィ!?」とか、絶対に日常では使わないけど言いたくなっちゃうヤツ(笑)。

台本を読んでいると、そういうキャッチーな台詞も散りばめられている作品だなと思います。

ーー五条や夏油の技名とか言いたくなりますよね(笑)。

櫻井:そういう漫画らしさ、週刊誌作品らしさもありつつ、芥見先生が生み出したワードがより強い個性としてしっかり存在している。「呪術廻戦」というタイトルもオリジナルの日本語ですし、はっきりと意味が捉えにくいじゃないですか。

でも、作品を読み進めていくうちにだんだんと理解が深まっていきますよね。先生の手のひらで転がされている気分です。それがまた気持ちいいんですよね。一体どこに連れて行かれるんだろうって、ついつい追いかけたくなってしまいます。

ーー複雑さがあることで、読者・視聴者が色々考えたくなってしまう。

櫻井:かつアニメーションになることで、想像で埋めていた部分もしっかり描かれるのでそれもまた楽しいですよね。

ーー『懐玉・玉折』『渋谷事変』と凄まじい映像でしたが、『死滅回游』も楽しみです。大分先のお話ですが、個人的には、櫻井さんがどういう演技をするのか楽しみなシーンがあって、それを見るまで死ぬわけにはいかないなと思っています……!

櫻井:……なんのことかわかった気がします(笑)。今後に関しては楽しみ半分、恐怖半分ですね(笑)。『死滅回游』には沢山のキャラクターたちも登場しますし、誰が担当するのかも楽しみです。

今の時代は、アニメの面白さのひとつに、「どの声優さんが担当するのか」がトピックとしてあるじゃないですか。個人的にそこも注目したいですね。

ーー今後のアニメ『呪術廻戦』も楽しみですが、その物語の根幹になっているのが本作で描かれる五条・夏油の関係ですよね。

櫻井:夏油の一件は、五条の今後を決定づけるものでした。彼の「強くなってよ、僕に置いてかれないくらい」という言葉が切ないです。乙骨に対しての「一人は寂しいよ?」とか「愛ほど歪んだ呪いはないよ」なんかもそうですね。本作で描かれた五条の経験を知って、彼の発言を見ると全然重みが違う。

彼が愛なんて言葉を使うのも意外です。愛の表現幅は広くて、五条は軽口のように発するんですけど、実感と重みがあるように見えるのは高専時代があるからだなと。五条の言葉から夏油の気配を感じます。

櫻井さんにとっての「青春」

ーー櫻井さんにとって「青春」ってどんなものですか?

櫻井:実は私、明確に青春があるんですよ。19歳の頃に代々木アニメーション学院の声優科に入ったんですが、あの1年間は今まで生きた50年の中でも一番楽しかった1年です。

もう本当にただただ楽しくて、間違いなく青春でした。そんなに学生時代上手くいってなかったなと思っていて、6・3・3が微妙だったんですよ。

ーー小学校から高校までの12年ですね(笑)。

櫻井:そうそう(笑)。とても人見知りで、積極的に友達を作ろうとも思えなくて。友達付き合いが嫌いとかではないんですが、アニメやゲームが好きで、自分の好きなものがあれば良いかなという人生でした。

でも、19になって、夢を同じくする仲間と過ごせた。しかも、専門学校だと年齢もバラバラで、いろんな経験をしました。楽しすぎて、ずっとこれで良いって思いました(笑)。

でも、声優の仕事をしていると『呪術廻戦』みたいな作品との出会いから、役を通じてですが50歳になっても青春を味わうことができています。それも得難い経験だと思いますし、この仕事の凄いところだなと思ったりします。

ーーありがとうございます。では、最後に本作を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。

櫻井:今回、一本の作品になっているからこそ、気づきもありますし、物語をより正確に捉えることができるかなと思います。

繰り返しになりますが、冒頭のシーンをなぜこの位置に持ってきているのか、元々劇場版を作ることを見込んでいたのでは?と思ってしまうくらい効果的です(笑)。アニメならではの演出やアプローチが映画になることで、より意味を強めているように思います。

『懐玉・玉折』は切なくて、苦しい一編です。彼らをそういう目つきで見てしまいますけど、それでも大事な時間なのだと思います。

私も、これまで収録してきた中で、最も繊細な気持ちで臨みました。是非とも多くの方に、劇場の大きなスクリーンと、素晴らしい音響環境の中で見てもらえたらなと思います。

[取材・文/タイラ 撮影/MoA]

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『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』

2025年5月30日(金)公開

<STAFF>
原作:「呪術廻戦」芥見下々(集英社ジャンプコミックス刊)
監督:御所園翔太
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:平松禎史・小磯沙矢香
副監督:愛敬亮太
制作:MAPPA
配給:TOHO NEXT

<CAST>
五条 悟:中村悠一
夏油 傑:櫻井孝宏
家入硝子:遠藤 綾
天内理子:永瀬アンナ
伏黒甚爾:子安武人

<主題歌>
キタニタツヤ「青のすみか (Acoustic ver.)」(Sony Music Labels)

<公式サイト>https://jujutsukaisen.jp/
<公式X>https://x.com/animejujutsu

(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
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