
今こそ伝説に触れる時。『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』が初見プレイヤーに突きつけた、残酷で美しい世界【レビュー】
1997年に発売され、SRPG(シミュレーションRPG)としては日本国内史上最高の売上を記録したとされる伝説のゲーム、『ファイナルファンタジータクティクス』。そのフルリメイク作となるのが、この『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』です。
オリジナルを手掛けたのは、『タクティクスオウガ』で名を馳せた松野泰巳氏、吉田明彦氏といったレジェンドたち。あまりにも偉大な作品ではありますが、「名前は知ってるけど、実はプレイしたことがない」という人も多いのではないでしょうか?...ちなみに筆者もその一人です。
約27年前のゲームがベースと聞き、正直なところ、「今さら楽しめるのだろうか?」と、ある程度は身構えていました。
しかし、結論から言えば、そんな心配は杞憂でした。これは古臭さなど微塵も感じさせない、令和にこそプレイすべき傑作シミュレーションRPGだと断言できます。
本作には、オリジナル版を忠実に再現した「クラシック」と、フルボイスや新機能を追加した「エンハンスド」が収録されていますが、初プレイなら断然「エンハンスド」がおすすめ。
早見沙織さん演じるアルマは可愛らしく、内山昂輝さんと立花慎之介さんが演じる親友二人の掛け合いは胸に迫るものがあります。という感じで、とにかく良いこと尽くめなので、本稿でも「エンハンスド」版での魅力をお伝えしていきます。
目次
- フルボイスで蘇る、残酷で美しい歴史の“真実”
- 語り継がれる伝説のセリフ、その“痛み”と声の力
- 約30年の時を超えても色褪せない、SRPGとしての「おもしろさ」
- すべてのRPGファンに体験してほしい不朽の名作
- 『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』作品情報
フルボイスで蘇る、残酷で美しい歴史の“真実”
本作は『FF』の名を冠していますが、物語は完全に独立しているのでシリーズ未経験者でも全く問題ありません。とはいえ、チョコボやクリスタルといったお馴染みの要素が出てきますし、シリーズのファンならばすんなり物語に入り込めるはずです。
物語は、一人の歴史学者アラズラムとして、歴史の闇に葬られた「デュライ白書」という書物を紐解くことから始まります。
そこには、公式の歴史では「英雄王」として讃えられるディリータ・ハイラルとは別に、もう一人の「真の英雄」がいたことが記されていました。その名はラムザ・ベオルブ。しかし教会によれば、彼は神を冒涜し国家の秩序を乱した「異端者」だという。一体、歴史の裏で何があったのか?プレイヤーは、アラズラムと共にその“真実”を追体験していくことになるのです。
その物語は、国家間の対立や貧富の差をテーマにした、社会派ストーリー。舞台となる国イヴァリースは、「五十年戦争」という大戦で疲弊しきっています。隣国オルダリーアとの間で繰り広げられたこの戦争は、イヴァリースの事実上の敗北に終わったのです。
問題はその後。戦争に参加した騎士や義勇兵たちに、国は十分な恩賞を払うことができませんでした。生活に困窮した平民たちが、貴族への不満を募らせ、「骸旅団」のような革命組織を結成するのも無理からぬことだったのです。
身分違いの友情、決して交わることのない正義、そして戦争が生む悲劇…序盤からプレイヤーは、どうしようもなく苦しい現実をこれでもかと見せつけられます。あれ、これって『ゲーム・オブ・スローンズ』...?
名門貴族として何の疑いもなく生きてきた主人公ラムザが、親友ディリータとの身分の違い、自らの信じる正義に苦悩し、成長していく姿は、本作の大きな見どころの一つ。
そして、この人間ドラマを彩るのが、吉田明彦氏が描く魅力的なキャラクターデザインと、崎元仁氏・岩田匡治氏が手掛ける壮大な音楽です。温かみのあるデフォルメ絵で描かれたキャラクターたちが、重厚なオーケストラサウンドに乗って生き生きと動き回る。この独特の雰囲気こそが、「イヴァリース」という世界の抗えない魅力なのでしょう。
語り継がれる伝説のセリフ、その“痛み”と声の力
この重厚な物語をさらに盛り上げるのが、ムービーの代わりに繰り広げられる膨大な会話劇。キャラクター同士の関係性が掘り下げられ、まるで『ガンダム』の富野節みたいな熱い舌戦が展開されます。そして、その全部がフルボイス化されています。
数ある会話劇の中でも、これだけは聴いてくれ!という一幕があります。
それが、あまりにも有名なこのセリフが放たれるシーン。
「家畜に神はいないッ!!」
このセリフを放つのは、騎士見習いのアルガス・サダルファス。多分、このゲームをプレイした全員に嫌われてるんじゃないかな?ってくらいのキャラクターですが、彼こそが序盤の物語のテーマを象徴する存在ともいえます。
主人公ラムザは名門貴族、親友ディリータは平民、そしてアルガスは没落貴族。この三者の関係性を通して、イヴァリースの歪んだ身分制度がプレイヤーに叩きつけられます。
物語の序盤、アルガスは骸旅団に誘拐された主君を救出するため、ラムザの名門ベオルブ家の力を頼り、一行に同行することになります。最初は悲劇の騎士見習いに見える彼ですが、骸旅団との戦いを経るうちに、その内面に隠された歪んだ選民思想が徐々に露わになっていきます。平民を見下し、目的のためなら手段を選ばないその姿勢は、ラムザの素朴な正義感や、平民であるディリータの存在とは決して相容れません。
そんな三人の価値観が決定的に衝突するのが、骸旅団の女剣士ミルウーダとの対決です。彼女が「私たちは貴族の家畜じゃない!」と魂の叫びを上げるのに対し、アルガスは「同じ人間だと? 汚らわしい!」と吐き捨てる。そして、神の前では平等なはずだと訴える彼女に、彼はあの言葉を言い放つのです。
テキストだけでもこのインパクト。そして、この強烈なキャラクターに魂を吹き込んだのが、声優の吉野裕行さんです。演技は、アルガスの歪んだ思想と憎しみを完璧に表現していて、キャラクターの魅力を120%引き出しています。
そして、この壮絶なやり取りを見ていたディリータが呟く「彼女は本当にオレたちの敵なのか……?」という一言。内山昂輝さんの声で発せられるこのセリフには、テキストだけでは読み取れない、ディリータの心情の輪郭のようなものが感じられます。これぞフルボイスの神髄だなと感じます。
理想と現実の間で苦悩するラムザを演じる立花慎之介さんの繊細な演技、王女に忠誠を誓うアグリアス(佐藤利奈さん)の凛とした声、そして伝説の雷神シド(大塚明夫さん)の圧倒的な存在感。憎い奴はとことん憎たらしく、カッコいいキャラはとことんカッコよく。声の力が、この歴史劇を忘れられない体験へと昇華させてくれています。






















































