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アニメ『SANDA』原作者・板垣巴留×監督・霜山朋久 対談インタビュー

“大人”と“子ども”の狭間で揺れる心とは?──TVアニメ『SANDA』原作・板垣巴留先生×監督・霜山朋久氏が語る、現実と地続きな物語世界【対談インタビュー】

強いキャラクターをより強く! 原動力は「気持ち」

──板垣先生の作品といえば、緻密な心理描写が特徴です。監督もキャラクターの強さについて言及していましたが、映像にする際に意識された点をお聞かせください。

霜山:本作はディストピアな学校の中で、隔離されている少年少女の物語です。キャラクターはもちろんですが、やはり学校をしっかりと描くべきだなと。

校舎にも新宿の伊勢丹というしっかりとしたモデルがあります。古くて大きな建物なので、アニメの中で重く冷たく、硬く描けていることが必須。彼らが閉じ込められているという印象を強く与えられますし、そんな建物の中で、ある意味で自由に元気に過ごしているキャラクターたちがより引き立ちます。

──彼らのパワーといいますか、私たちの常識が通用していないような雰囲気が印象的でした。

霜山:この時代の中で、それなりに生き生きとしていますよね。徹底的に管理された中でも、そうやって生きる術を持っている、というようなギャップも描けるかなと。

──美術を徹底的に描くことによってキャラクターたちを際立たせている、と。

霜山:原作が魅力的な分、キャラクターはスタッフ陣が楽しく自由に描いてくれていますから。ある程度、私から指示を出すこともありますが、細かいことを言わなくとも描いてくれていますね。

以前、巴留先生がご自身の絵について「癖が強い」と仰っていましたが、特徴のあるタッチはアニメーションと相性が良いんです。

──それはなぜですか?

霜山:整ったもの、癖が強いものなど色々なデザインがありますが、後者のキャラクターって、キャラクターの表情や体型がエッセンスとして残りやすいので、画が崩れていたり激しく動いてもそのキャラクターに見えるんです。このキャラクターと言えばこれ! のような特徴が確立している方が映えやすい。キャラクターとしての記号がはっきりしているんでしょうね。

対して、整っているものは意外と均一化されてしまったりする。三田であれば、サンタクロースになると超マッチョじゃないですか。「マッチョ」で「短髪」で「目つきが悪い」キャラを描けば、この映像の中ではどうやってもサンタクロースに見える。

また、原作でも表情のバリエーションが多いので、アニメとしても許容範囲が広くなります。

──TVアニメ『SANDA』の画について、板垣先生はどのように感じていますか?

板垣:凄く私のタッチに似せていただいているなと。原作へのリスペクトを感じますし、私自身もアニメーターさんへのリスペクトの気持ちが大きくなりました。本当にありがたいです。

──同じ「描く」という作業でも、漫画とアニメの仕事は違いますか?

板垣:シンプルに技術が凄いなと思います。私は別に絵が上手いわけじゃないから(笑)。小さな頃からずっと「味があるね!」と言われてきました。アニメーターって、本当に上手い人の集まりだから、そういう方々が私の絵を表現してくださってありがたいです。原作とは違う味わいがあるのかなと思います。

──キャラクターの表情や美術も素晴らしいですが、本作のアクションも良かったですよね。

霜山:今回参加していただいたスタッフさんは技術がある方ばかりなので、アクションシーンもかっこよくなっています。

個人的には、原作のアクションシーンの描かれ方が好きなんですよ。アクションに入っても、ストーリーが止まっていないんですよね。物語の中でしっかりと戦闘をしている作りになっています。

巴留先生の物語の原動力は「気持ち」だと思っています。キャラクターがどうしたいのか、どうなりたいのか。誰かがどこかに行きたい、行かなきゃいけない……そのような「気持ち」で物語が続いていく。

だからアクションに入っても感情が止まらない。当然、アクションシーンはエンタメとして楽しい部分なので見せ場的に使っても面白いのですが、『SANDA』はその感情のままにアクションが進んでいくので素晴らしいです。その方が作品としての魅力が伝わりますから。

──なるほど。物語やキャラクターの気持ちとともにアクションも展開されていくと。

霜山:誰かが誰かを殴る理由、殴られた時に殴り返す理由がしっかり描かれている。アクションに理由が欲しいんです。

板垣:映像作品のアクション論、聞いていて面白い話です。「確かに!」と思いながら監督の話を聞いていました。

私はそのような演出や構図を意識してアニメや映画を見ない方なんです。言われてみると私も監督が仰ったようなアクションが好きですね。立場や思想の主張のやりあいと言いますか、自然と作品にも取り入れていたのかもしれないです。

派手に動く漫画を一度は描いてみたいと思って『SANDA』を描きました。本作のアクションシーンでは、キャラクターの身体も感情も沢山動いていて嬉しいですね。

板垣先生の中の「少年」を抽出した三田

──本作の主人公である三田のキャラクター性について教えてください。

板垣:彼は、今まで私が書いてこなかったタイプの外交的なキャラクターなんです。実際、私自身の中にも内向的な部分と外交的な部分の二面性があると思っていて。私の外交的な「少年的要素」を抽出したキャラになっています。

また、14歳の危うさのようなものを迷いなく描けたという感覚があります。自分の中の外交的な部分も描きながら、思春期の危うさを忘れずに描きたかったんです。

──第1話の冒頭から、三田の勘違いっぷりといいますか、男の子特有の感覚が伝わりました。

板垣:私もあのような勘違いをしやすい14歳だったと思います(笑)。教科書を忘れちゃって隣の子が見せてくれただけで「この人、私のこと好きかもな」みたいなバカなところは私にもあると思うんです。

一同:(笑)

板垣:だから、三田は描きやすかったですね。

霜山:先程、板垣巴留作品の「気持ち」の話をしましたが、この作品では「願い」も大切なテーマだと思うんです。三田はめちゃくちゃ良い奴で、ちょっと勘違いでバカで。そんな真っ直ぐなキャラクターだけど能力が覚醒してしまって、大人にならざるを得なくなる。

その時、三田は友達の「願い」をどんどん背負うようになります。姿は少年に戻るとはいえ、ものすごい速さで精神的にも成熟していく。

誰かの願いに突き動かされた三田が、クラスメイトのことも学校のことも、物語全体を繋いで駆動させていますよね。結局、三田は己の欲望で何かをする、ということがなかったんじゃないかな。

頼まれた相手を幸せにしたい、このおかしな状況から一歩進めてあげたいというような「願い」が三田の中にはあります。それが彼の欲望になっていくんだろうなと思います。

──象徴的であり、根っからのサンタクロースですよね。

霜山:本作のテーマや物語性をそのままキャラクターにしたような主人公だと思います。

──三田のキャラクター性の元になる先生の「少年感」は、板垣先生が見てきたコンテンツから影響を受けたりもしているのでしょうか?

板垣:先程も少し言いましたが、私は割と考えずにコンテンツを見るんです。いわゆる、頭空っぽで見る、みたいな。だから少年漫画のようなドライブ感のある作品が好きなんです。そこから自然と影響を受けたのかもしれません。

──クリエイターの方は職業病的なニュアンスで、物語を分析しながらご覧になるのかなと思っていました。

板垣:私は分析をしないようにしています。作家をしていると、演出や物語の構造を考えたりしてしまいますが、できるだけそうならないように気をつけています。

──いわゆる批評的な見方を逆に抑えているんですね。

板垣:そういう思考になりやすい体質なので……。どこかで消費者の感覚を忘れたくないというか、そういう自分も忘れずにいたいみたいなとこがあるんです。

──霜山監督は批評的な見方をしますか?

霜山:私は割と気楽に見るので、巴留先生とは逆にちゃんと見なきゃなと思っています。

メモを取りながら見たりするんですが、体力を使うので見終わったら「ビール飲もう!」ってなっちゃいますね(笑)。

板垣:監督は結構メモを取られるんですか? さっきもメモしていらして、気になっていたんですよ。

霜山:いや、忘れっぽいんですよ。だから覚えておきたいことはちゃんとメモしなければいけないなと。

──ちなみに先程は何をメモされたんですか?

霜山:街で見かけた「赤ちゃん肌の広告」もテーマのフックになっているんだなと思ってメモしました。この話は初めて伺ったのですが、こんな日常的なものを作品に落とし込めるのは凄いなと思います。

せっかくなので、巴留先生が普段何を考えて、見ているのか分かっておきたいじゃないですか。『SANDA』についてより理解できそうですし、今連載している作品ももっと楽しく読めるかなと。

板垣:そこのメモだったんですね(笑)。楽しんでいただけたら嬉しいです!

(C)板垣巴留(秋田書店)/SANDA製作委員会
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