
“大人”と“子ども”の狭間で揺れる心とは?──TVアニメ『SANDA』原作・板垣巴留先生×監督・霜山朋久氏が語る、現実と地続きな物語世界【対談インタビュー】
漫画『BEASTARS』で注目を集めた板垣巴留先生の作品を原作とするTVアニメ『SANDA』。
ディストピア化した学校を舞台に、少年・三田一重が“サンタクロース”として目覚めるという衝撃的かつ、ユニークな設定。そして、「大人と子どもの境界線」「見た目・若さ」といった、現代的なテーマを滲ませながら、板垣先生らしい繊細な心理描写と、個性とユーモア溢れるキャラクターたちが織りなす群像劇が特徴の作品です。
今回アニメイトタイムズでは、原作者の板垣巴留先生と、アニメーション監督・霜山朋久氏による対談インタビューを実施。作品に込めた思いやテーマの着想、そしてキャラクターの内面や背景美術やアクション演出など、制作の裏側をじっくりと語っていただきました。
漫画とアニメーション、異なる表現世界で活躍するおふたりの対談から見えてきた、本作の魅力とは?
誰もが読みたくなってしまう衝撃の第1話
──本日はよろしくお願いします。本作の制作中にもこのように、おふたりで会ってお話することはありましたか?
板垣巴留先生(以下、板垣):そうですね! たま〜に。
霜山朋久監督(以下、霜山):海外のアニメイベントで一緒にアメリカに行きましたよね(笑)。
板垣:そうなんですよ。会う頻度以上に距離が近いような感じがします。
霜山:後は、最初に制作に入る前のご挨拶と、その際に作品に対しての質問をさせていただきました。
巴留先生は基本的に、アニメに関してはこちらにお任せいただくスタンスでいらしたので、それ以降はイベントやアフレコで少しお会いした程度です。
──「作品に対しての質問」とは、どのようなものをされたのでしょうか?
霜山:キャラクターの爪の色です。マニキュアを塗るシーンがあって、間違いなく真っ赤だと思ったのですが、念の為聞きました(笑)。
──作品としても重要な色ですね。
霜山:はい。『SANDA』にとって赤は象徴的な色なので、赤だろうと思っていましたが、漫画は白黒なので確認をしましたね。
──板垣先生は、顔合わせの時やアニメ制作決定の際にはどのような心境でしたか?
板垣:最初は「アニメ化するかもしれない」と聞いていました。そういう時って、期待をしないようにしているんです。企画が流れてしまっても落ち込まないように「そうなんだ」程度に思うようにしています。
なのでいざ決定した段階で「本当に決まったんだ!」とめっちゃ嬉しくなりましたね(笑)。そこからみなさんと顔合わせなどをして、じわじわと実感が湧いてきました。
──霜山監督は、ご自身が監督を務めることが決まった際、いかがでしたか?
霜山:お話をいただいた段階では、『SANDA』の原作を読んでいなかったんです。制作が決まってから読ませていただきました。
巴留先生の物語やキャラクター、展開は非常に力強くて、毎回毎回どうなるのかワクワクしながら非常に楽しませていただきました。アニメにしたら絶対に面白くなるなという確信がありましたね。
──特にどのような部分が監督に刺さったのでしょう?
霜山:1話冒頭から凄いですよね。これだけ引き込まれるような物語なら「読破するでしょ!」と思わされる。アニメーションになっても、中々チャンネルは変えられないですし、サブスクでもブラウザバックさせることなく(視聴者に)見せることができるなと思いました。
純粋にイチ読者として、次が気になる作品です。これをしっかりとアニメで表現することができれば、皆さんにもきっと最後まで見てもらえると。
──なるほど。やはり先生としても物語の冒頭から読者を引き込むぞ、という意識があるのでしょうか?
板垣:1話が面白いのは、ある種当たり前なんです。面白いのは大前提で「これは読まなきゃいけない」と、皆さんの気持ちを引っ張ることができるものにしようというのは、どの作家さんでも考えることですね。
──かっこいい……! 聞くまでもない質問でした。
板垣:いえいえ(笑)。
日常から生まれる物語のタネ
──本作の出発点、作品の着想はどのように得られたのですか?
板垣:まず、人間しか出てこない漫画を描いてみたかったということ。そして、当時自分が20代後半で、大人のど真ん中へ向かう感じがしました。
もう自分は子どもではないのだろうか、そもそも大人と子どもの境界はあるのか。このような問いが自分の中にあったんです。それが出発点ですね。
大人と子どもの狭間って曖昧なもので、それを漫画にすることは難しいかなと思っていたんですが、そこで「サンタクロース」というわかりやすいモチーフを使えば、エンタメになるかもなと。
──「大人/子ども」という問いは、本作の柱になるものですよね。また、現代社会や未来の世界を風刺するような、私たちに近しいテーマも感じます。
板垣:今、私がこの社会に生きている以上、自然と投映されるものだと思います。今の日本は少子化が進んでいますし、女性として生きていると色々感じることもあります。
例えば、電車に乗っていても「赤ちゃん肌に戻ります」みたいな広告もあるわけで。赤ちゃんに戻りたい大人ってなんだろう、とか考えるんですよ(笑)。子どもを神格化している、というと語弊があるかもしれませんが、そのような価値観の危うさであったり、子ども時代や思春期の生々しさや黒い部分を描きたかった。
自戒の念もあるんですけど、少年漫画ってやっぱり学校生活の話が多くなりがちですよね。
でも、学生時代って本当にそんなに楽しかった? 何なら、一番しんどくなかったですか?って思うんです。そのような苦しいことも含めてドラマチックな時期ではあると思いますが、あまり美化しすぎたくないというか。キラキラしすぎない現実感のある描写をしたいと思っています。
霜山:広告のような日常の風景から、問いやテーマが生まれているんですね。テーマ性も特徴的ですが、巴留先生の作品はキャラクターも強烈ですよね。
社会的なテーマを描きながら、キャラクターそれぞれの問題や願いが物語を駆動させていると思います。大人にも子どもにも、それぞれ問いがある。キャラクターたちが持っている問いや願いに魅力を感じています。
三田(一重 CV:村瀬 歩)は、基本的には思春期の子どもですが、サンタクロースになることによって急激に大人になってしまう。でも、子どもにも戻ることができる。これって、現実の私たちにとってはありえないことじゃないですか。しかし大人も子どものような精神性、考え方をしないなんてことはない。
エンターテインメントとしての設定が、上手く現実と接続されていると思います。
──三田は好物であるグミを食べて子どもに戻りますが、現実の私たちも駄菓子などを食べるとあの頃の気持ちになったりしますよね。
板垣:そういう地続きな感覚を持っていただけたなら良かったです。
──大人/子どもという問いに加えて、本作は学校を舞台にしたディストピアものでもありますよね。この舞台設定はどのように作られたのでしょうか。
板垣:人間が登場する漫画を描くからには、現実感のある世界観にしたいなと思っていたんです。そう考えると、私にとってこの現実世界はディストピアだなと。
学校もそうですし、外の世界はもうディストピア化しているんじゃないかって思っちゃってるといいますか(笑)。それを物語として、誇張して描いてみるとSF設定のようになっていく。だから、この管理社会とかディストピアな舞台は自然と出てきましたね。
──例えば外の世界のどのような場面から「ディストピア感」を感じるのでしょう?
板垣:テレビでニュースを見ているだけでも、息苦しさを感じるというか。基本的に部屋にこもって仕事をしているので、たまに外に出ると社会の変わりように驚いてしまったり……月ごと、日ごとに変化を感じています。
──それこそ、街の広告もそうですね。監督はいかがでしょう。
霜山:社会全体がそんな苦しさを持ったまま進んでいくとしたら、『SANDA』のような世界観になるのも仕方がないですよね。
ただ「人間ってそこまで馬鹿じゃないよな」とも作品から伝わりますよね。一度極端なところまで行って、その逆にいったり……人間や社会はプラスにもマイナスにも振れていきますから。








































