
「心はこうあるべき」と言い切れたらどれだけ楽だろうなって――ReoNa、3rdアルバム『HEART』に込めた“心”のかたち【インタビュー】
未だに答えは出ていません
──アルバム『HEART』にはどんな思いが込められたのでしょう。
ReoNa:これまで5年間、まさに“はじめて”の連続で走ってきました。デビュー、アニメの主題歌、挿入歌、初武道館、5周年……そんな中で、とにかく自分もチームももがいて、動いてみた結果が『HEART』です。だから一言で説明できないというか……。ディレクターさんにも「これまで作った作品の中でいちばん掴みきれない」と言われました。でも、そういう作品にしようと作ったのも、『HEART』なんです。
──あえて“ひとことでまとめられない”作品にしたかったということですね。わかりやすいキャッチコピーで飾るより、ごちゃごちゃしたままでもいいから本音を詰め込むというか……。3rdアルバムというと、作る側も悩むタイミングだとよく聞きます。
ReoNa:そうですね。そういうお話はよく耳にします。
──1stは“まだ何者でもない”『unknown』、2ndは“人間としての自分”を打ち出した『HUMAN』。3rdをどう位置づけるか、悩みはありましたか?
ReoNa:すごく悩みました。その先って何だろうと考えたときに……延長線上となるようなコンセプチュアルな作品にしてしまうと、かえって世界が狭くなる気がして、実際にチームからもそういった指摘がありました。基本的にいつもタイトルから決めるのですが「ReoNaってこうだよね」と一言で語れるような、そういったアルバムにはしたくないという思いがありました。そんななかで、『HEART』という言葉が出てきて。
──すごくいい言葉ですね。最終的に『HEART』というタイトルにたどり着いた経緯を教えてください。
ReoNa:いろいろ案は出ました。実は(アルバムに収録された新曲の)「芥(あくた)」という言葉も最後まで候補にあって。そうやって、クリエイターの人たちやチームで色々アイデアを出していく中で、レーベルの人が「『HEART』っていいじゃん!」って。より広く、自由に、ふわっと広がった作品にできるんじゃないかということで最後に『HEART』になりました。ただ、そこからが大変でした。私というよりかは、周りの人たちが大変だったと思います。
──ふわっと広がる作品でもある。でも、だからこそつかみにくいものでもありますよね。
ReoNa:そうですね。『HEART』、心ってわからないもので。「心はこうあるべき」と言い切れたらどれだけ楽だろう、とも思うんです。でも、実際はそんなふうに形を決められるものじゃないからこそ、もがきながら作ったアルバムになったのかもしれません。表題曲も、何曲も作っていただいて。好き・愛してる、だけじゃない“HEART”をどう作るか……作家さんたちも悩んで、時に書けない状態になったりしながら模索されていました。
──地図がない状態。ご自身では「心」について、どのように感じているのでしょう?
ReoNa:……このタイトルが決まったあとに、心について考えたり、話し合ったりしたんですけど……正直……結論はでなくて、未だに答えは出ていません。未だにチームの人たちも「心って、わけがわからないよね」と言っています。
──実際一言では言い表せないような曲が詰め込まれていますよね。タイトルが決まってから、例えば、ReoNaさんからアイデアを伝えたり、メモを渡したりっていうのはあったんですか。
ReoNa:今回はあえてそれをしなかったんです。これまでたくさんのライブをお届けさせてもらっていく中で……お歌を通じて“私はこういう人です”と心の内側をたくさん伝えてきました。でも今回は、いろいろな人の心を受け取って届ける、いわば“スピーカー”のような立ち位置に近い感覚があります。
──作家自身が描いた、作家自身が考える「心」を受け取って、それをシンガーとして伝えていく。そういった役割に徹したということでしょうか。
ReoNa:そうですね。そういう作り方になったと思います。「こういうアルバムを作ろう」というよりは……心というアルバムだからこそ、曲の中心が自然と“人”になっていった感覚です。人を思う、想う……その字の根っこには必ず「心」があって、それぞれの曲がそれぞれの心を持ち寄って、ひとつひとつ、作っていったような感じでした。今までよりも作家の皆さんに“委ねる”部分が大きかったです。
ReoNaという“器”に、作家たちの心を注ぎ込む
──今回作詞・作曲を同じ方が書いているパターンが多いのは、作家が自分の感情や想いを一貫して曲に込めやすいから、という理由もあるのでしょうか。
ReoNa:そうですね。ただ、そこは意識していたというよりも自然にという感じではあるのですが。たとえば堀江晶太さんに作っていただいた「命という病」は、「堀江さんの想いを私に乗せて歌うイメージで曲を作って下さい」と話して。正確にそう言葉にしたわけではないんですが、さりげない会話をきっかけに、そういう話になって。
それを受けて、かなりの時間を割いて曲を作ってくれたのがこの「命という病」です。デモの段階から堀江さん自身が歌ってらしてていたんです。そこから制作していくうちに、そのままバッキングボーカルとして入ってもらうことになりました。「曲を提供してもらった」という感覚ではなくて……なんて形容すればいいのか、ちょっと迷うところではあるのですが……。
──ReoNaさんという器に作家たちの心を注ぎ込んでいくというか。
ReoNa:ああ、そうですね。まさに、堀江さんが持っている想いを、私の体を通して発信するというイメージです。
──それを“器”として受け止められるReoNaさんのキャパシティがすごいと思います。心って本当にひとつじゃないですし。
ReoNa:今回の曲たちは、全部“お歌という形になった心”だなって思います。今まででいちばん、書いてくれた人の心を考えながら歌った作品になりました。たくさんの作家さんの“心”を受け取って歌っているので、やっぱり一曲一曲にずしりとした重みはあって……ただ、制作過程でしっかり対話していたからか、ブースに入ってから戸惑うことはほとんどなかったです。どの曲も、自分の体にすでに馴染んでいて、スムーズに歌うことができました。
「HEART」だけはすんなりとはいかず、難しかったです。歌の難易度的にもこれまでで一番かもしれません。
──〈何も持たずに⽣まれて何も持っては⾏けないのに/⼤切なものは どうして どうして 増えるの〉というのは、昨今のReoNaさんにもすごく似合う言葉だなと。
ReoNa:そうですね。ケイさんが本当に素敵な言葉を託してくれて……あの一節は私自身の今の気持ちとすごく重なるんです。ここまで走ってくる中で、そういった思いが気づくと増えていて。それを受け止めてまた前に進む、そんな実感があります。
──アビー・ロード・スタジオで録音された「オルタナティブ」はこれまでにない、まさにオルタナな雰囲気。
ReoNa:今回初めて、作詞作曲編曲をレフティさんとご一緒するにあたって最初にお話をする機会をいただきました。
そのとき、「ReoNaのお歌だけれど、ReoNaだけじゃなくてレフティさんの絶望も重ねたお歌にしたいんです。」ということをお話しする中でレフティさんから出てきたキーワードが「オルタナティブ」でした。「オルタナティブって、とっても難しいんです。」って、レフティさんの語る言葉たちにすごくシンパシーを感じました。
みんなが通る道ではなく、自分にしか歩めない道を探して歩いて行って、誰かに見つけてもらいたい。平凡と非凡の間でもがく苦しみ。この曲は、最後までお歌のタイトルが決まらなかったのですが、レフティさんとレコーディングバンドのみなさんと話していくうちに、ReoNaが出会い紡いだこのお歌なら「オルタナティブ」いう名前で歌っていいのでは?と思いました。
──続いて、傘村さんが編んだ「芥」についてもうかがいたいです。
ReoNa:ReoNaのお歌は、曲によっていろいろなプロセスを経てできあがっているのですが、「芥」は結構あたためていたお歌で、トータ氏がReoNaに託してくれました。トータ氏は人にさらけ出しにくい心の内側……例えば、今回の「芥」であれば目やにだったり、「いかり」だったら〈腸(はらわた)〉だったりと、温度感のある、生身の言葉を歌詞に置いてくれるんです。「芥」はひとりぼっちを“それで良いんだよ”と肯定してくれるような。生身の言葉もありながら、景色も想像ができて、そこに島田(昌典)さんの包みこんでくれるような音が合わさって、このアルバムの中でも、ついふとした時に聴きたくなるお歌です。
──「芥」という言葉もものすごく温度感がありますよね。塵芥(ちりあくた)とよく言いますが、「芥」はゴミのことで。「オムライス」〈私がゴミになりたかった。それでも生きていたかった。〉、「Debris」〈ゴミクズみたいな命 燃やして〉、「GG」〈ゴミのように 美しく〉、そして「芥」〈塵のように 芥のように〉と、“ゴミ”=いわゆる普通の人にとっては無価値なものに生命や美を見出す姿勢が際立っているように感じました。『HUMAN』のジャケットにも象徴されていますが、昨今ひとつ大きなモチーフとなっている“ゴミ”には、どのような想いを込められているのか改めて聞かせてください。
ReoNa:その言葉に向き合ってきた3年間でもありました。ゴミシリーズと言いますか。「芥」はそのシリーズのひとつの区切りとなるお歌になったんじゃないかなと思っています。
『HUMAN』のジャケットは、海洋ごみを見て「美しいな」と感じたことがきっかけです。それでそのゴミを美しく撮りたいと思い、ゴミ処理場に行って撮影しました。当時はうまく言語化できていなかったんですけど、「ゴミ」という言葉はメタファーのようになっていたんだと思います。
──というのは。
ReoNa:「お前ゴミみたいだな」とか……ゴミという言葉は、人間に対して、悪い言葉として使われることが多いですよね。実際私も自分の過去について、「ゴミみたいな人生だった。しょうもない人生だった」と言うことがあります。でもゴミはそもそも人間が生み出したもので。そして、昨日まで大切にしていたものでも、手放された瞬間、簡単にゴミになってしまう。そこにすごくシンパシーを感じていました。だからこそ〈塵のように芥のようにいつか僕等もきらきら光れ〉という言葉を見たときに、グッとくるものがありました。
──「かたっぽの靴下」にもゴミという言葉が出てきます。シンガーソングライターの映秀。さんが作詞・作曲に参加されていますが、〈誰かの「普通」がまた私を追い詰める〉という一節も、とてもリアルですよね。制作の過程についてもおうかがいさせてください。
ReoNa:かたっぽだけになってしまった靴下って、ふと気づいたらなくなっているけれど、完全には忘れられないもの。心の中で“もう無いもの”になってしまったけど、どこか探し続けているもの……そんな気持ちと重ねて書かれています。映秀。さんとは今回が初めての制作でした。そのぶん、歌詞が仕上がるまでに何度もやり取りを重ねました。初対面だったからこそ、自分をどう説明すればいいのか改めて考える時間になり、“私はこういう人です”と整理するきっかけにもなりました。その過程で、自分自身の心も少し見えてきた気がします。
──宮嶋淳子さんが作詞を、荒幡亮平さんが作曲・編曲を手掛けられた「コ・コ・ロ」は、他の楽曲とはまた違った“心”の捉え方をしている曲ですよね。
ReoNa:そうですね。心を擬人化したようなお歌です。心の機微と向き合い続けてきた宮嶋さんならではの、心の切り取り方だったと思います。「ああ、こういう切り取り方もあるんだ」と、私たちもびっくりしたんです。そして、荒幡さんは、これまでも私の曲でシンパシーを持ってくださっている方で。そのおふたりから、こういった形の「心」をいただけたことが、とても新鮮でうれしかったです。私ひとりでは絶対にたどり着けない場所に連れていってもらえた感覚がありました。
──〈ラララ ラララ…〉という言葉は、今回ボーナス・トラックに-Naked-バージョンとして収録されている、デビュー曲「SWEET HURT 」を彷彿させます。
ReoNa:「SWEET HURT」や「forget-me-not」、「Runaway」、「Debris」などでも、ことばではない声を感情として使ってきました。「SWEET HURT 」ではひとりの鼻歌でしたが、「コ・コ・ロ」はいろいろな想いで、いろいろな人と、いろいろな心と集まって歌うことができました。実は荒幡さんのアイデアで、ReoNaの普段からライブを一緒にやっているメンバーでコーラスを録っているんです。それぞれの「コ・コ・ロ」を乗せてくれました。他の曲にも言えるんですが、私自身が“軸足”になって、そこから各クリエイターさんがそれぞれの解釈や思いを音楽にしてくれた感覚があります。ある意味、3rdアルバムだからこそできた手法だと思います。
──日本武道館のMCで「私にとって出逢えた“あなた”はお歌でした」と語りながら、今はそれだけじゃないと感じているとおっしゃっていました。そして「コ・コ・ロ」では“あなたは、心でした”と歌っています。この2つの言葉のつながりについて、ご自身ではどのように受け止めていますか?
ReoNa:きっと淳子さんがあの武道館のMCと重ねてくれていたんだと思います。「私にとって“あなた”はお歌でした」という言葉から、今度は“あなたは心でした”という言葉にしてくれたんだと思います。それもまた、淳子さんの心を感じて嬉しかったです。
──いろいろな形の心が描かれているものの、絶望はやはりキーワードとなっていて。絶望の中で生きてきたからこそ、見つけることのできた確かなものが入っていて、ある意味、明るいアルバムなんじゃないかなと思っていました。
ReoNa:希望と絶望って表裏一体のもので。そこをちゃんと抱えたまま、今回もお歌にしていきました。だからこそ、明るいわけじゃないけれど、どこか光を感じるアルバムになった気がしています。
一番むずかしくて、いちばんおもしろいところは……。
──ジャケットの写真もまたすごくいいですよね。海✕ステージでお歌を支えてきた絨毯✕ハートに囲まれたReoNaがとても印象的ですが、どのような思いを込められたビジュアルなのでしょうか。
ReoNa:今までいろいろなライブを過ごしてきたラグを、砂に描かれた、ちょっと歪なハートの中に入れて。今までいろいろな瞬間を切り取ってきてくれた平野タカシさんが今回も撮ってくれました。実はあのハートは、実際に私自身やチームのメンバーが砂浜を歩いて、足跡をつけていったんです。“まだ歩いていく”という意味を込めたかったんです。作り込んだセットではなく、自然の中に生まれる……なんというか、無垢というのでしょうか。作り込んだものではなくて、自然なハートにしたいなと。
──あらためて今日話して感じたのですが「心」って不思議ですよね。「HEART」の1行目、〈怪我ひとつしてないのに なぜかやたら痛む場所〉という言葉が、それこそ心にのこりました。心って目に見えないのに、なぜこんなに“実体”を感じるんでしょう。
ReoNa:不思議ですよね。心をモノに形容する言葉ってすごくたくさんあるなって思っていて。心って本当は目に見えないはずなのに、私たちは「傷ついた」「穴が開いた」「空っぽ」「満たされる」って、あたかも実体があるかのように感じているんですよね。どこに心があるのかを考えるのも、人それぞれだと思います。血は流れないはずなのに、確かに傷がつくと認識している。だからこそ“心”は決めつけられない、ひとりひとり捉え方が違う。それがこのアルバムの一番むずかしくて、でも面白いところでした。
──「魂」にも似たことが言えるかもしれませんね。
ReoNa:そうですね。目には見えないけれど、確かにあるとみんなが感じているものというか……。感情もそのひとつで。
──ReoNaさんがお歌を通してこれまで描いてきたものというのも、今作に血管のようにつながっていて。今回の『HEART』も、その先につながっていくのかもしれませんね。
ReoNa:まだ先のことは分からないのですが、このアルバムで得た思いが、また次の作品や歌につながっていくのかなって感じています。ただ……たくさんの「心」と向き合ってみたけど……さきほども言いましたが、正直、心って未だにわからないままなんです。だからこそ、このあとツアーで、アルバムを受け取ってくれたみんなの“心”を受け取りに行きたいです。その旅路も含めての『HEART』なのかなと思っています。
[インタビュー&文・逆井マリ]
CD情報
【発売日】2025年10月8日
【価格】
通常盤:3,300円(税込)
初回生産限定盤:4,400円(税込)
完全生産限定盤:8,800円(税込)
【収録内容】
≪CD≫※全形態共通
1. HEART
2. 命という病
3. オルタナティブ
4. 芥
5. GG
6. Debris
7. ガジュマル ~Heaven in the Rain~
8. R.I.P.
9. かたっぽの靴下
10. オムライス
11. End of Days
12. 生命換装
13. コ・コ・ロ
Bonus Track. SWEET HURT -Naked-
≪BD≫※完全数量生産限定盤、初回生産限定盤共通
『Music Video』
1. HEART -Music Video-
2. R.I.P. -Music Video-
3. ガジュマル ~Heaven in the Rain~ -Music Video-
4. オムライス -Music Video-
5. GG -Music Video-
6. Debris -Music Video-
7. End of Days -Music Video-
8. HEART -Lyric Video(London’s Heart)-
















































