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『鉄鍋のジャン!』アニメ化記念! あおきえい監督インタビュー

オーディション原稿にも「カカカカカカカーッッ」は入れたんです(笑)――伝説の料理マンガ『鉄鍋のジャン!』アニメ化記念! あおきえい監督インタビュー

 

ジャンが料理の勝負にこだわるのって、彼にとっては料理そのものが自分自身なんですよ

──キャラクターについてもお伺いしたいのですが、監督が一番好きなキャラクターやエピソードは何ですか?

あおき:やっぱり僕はジャンが一番好きですね。原作の初期にジャンが初めて料理に失敗して泣いてしまう話があるんですけど、その失敗を受けて小此木 タカオ(以下、小此木)に慰めてもらって友情が生まれるんです。このエピソードがすごく良いなと思っていて。

この話があることで、ジャンが単純に嫌な奴ではなく、料理に対してどこまでも純粋な男の子だということが読者に伝わるんです。ちょっと料理を失敗して味が変になってしまったというだけで大泣きして壁を殴ったりする、そのジャンの料理に対する純粋性と言うか、絶対許せない失敗だという姿勢がすごく良いですよね。そして、そこにやってきた小此木がジャンを慰めて、二人に友情が生まれる。ジャンのそんなチョロい感じもすごく可愛いなと思っています。

あれはジャンのキャラクターを形作る上で外せないエピソードで、個人的に原作の中ですごく印象に残っていますね。

 

 

──原作でもジャンにとっては数少ない失敗ですよね。

あおき:そうなんですよ。あれを連載初期にエピソードとして入れたというのが、やはり西条先生(原作者・西条真二先生)の采配だなと思います。あれで一気にみんなジャンというキャラクターが好きになるというか、好きにならざるを得ないエピソードだと思います。

──以前、監督が『メガゾーン23』のインタビューで「勝つことにこだわらなくてもいい、主人公が成すべきことをしたら、勝とうが負けようが、それは結果論に過ぎない……そう思っているところが自分にはあって」と話されていたのが印象に残っています。一方で、ジャンはひたすら「勝つこと」にこだわるキャラクターなので、この違いは面白いですね。

あおき:確かにジャンというキャラクターは「勝つこと」にすごくこだわっていますが、それは彼が幼少の頃から祖父に料理の技術を叩き込まれてきたので、おそらくそれ以外の子供らしいことは一切してこなかったことにあると思うんです。多分、友達もいなくて、ひたすら一日中料理を作ってきた。だから、ジャンが料理の勝負にこだわるのって、彼にとっては料理そのものが自分自身なんですよ。

それ故に、料理が上手く作れなかったり、料理勝負に負けてしまうことは、それまでの人生を全て否定されることになる。だからこそ彼にとって「料理は勝負」なんですね。そう考えると、彼は表面上ヒールなんですけれど、心根としては料理に対しての純粋性を煮詰めた人であり、それが厳しく表に出ているだけ。自分はジャンのキャラクターをそう解釈しています。

仕事に厳しい人って他人にも厳しいじゃないですか。自分のミスにも厳しいけれど、同じくらい他人のミスにも厳しくて叱責したりもする。令和の今ではあまり許されないですけど、その気持ちって僕もわかります。ジャンはそのさらに百倍くらいの厳しさを持つ人だから、そう考えると、ジャンはジャンで自分自身のやるべきことをやっている人なんだと思うんです。

ジャンにとってのやるべきことは「料理に勝つこと」であり、「秋山の料理で頂点に立つこと」だと思うので、そこは『メガゾーン23』の話とも僕の中ではあまり矛盾してないと思っていますね。

──ちなみに自分はセレーヌ楊(やん)が推しキャラなんですが、西条先生の画風というか特徴として「女性キャラクターがどんどんグラマラスになっていく」があります。この令和の時代に、そちらもどこまで表現できるのか個人的に気になっているのですが……。

あおき:キャラクターデザインに関しては、西条先生のオリジナルな部分をなるべく再現しています。あまり胸のサイズが小さいキリコや楊をみんな見たくないでしょうからね。そこはなるべく頑張ってやろうと思っていますね。

 

オーディション原稿にも「カカカカカカカーッッ」は入れたんです(笑)

──ちょうどダビング作業が進んでいるということですが、アニメに声や音が入った印象はいかがですか?

あおき:今回、声優さんはオーディションで決めさせていただいたんですけど、やはり皆さんお上手ですよね。最終的にオーディションを勝ち抜いて声を当てられているので、キャラクターの解釈も良いですし、アフレコ自体も何回も撮り直しをすることもなく、とてもスムーズに進んでいると思います。

──ジャンの特徴的な「カカカカカカカーッッ」という笑い方がアニメではどうなっているのかも気になります。

あおき:オーディション原稿にも「カカカカカカカーッッ」は入れたんです(笑)。「カカカカカカカーッッ」を上手に言えるというのは、オーディションの大事な要素でした。ですから、完成版をぜひ聴いてもらいたいですね。こういう「カカカカカカカーッッ」なのかと感じてもらえると思います。

──絵コンテを拝見させていただきましたが、アニメとしての第1話に原作が2話分入るという構成が個人的にイメージ通りだったので、原作ファンとしても期待が高まっています。

あおき:僕も第1話のダビングが終わって、改めて『鉄鍋のジャン!』の原作が持つ面白さを再認識しましたね。アニメとしてはスタッフも声優さんもみんな頑張っているので、すごく良いものになっているとは思うんですが、やはり西条先生が描かれた原作の面白さを強く感じています。

ファンであった作品を監督させていただくのは光栄ですし、とても楽しく作業させてもらっています。

──アニメ化が決定した際に、西条先生から何かオーダーはありましたか?

あおき:西条先生とは何回かお会いしていますし、シナリオや絵コンテなどは随時お送りさせていただいています。もちろんご意見をいただくこともありますが、大筋としては「お任せで問題ないです」というお話をいただいています。

ただ、とある話数で西条先生から直筆のネーム(漫画の絵コンテのようなもの)が送られてきたことがあって、それが「連載の時にページ数の制限が無ければ本当はやりたかった展開」だったんですよ。アニメ化するならやってもらえないかと言われたので、それを取り入れさせていただくこともありました。

 

「アニメは勝負」ですよ(笑)

──最後に『鉄鍋のジャン!』のアニメ化に当たってのお気持ちを改めて伺えたらと思いますが、原作になぞらえて「アニメは勝負」なのか、それとも「アニメは心」なのか、はたまた「アニメはコテコテ」なのか教えていただけますか?

あおき:それはもう「アニメは勝負」ですよ(笑)。

ただ僕は、そこはあまり心配していないです。先ほども言いましたが、コンテや上がってきたアニメをチェックしていると、改めて『鉄鍋のジャン!』という漫画の持つ面白さを僕自身も感じているんです。だから、このアニメも面白いはずという確信を持っているので、そこらへんはあまり心配していないかもしれません。

今の日本のアニメって「ちゃんと作る」というところにフォーカスを当てがちだと僕は思うんです。ミスがない、画面が綺麗、そつがないみたいな。原作をアニメ化する時でも、いかに原作に忠実であるか、いかに原作と同じ描写を再現するかということが良いアニメ化の条件みたいな感じになっていて、要は原作に忠実であればあるほど良いみたいな風潮ですよね。

僕はそれはちょっと違うと思っていて、やはり何よりも面白くあるべきだと思うんです。それは料理も一緒で、料理であれば何よりも美味しくあるべきだし、アニメーションもやっぱり面白くあって欲しいんです。

もちろん、原作をリスペクトするという前提あっての話ですよ。その上で原作を再現したから終わりではなく、その先の「原作が持つ面白さ」を作り手として僕も追体験したいし、原作のファンもアニメを見て改めて感じてほしいです。

原作を読んでいる人もアニメを見て新たな発見をして、また原作を読み返すような形になると良いなと思っています。「出来がいいもの」を作るのではなく、その先にある「面白いもの」を目指したいという感じですね。

>>アニメ『鉄鍋のジャン!』公式サイト
>>アニメ『鉄鍋のジャン』公式X
 
取材・記事:岩崎航太、編集:太田友基

 

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