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- わたなべみきこ
- 出産を機にライターになる。『シャーマンキング』『鋼の錬金術師』『アイドリッシュセブン』と好きなジャンルは様々。

マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」にて連載中の漫画『忘却バッテリー』(作・みかわ絵子先生)。
中学時代には怪物バッテリーとして名を馳せた投手・清峰葉流火と捕手・要圭が、要が記憶喪失となったことをきっかけに無名の都立・小手指高校に入学し、そこで出会った仲間と共に一度辞めた野球に再び打ち込む物語です。
本作の連載8周年を記念した「第3回キャラクター人気投票」において、計5回出された速報全てで1位を獲得した男、それは千早瞬平。小手指野球部の二塁手でチーム一の俊足を誇る実力者です。
筆者は原作が大好きでたまらないのですが、千早の最近の活躍っぷりには本当に胸が熱くなりました。速報で1位に君臨し続けるのも当然と言えます。とはいえ、主人公バッテリーを抑えるのはなかなかすごいこと。
一体彼の何が読者を魅了しているのでしょうか。そこで僭越ながら、彼のこれまでを振り返りながら、その魅力を語らせていただきたいと思います。
※原作のネタバレを含みますのでご注意ください。
斜に構えた性格で同級生のチームメイトにも敬語を使う千早。常にポーカーフェイスでわかりやすく本心を見せることはなく、その物言いも婉曲的で少々皮肉屋です。
理論派であり、知識を基に野球技術を磨いてきたため、その知識量は非常に豊富。クールではありますが面倒見が良いため、時にはチームのブレーンとして小手指野球部を引っ張ってきました。
出塁すればチーム随一の俊足を使って盗塁し、相手バッテリーを翻弄しますが、当の本人は嬉しそうな顔も見せず、「当然だ」とでも言うような澄まし顔でやってのけるから格好良いやらすごいやら……。
スマートなところも彼の魅力であることは確かなのですが、彼が我々読者の心を鷲掴みするのはそこではありません。なかなか見せないその胸の内に秘めた野球への熱い心やチームメイトへの愛情がそのポーカーフェイスから垣間見える瞬間、私たちは彼から目が離せなくなるのです。
彼のこれまでを振り返りながら、私たちを魅了したシーンをピックアップしていきます。
千早を語るうえで触れずにいられないのは、彼が抱えるフィジカルコンプレックスです。
プロ野球のスター選手に憧れて野球をはじめた千早。しかし、成長するにつれてひとつの壁が彼の前に立ちはだかります。それは野球をやるにおいてフィジカルが絶望的に不足していること。
彼は中学生で167cmで、180cm以上が当たり前のプロ野球界や高身長ばかりの高校野球名門校では圧倒的に小柄。遺伝的にこれ以上の成長も期待できません。
そう確信して一度は絶望しながらも、大好きな野球を簡単に諦めることはできず、食事トレーニングで体重を増やそうと試みたり、知識量を増やして小技を磨いたりと、フィジカルを補うため懸命に努力を重ねます。
体質の問題からか食事トレーニングは失敗してしまったものの、持ち前の俊足を生かすために磨いた技は自身より大柄の選手にも通用するものとなり、チームで一番の実力者に。
しかし、そんな千早に再び壁が立ちはだかります。それは怪物バッテリーと呼ばれていた清峰・要バッテリーです。才能とフィジカルに恵まれた清峰と理論と知識を持つ要には、千早の理論も技も、一番の武器である俊足でさえも全く歯が立たず、彼らとの試合では何もできないまま終わってしまいました。
このことで千早は自分が世の中で一番努力していると驕ってしまっていたことを自覚するのですが、冷静で客観視にも長けた千早が過信してしまった原因には「大した苦労じゃない」と思っていた食トレが本当はものすごく辛かったからというのがあるのではないかと思います。
フィジカルを補える可能性が1%でもあるならと嘔吐することもお腹を壊すことも辞さずに食べ続けていたのですから、辛くないわけがありません。一方で、王道のプレースタイルではないものの、チームで一番上手くなるという成果も確実に出ているわけですから、この世で一番努力していると思ってしまったのでしょうね。なにせまだ中学生ですし……。
とはいえ、井の中の蛙だったことは否めない千早。この日のことが遠因となり彼は野球を辞めることになります。
自分の努力不足を痛感した千早は、今まで以上に努力を重ね始めますが、これまでにはなかった息苦しさを感じるように。それから間もないある日、フィジカルに恵まれたチームメイト・巻田に対し、無意識に「いいなぁ」とこぼしてしまったのです。
「いいなぁ」という言葉を強く嫌悪していた千早。それは「いいなぁ」という言葉には相手が努力なしに恵まれたものに対する羨望の意味を孕むと同時に相手の努力を無下にしているから。
どんな一流の選手でも、運や才能だけでその地位に昇ってきたわけではなく、そこには必ず血の滲むような努力があるもの。人一倍努力をしてきた千早はそのことをよくわかっているため、その努力をなかったかのように扱う「いいなぁ」を嫌悪していたのです。
それにも関わらず、つい言ってしまった「いいなぁ」。感じていた息苦しさの正体は恵まれたフィジカルを持つ者に対する嫉妬の感情だったのです。嫌悪していた言葉を無意識のうちに言ってしまったことで、自身に失望するとともにその心は完全に折れてしまいます。
野球をやっても自分に未来はない、そう悟った千早は「野球は時間の無駄」と結論付け、野球を辞めることを決意。しかし、海に投げ捨てようと思ったグローブを手から離すことはついぞできませんでした。本当は野球が大好きだから。
「神様はなぜ“嫉妬”なんて感情を人に植え付けたんだろう」「こんなダサくてみじめったらしくて汚らしい感情知りたくなかった」「清く正しく美しく在り続けたかった」
こちらは投げ捨てられなかったグローブを抱きしめる千早のモノローグ。繰り返しますが、まだ中学生なんですよ。なんて気高い精神の持ち主なんでしょうか……。このシーンは見ているだけで胸が締め付けられる思いがします。
そして、グローブを海に投げようとする際のフォームがとても綺麗なところがなんとも切ない。フォームひとつで彼がどれだけ野球に打ち込んできたか、努力を重ねてきたかが感じ取れてしまいます。それなのに、報われないなんて。
これ以上高みを目指せないなら野球を辞めるというのは少々極端な考えのようにも思えます。しかし、千早が聡明かつ合理的な考え方だからこそこの結論に至ったのでしょう。
やるなら高い目標を持ってやりたい、プロを目指したい。けれど、賢く合理的で客観視にも長けた千早は、自分の不利なフィジカル面を見て、その夢を目指すには壁が高すぎることを察し、全力で努力しても報われなかったときのことを想像して怖くなってしまったのでした。
野球をやりたい本心に嘘をつき、野球を辞めた千早でしたが、本心を抑圧し続ける生活は苦しいばかり。それでも千早は野球をより遠ざけるため野球部のない小手指高校に進学しました。
ところが、その思いに反するように、小手指高校には新設された野球部があり、清峰・要バッテリーが同級生に。初めは反発していた千早でしたが、野球が好きな本心には逆らえず、再び野球を始めることになりました。
シニア時代は自分でも「友達はできなかった」と言うくらいチームメイトと打ち解けていなかった千早。自分の技術を磨くことばかりに注力していたせいでしょうか。チームで一番上手いのに孤立してしまっていたようです。
それに対し、小手指では同級生だけでなく先輩や後輩とも信頼関係を築けるように。素直ではありませんが、本来面倒見の良い人柄の千早。創設したばかりの野球部で野球素人同然になった要を中心に活動を続けるうちに、チームメイトたちに深い情が生まれていったのです。
クールな千早が仲間への愛情を口や表情に出すことは滅多にありませんが、強豪・帝徳高校に転校を勧められて断った時(原作第3話)や藤堂のイップス克服に積極的に協力する姿(原作16話)、自分に次ぐ俊足を持つ先輩・土屋への信頼が表れた表情(第61話)など、その行動の端々にチームや仲間への愛情が感じられます。普段素直じゃないからこそ、行動から垣間見える本心にグッと来るものがあるんですよね。
また、彼自身もチームメイトといっしょにやる野球を望んでいたことも原作第27話で明かされています。が、この気持ちもきっと仲間たちに話すことはないでしょう。本当に素直じゃないんだから瞬ちゃんは……!
望んでいたチームでの野球をやる千早の表情は真剣かつとても楽しそうに見えるのは私だけではないはず。小手指高校で信頼できる仲間を得た千早は、更なる出会いによって覚醒を遂げます。
千早にとってのキーパーソンとなったのは1年生の夏の大会後に着任した監督・佐古。一見するとただだらしないだけのおっさんのように見える佐古ですが、確かにギャグ的要素は強いものの、その実、選手をよく見て助言を送る有能で信頼できる監督です。
1年生の冬、千早は佐古にこう問われます──「千早くんは後悔しないかい」と。
これまで千早は自身のフィジカル面から自分にパワープレーは向いていないと判断し、小技と俊足を生かしたプレースタイルを磨いてきました。そのプレースタイルが好きなことは嘘ではないものの、子どもの頃に憧れていたのは、ホームランを打つヒーローのようなスター選手のパワープレーであることもまた事実。
佐古はそのことを理解しており、千早にプレースタイルを変えてみることを提案したのです。「その若さでスタイルを決めるのは勿体ないよ」と。
この時の佐古の素晴らしい点は、「千早くんが今までやってきたことは間違ってない」とこれまでの千早の努力をはっきり肯定し、さらに自分の考えを押しつけるのではなく、あくまでの本人が望むならという前提でプレースタイルの変更を提案したこと。
いつもは「ちーくん♡」と冗談めいた口調で千早にウザ絡みしているのに、本当はこんなに良き理解者だなんて……。千早をはじめ部員たちが彼を慕う理由がよくわかります。
信頼する佐古から強く背中を押されたことで、千早は自分に嘘をつくことをやめ、夢だった王道のプレースタイルへの変更を決意。その成果は、甲子園出場をかけた決勝戦で花開くこととなります。
千早達が2年生の夏の大会。順調に決勝戦まで勝ち進んだ小手指高校は、千早の元チームメイト・巻田の在籍する氷河高校と甲子園出場をかけて対戦。
プレースタイルを変えると決意した冬からおよそ半年経ったこの試合で、ついにその努力が実を結ぶこととなります。
4回裏で氷河のエース投手・桐島相手に真っ向勝負を挑みますが、結果はセンターオーバーの二塁打(ツーベースヒット)。これでも十分大きな当たりであり、かつての千早であれば十分喜んでいたであろう結果ですが、高い目標を掲げる彼は手応えを感じつつも「次こそ」と満足しません。
激しく悔しがるのではなく、冷静に手ごたえを分析して静かに闘志を燃やす千早。熱を感じる真剣なまなざしがとても格好良かったです。
そして、次に打席に立ったのは9回裏、3点差で負けている状況。打てなければ小手指は敗退してしまいます。相手投手はかつて「いいなぁ」と言ってしまった巻田。フィジカルを羨んだ相手と真っ向勝負に挑みます。
半年間、長打のために鍛え上げた上半身の筋肉を使い、バットを振る千早ですが、それでも超が付く程のパワーピッチャーである巻田とはギリギリ互角といったところ。真剣勝負が続く中、千早は佐古からかけられた言葉を思い出します。
「付いてるじゃないか キミの脚には 爆発的瞬発力を生み出す 脚の筋肉が」
自分は筋肉が付きにくい体質だと思い込んでいた千早。佐古は千早の武器である脚に着目し、その思い込みを払拭してくれ、プレースタイル変更に踏み出すきっかけを与えてくれたのです。
この言葉から、千早は上半身だけでなく、長らく武器としてきた脚の筋肉もバッティングに使うことをひらめき、一振りに渾身の力を込めます。バットはしっかりと球を捕らえ、打球は大きなアーチを描いたのち、ファールポールに当たってスタンドに吸い込まれていきました。ついに人生初のホームランを叩きだしたのです!!!
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— 『忘却バッテリー』公式 (@boukyakubattery) May 27, 2026
⚾『#忘却バッテリー』最新第189話更新⚾
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攻守ともに粘り強いプレーで
盛り上がりをみせる9回裏📣
球速をさらに上げていく巻田に対し
自身のパワー不足を痛感する千早は――。
甲子園をかけた真っ向勝負の行方はいかに⁉️https://t.co/T4q5cpEfTV#ジャンププラス
このシーンに興奮しない忘バファンなんていませんよね。涙なしには見られませんでした。滅多に表情の変わらない千早が頬を紅潮させ、子どものように目を輝かせて喜びを露わにするページは冗談抜きでずっと見ていられます……スマホのロック画面にした方がいいかもしれないけど、スマホを開くたびに「ヴッッッ…」と変な声をあげて目を潤ませてしまいそうなのでやめておきます。
プレースタイルを変えるためのトレーニングを重ねた千早でしたが、長年立ちはだかってきた壁を打ち破ったのは、ずっと千早が武器として磨いてきた脚。この事実が非常に感慨深い。彼のこれまでの努力が本当の意味で報われた瞬間に鳥肌が立つほど感動しました。
打球がスタンドに入る直前の千早の回想で、「正直(プレースタイルの変更が)上手くいくイメージがわきません」と話す千早に対して、佐古が「出来る キミなら必ず!!」と力強く言葉にしているシーンもたまりませんでした……。
佐古の言葉を受けた千早が、不意を突かれたような、驚いたような表情をしているのですが、この時点で「フィジカルの足りない自分には無理」という呪縛が解かれているように見えます。
初めて氷河と練習試合をした原作第27話で、元チームメイトから「千早の壁はフィジカルじゃなくて他人への信頼なのかも」と言われていましたが、監督やチームメイトを信頼できるようになったことで、フィジカル面を克服できており、元チームメイトの言葉は正しかったのだなと感じました。
そんな信頼する仲間たちも興奮と歓喜に満ちており、千早のホームランを心から喜んでいることにさらに胸が熱くなります……! 本当に小手指に来てよかったねちーくん!!
そして、こんな熱いホームランを打ったにもかかわらずベンチに戻った時には冷静さを取り戻しているのもまた千早らしい魅力! 「俺感動してちょっと泣いたわ」と言う藤堂に対して「いや~風向きですかね」と偏屈な返しをする素直じゃないところも可愛いです。風なんて吹いてないぞ!
気高い心で努力を重ね、一度は挫折して野球をやめてしまったものの、信頼できる仲間との出会いを経て、再び野球と自分の壁に向き合い、ついに夢だった王道のプレースタイルを叶えた千早。ポーカーフェイスで隠した熱いハートと泥臭さのギャップが私たちの心を掴んで離しません。
現在原作は甲子園出場をかけて小手指と氷河が熱い試合を繰り広げています。パワープレーも身につけた千早がさらなる活躍を見せてくれることを期待してやみません!