「fellows!」4号発売記念企画 森薫さん、しおやてるこ..

マンガ業界に新しい風を送り込む新雑誌「fellows!」4号発売記念スペシャルインタビュー!森薫さん、しおやてるこさん、笠井スイさんによる特別対談 第3回

 2006年に「コミックビーム」増刊企画として発売された後、2008年10月に隔月刊のマンガ誌として発刊された「Fellows!」(フェローズ)。現在の主流にあるメディアミックス展開とは距離を置き、新人をメインに起用し、新しい力でマンガをじっくり読ませるスタンスが読者の好感を呼んで、創刊号は増刷となった。もちろん新人だけでなく、『エマ』の森薫さんをはじめ、福島聡さん、入江亜季さん、岩原裕二さんなどの人気作家も参加、意欲的なマンガ家たちのエネルギッシュな息吹が感じられる内容は、多くのマンガファンからも賛同を得て、2号以降も好調なセールスを記録している。

 4月15日には4号が発売され、すでに好評だが、今回は「Fellows!」に参加している作家陣から、『エマ』でおなじみの森薫さん、雑誌「電撃マ王」をはじめ書籍イラストも手がけるしおやてるこさん、同人界では知る人ぞ知る作家で「Fellows!」で満を持してプロデビューとなった笠井スイさんに、特別に集まってもらい、話を伺うことができた。その模様を3回にわたってお届けする。

3回目の今回は連載中の作品について伺った。森さんの『乙嫁語り』、しおやさんの『たまりば』の内容と誕生秘話、そして笠井さんにはここまでの読み切り作品と、6月発売の5号から始まる新連載への意気込みなどを語っていただいた。

純粋なマンガファンのため、そして新たなマンガ界を切り開くためにという、マンガ愛にあふれたマンガ誌『Fellows!』。今後の動向から目が離せない1冊になるだろう。マンガ史が変わる瞬間を見逃さないためにもぜひ読んでほしい。

「Fellows! 2009-APRIL Volume 4」
発売中
本体680円+税
発売:エンターブレイン
Volume1~3も好評発売中

<B>「Fellows! 2009-APRIL Volume 4」</B><BR>2009年4月15日発売<BR>本体680円+税<BR>発売:エンターブレイン<BR>Volume1~3も好評発売中

「Fellows! 2009-APRIL Volume 4」
2009年4月15日発売
本体680円+税
発売:エンターブレイン
Volume1~3も好評発売中


●中学時代から好きだった“中央アジア” そして大好きな馬──『乙嫁語り』

――では『Fellows!』で皆さんが連載中の作品についてお聞きします。まず森さんの『乙嫁語り』ですが……。

森さん:中学生くらいから中央アジアや、その生活、民族衣装に興味がありました。あと当時、とにかく馬をたくさん描きたかったんです。でも、いざ描いてみたらうまく描けなくて、民族衣装も描いてみるとディテールが細か過ぎて、2コマで疲れて(笑)。それでもう1つの描きたい対象だった、メイドに傾倒していったんです(笑)。そして今回、新作を描く機会をいただいて、今ならあの頃描きたかったものが描けるかなと思いました。馬を描きたい気持ちも強くて、『エマ』もイギリスに向かうきっかけは、馬から入ったようなものなので(笑)。だから、小さな欲望の積み重ねでした。でも今、中央アジアは描いておいたほうがいいなというのはありました。


――なぜ中央アジアに興味を持ったんですか?

森さん:91年にソ連が崩壊して、中央アジアに行きやすくなると、シルクロードを扱った本だったり、写真集だったりが急に増えてきて。図書館で写真集を見て、「なんて素敵な衣装なんだろう」と。資料などを見るたびに「やっぱりいいな」と思います。


――もう1つの要素でもある馬への想いは?

森さん:マニアックになっちゃいますけど(笑)、サラブレッドは美しいですが、足が細すぎるのと、お尻が大きすぎて、走っている時はカッコイイけど、スーパーモデル的な雰囲気があって。もうちょっと生活臭がある馬を描きたいと。

しおやさん:馬萌えですね(笑)。


●圧倒的なスケール感と緻密な描写、ヒューマンドラマが魅力

――元遊牧民の末っ子である12歳の男の子の元に嫁いだ20歳のお嫁さんという設定はどのように出てきたんですか?

森さん:中央アジアならではの作品にしたいと思って、恋愛メインでなく、今まであまり描いていなかった10代前半の登場人物を出して、あと“嫁はいいよな”ということになって。

全員:(爆笑)。

森さん:落書きしながら構想していたら、女の子が、結婚してみたら女性同士だったとか、モンゴルもいいなと思って『大草原の小さなゲル』とか(笑)。いろいろ出てきたんですけど、結局今の形になりました。三つ編みが描きたいと思って描いたキャラクターは、この作品では姪っ子として登場することになりました。


――舞台が壮大なので、圧倒されるスケール感と、癒される独特の空気感が見事に描かれていて、背景だけでも見応え十分ですね。

森さん:風景って難しいんですよ。私は、あまり広大な風景に触れる機会が少なくて。室内の狭い4畳半とかはうまく描ける自信があるんですけど(笑)。地平線が見えて、山が遠くにかすむ描写とか苦労しています。一生懸命、資料を見ながら描いてます。もし、今後現地に行ける機会があるとすれば、キルギスに行きたいです。その次はウズベキスタンかな。あとイランとトルコにも。とりあえず言ってみました(笑)。


●今後はシルクロードの様々な場所、様々な人を描いていきたい

――編集の方とはどんなやり取りがあったんですか?

森さん:まず中央アジア、シルクロード地域を描きたいと話しました。当初から「ヨーロッパはひとまず置いておこう」と話していて。読者の方も他の国も見たいと思っているだろうし、イメージが固まっちゃうだろうと思うので。落書き程度のラフを見せて、「これで行きましょう!」とGOサインが出て。


――結構スムーズな流れだったようですね。それとタイトルの『乙嫁語り』も興味深いです。最初に「どんな作品なのかな」と思いました。

森さん:古い言葉で“乙嫁と聟花(おとよめとむこばな)”というのがあって、“乙嫁”はいいお嫁さん、きれいなお嫁さんで、“聟花”は若いお婿さんという意味です。とにかく“嫁”という字を入れたかったんです(笑)。タイトルは表札だから意味がわかって、読み違いがなくて、語感がよいほうがいいなと。またヨーロッパは文字で伝えるけど、アジアは口伝えの文化だから“語り”がいいんじゃないかなと思って。


――お嫁さんのアミル、お婿さんのカルルクの二人が中心ですが、アミルの一族やカルルクの一族など周りのキャラクター達も気になります。

森さん:スミス君(仮)を入れたり。とりあえずの名前で(仮)だったんですけど、もうスミス君で定着しつつあります。イギリス人の研究者でカルルクの家に居候しています。


――広大な舞台でどんなふうにストーリーが進んでいくのか楽しみにしています。

森さん:シルクロードの様々な場所、様々な人達を描いていけたらいいなと思います。


●身近な場所から生まれた『たまりば』

――しおやさんは『たまりば』を連載されていますが、この作品はどのようにして誕生したんですか?

しおやさん:担当さんから、「しおやさんみたいな人が出てくるマンガにしてほしい」と言われて、最初は「えっ?」と思いました。私の家の近所に多摩川があって、よく一人でたこあげをしたり、夕焼けを見ながらおやつを食べたりして。

森さん:似合いそう。

笠井さん:そんなシーンが目に浮かんできますね!

しおやさん:そんな様子を、自分のHPの日記にちょこちょこ書いたりしてたんですけど、そういう何気ない日常を楽しみたいという私の気持ちを汲んでもらったので「じゃあ多摩川を舞台にしたマンガを描きます」と。それで、多摩川で会える面白い人が出てくるマンガになって、タイトルも多摩川とみんなが集う場所を掛けて、『たまりば』にしました。


――なるほどダブルミーニングだったんですね!

しおやさん:そんなダジャレがふいに思いついて。ひざを抱え、川を眺めながら、担当さんに「タイトル考えてたんですけど……」と、これから告白するみたいな感じで伝えました(笑)。


●ハルオのモデルはしおやさん!?

――美和が片想いするハルオは風変わりな人ですが、あのキャラクターの元は……。

しおやさん:あれは私なんです。

森さん:そうだと思いました。メガネはかけてないけど(笑)。

しおやさん:私と夫の普段の会話、言葉の掛け合いはまさに『たまりば』で、毎日、あんなふうな会話をしてまして、自然にああいうキャラでいこうと。そして、私が男だったらこうなりたい、という思いを込めて描きました。

森さん:どう考えてもそうですよね。

しおやさん:バレてたか!

笠井さん:(笑)。


●狭い世界の中にある小さな発見を大切にしたい

――恋に一直線な美和はかわいいですね。あんな頃もあったなと懐かしさも感じます。

しおやさん:そうですね。勝手に暴走してますけど。恋愛の始まりって楽しいじゃないですか。「きっかけを作ってからアプローチしよう」とか、「次はこんな作戦で行こう」とか考えている時が楽しいんですよね。そういう部分を描きたいです。もちろんその先も描きますけど(笑)。


――美和は今の高校生よりちょっと幼い感じもします。今の子達が背伸びしているのかもしれません。

しおやさん:本来、高校生くらいだとまだ子供で、狭い世界しか知らないんですよね。その世界の中でも学んでいくことがあるはずで、ささいな出来事や小さな発見みたいなものも大切にしてほしいですね。


――よく電車から多摩川を見ますが、マンガの風景はまさにそのままで、リアルでありながら、心癒されます。

しおやさん:あの場所が本当に好きで描いています。大事な場所だから大切に描きたいなと思います。


●息抜きに多摩川へ遊びに行くように楽しんでほしい

――ハルオと美和の会話もどこか、ほのぼのとしていますよね。

しおやさん:いつものちょっとした会話でも、積み重ねていくと楽しくなっていくじゃないですか。やっぱり読んで「ああ、楽しかった!」って言ってほしいですし。毎日、イベントがなくても、寝る前に「今日は楽しかったな」と思ってふとんに入るような、そういう気持ちを描けたらいいなと。


――肩肘張らずにリラックスして読んで、ホッとできる作品だなと思いました。

しおやさん:他のマンガが読み応えのある作品ばかりなので、『Fellows!』を読んでる途中に、ちょっと息抜きに多摩川に行くような気分で読んでもらえたらと思います。

森さん:バツグンの存在感があると思いますよ。


●森さんいわく、愛情と執念の作『花の森の魔女さん』

――笠井さんは1号から3号連続で読み切りを発表していますが、編集の方と方向性などについてお話をされたんですか?

笠井さん:最初の『花の森の魔女さん』の時は「笠井さんらしいものを」と言われて、「私らしいもの?」と頭が真っ白になりました(笑)。今まであまり描いたことのないもので、楽しく読んでもらえるものを描きたいと思って、いつも描いていましたが、最終的にはいつも通りになりました。

森さん:愛と執念のマンガだなと。笠井さんが、同人で鳩というサークル名で描いていた時もイラストでは見ていたので、今回の参加する作家の中でお名前を見て、「あっ!鳩の人だ!!」と驚きました。そして『魔女さん』を読んだ時は「すごい!」と。植物と雑貨、そして猫に対する愛情と執念があって、気合で描けるような作品ではないと思いました。予想を超える存在でした。

笠井さん:同人の頃とは……。

森さん:表紙を描いている碧風羽さんも、昔から笠井さんのファンだったそうですよ。

笠井さん:どこでどんな方に見られているかわかりませんね。


●『仏頂面のバニー』はセクシー路線へ進出?

――3号の『仏頂面のバニー』はコミカルで……。

笠井さん:あれは「はしゃいで、アホな感じのを1本やろうかな」と(笑)。いつもイメージを描いているメモがあって、それを見ながら打ち合わせをしていたら、そこにバニーガールがあって、笑わないバニーガールを見た担当さんが「これ、セクシー路線?」って。そこから盛り上がって。

全員:(爆笑)。

森さん:あれは驚きましたね。「こうきたか!?」と。


●初の連載作は、お嬢様が何でも屋!?

――絵もきれいで、オチもしっかりあって、楽しい作品でしたね。

笠井さん:絵を頑張れば見てもらえるかなと。今の持っているポテンシャルの中で一番高そうなものを、よく見せられるような題材で、ちょっとセクシー路線で(笑)。

森さん:肩甲骨と鎖骨がよかったです。

笠井さん:ホクロがポイントです(笑)。

森さん:ダメなおたく兄ちゃんもよかった。あれはいじりたくなりますよね。

笠井さん:ありがとうございます。

森さん:あとおじいちゃんのシャツのはみ出し具合とか妙にリアル過ぎて。

笠井さん:なにぶん、普段からよく見てますから。

しおやさん:そんなところに秘訣が(笑)。


――そして6月発売の5号から待望の連載が始まります。どんな作品になりそうですか?

笠井さん:お嬢様の女の子が猫と一緒に何でも屋をやるお話です。4号では見開きの次号予告で“みくびるなかれ、その腕前。”なんて素晴らしいキャッチも入れていただいて、プレッシャーがかかっていますけど、頑張ります!


●ストレートにおもしろいマンガが望まれる時代に『Fellows!』の存在感を示す

――今後、『Fellows!』に望むことは?

森さん:できれば末永く残ってほしいですね。これからも新しい作家さんが現れてくれたら嬉しいですね。この雑誌で描き始めた作家さん達が、これから描き続けていくうちに、作風が変わっていったりすると思うと楽しみです。

笠井さん:やっぱり続いてほしいし、私も長く参加させていただけたらいいなと思います。

しおやさん:お二方と一緒で続いてほしいのと、作家さんも編集さんも今のテンションをこのまま高い状態で突き進んでいって、新しい方も加わっていき、どんどん面白くなって、想像もできないような雑誌になってほしいと思います。


――今後のマンガシーンについてはどうなっていくと思いますか?

笠井さん:まだデビューしたばかりなので、想像もつかないです。

しおやさん:どうなっていくのかなんてわからないし、自分は描いていくだけですが、でもどんなふうになっていくのか、とても楽しみにしてます。

森さん:個人が自分に合ったペースでしっかり描いていくのが、主流になっていくんじゃないかなと思います。そう考えると、週刊誌よりも月刊誌やこういうスタイルがメインになっていくんじゃないかなと。読者の方もストレートに面白いマンガが読みたいと思っていると思いますから、それに応えられる作品や雑誌が支持されていくのではないでしょうか。


●新人が多く、今後を楽しみつつ、マンガ好きに長く愛される雑誌へ

――では最後に皆さんへメッセージをお願いします。

森さん:マンガが好きな人は、すでに読んでくださっていると思っています。『Fellows!』は知っているけど、新人さんが多くて、知らない人ばかりなので不安だという方には、「今のうちに読むといいですよ」と勧めたいです。どの作品もまだお話が始まったばかりなので入りやすいし、バックナンバーも手に入りやすいですから。それにこの流れに乗り遅れるともったいないですよ。リアルタイムで素敵な作品を読める幸せを皆さんにも味わってほしいです。1冊読んでいただければ、きっとお気に入りの作品があるはずです。私にとっては好きな作品だらけの素晴らしい本なので、長く愛していただけるように、頑張って描いていきたいと思います。

笠井さん:プロデビューをこんなに素晴らしい作家の方々と、しかも新創刊の雑誌に参加させていただいてすごくうれしいです。5号からは人生で初の連載も始まります。心境的には断崖絶壁に立たされて、後がないくらいの気分です(笑)。

森さん:でも毎号、笠井さんの作品が読めるのは私もうれしい。

笠井さん:あ、ありがとうございます。が、頑張ります(笑)。まだつたない部分もあるかと思いますが、今後も温かく見守ってください。

しおやさん:「読んでみよう!」と思ってもらえると嬉しいです。今、勢いのある作家さんが揃って、力作が詰まった魅力のある雑誌だと思うので。そんな作品の中で、『たまりば』はのんびりと読んでいただければと思います。始まったばかりの雑誌ですが長く続くよう、頑張りますのでこれからもよろしくお願いします!

<B>『乙嫁語り』/森薫</B><BR>現在連載中<BR>(C)森薫 / エンターブレイン

『乙嫁語り』/森薫
現在連載中
(C)森薫 / エンターブレイン

<B>『たまりば』/しおやてるこ</B><BR>現在連載中<BR>(C)しおやてるこ / エンターブレイン

『たまりば』/しおやてるこ
現在連載中
(C)しおやてるこ / エンターブレイン

笠井スイさんは次号からいよいよ新連載開始!乞うご期待!<BR>(C)笠井スイ / エンターブレイン

笠井スイさんは次号からいよいよ新連載開始!乞うご期待!
(C)笠井スイ / エンターブレイン

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