映画『私の優しくない先輩』山本寛監督にインタビュー!

アニメ界の“天才”が実写で描くのは「ワンランク上の“哲学的”ダンスシーン!」――『私の優しくない先輩』山本寛監督にインタビュー!

 『かんなぎ』をはじめ、数々のTVアニメでファンを沸かせてきた山本寛監督。その山本氏が実写を手がけるというニュースがネットを駆け巡ったとき、誰もが思っただろう。

 “山本監督がアニメで描いてきたヒロインに並ぶ美少女が現実にいるのか!?”と。

 それほどに彼の作品に登場するヒロインたちは“美しい”。それは決して手の届かない至高の存在としてのヒロインが持つ“美”ではなく、クラスに1人はいそうで、でも決して手の届かない何かを心の奥底に秘めた、そんな等身大のヒロインたちの持つ“美”だ。

 それだけに、山本監督の実写初監督作に集まる注目度は高かった。“ヒロインは誰なのか!?”“実写でどんな演出を見せるのか”“どんな驚きが待っているのか!”
 そんな大きな期待と注目のなか完成した『私の優しくない先輩』は、期待の新鋭・川島海荷をヒロインに据え、TVアニメ化もされた人気ライトノベル『狂乱家族日記』の日日日氏が、第1回恋愛小説コンテストラブストーリー大賞を受賞した作品の映画化。

 どんな形に仕上がったのか、エンタメ界の全方位から熱い視線を浴びつつ本作は7月17日から新宿バルト9ほかで公開される。

 今回、アニメイトTVでは山本監督にインタビュー。初めて挑んだ実写への手ごたえを探るなかで監督の"演出論"にせまった。もちろん監督からみた川島さんの魅力もバッチリ押さえましたよ☆

<物語>
九州の小さな町に引っ越してきた16歳の女子高生・西表耶麻子(いりおもてやまこ)は大好きな先輩・南愛治(みなみあいじ)にラブレター渡せずにいた。そんなラブレターの存在がクサくて、キモくて、ウザイ、不破風和(ふわふうわ)先輩にバレてしまい、勝手に「南くんへの告白大作戦」を始めることになってしまう。果たして耶麻子の恋の行方は…

――もともと実写を撮りたいという想いはあったのですか?

山本氏(以下山本):欲望はありました。欲望はあったのですが、アニメ業界に入った訳で、業界に入ったからにはまずアニメ。(アニメに)"操を捧げる"というところまで行きたかったんですけども、庵野さんも撮ってるし押井さんも撮っているので、"チャンスがあればいつかは"という気持ちは正直ありました。でもこんな形でくるとは思わなかったですけど(笑)。
 僕がこの世界を志そうと思ったのは宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』を見て憧れたというのが最初の動機で、学生の頃はひたすらアニメオタクとして過ごしていたのですが、業界に入ってからはアニメばかり観ていても良くないなと思ったので映画を観るようになりました。だから映画に対してはそんなに憧れとか野望はなかったですね。学生の頃に演劇をやったり遊びで映画を撮ったりしていて、なんとなく面白そうだなと思っていたぐらいです。


――アニメ、実写の違いとは別に、TVシリーズを構成するのと、2時間弱でまとめなければならない映画では、演出法にも大きな違いがあると思うのですが?

山本:TVと映画ではまず総尺が違っています。CMが入ることも考慮して、それを含めて細切れにしていくのがTVで、一気に見せるのが映画であるというところが大きな違いだと思います。TVの場合は1クールなら13本どうしても作らなければいけないので、どうしても脇のキャラクターにも焦点を当てた話を作るしかないか、という作り方になります。映画は主人公が1人2人いて、あるいは群像劇で、一つのストーリーに乗っけてやってしまえばお話はできちゃうんですね。
 まぁでも、TVシリーズも映画のように「主人公がこいつで、こんな事件が起きてこういう結末を迎えました」というお話作りが最初にあるんですよ。そこからそれを13話なり26話に切り分けていって、「エピソードが少ないぞ、じゃあ何か足すか」という発想で僕は作っているので、基本は映画なんでしょうね。映画っぽい作り方をベースラインに置いて、それを膨らませていくというやり方をTVではやっています。


――ということは、映画のほうがストーリーを作りやすいということですか?

山本:なんら苦労は感じませんでした。今回、シナリオの枚数が多くて、プロデューサーが心配して「監督、これ2時間越えるんじゃないですか?色々な都合があるので2時間は切ってください。」と言われ、僕は「いや大丈夫ですよ、100分でいけますよ」と言ったのですが、こんなペラ枚数でそんな訳がないとプロデューサーは疑っていたんですよ。それを見事102分で収めてびっくりという(笑)。
 その辺の尺の勘定までぴったりできたので、その辺は何も違和感もなくという感じです。でも今回の場合はシナリオの初稿があって、それを僕が読んで「お受けします」という形をとったので、僕がシナリオまで書いていたら苦労したかも知れません。


――ラストの解釈についてですが、原作を読むと普通に考えたら"死んでしまう"話ですよね?でも映画ではどちらにもとれる終わり方に感じました。僕は死んでいないと思っているんですが……

山本:まずはシナリオがそうなっていて、大野(敏哉)さんのシナリオありきで進めました。生きているか死んでいるかで(役者の演技の)動き方が変わるので、それがわからないとスタッフもキャストも動けないという注文が来て、一応演出上の答えは出ています。でもそれを言ったら野暮だと思うので明かしませんよ(笑)。
 難病で死ぬか死なないかという話はありがちなお話で、そういうジャンルがあっても良いとは思うのですが、僕のスタンスとしては、生きるか死ぬかというのを気安く口に出すのははばかられると思ったんです。なんでかと言うと、僕は死んだ経験がないからです(笑)。死んだ経験のない人間が"死とはこういうものなり"というのはリアルじゃないんですよね。死を目の前にした生きている人間の話というのは描けるんだけど、生きるか死ぬかという瀬戸際を、その当事者である耶麻子の視点で描くのは死と生の瀬戸際をさまよったことがない僕にはできないんですよ。
 でもやっぱり死というものは避けられないもので、誰もがいつかは重大な問題として直面する大きなテーマなので、死に背を向けて生きたり表現したりすることも同時にできないと思いました。その中で、自分にとっての死生観をどう表現したらいいのかを常日頃から考えていて、過去の仕事でも"死生"を扱った作品もやっています。
 その時もすごくデリケートだなと思いながら作業しましたし、お話として"死にましたよ、ハイ感動"じゃなくて、死というものをどう捉えるか、死というものをどう語るかにすごく神経を使いました。だから死んだか生きているかはどっちでもいいし、そんな結論をつけても仕方ないと思っていて、死に直面した時、死を思ったときにどれだけ誠実に死に向き合えるか、考えることができるかを想像の範囲内で描いておこうと思いました。

――テーマ曲が「MajiでKoiする5秒前」だったのは意外でした。選曲の理由は?

山本:あれは、宇田(充)プロデューサーが「MajiKoi」でいきたいと言ったからなんです(笑)。でもエンディングテーマ選びは描きおろしという選択肢もあってとても難航しました。僕は古今のアイドルファンなので「キャンディーズの『危ない土曜日』とかどうですか?」と言ったら、「全然作品のテーマと関係ないね」とかそういう話を延々としていて。そこに僕と同学年の宇田さんが「監督、『MajiKoi』どうですか?」と。確かに僕の青春時代に胸をキュンとさせたアイドルは広末涼子。それがこの作品のテイスト・空気感にしっくりくるんじゃないか、と判断したんです。


――最後のダンスシーンは大がかりな印象でした。川島さんも「その日1日の一発勝負で撮影しました」と話していましたが、撮影されていかがでしたか?

山本:「ダンスシーンをやっても良いけど、ワンカットで、振り付けは夏(まゆみ)先生にお願いしたい」と宇田さんに条件を出したんです。それを飲んでくれて。でも実際やってみたらやっぱり大変で。いや大変なのは分かっていたんですが(笑)。夏先生が「この作品のテーマ、"死んだか生きたか"というところまで聞きたい」ということで結末をお話ししたので、このダンスには先ほど言った"死生観"がすごく反映されているんです。
 最初は黒画面にエンドロールを素直に流そうと思っていたんですが、宇田さんのリクエストもあってダンスシーンが加わりました。でもダンスシーンをつけるからには何か本編と密接に関連付けたいし、ダンスに作品のテーマを込めたいという夏先生の思いなど、色々上手いこと混ざって、"一つ上のステージ"に上がれたダンスシーンになったと思います。しかも長回しで撮ったというのが大きくて、カットを割っていたら完成度は上がったと思いますが、単なるPVっぽくなっていたと思います。


――ヒロインの川島さんですが、彼女の魅力はどんなところにあると思いますか?

山本:きれいな顔はもちろん作れて、モデルとしての魅力ももちろんあるのですが、今回は"変顔"をたくさんやってもらいました。
 僕が彼女を見初めたのはカルピスウォーターのCMで、飲んだ後に意味もなく「ガキィ」って叫ぶんです。あれは未だに意味が分からないんですけど、あの"たんか"をきった感じがとても印象に残っていて、それが耶麻子の体育館や夏祭りでの長回しにいきているんです。あれはさすがだと思いました。今"たんか"をきらせたら日本一の若手女優じゃないかなと思うくらいです(笑)。
 スケジュール的に過酷な現場だったのですが、主役だからいつも現場にいますし、ガッツもあるし、頑張るし、弱音吐かないし、前向きに取り組んでくれるし、愛嬌もあるしで、現場がすごく助かったんです。"彼女が頑張っているから俺達も弱音を吐かないでおこうよ"って言えるくらいの頑張りをみせてくれたので、本当にこの子でよかったと思いました。


――そういえば撮影中、監督の恋話で盛り上がったと川島さんからお聞きしたのですが、どのようなお話なんですか?

山本:それは入江君にも言われたんですけど……、何を喋ったのか覚えてないんです。多分、半同棲していた彼女に逃げられた話をしていたんだと思います(笑)。
 でもまあ他愛のない話ですよ。あの世代にとっては重い話かもしれませんけど。多分その話じゃないかな(笑)。


――随分濃いお話だったんですね(笑) 今日はありがとうございました。

<インタビュー:だーくまたお>
<撮影:藤本厚>

映画『私の優しくない先輩』
2010年7月17日(土)より、新宿バルト9、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

<スタッフ>
監督:山本寛
原作:日日日
脚本:大野敏哉
音楽:神前暁
コリオグラファー:夏まゆみ

<キャスト>
西表耶麻子:川島海荷
不破風和:金田哲
南愛治:入江甚儀
筧喜久子:児玉絹世
西表美千代:小川菜摘:
西表誠:高田延彦

>>映画『私の優しくない先輩』公式サイト

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