小説家・秋田禎信氏スペシャルインタビュー

「箱の中でのおもちゃの戦いを、どこまでも真剣に描く」――新作『ハンターダーク』リリースと『魔術士オーフェン』再開を控えた今の胸中にせまる!秋田禎信氏スペシャルインタビュー

 『魔術士オーフェンはぐれ旅』シリーズが1000万部を越える大ヒットとなった小説家・秋田禎信氏書き下ろしの新作小説『ハンターダーク』が、2011年3月26日、TOブックスから発売される。

 『ハンターダーク』は、闇に閉ざされた地下世界で目覚めた機械人"ザ・ハンター"が、志を同じくする4人の機械人と共に"闇の一党"として戦いを繰り広げる物語。機械人たちは生体脳以外全てを機械に置き換えられており、それぞれに特異な外形や能力、個性的なパーソリティを持っている。同作では機械人たちの能力を活かした戦いに次ぐ戦い、そして生身の身体を失った彼らが求め続ける"何か"が、秋田氏ならではの筆致で描かれている。闇に覆われた世界にうごめく機械たちを丁寧に描写する文章には重量感があるが、読み進めるうちに独特の世界観と機械人たちの生き様にグイグイと引きこまれる一作だ。

 今回、作者の秋田禎信さんに、発売が迫った『ハンターダーク』、そして今年の秋に再開することが決定した『魔術士オーフェン』新シリーズについてインタビューを行なったので、紹介しよう。(取材・文:中里キリ)

●僕、暗いの怖いんですよ(笑)

──『ハンターダーク』を書くまでの経緯を教えてください。

秋田禎信氏(以下秋田):元々は、岸啓介さんという造形作家さんの作った造形物がありまして、それを映像作品にしようという企画だったんです。主人公たち5人のキャラクター造形だけが先にある状態だったので、まず原作になる作品を書いてほしいという依頼がスタートでした。その後色々ありまして、それを別物として本にすることになった感じです。キャラクターを見て浮かんだものを直感的に"ばーっ"と書いたので、制作期間は短いです。

──執筆する上でのこだわりを聞かせてください。

秋田:内容としてはそんなに変わったことはしていないんですよ。でも、できあがったものはちょっと変わったものになってると思います。基本的には超合金のおもちゃをぶつけあって遊んているような、おもちゃっぽいにぎやかな感じをイメージしています。脳天気な活劇を、大真面目にやりたいと思ったんです。

──作品の中の"おもちゃ"から見ると、非常に真剣な生き死にの話になっているわけですね。

秋田:そうですね。設定は馬鹿馬鹿しくて滑稽でもあるんですが、箱の中では大真面目なんです。

──文体や展開はシリアスですが、好きな武器を自由に口から出す能力など、かなりなんでもありな感じもあります。

秋田:基本は馬鹿馬鹿しいんです。身体ががたついて動けなくなるから、天からオイルが降って来てそれで動けるとか、かなりありえないですよね。でもみんな大真面目。

──生きるために必要な物は天から与えられるとか、光を求めて争うとか、どこか神話的ですね。

秋田:彼らのやっていることは、彼ら自身には非常に切実なんです。機械人たちは自暴自棄で暴力的になっていて、そこにヒーローのような、「それでいいのか」と問いかける存在が現れる。物語としては普通なんです。僕の中では結構カートゥーンチックに作っています。

──閉じた環境、暗闇と暴力による極限状況に置かれた人たちを描くモチーフは、以前書かれた『閉鎖のシステム』を思い出します。

秋田:僕、暗いの怖いんですよ(笑)。子供の頃学校がかなり遠かったんですが、田舎の町で山道を通ると近道ができたんです。登下校で通るのは禁止されてたんですが、帰りが遅くなった日にいいやと思ってそこに入ったんです。その時、日が暮れた後の山の中があまりに真っ暗だったのが衝撃で……そこまで暗い外の闇というものを知らなかったので。真っ暗な闇の中を手探りで歩いているとすごく怖いんですけど、自分に酔ってしまうというか、なんだかかっこいいような高揚感があって。その時の経験が強く残っていて、それ以来暗闇ってのは逃れられない、引きずっているものなんです。暗闇はホラー的に見てもいいモチーフで、怖いんだけど目を背けられない、そんなところがあると感じています。

──暗闇の中での機械人たちの物語、戦いを描くというのはかなり挑戦的な試みなのでは。

秋田:要素要素を抽出して考えると、誰も見たことがないものはあまりないはずなんです。展開や作り方は非常にオーソドックス。でも組み立ててみると案外やられていない感じに仕上がっているんじゃないかと思います。よく知っているおもちゃで新しい遊び方をしているような、そんなイメージです。

──登場人物が"機械人"であるから描けることなどはありますか?

秋田:登場するのは、元々は人間なんだけど機械に改造されてしまってる人たちなんです。その過程で失ってしまった物も当然あるんですが、逆に得たものもある。ただ、みんな非常に不安定な状態に陥っていて、だから何かがおかしい。それを主人公が正していくと言えば大げさですが、見定めていくような感じになっています。

──身体を取り去って機械にすることで、逆に人間の根源的なものや本能が剥き出しになっているように思います。

秋田:人間と機械には、本当に僕らが思っているほどの違いはあるのかとか、人間が当たり前に意識しているけれど、無くしては駄目なものについてとか、そういったことは考えていますね。

<b>『ハンターダーク』</b><br>2011年3月26日(土)発売<br>価格:2940円(税込)<br>発行元:TO ブックス<br>(C) 2011 Yoshinobu Akita

『ハンターダーク』
2011年3月26日(土)発売
価格:2940円(税込)
発行元:TO ブックス
(C) 2011 Yoshinobu Akita

●『ハンターダーク』はライトノベルなのか?

──最近のライトノベルの流れでは、これだけ読み応えのある骨太な作品は珍しいと思います。そもそも『ハンターダーク』はライトノベルだとお考えですか?

秋田:本にするときにも困ったんですよ。本屋さんになんて言って渡せばいいのか、ジャンルがよくわからないんですね。先ほども言ったように、よくある要素をより合わせて、あまりない作品になっているので、どこか懐かしい感じもあるんじゃないかと思います。ジュブナイルって、そういうものなんじゃないかと思うんです。空気感のようなあいまいな話になりましたが、どういったジャンルであるかは、読んだ上で感じてもらえればと思います。本棚の好きな棚に置いてください(笑)。

──魅力的な機械人が敵味方に登場しますが、キャラ立てはどのように?

秋田:すごくおもちゃ的に考えてますね。僕の中の感覚をそのまま言葉にすると、"ガチャっと作ってる"という感じなんですが……(笑)。見た目で物語がわかる面白さってあると思うんです。背景に物語が用意されていなかったとしても、「このロボットのとんがった部分からは光線が出るに違いない」とかの感覚ってあるじゃないですか。なのでシルエットや武器などから、おもちゃっぽくイメージを広げています。僕がほしいおもちゃを作っています。

──では実際におもちゃ化されたりしたら嬉しいですね。例えばワンフェスで個人ディーラーさんが作る、というのはありですか?

秋田:おもちゃ化はあるといいですけど、ちょっとわかんないですね(笑)。ワンフェスとかで作ってもらったりとかはまるっきりOK、大歓迎ですよ。

──アニメイトでは特典として短編小説がつきますが、そちらはどんな内容でしょうか。

秋田:先ほどふざけた設定を大真面目にと言いましたが、書いている時はわりと余計なことを色々考えてるんです。ですが、今回については、メタ的な考えをいれない、冷静にならないというのをルールにしています。小冊子では、逆にそれを積極的にやっているんです。こいつらの悩みめんどくせーな、みたいな頭の中にあったことを書いてるので、気楽に楽しんでもらえたらと思います。


●『魔術士オーフェン』が再始動。ファン注目の中身は!?

──2011年秋に『魔術士オーフェン』の新シリーズが始動するとのことですが、どういったものになりますか?

秋田:2009年冬に出した『秋田禎信BOX』の中で、さわりだけで終わっていた部分を広げてみようと思っています。名前だけ出ていて登場しなかったキャラや、全くの新キャラクターをつついていってみようかと思っています。

──主人公はオーフェンですか?

秋田:オーフェンも中年のおっさんですから、あまりでしゃばられても困るんですが(笑)。一応主人公はオーフェンです。話としてはBOXで書いた話の続きなので、前シリーズの3年後ぐらいになると思います。

──『魔術士オーフェン』は長編はシリアス、短編はコミカルな感じでしたが、テイストはどちらに近くなりますか?

秋田:両方入れ込んでいければと考えています。『オーフェン』については僕自身も忘れていることがたくさんあるので、思い出しながら隙間を埋めていこうと思います。

──ありがとうございます。最後に『ハンターダーク』を待っているファンの皆さんにメッセージをお願いします。

秋田:懐かしいような変な味、駄菓子のような作品と僕は考えています。懐かしさの中にちょっと違和感があるような話なので、面白がってもらえたらと思います。

『ハンターダーク』
2011年3月26日(土)発売
価格:2,940円(税込)
頁数:472 ページ
発行元:TO ブックス

>>TOブックス-『ハンターダーク』情報ページ

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