
『吉田尚記がアニメで企んでる』、第8回放送のゲストは現在劇場公開中の映画『言の葉の庭』の新海誠監督
NOTTVで毎週火曜日、20時から生放送中の番組『吉田尚記がアニメで企んでる』(再放送は日曜12:00~12:58)。司会はアニメ好きとして知られるニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さん。この番組は毎回アニメクリエイターをゲストに招き、制作現場の裏側を紹介するバラエティートーク番組だ。
6月4日に放送された第8回のゲストは、現在劇場公開中の映画『言の葉の庭』の作者である新海誠監督。新海誠監督はこれまでに『ほしのこえ』や『秒速5センチメートル』など数々の作品を世に送り出しており、国内外に多くのファンを持つアニメーション監督だ。そして、今回もスタジオにはそんな新海誠監督のファンが観覧希望者として訪れた。なかには『言の葉の庭』を10回以上観に行っている筋金入りの新海誠ファンもいた。
番組が始まり、吉田アナによるオープニングトークが終わると、ゲストの新海誠監督が登場。現われた新海さんは、とてもリラックスしている様子だった。それもそのはず、実はこの一週間で吉田アナと新海さんは4回も会っている。現在、新海さんは『言の葉の庭』の舞台挨拶で全国の劇場を飛び回っているが、その初日と2日目の舞台挨拶の司会が、吉田アナが担当しているとのこと。そのうえ、吉田アナのラジオ番組にも出演しており、吉田アナは「今週は嫁と会話した量より新海さんと会話している量のほうが多い」とコメントしていたので、かなりの時間をいっしょに過ごしているんだろう。
アニメを作りたかったのではなく、やりたいことをやった結果がオリジナルアニメ作品
番組の冒頭は、「新海誠監督の足跡」がテーマ。そもそも新海誠監督は、かつてゲーム開発会社でファンタジーゲームの背景や映像、ロゴデザインなどを手がけていた人物。新海さんによると、当時は毎日武蔵野線で通勤して、終業後はコンビニで弁当を買って帰るような、ごく普通の生活をしていたそうだ。新海さんは「すごく一般的な東京の社会人でした」と語っていた。
そんなごく普通の生活をしているのに、会社に行けば「輝く草原」など、日常の風景とギャップのある美しい世界を描く毎日だった。あるとき新海さんは「満員電車の武蔵野線や夜のコンビニも肯定しないと生活がきついなぁ」と思うようになった。これがきっかけで、新海誠監督のオリジナル作品第一弾『彼女と彼女の猫』が生まれた。新海さんは、自主制作アニメを作りたかったのではなく、本当にやりたいこと・描きたいことを選んだら、それが自主制作アニメだったようだ。
新海監督は足が好きすぎる!?
トークのテーマが現在公開中の映画『言の葉の庭』になると、吉田アナは「モチーフ的に変態的に美しいとこがある」とコメント。さらに「みんなが新海監督は足が好きすぎるだろと思ってる」と、ファンの声を代弁した。すると新海さんは「足が嫌いな人はいませんよね? ただ、今回は足の映画を作ろうと思ったのではなくて、靴の映画なんですけどね……」と笑顔で答えるとスタジオは大爆笑。しかしトークが進むと新海さんは、足が好きなのは自覚してなかったけど、今回の『言の葉の庭』であまりにも多くの人から「足好き」と言われて、自覚し始めてきたそうだ。
作品にして残すのは恥ずかしい?
吉田アナが「フェティッシュな作品を世の中に残すことは恥ずかしくないか?」と問うと、新海さんは「『言の葉の庭』はまったく恥ずかしくない」と即答した。昔は多少は恥ずかしいと思うこともあったそうだが、今回の作品については、「きれいにパッケージングしたのでみんなに見てほしい」とコメントしていた。この答えに対して吉田アナは、「新海さんがものすごく大きな座組でアニメを作ったらどんなものが生まれるのか見てみたい」と興味を示した。きっと番組を見ていた新海誠ファンのみなさんも、そう思ったに違いない!
なお、この第8回放送も、ニコニコ動画にて特別に全編公開を行っている。監督のファンはぜひチェックを!
番組終了後に新海誠監督にインタビュー!
──番組に出演された感想をお聞かせください。吉田アナとのフリートークは止まりませんでしたね。
新海誠監督:吉田さんが掘り下げる方だから、普段あまり話さない内容もお話できました。とても楽しい番組でした。
──番組中に、吉田アナは今週だけで4回も会っているとおっしゃっていましたが?
新海:先週の木曜日から、ほぼ毎日会ってます(笑)。木、金、土と続けて会いました。今日の火曜日も会ったので、4回になります(笑)。今回、舞台挨拶をお願いしているので『言の葉の庭』について話すのですけど、毎回ちょっとずつ違う話しをしてます。そして今日の番組でも、また新しい話ができました。
──それだけ会って話してるのに、今日の番組も時間が足りませんでした。
新海:吉田さんがそういう人ですからね(笑)。「そんなところまで話す必要あるの?」ってくらい、深い話を掘り進める方です。
──それは新海さんが「足が好き」という内容の話しですか?(笑)
新海:「足が好き」という話は他でも少ししますけど、今日は自分の深い部分にある動機の話、例えば「自然との一体感」とか「風景を見て涙が出てしまう」とか、アニメとあまり関係ないと言えば関係ないような部分は新しい話でした。
──とても興味深い話だと思いました。スタジオのみなさんも真剣に聞き入ってました。
新海:本当ですか? そう言っていただけると救われます(笑)。
──番組を振り返りたいのですが、「アニメは実写映像にリアリティーではかなわない」とおっしゃっていましたね?
新海:実写はリアルそのものですから、それは単純な意味での「リアリティーさ」ではかないませんよね。でも、人間は自分の目と脳を通じてリアルを感じるんだと思います。なので、主観を通じてのリアルということであれば、アニメーションのほうが有利だと思います。僕たちが「印象的だ」と思うところを抽出して、不必要な部分は描かない。そうすれば、アニメーションの映像は、より「純粋な力」を持った映像になると思います。
──新海さんは風景の描写が特徴的ですが、新海さんの目にこの世界の風景はどのように見えていますか? 普通の人と違うように映ってると思うのですが。
新海:いや、違わないと思いますよ(笑)。ただ、見るときになにを考えているのか、意図的に考えようとしているのかは、もしかしたら職業的に違うのかもしれません。番組中にもお話しましたが、実際の風景というのはどこまでも写り込みがあったり、普段あんまり多くの人が見ないであろう「風景の端っこの道路のシミ」みたいなものとかまで手を抜かずに描き出されてるんです。それを人の手で描こうと思ったら、どれだけタイヘンなんだろう?というのは考えることもあります。
──確かに普通の人は風景を見て「これをどうやって描こうか?」とは考えなさそうです。
新海:建物を見て、これを3DCGで再現するにはどうしたらいいのか? しかも現実世界は止め絵じゃなくて動いてますからタイヘンです。
──新海さんの作品には3DCGも多く取り入れてますが、あまり3Dっぽく見えないのはテクニックでしょうか?
新海:テクニックもあると思いますが、コンセプトが重要かな? 日本のアニメって、背景の質感とセル画の質感のふたつの世界がミックスされているんです。近年はそこに、3DCGの質感も加わってきました。むき出しの3DCGをそのまま使う作品もあれば、劇場版の『ヱヴァンゲリヲン』のように2Dなのか3Dなのかわからないくらいセルに馴染ませる作品もあります。僕は後者の手法で、3DCGをセルの代替物として使っています。だから、馴染んで見えるのだと思います。
──番組中に出た、電車のお話もおもしろかったです。「鉄オタではないことを、声を大にして言っておきたい」とおっしゃってました(笑)。
新海:いや、別にどっちでもいいんですけどね(笑)。そんなに電車に詳しくないということを伝えたかったのです。
──そのお話の流れで、好きなもの・趣味はほとんどないとコメントしていましたが?
新海:「これがあれば幸せ」みたいなものは、パッと思いつかないです。強いて言えば、「作品制作」が好きなのかな? 単純に絵を描くのは得意じゃないし、それほど好きじゃないですけど、アニメーション作品を1年とかかけて制作するのは喜びを感じます。あとはなにかなぁ? お酒を飲むことは好きですし、ネコと遊ぶことも好きです。あと、読書も好きです。
──まるで普通の人の趣味ですね!(笑)
新海:だって、普通の人間ですから!
一同:(笑)
──特出して好きなものがないからこそ、絵作りの作業で「人物も背景も同じ力量で描ける」とおっしゃってました。
新海:はい。力量は同じです。ただ、カットごとにコンセプトがありますから、そのカットの主役を考えて絵を作ります。主役は絵だけでなく、音の場合もあります。映像に絞って言えば、このカットのなかでなにが主役かは常に考えて作っています。例えば足が主役の場合は足にフォーカスをあてて、背景はぼかす、そのような見せ方は考えます。
──『言の葉の庭』は被写界深度のコントロールがすごいですね。特に雨のシーンのフォーカスを動かすのには、そうとう苦労されたのじゃないでしょうか?
新海:今回の作品はけっこう深度を動かすようにしました。雨のシーンで深度を動かすのってタイヘンなんですよね。雨は描いてる場合もあるし、CGのパーティクルを使ってる場合もあります。ですが、CGツールで自動的に深度を表現しているのではなく、あくまでも2Dベースで考えています。5層くらいに分けた雨をシーンに合わせて配置して、その5層のなかで徐々にぼかしていったり、ぼかす層とぼかさない層を分けたりしてシーンを作っています。
──ツールに頼らず、あえて2Dで考えて作業をするのは時間がかかるのではないですか?
新海:でもひとりで作っているわけじゃないですから。劇場版の作品という観点で言うと、他の作品とまったく変わらないと思います。むしろ作画枚数なら劇場版としては少なめだと思います。作画枚数が少なめな分、撮影・コンポジット・AfterEffectsの作業のボリュームは多いかもしれませんね。
──普段、他の映像作品を見るときはなにを考えてますか?
新海:アニメーション作品は自分と同じフィールドですから、「よくできてるなぁ」とか「どうやって作ってるんだろう?」とか、技術者や監督、作り手としての視点で見ることが多いです。
──最近お気に入りの作品はありますか?
新海:今期のアニメで唯一見ている作品は『惡の華』です。まだ最新話まで見てないのですが、純粋にすごいなぁと思いました。思春期に抱え込んだものを増幅して描くというのは、ちょっと僕の目指してるものと似ているのかもなぁ~と思いました。あと、実写を元にした絵作りをしているので、当然ロケをしています。そこも似てます。
それと、去年の作品ですが『009 RE:CYBORG』も好きです。劇場にも観に行きましたし、BDも見ました。あの作品は3DCGのセルシェーディングなんですが、セル画のフェティッシュな部分もちゃんと描かれてるんです。やはり神山監督はすごいなぁと。
──新海さんの作品は、まだキャラクターは3DCGではないですね?
新海:そうですね。3DCGを使ってキャラクターを『009 RE:CYBORG』のレベルで描くとなると、まだタイヘンだと思うんです。まずはキャラクターのモデリングから入らなければなりません。3DCGを突き詰めるよりは描いた方が絶対に早いと思うんですよね。なので作品を手っ取り早く作るには、まだ2Dの環境のほうがいいです。きっと神山さんは業界全体のワークフローを考えて、この時期に3DCGで『009 RE:CYBORG』を作ったと思うんです。神山さんくらいの覚悟がないとできないですね。
──新海さんが次に作ってみたい作品は?
新海:SF作品を作ってみたいです。すごくスケールの大きい世界のなかで、人間同士のやり取りを際立たせた作品を作ってみたいなという気持ちはあります。ですが、いまはそれくらいしかアイデアはありません。もし今後、自分が大きいスケールの仕事ができるときが来たら、一旦はプロデューサー的な目線で立ち止まると思うんです。大きな規模でSF作品を作っちゃっていいものかどうか。上手くいかなかったら問題ですから、いまはまだわからないです。それにはまず、『言の葉の庭』がどれくらいの人たちにどのように届いたかを見極めて、それから考えることです。
──いま『言の葉の庭』の舞台挨拶で全国を回っているそうですが、実際にお客さんと触れ合った感想は?
新海:僕にとって観客のみなさんの前に立つことは喜びなんです。一生懸命に作った作品ですから、それに足を運んで見に来てくださるというのは嬉しいことです。そして、作品の反響はとてもよいです。いままでの作品に比べて、初動も10倍くらいのレベルです。もしかしたら僕の作品のなかで、もっともヒットする作品になるかもしれません。
──それはなぜか、分析されていますか?
新海:今回の『言の葉の庭』は配給の東宝さんが熱心にプロモーションをしてくださったのが大きいと思います。それと、作品としてなるべく多くの人に意図が伝わるように注意して作りました。それがある程度きちんと効果が出たのだと思います。また、誰が見てもなにかを受け止めてくれるモノが含まれている作品にしました。アニメが好きでも嫌いでも、恋愛が好きでも嫌いでも、必ず楽しめる作品にしたつもりです。
──今日の番組終了後、新海さんが番組観覧者に歩み寄っていってサインを書いてました。すごいファンサービスですね! 新海さんにとって、ファンのみなさんはどのような存在ですか?
新海:それはもう、単純に支えてもらってる存在です。僕はサラリーマンではないので、印税をいただいて生活してますから、もちろん経済的にも支えてもらってます。今日の観客4人とも、舞台挨拶にも来てくださったらしいです。そのなかのひとりは、舞台挨拶初日に握手をしにきてくれて会話をしたのを覚えてます。
──では最近会ったばかりのファンなのですね!
新海:またそのうちの高校生の女の子は、スタッフ経由でお手紙をいただいたことがあるんです。手紙に彼女のtwitterアカウントが書いてあったので見てみたら、「新海さんのサイン会にどうしても行きたいんだけど、体育祭のため行けなくて悲しい」と書かれていたんです。そして、今日の観覧募集に当たったことも書かれていたので、これはサインをしてあげなきゃと思いました。
──すごいファンサービス!
新海:当たり前ですけど、ファンのみなさんにも人生があって、その彼・彼女らの人生のなかの、わずかごく一部の期間に作品を通して関わることができるのですから、なるべく共有できるようにしたいな?と思う気持ちはあります。本当に、ファンのみなさんにはひたすら感謝の気持ちでいっぱいです。
──では最後に伺います。もしいま監督になっていなかったら、なにになっていたか想像できますか?
新海:そう聞かれたとき、「普通のサラリーマンになりたかった」と答えることはときどきあるんですけど、僕は昔、普通の会社員だったんです。いまは辞めてフリーですが、本当はみなさんと同じように会社には仲間がいて普通の生活をしている人間でした。監督ってどうしてもひとりポツンとしている存在なので、同じ仲間がいて、いっしょにご飯を食べたりできる人たちは羨ましいなぁ?と思うときはあります。僕にサラリーマンはこなせないと思いますけどね(笑)。
「吉田尚記がアニメで企んでる」
NOTTV 毎週火曜 20:00~20:58 生放送 (再放送:毎週日曜 12:00~12:58)
ニッポン放送 毎週日曜 25:30~26:00
今後のゲスト
6月25日「攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Pain」黄瀬和哉、冲方丁
7月9日「銀魂」の藤田陽一、樋口弘光
NOTTV100契約突破を記念して、7月14日(日)12:00~公開生放送が決定!
「吉田尚記が代アニで企んでる」~ハナガサキマクリ 惡の華 in よアニ~
ゲストは「惡の華」監督・長濵博史、原作・押見修造、春日高男役・植田慎一郎 他
観覧の応募方法等は番組サイト http://tv1.nottv.jp/anime/yoani/ をご覧ください。
<放送内容>
“今、自分がいちばん見たい番組を作る”というコンセプトのもとに吉田尚記が話題のアニメに仕掛けます!
アニメ界にその名を轟かすカリスマアナウンサー、ニッポン放送の吉田尚記(よしだひさのり)が“今、自分がいちばん見たい番組を作る”というコンセプトのもとに、ラジオだけではできない、テレビだけでもできない、NOTTVだからできる「企み」を話題のアニメ作品に仕掛けていきます。
作品作りにこだわりぬいたクリエイターの核心に迫るアニメファンのためのアニメ新番組。
<出演者>
吉田尚記
<ツイッターハッシュタグ>
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