
劇中アニメの“トンデモ展開構想”に観客ざわつく……!? 映画『麦子さんと』トークショーレポート&本作監督・吉田恵輔氏インタビュー
麦子(堀北真希)は、兄の憲男(松田龍平)とふたりで暮らしながら、アニメショップで働くオタク系女子。そんな麦子の元に、消息不明だった母・彩子(余 貴美子)が突然現れ、半ば強引に家に転がり込む。……そして、数か月ほどの共同生活の末亡くなってしまった。
母の故郷を訪れる。ところが、そこで母の面影をたどるうちに、麦子のなかのわだかまりが溶けはじめていく……。
娘の視点から、母娘間の愛のかたちを描いた映画『麦子さんと』。『純喫茶磯辺』や『さんかく』などで知られる吉田恵輔監督の最新作として、12月21日(土)に公開される。主人公・麦子が声優を目指すアニメイト店員であるほか、劇中に登場するオリジナルアニメは「Production I.G」が手がけているという、アニメ好きにも非常に興味深い内容だ。
そこで、10月21日(月)にアニメイト池袋本店で行われた『麦子さんと』試写会&吉田恵輔監督トークイベント「吉田監督inアニメナイト!」に潜入! トークイベントのレポートと、吉田監督へのインタビューをそれぞれお届けしよう。
■ トークショーでは、劇中のオリジナルアニメや監督が好きなアニメ作品など、アニメにどっぷり浸る!
試写会が終わると、司会であるアフィリア・サーガのコヒメさん、レイミーさんの呼び込みで、吉田恵輔監督が壇上へ。まずは「構想約8年」という本作が完成したことに「『良かった』しかないですよね」と、感慨深げにひと言。
なんでも、本来であれば構想1年の時点で撮るぐらいの気持ちでいたとのこと。しかし、製作会社の倒産など紆余曲折があったため、実際に映画となるまで年数がかかったそうだ。ともあれ、この間に台本の練り直しができ「おかげでいい本になった」とか。改めて作品に対する確かな自信とをみせた。
また、堀北真希さんを麦子役に起用したことについては、堀北さんがオタク女子を演じること、さらにアニメイトで店員をしているということの「面白さ」を挙げた監督。これには、コヒメさんとレイミーさんも「私たちも普段アニメイトさんにはよく行くんですけど、そこに堀北さんが居るって不思議な感じです」「ちょっとドキドキしました」と言い、話に花が咲いていた。
そして劇中に登場するアニメ『今ドキッ!同級生』の話題へ。この作品は、吉田監督自身が観たいと思った作品を形にしたそうだ。作品の世界観は、「プリキュアとレールガンとまどマギをつまんだ、寄せ集めで作っただろうという、あえてバッタモン臭のする感じを理想にした」とのこと。
ただ、『麦子さんと』のなかで登場するのは25カットほどだそうで、「まだまだ出し切れてない」とか。ストーリー展開や劇中でやりたいことなど構想は様々あるとも語り、「これ観たいって方は(制作に携わった)Production I.Gのほうに言ってくれれば、26話くらいにはなるかもしれない」と、シリーズ化への意欲を示した。
これもあってか、「映画の中では一切説明されてないんですけど……」と『今ドキッ!同級生』の物語についても言及。
「(主人公の)メグちゃんとシュウくんは、実は異母兄弟なんですよね。で、それを高校一年生のときに知らされて、一緒に住むことになっちゃうんです。しかも、同じ学校の同じクラスになってしまう。“今ドキッ!同級生”になるわけです」といった序章のほか、「(シュウくんは)ネガティブなんです。常にドアのところにもたれて夕日を浴びてるっていう……」というキャラ設定にも触れられた。
また、劇中に登場した“バスの中でメグが友人に向かって、メグとシュウが兄弟だということを言ってしまったことを慌てて否定している”という場面については、メグはシュウに対し密かに好意を抱いており、それをバスの中で友人に指摘された末でのシーンだったことが明かされた。
さらには、「シュウくんは実はメカニックの天才で、メグちゃんとシュウくんは謎のハッカー集団と常に戦ってるんです」と、トンデモ展開を予感させる設定もあるそうで、これには観客からもざわめきが。こういった裏話を知ったうえで作品を観ると、また違った味わいを感じられそうだ。
次に語られた、普段から観ているアニメについては「基本的に、可愛い女の子が活躍してるアニメなら大体大丈夫(好み)」と監督。とくに“制服”が大きな条件となっているそうで、魔法少女系アニメのみならず、『けいおん!』や『らき☆すた』なども好きだそうだ。「(コヒメさんに向かって)君みたいにちっちゃい子が実は怪力だったとか。そういうギャップに惹かれる」など、好みのキャラ設定についても大いに語られた。
ちなみに終盤では、吉田監督がメガホンをとった実写映画化版『銀の匙 Silver Spoon』の話題も。動物を出演させる難しさや、「意外と雨が多い」という帯広(同作ロケ地)の天候など、“実写化”特有の苦労が語られた。とはいえ、「非常に大変だったけど、面白かったので。今後もチャレンジしてみたいですね」と、『今ドキッ!同級生』シリーズ化に続き、こちらでも意欲を見せていた。
数カットとはいえ、『麦子さんと』でアニメの制作現場に触れた監督。「今回やってみて、(アニメ制作が)大変だってことが改めてわかった」とは言うものの、この実績が今後吉田監督作品の幅を広げるかもしれないと思うと、ファンたちは期待せざるを得ない。
■ アニメが好きな理由は、自身の映画と“違いすぎるところ” 吉田恵輔監督インタビュー
――母娘愛を描いた『麦子さんと』ですが、そもそもこのテーマは、どのようなきっかけで生まれたのでしょう?
吉田恵輔監督(以下、吉田):僕自身、母親に対して心を開いてなかったというか、言いたいことを言えず結構辛く当たってしまっていて、“罪悪感”みたいなものがあるんですよ。でも決して嫌いだったわけじゃなく「お母さんありがとう」っていう感謝の気持ちとか、「好き」っていう気持ちとか、誰しもが持ってる母への感情はちゃんとある。ただ表に出せないだけなんですよね。そういう“無い”んじゃなくて“出せない”人もいるっていうことを、母への“贈る手紙”にとともに、映画で表現できればと思ったんです。
――ただ聞くところによると、監督のお母様はクランクイン直前にお亡くなりになったとか。
吉田:本当は、観せるために作っていたんですけどね。「言葉には出来ないけど、映画にすれば伝わるかなー」と思って。でも亡くなってしまったので。それはそれとして、今は自分の心の整理をつけるために、一歩進むためにと思ってます。実際、整理がついたので、ちょっとスッキリはしてますね。
――監督のお母様に対する“気持ち”は、主人公・麦子を動かすことで和らいだんですね。では、そんな麦子の人物設定についても伺えればと。オタク系女子で声優を目指しているとのことですが……?
吉田:最初から声優志望という設定にしていたわけではないんです。ただ、麦子の母親はアイドルを目指していたので、その「夢を追っている」という点でふたりが通じていればいいなと。そこで、僕自身アニメ好きでもあることを踏まえて「堀北さんがアニメ好きで声優目指してたらおもしろいな」って思ったんです。麦子役は当初から堀北さんをイメージしてたので、「堀北さん可愛いしハマるなー」とも。それに、声優って人気の職業だし、なかなかなれるものではないですよね。
――確かに。
吉田:なってしまえば「すごいな!」だけど、目指してるっていう段階では、難しいし苦しい夢のひとつだと思うんです。それに、本人は大真面目なのに周りからはどこか「夢でしか無いでしょ」と思われがちというか。そういう意味でも“難しい”業界のものがハマるなって思ったんですよね。
――なるほど。では声優について語られたところで、ここからは「アニメイトTV」らしくアニメのお話を。そもそも、監督にとってアニメの魅力ってどこなんでしょう?
吉田:僕、映画では基本的にリアリティのあることしかやりたくないんですよ。セリフ回しも感情表現も、リアルに作っていくのが目標。でも、アニメはそれを無視出来るじゃないですか。魔法を使うこともできるし、ひとりごとを言っても許される。例えば、ひとり気付く瞬間を演出する場合、僕の映画では表情だけだけど、アニメだと「そっかあ! そういうことかあ!」とかしゃべっちゃっても良いっていうか。この、僕が普段やれないことをやってる感じがいいなあって思うんです。僕にとってアニメはあまりにも独特で、“違いすぎるから好き”っていうのがあるのかもしれないですね。
――本作では、そんなアニメの制作にも挑戦しました。トークショーではアニメのストーリーを主にお話されていましたが、ここでは劇中での必要性を伺えれば。
吉田:映画自体に無きゃ困るかって言ったら、全く困らないんですよ。正直なところ無くても良い。無くてもいい上にお金もかかるんです。でも、そういう映画を作りたくなるんですよ(笑)。いつも映画を作るときは「やっちゃダメ」っていわれることを必ず一個はやってるので、そういう意味でもやりたかったんですよね。あとは、単純にアニメが好きだし、作ってみたかったから。とはいえ、僕に作れないのはわかってるんです。本は書けたとしても、絵は描けないし作り方も知らないので。ただ、自分の映画のなかでならできる。そこで夢をコンプリートするぞ!と。
――アニメ制作を「Production I.G」に依頼したのはどういった理由なんでしょう?
吉田:プロデューサーに繋がりがあったっていうのもありますけど、やっぱりこれも単純にProduction I.G制作のアニメが好きだからです。『攻殻機動隊』なんて全部観てるし。だからこれも夢のひとつですよね。受けてくださるってなったときはうれしかったです。はじめてI.Gさんに行ったときちょっとドキドキしましたもん(笑)。周りにも『攻殻機動隊』にハマってる人が多いので、「I.Gが作ったの!?」とか言われると、ちょっと得意気になれます(笑)。
――「無くても良い」と言うアニメにここまで入れ込むことができるなんて、本当にアニメが好きなんですね……!
吉田:いやでも、そこまでではないと思いますよ。アニメイトに来る人って、アニメが本当に好きな猛者しか居ないと思うので、そういう人たちにくらべたら観てない方だと……(謙遜しながら)。
――とんでもないです(笑)。では、いつ頃からアニメ好きだったんですか?
吉田:これが、歳を追うごとに好きになっていった感じなんですよ。僕、基本的に『けいおん!』『らき☆すた』とか、制服着てる女の子たちが登場するアニメが好きなんですけど、それってきっと、若い頃には戻れない僕が彼女たちに愛おしさに似たものを覚えてるからだと思うんです。画面の中でキャピキャピ魔法使ったりしてる感じっていうのは、僕にとってはなんかこう、いいなーって。歳が離れたからこそ感じるものでしょうけど。若い頃は、制服着た女の子なんて毎日横にいるし制服に対してそこまで興味わかなかったから、アニメにも惹かれなかったんでしょうね。姉ちゃんがガンダムのプラモ買ってるとき、僕はシルバニアファミリー買ってたんで。
――意外なルーツですね! では次に、ロケ地となったアニメイトについても。実際に撮影してみてどうでしたか?
吉田:ロケ地としてはやりやすい場所というほかないですけど、「抜かったな」と思ったのは、店内にモニターが多いこと。アニメイトだからアニメが流れてないとおかしいですけど、世に出てるアニメには著作が発生するんで、そのままじゃダメなんですよ。だからアニメの専門学校の卒業制作を借りたりとか、声優ユニットの映像を提供してもらったりとかして流してましたね。そこは結構苦労してます。
――映るたびに気になってしまいそうです……。では最後となりますが、読者に向けてメッセージをお願いします。
吉田:『麦子さんと』は、“母と娘のいい話”が主なんですけども、そんなかにも笑いの要素がたっぷり入ったエンタテインメント作品になってると思います。さらにそのエンタテインメント性のなかで、いい感じでスパイスになってるのがアニメです。みなさんの「(今ドキッ!同級生を)全編観たい!」と言う要望が集まれば、「続きがあるんですけど……」ってI.Gさんに話を持ちかけることができるかもしれないので、みんなで応援してほしいですね。
――公開、楽しみにしています。ありがとうございました!
・公開
2013年12月21日(土)よりロードショー
・キャスト&スタッフ
堀北真希、松田龍平、余 貴美子、温水洋一、麻生祐未、ガダルカナル・タカ、ふせえり、岡山天音、田代さやか (敬称略)
監督/吉田恵輔
・内容
お母さんはアイドルだった!?堀北真希さんが声優を目指すアニオタ女子に! 兄に松田龍平さん、母親に余 貴美子さん、豪華映画スターが親子で共演。この冬一番心が温まる、珠玉のハートフル・エンタテインメント。
・前売券
1,300円
★アニメイトオリジナル特典:ポストカード
・前売券取扱店
アニメイト池袋本店・渋谷・秋葉原・新宿・横浜・川崎・千葉・水戸・甲府、札幌・仙台・浜松・名古屋・京都・天王寺・大阪日本橋・梅田・福岡天神
>>映画「麦子さんと」公式サイト
>>アニメイト 映画「麦子さんと」チケット情報


























































