映画
『弱虫ペダル』原作者の渡辺先生にインタビュー!

舞台に“熊本”が選ばれた理由は新幹線だった……!? 劇場版の公開が迫る『弱虫ペダル』原作者の渡辺航先生にインタビュー!

 テレビアニメや舞台などの多彩なメディアミックスも好評の『弱虫ペダル』。いよいよ8月28日(金)にはオリジナルシナリオで描かれるアニメシリーズ初のオリジナル長篇『劇場版 弱虫ペダル』のロードショーが迫り、ファンのみなさんもその日を待ち遠しく思っているはず!

 そんな『弱虫ペダル』の原作は『週刊少年チャンピオン』に連載中のコミックで、単行本は現在41巻まで発売中。コミックス累計発行部数は1400万部を突破している、大人気作品です。

 今回はその原作者である渡辺航先生へのインタビューを掲載! 渡辺先生が自ら原案を務めた劇場版についてから、主人公である小野田坂道くんの誕生秘話までじっくりとお話を伺いました!

■もう、熊本一択ですよね

──劇場版のロードショーもついに間近となりましたが、今のお気持ちはいかがですか?
渡辺:アニメや映画作品を見る際、僕は素の気持ちで見られるよう前情報をなるべく入れずに見るんです。映画のストーリーを作った今回もそれは変わらず、僕自身が公開を楽しみしています!

──劇場版の原案を書かれる際に意識した点などはありますか?
渡辺:まずは、今回の舞台となる熊本についてですね。ロードレースを語る時に舞台というのは非常に大切な要素で、本場であるヨーロッパのレースでも名所旧跡の近くを通ったりしますし、その様子を撮った空撮映像を見るというのはレースの醍醐味です。大きなスクリーンで作品を楽しめる劇場版では、本当の自転車レースを見るような感覚で、そんなロードレースの楽しみ方を体験してほしいと思ったのです。

──その舞台としてふさわしいのが、熊本だったわけですね。
渡辺:僕が実家に帰省する際、熊本はよく通っていた場所で、とにかく景色が雄大で土地は広く、信号も少なくてレースをするロケーションとしては、もともと最高だと思っていました。劇場版の舞台を決めることになった時、そんな雄大な熊本を自転車が走って行く光景を見たいと思い、この場所に決めたという流れです。

──なるほど。ただ、土地の広大さだけであれば他の場所も候補として挙がったと思うのですが、何か決めてとなる物が熊本にあったのでしょうか?
渡辺:確かに、ロケーションだけであれば東北の方にある場所でも、ほかでも構いませんでした。しかし、熊本は実際に僕が走った経験があることと、新幹線が通っているというポイントがあったのです。

──新幹線ですか?
渡辺:例えば、箱根学園が熊本に行くとなると、新幹線に乗るじゃないですか。そして、そのまま乗って行くと京都駅や広島駅を通過するわけで、そこで別の高校が乗ってきたら……なんて妄想もできますよね(笑)。

──確かに、それは面白い展開ですね(笑)。
渡辺:そんなほかの場所では出来ないネタもいろいろと出てくる場所で、さらには熊本台一という劇中でも登場している高校が此処にはある。そして、この高校にはインターハイに怪我で出ることのできなかった男が居て、なかなか美味しいキャスティングもできてしまう。

──もう、熊本しかない気がしてきました(笑)。
渡辺:大きなイベントをやることになれば、ホスト校も必要になりますから、ならば熊本かなと(笑)。

──そう考えると、TVアニメでは出番の少なかった熊本台一の物語が見られるのも本作ならではの魅力になるのでしょうか。
渡辺:そうですね。TVアニメの熊本台一は少しばかり……ネタキャラでしたから(笑)。ただ、『別冊少年チャンピオン』で連載しているスピンオフシリーズの『弱虫ペダル SPARE BIKE(スペアバイク)』でもチラっと書きましたが、彼らも目標を持って頑張っていたチームなので、それを劇場版で見られるのは僕も楽しみです。

──では、各校にとっても今回は大きな意味を持つ物語になっていると思いますが、渡辺先生としてはどんな思いで原案シナリオを書かれたのでしょうか?
渡辺:インターハイ後の物語ということで、箱根学園は絶対にリベンジしたいでしょうし、広島呉南は本来スプリンターが3人のチームなので、絶対にスプリントを獲りに来るでしょう。そんな風に、各校がインターハイではできなかった部分を、劇場版ではやれたらいいなと思いながら原案を書かせてもらいました。

──なるほど。中でも気になるのは、イギリス留学という特に大きな転機を迎える巻島に関してですが、そちらに関してはいかがでしょうか?
渡辺:巻島にとって、将来の進路を考えたうえで心残りになるのは、やっぱり初心者クライマーである小野田くんなんです。そのタスキを渡すという部分をアニメでは描いてあげられなかったので、この劇場版という舞台で書いてあげたいと思っていました。3年生として、彼には坂道に託したい想いがいろいろとありますから……!

──ファンからすると、嬉しいような、寂しいような、複雑な心境ですよね(笑)。では、劇場版で先生が注目して欲しいキャラクターを挙げるとすれば誰でしょうか?
渡辺:それは勿論、新キャラクターであり、炎のクライマーこと“吉本進”です! 彼はインターハイに出るはずだったのですが、怪我で出れず、今回のレースには間に合ったという設定の選手です。ホスト校として絶対に勝ちたいレースですし、なにより彼自身が強い設定なので、みなさんも「チーム屈指の男がいたんだ!」と期待していてください(笑)。

■小野田坂道は“電車男”だった……!?

──ここからは『弱虫ペダル』そのものについてお聞きしたいのですが、渡辺先生は最初、小野田坂道をどんな主人公として描いたのでしょうか?
渡辺:僕は昔、『電車男』のコミカライズを担当していたのですが、その作品は主人公が一歩一歩進みながらも、半歩戻り、また進むみたいな作品でした。その作業が終わった後も、そんな男をもう少し書いてみたいという思いが僕の中にあり、それが坂道くん誕生へと繋がりました。

──ベースがそんな所に!
渡辺:あと、僕自身がスポーツに対して強いメンタルがないので、スポーツ作品で王道の「絶対に勝ってやる!」という主人公にすると、嘘になってしまうと感じたんです(笑)。

──嘘ですか?
渡辺:例えば、ロードレースで走っている時に隣の選手に「どけ!」って言われたら、絶対にスッって避けちゃいますから、僕は(笑)。

──(爆笑)
渡辺:これを押しのけて走らなくては駄目だと知ってはいても、相手のことを考えて譲ってしまうのが僕なんです。だから、それが出来る主人公を書いても、それは嘘の気持ちになってしまいます。一方で、小野田くんにはそんな自分の弱い部分をかなり盛り込んでいるんです。実際、僕も他人と競うロードレースより、自分との戦いになるヒルクライムのほうが好きですからね(笑)。好きなことがあって、そのために秋葉原とかに行くけど、それを誰とも共有できない寂しさを常に抱えている。ただ、彼には全く別の才能があって、全然系統の違う人にその才能を見出され、開花していったらどうなるか……。そんな感じで、小野田坂道という人物を作りあげていきました。」


──では、これまで小野田くんを描いてきて、渡辺先生にとって彼はどんな人物になりましたか?
渡辺:通常のスポーツ漫画では主人公がエースのパターンがほとんどですが、その人のメンタルを心からわかる人なんて、世の中にはほとんど居ないと思います。一番最初にゴールラインを切る人なんて、本当に一握りの存在です。200人走ったら、表彰台に上がれるのはたった3人。あとはみな「畜生っ!」と下から眺めるしかありません。僕自身だって、表彰台に憧れるひとりです。……ただ、ロードレースではその一握りのエースたちを支えるアシストという存在が居て、彼らの働きはすごい献身的で自己犠牲だけど、見ていてすごく面白い。小野田くんを主人公にしたことで、そんなアシストとしての目線でロードレースを描くことができたので、これは本当によかったと思いますし、僕自身が心から「すごいな」と感じています。

──なるほど。渡辺先生が各キャラクターのバックボーンをしっかり描いているのも、そんなアシスト目線という意識からなのでしょうか?
渡辺:そうですね。もしも、エースを主人公にしていたとしたら、それを表現するのは難しかったのではないでしょうか。むしろ、描いたところで「君はエースじゃないから、仕方ない」という価値観になってしまうはずです。一番下から上を見上げる小野田くんだからこそ、いろいろなことを知ることができる。僕自身、意識してそういう形にしたので、そこでいろいろな人を書くことができました。……意外と、みなさん気づいていませんが、読者のみなさんはこの漫画を坂道の目線で読んでいるんですよ。

──坂道目線ですか?
渡辺:例えば、読者のみなさんが巻島のことをなんて呼んでいるか知っていますか?

──巻島さん……でしょうか?
渡辺:そうですね。では、鳴子は?

──鳴子くんですよね。
渡辺:そして、今泉は“今泉くん”。金城だったら“金城さん”。

──……あぁ! なるほど!
渡辺:そう、これはすべて小野田くんから見た呼び方なんです。巻島や金城の年齢よりも年上の人でも、みんな“さん”付けで呼びますからね(笑)。表紙をバーンと描いても、だいたい坂道は端っこにいるし、僕がイベントであった人には「ずっと主人公は鳴子だと思っていました」なんて言われたこともあるくらい、彼は主人公らしくない。でも、だからこそ、坂道はすごく“入りやすい”キャラクターで、僕も気に掛けて作ってるし、一番熱を込めている人物なんです。

──そんな小野田くんが頑張ることが、また熱いところでもありますよね。
渡辺:僕は“ライジング坂道”と呼んでいますが、地平線から彼の頭と丸メガネが出てくると「キターッ!」っていう気持ちになりますよね。100人抜いて現れた瞬間とかは、すごいアガる。本当に、彼にはいつも夢と希望をもらっています(笑)。

──では、小野田くんを始め魅力的な人物を描かれている渡辺先生ですが、何かキャラクターを生みだす秘訣などはあるのでしょうか?
渡辺:その人物が、本当に現実で存在する体で作るということでしょうか。こういう人が居たら、こんな物が好きだろうなとか、こんな段階を経てこうなるんだろうな、こんな口調でこういうことは絶対に言わないだろうなといったように、とにかく想像するんです。『弱虫ペダル』で例を挙げれば、今泉は鳴子のことを「チビ」とは絶対に呼びません。何故なら、彼は性格悪そうだけど、身体的に自分より下である部分を指摘したりはしない。絶対にそういうことは言わない人間なんです。これを知らない人は今泉に「チビ」という台詞を言わせるけど、それは違う。言ってしまったら、今泉ではない。

──なるほど。それぞれのキャラクターに非常にガッチリとした人格設定があるわけですね。
渡辺:日常の中で、周りの人を見ながら「きっとこの人にはこんな考え方や、守るものがあるんだろうな……」と想像していくと自然と“そういう人もいるよねストック”が溜まっていきます(笑)。キャラクターを作るときは、そのストックから混ぜたり、並べたりして、指先から出すイメージですね。いちいち、詳細な設定表などは作ったりしませんが。

──設定表を作っていないのは意外です。
渡辺:もちろん、ベースは決めておきますよ(笑)。ただ、詳細な設定表は縛りになってしまいがちなので、それに完全に乗っかることはありません。指先から出てきて、しゃべることが正しいことですので。

──今後も、どんなキャラクターが渡辺先生から生まれるのか楽しみにしております! それでは、最後に劇場版の公開を心待ちにする読者の方々にメッセージをお願いします!
渡辺:非常に多くの方に『弱虫ペダル』を応援して頂いて、本当にありがたく思っています。登場するキャラクターには僕の一部を込めて作っていることもあって、彼らが苦しんだり、悩んだり、託されたりといろいろな思いを抱えて生きる姿をみんなが見て、喜んでもらえていることが嬉しいです。劇場版では、インターハイで戦った総北と箱根学園、京都伏見、広島呉南、そして熊本台一の活躍と合わせて、熊本の雄大な景色もぜひ劇場でご堪能ください!

──ありがとうございました!

 マイバイクを持参し、総北高校のジャージまで着て今回の取材に臨んでくれた渡辺先生。インタビューを通して、先生が『弱虫ペダル』に込める熱量や、自身が生みだしてきたキャラクターたちへの愛をひしひしと感じました!

 そんな渡辺先生がストーリー原案を担当する、初となるオリジナル長篇『劇場版 弱虫ペダル』。熊本でどんなレースが繰り広げられるのか……乞うご期待です!

>>『劇場版 弱虫ペダル』公式サイト
8月28日(金)よりロードショー
配給:東宝映像事業部

(C)渡辺航(週刊少年チャンピオン)/劇場版弱虫ペダル製作委員会
おすすめタグ
あわせて読みたい

劇場版 弱虫ペダルの関連画像集

関連商品

おすすめ特集

今期アニメ曜日別一覧
2024年春アニメ一覧 4月放送開始
2024年冬アニメ一覧 1月放送開始
2024年夏アニメ一覧 7月放送開始
2024年秋アニメ一覧 10月放送開始
2024春アニメ何観る
2024年春アニメ最速放送日
2024春アニメも声優で観る!
アニメ化決定一覧
声優さんお誕生日記念みんなの考える代表作を紹介!
平成アニメランキング