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伊藤智彦監督が『劇場版SAO』の裏話を語る!

ARの世界には様々な葛藤があった──伊藤智彦監督が『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の裏話を語る!

 ついに待望の劇場公開が行われる『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』。『ソードアート・オンライン』(以下、SAO)シリーズの最新作でもある本作は、今までのVR(仮想現実)から世界を移し、AR(拡張現実)を舞台にした作品となっています。

 今でこそARが話題になっていますが、劇場版の制作がスタートした当初はまだそこまで一般大衆に重要視されていませんでした。そんな大きな決断をしたひとりでもある伊藤智彦監督は、本作をどのようにとらえているのでしょうか?

 劇場版製作秘話はもちろんのこと、『SAO』の気になる裏話までたっぷりと伺ったインタビューの模様をお届けします。

『ポケモンGO』が大ヒットして、「AR、意外といけるな」という流れができた
──間もなく公開になる率直な感想をお聞きかせください。
※取材日は公開日前。


伊藤智彦監督(以下、伊藤):ようやく終わったという感じです。作画を始めてからは、ほぼ1年になりますが、原作者の川原 礫さんにネタ出しをしてもらう企画段階からは約2年ほど経ちましたから。


──今回は完全オリジナルの内容を川原先生が作り上げています。最初に川原先生の原案を見たときはどんな印象を受けましたか?

伊藤:「AR(拡張現実)なのか……」というのは感じました。俺をはじめプロデューサー陣も「VR(仮想現実)の方が逆に新しくないですか?」と感じていたんですが、やはりVR主流の時代にARでいくのは、「どうなんだろう?」という意見もありました。

──実際に作ってみて、その印象が変わりましたか?

伊藤:実は劇場版を作っている最中に『ポケモンGO』が大ヒットして、「AR、意外といけるな」って打ち合わせでも理解されやすくなる現象が起きたんです。そこからはなんとなく「いけそうな気がする」「さすが川原 礫」ってみんなで思っていました。


──現実でも、ホロレンズ(※1)をはじめARがすごく取り上げられてる場面が多くなってきました。やはり、川原先生は先を見据えているなと実感します。

※1:マイクロソフトが開発したホログラフィックコンピューティング。頭に装着し、ワイアレスでAR体験が可能となっている。

伊藤:そうなんです。ホロレンズも体験させていただきましたが、《オーグマー》(※2)みたいだなと思いました。一緒って言うと怒られるんですけど(笑)。川原さんは流石だなと思いましたね。

※2:劇場版でキリトたちが使用するAR装置。ソニーがデザインを担当している。

──今回はARの世界ということで、アニメを作る上で意識したことはありましたか?

伊藤:ARはあくまでも現実なので、実際の体を用いてアクションしなければいけません。超人的に飛んだり跳ねたりはできませんし、武器はホログラムのようなものなので鍔迫り合いはできません。

アクションの部分に関しては企画段階から「どうしよう?」という話が出てはいましたが、完成したものを見るとその問題も解決しているのではないかと思います。


──具体的な解決方法などは?

伊藤:キリト(CV:松岡禎丞さん)とエイジ(CV:井上芳雄さん)が戦うシーンで言うと、一見すると剣と剣を合わせているように見えるんですが、実は拳と拳をぶつけているんです。

だから、黄色やオレンジ色をした火花などのエフェクトは出ていません。ゲーム的な青っぽいエフェクトは出ていますが、「ガスッ! ガスッ!」といっているのは、剣じゃなくて拳の音なんです。それも作画で表現しています。

それは1コマ2コマでしか描いていないので、気づかないかと思いますが、気を付けて作業しました。

──なるほど。アクションで言えば、モンスターなどの描写も特徴的だと思いました。

伊藤:モンスターの攻撃に関しては、剣が接近してきても盾で受け止められるようには設定しました。実際に体験しているキャラクターからすると、すごい圧力を感じていると思いますが、実際にはモンスターが存在しているわけではないので、リアクションはゲームをプレイしている人のロールプレイや演技ですね。

裏設定では、身につけているコントローラーがバイブレーションすることでダメージ表現を伝えているというのはあるんですけど、劇中でそれは語ってはいません……(笑)。


──今回、キャラクターたちにも変化があったようですね。

伊藤:そうですね。シナリオ的にはキリトは悩みました。ずっとVRが大好きだったキリトは、簡単にARに移れないんじゃないのかなと思ったんです。劇場版では、基本的にARに乗り気じゃない人の代表として扱っています。

対して、クラインをはじめとした他のメンバーは楽しんでやっているし、アスナはアスナで目的をもってゲームに参加します。そういった役割付けは持たせて、対比を作るようにはしましたね。


──キリトが乗り気ではないのは印象的でしたが、演技面ではどういったディレクションがあったのでしょうか?

伊藤:こちらから直接お願いすることは少なかったんですが、VRのときよりも「ちゃんと身体を動かしている感じが出るように芝居をしました」って松岡くんが言っていましたね。

ARならではの現実に現れる背景世界
──ボスエリアでリアルの世界がARの世界にガラッと切り替わっていくシーンも斬新でした。実際の街はロケハンなどもされたのでしょうか?

伊藤:ロケハンも行いました。大体のシーンを都内でまかなえたので、アクションパートの作画スタッフと美術設定のスタッフと一緒に1日中回りましたね。分からなくなったら、その都度みんなで行って写真を撮りに行って参考にしました。

実際にある建物が、別のARの建物に見えるようになることは何となくルールとして作っていました。例えば、階段があったら何かしらの階段的なオブジェクトを設置したりしています。


──これまでのシリーズでは3つのゲームの世界を転々として、それぞれ個々のゲーム内の世界観があったと思います。今回ARゲームである《オーディナル・スケール》の世界観はどういったものなのでしょうか?

伊藤:当初の《オーディナル・スケール》そのものは、もうちょっとSFよりのゲームでした。キリトたちは服装もナチュラルなものを着ていますが、元は、和風っぽいヤツもいるし、宇宙人っぽいヤツもいるしといった、ごった煮感があるデザインだったんです。

「ファンタジーに寄せ過ぎない方がいいな」という構想があって、SF的な武器を持っているキャラクターも登場させています。風景を少々ファンタジーっぽく見せているのは、『SAO』のボスが出ているステージのみですね。本来の《オーディナル・スケール》のゲームとしては、あくまでもARなので風景は変わらないはずなんですよ。

──あ、なるほど!

伊藤:『ポケモンGO』で例えると、、普通の街中にモンスターが出てくる感じなんですが、例外的に『SAO』ボスが出てくると風景が変わるんです。それもまた、映画内では説明がされていません(笑)。こういった機会でしか明かせないんですけどね。

新キャストと楽曲から見る『SAO』
──声優陣についてのお話しもお聞きしたいのですが。

伊藤:今回の新キャラクターであるユナ(CV:神田沙也加さん)は、「歌える人で誰にしよう?」という話が早い段階から出ていました。我々はそのときから神田さんの名前を出させていただいていたんです。神田さんはミュージカルの経験もありますし、「じゃあ、他のキャストもミュージカル系で揃えよう」と思ったんです。

──それでこういうキャスティングになっているんですね。

伊藤:はい。歌う話でもあるし、それはそれで面白いかなと思って。「じゃあ、いっそのこと新キャラ3人全員をミュージカル経験者でやってみよう」といことで、井上芳雄さん(エイジ役)と鹿賀丈史さん(重村役)をキャスティングさせていただきました。


──実際に3人をキャスティングしてみて、いかがでしたか?

伊藤:アフレコを見ていて、「独特の声の人が多過ぎるな、この作品」って思いました(笑)。

──音楽を使うというところも新たな挑戦だと思います。歌を物語のキーにするのは当初から決まっていたんですか?

伊藤:当初から決まっていました。川原さんから「ARをやりたい」という要望とともに、「ARアイドルをやりたいです!」という意見が出たんです。しかし、我々としては「『マクロス』になってしまうんじゃないか……」っていう懸念はとても強かったんですよ。アイドルが歌っている背景でキャラクターたちが戦うと、アニメを見ている人としては連想せざるを得ませんよね。

特に俺は「ARアイドル」っていう表現がどうも苦手なんですよね。「アイドル」と言うと、特にアニメを視聴する人たちはキラキラとした可愛らしいものの存在を想像してしまう傾向があるんです。でも、それは違う。

今回の作品に登場させるなら、本格的な歌姫としての存在である「アイドル」にしたくて、いわゆるアイドルソングだとちょっと厳しいなと思いました。そこを微調整しつつ、本編は自然な流れに持ち込みました。


──なるほど。特に劇場版の歌唱曲はゲームらしさが強く出ていたと思います。曲数も多いですね。

伊藤:そういった部分は劇伴を担当している梶浦由紀さんにお願いしました。「なるべくゲームっぽい感じで、あんまり強くし過ぎないよう」とか、「ラスボス感は出ないように」とか細かい指示を出させていただきました。


──では、歌唱曲を使用するという前提からシナリオが作られていったのでしょうか?

伊藤:そうです。ただ、何曲になるかはシナリオができるまで分からなかったので、シナリオが完成してから、「6曲ぐらい必要になりそうだ」と音楽チームに相談しました。

『SAO』今後の展開といまだに残る謎に迫る──
──『SAO』は5周年を迎えますが、今後の展開などは考えているのでしょうか?

伊藤:それは、プロデューサーサイドが考えることなので俺には分かりません(笑)。

スタッフ:かつて海外のインベントで、「原作があれば全部やりますよ」と誰かが言ったこともあるので、やるかもしれませんね(笑)。

伊藤:(笑)。じゃあ俺も、原作が続く限りはやります。

スタッフ:まだ何も決まっていませんが、やらない理由はないと思いますよ。

──楽しみにしています! 最後に、このインタビューではかなりマニアックな内容も含まれているので、「2周目の人はここ見ていてほしいな」というポイントを最後に教えていただきたいのですが。問

伊藤:これは川原さんがオフィシャルで言っていることではないんですけど、原作にも登場した「SAO事件全記録」(※3)っていう本が劇場版でもキーになっています。「あれは誰が書いたんだ?」という謎と、「ページが書き加えられて追加された一文」という謎が残っています。それと思しき人がいて。

※3:原作で登場した本。『SAO』のゲーム内で起こった事件の全貌が集録されている。


──なるほど! それはかなり……。次見る時は楽しみになる情報ですね。ありがとうございました!

作品概要

■『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』
公開日:2017年2月18日(土)全国ロードショー
配給:アニプレックス
上映時間:119分

●イントロダクション
TVアニメ『ソードアート・オンライン』シリーズは、第15回電撃小説大賞<大賞>を受賞した川原 礫氏による小説が原作となる、謎の次世代オンラインゲーム《ソードアート・オンライン》を舞台に繰り広げられる主人公・キリトの活躍を描いた作品である。2009年4月の原作小説第1巻発売以来高い人気を誇り、日本国内での累計発行部数は1,250万部を突破(全世界1,900万部)。そして2度のTVアニメ化やゲーム化、コミカライズ、グッズ制作などを行っており、幅広くメディアミックス展開されている。そして2017年春、川原 礫氏の完全書き下ろしによる『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の公開が決定。世界中のファンがその日を待ち望んでいる。

●ストーリー
2022年。天才プログラマー・茅場晶彦が開発した世界初のフルダイブ専用デバイス≪ナーヴギア≫―― その革新的マシンはVR(仮想現実)世界に無限の可能性をもたらした。それから4年……。≪ナーヴギア≫の後継VRマシン≪アミュスフィア≫に対抗するように、一つの次世代ウェアラブル・マルチデバイスが発売された。≪オーグマー≫。フルダイブ機能を排除した代わりに、AR(拡張現実)機能を最大限に広げた最先端マシン。≪オーグマー≫は覚醒状態で使用することが出来る安全性と利便性から瞬く間にユーザーへ広がっていった。その爆発的な広がりを牽引したのは、、≪オーディナル・スケール(OS)≫と呼ばれる≪オーグマー≫専用ARMMO RPGだった。アスナたちもプレイするそのゲーム に、キリトも参戦しようとするが……。

●オーディナル・スケールとは
≪オーグマー≫専用ARMMO RPG。最新技術を用いた次世代的ゲームとして話題となり、発売と同時に世間を席巻した。現実世界をフィールドとして、各所に出現するアイテムの蒐集、モンスター討伐などを経てプレイヤーの≪ランク≫を上げていく。≪オーディナル・スケール(OS))の特徴はこの≪ランキング・システム)で、全てのプレイヤーのステータスは、基数(カーディナル数)ではなく序数(オーディナル数)であるランクナンバーによって決定される。ゆえに、ランク上位のプレイヤーには圧倒的な力が与えられ、ソロのPvPにおいては、ランクの順位が勝敗の大きな要因となる。

●AR(拡張現実)型情報端末《オーグマー(Augma)》とは
小型のヘッドホンのような外見の次世代ウェアラブル・マルチデバイス。そのコンパクト性はVRマシン≪アミュスフィア≫をはるかに凌駕する。フルダイブ機能の代わりに、AR(拡張現実)機能を最大限に広げた。覚醒状態の人間に視覚・聴覚・触覚情報を送り込むことが可能で、フィットネスや健康管理をゲーム感覚で楽しんでいるユーザーも増えている。

●STAFF
原作:川原 礫(「電撃文庫」刊)
原作イラスト・キャラクターデザイン原案:abec
監督:伊藤智彦
脚本:川原 礫・伊藤智彦
キャラクターデザイン・総作画監督:足立慎吾
モンスターデザイン:柳 隆太
プロップデザイン:西口智也
UIデザイン:ワツジサトシ
美術監督:長島孝幸
美術監修:竹田悠介
美術設定:塩澤良憲
色彩設計:橋本 賢
コンセプトアート:堀 壮太郎
撮影監督:脇 顯太朗
CG監督:雲藤隆太
編集:西山 茂
音響監督:岩浪美和
音楽:梶浦由記
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス
製作:SAO MOVIE Project

●CAST
キリト(桐ヶ谷和人):松岡禎丞
アスナ(結城明日奈):戸松遥
ユイ:伊藤かな恵
リーファ(桐ヶ谷直葉):竹達彩奈
シリカ(綾野珪子):日高里菜
リズベット(篠崎里香):高垣彩陽
シノン(朝田詩乃):沢城みゆき
クライン(壷井遼太郎):平田広明
エギル(アンドリュー・ギルバート・ミルズ):安元洋貴
茅場晶彦:山寺宏一
ユナ:神田沙也加
エイジ:井上芳雄
重村:鹿賀丈史

●主題歌
LiSA 「Catch the Moment」

>>『劇場版 ソードアート・オンライン –オーディナル・スケール-』公式サイト
>>アニメ「ソードアート・オンライン」公式ツイッター(@sao_anime)

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