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湯浅政明監督から見た『夜は短し歩けよ乙女』とは?

「表層に隠れたテーマが森見先生の魅力」湯浅政明監督から見た『夜は短し歩けよ乙女』とは?

 『四畳半神話大系』『有頂天家族』と森見登美彦先生の大人気小説が映像化される中、満を持して映画『夜は短し歩けよ乙女』が2017年4月7日より公開となりました。ファンの中でも傑作と名高い作品なだけあって、期待値は十分。さらに、『四畳半神話大系』でも監督を努めた湯浅政明監督が参加という、嬉しいメインディッシュ付き。

 今回の映像化にともなって、いろいろと気になっていることが多い方もいらっしゃるでしょう。そこで、アニメイトタイムズでは、湯浅監督にインタビューを実施しました。湯浅監督の独特の感性で描かれた『夜は短し歩けよ乙女』にはどんな秘密が隠されているのでしょうか?

『夜は短し歩けよ乙女』はポップでカラフルなイメージ
──そもそも『夜は短し歩けよ乙女』の企画が立ち上がったときは、監督ではなくて、プロデューサーとしてのスタートだったんですか?

湯浅政明監督(以下、湯浅):いえ、僕はプロデューサーではないですが、「『夜は短し歩けよ乙女』ができますよ」というお話をいただいて、自分たちの会社で制作を受注する事からのスタートでした。


──湯浅監督は以前TVアニメ『四畳半神話大系』でもメガホンをとっておられました。今回『夜は短し歩けよ乙女』の監督を務められて、作品に対してどのような印象をお持ちですか?

湯浅:『四畳半神話大系』をやっているとき、すでに「次の『夜は短し歩けよ乙女』があるかもよ」という話はあって、実際に準備もしたんですよ。脚本の上田誠さんとすすめていましたが、結局その話はなくなってしまって……。


──それからどういう経緯で映像化にこぎつけたのでしょうか?

湯浅:その後も「どこかでやるらしい」みたいな話しを聞いていたりしたので、映像化の企画自体は色んなところで出ては消える事を繰り返していたんですよね。そして、僕のところにふたたび来た。「また話がなくなってしまう前に、もう作らないと!」と思いました(笑)。だから、最初は落ち着いて考えることもなく、とにかく勢いで作り始めたんですけど、あとから「大きな作品だし、ファンも多いから大変だな」と冷静になりました。


──なるほど(笑)。映像化に際して何か意識したことはありますか?

湯浅:『四畳半神話大系』をやるときに、原作を、『太陽の塔』『夜は短し歩けよ乙女』も合わせて、3部作一緒に読んだんですよ。その中で『夜は短し歩けよ乙女』はとくに、ポップで、カラフルなイメージがありました。

今回の映像化では、『夜は短し歩けよ乙女』の中の4つの話を1つにまとめていて、ずっと夜のシーンが続く話になりました。作品的にはもともと明るいイメージがありましたから、「夜だからってあまり地味になりすぎるとよくないな」と思って、夜をさらに明るく楽しい感じにするようつとめました。


──カラフルなイメージとおっしゃいましたが、小説を読んでいるときに色などはイメージできたりするのでしょうか?

湯浅:そうですね。例えば『夜は短し歩けよ乙女』で、主人公たちが夜の街を楽しく練り歩いている部分を読むと、そこは薄暗くはなくて、暗い中にも明るい提灯とか明るいものがたくさんあって、現実の暗さよりも明るくカラフルだろうと、色彩的に感じます。だから映像化するときもそこを意識しました。


──今回の作品では「そんな風になっていたんだ!」と感じさせられる描写がたくさんあったのですが、あの独特な森見先生の空間をどのように具現化されていったのでしょうか?

湯浅:地域はすごくリアルに描いていて、建物や部品はそのリアルから派生した感じにしています。でも、3階建ての電車が走っていたりする世界観なので、「3階建てというと、路地にある料亭よりも高いから、モデルになった路地の反対側の川岸を走っていると高さのサイズ感がちょうどよく合うな」と、ある程度考えながら作っています。

実際に描いている空間も、客観的な空間よりもキャラクターたちが感じているような空間を描くほうがいいなと思ったので、電車の中に入ると、すごく広い飲み会の会場が広がっているような空間を意識して描いたりしています。

小説の文章は面白い言葉や比喩を積み重ねてイメージを読み手に想像させる感じですが、文章を現実的に要約せず、あえて言葉の待つ意味そのままの絵を作ってカットでつないでゆき、イメージを観客の中で作ってもらおうとしています。電車は小さいのに中は大きい。「そんなのない」ではなく「そういう世界なんだ」と「そういう風にキャラは感じているんだ」と認識してもらおうとしています。


──キャラクターというレンズを通して、我々も『夜は短し歩けよ乙女』の世界を見ているということですね。

湯浅:そうですね。前に『ちびまる子ちゃん』のレイアウトを担当したときに悩んだんですよ。大人の主観で見ると教室は狭いじゃないですか。でも、原作者のさくらももこ先生が描く教室はいつも広いんですよ。それは多分、子どもの主観で描かれているからなんだろうなと思ったんです。

だから『夜は短し歩けよ乙女』では、酔っぱらっている人の主観で描いたほうがいいだろうなと。


──そういう意味では、森見先生の作品は湯浅監督にとって『夜は短し歩けよ乙女』は、やりやすいタイプの作品なのでしょうか?

湯浅:いや、この文章のおもしろさはアニメーションに出せません。だから、アニメーションにするのは難しいタイプだと思うんですけど……。上手く行ってるように思う人が居るなら、僕と相性がいいかもですね(笑)。


──(笑)。映像化された90分というのは、アニメーションを制作する上で短かったですか?

湯浅:一晩の夢のようにワーッと見られるようにしたいという思惑があったので、ちょうどよかったですね。「入れたいけど入らなかった」というものもありませんでした。

星野さんならちょっとエッチなことを言っても許される?
──星野源さんが“先輩”役を演じておられますが、絶対におもしろくなると確信ができた理由はありますか?

湯浅:『四畳半神話大系』のパラレルワールド風に作っているんですが、『夜は短し歩けよ乙女』は、キャラクターが『四畳半神話大系』ほどエキセントリックではなくて。主人公の“先輩”もちょっと素朴というか、暖かい感じがあるんです。そういうところも“先輩”を演じる星野源さんに合っていますし、星野さんならちょっとエッチなことを言っても許されるじゃないですか(笑)。

森見先生の作品はエッチなことをおもしろおかしく、可愛らしい感じに表現されるし、キャストを見ている方から応援してもらえるような、親近感を抱いてもらえるような方にお願いしようと思っていたんです。だから、星野さんはぴったりだなと。


──花澤香菜さんの演じる“黒髪の乙女”もかわいらしかったです。

湯浅:“黒髪の乙女”は女の子にも好かれるような女の子にするつもりだったんです。だから、最初はほわっとしたようなイメージのキャラクターだったんですけど、制作を進めるうちに『四畳半神話大系』の“明石さん”のような、キリッとした感じが欲しいなと思って、あのキャラクターになりました。


──劇中では、アニメーションの原点とでも言いますか、誇張されたようなおもしろい動きがたくさん見られました。

湯浅:森見先生の作品はちょっと現実から逸脱するような、摩訶不思議な言葉の世界観があるので、マンガっぽい極端な表現がマッチする気がするんです。『四畳半神話大系』で明石さんがものを飲むときに“ゴックン”って喉が大きくなるように、かなり大げさに動かしてみたんけど、あれが思いのほかウケがよくて。そしたら今回はどのキャラクターでも、水を飲むときあんな感じで描いて来るので、逆に押さえる側に回りましたが、キャラクターの性格にもよるんだと思います(笑)。


──見ていておもしろいですし、作品の大きな魅力になっていますよね。

湯浅:そうなっているといいなと思います。


──『四畳半神話大系』ではできなかったことを盛り込んだ部分や、『夜は短し歩けよ乙女』だからこそ実現できたことはありましたか?

湯浅:いろいろな諸事情があってできなかったのですが、キャラクターが歌唱するシーンは『四畳半神話大系』でもやりたかったんですよ。今回最初は考えていなかったんですけど『夜は短し歩けよ乙女』での演劇のシーンをどうしようかと考えていたら、ミュージカルならおもしろくできるのではないかと思って、実現しましたね。あと、脳内会議で人が大勢いるような、スペクタクルな画面は映画の『夜は短し歩けよ乙女』だからこそできたことですね。


──ミュージカルのシーンは原作だと少ししか描かれていない部分だったので、どのように膨らんで、あのような形になったのでしょうか?

湯浅:秋パートの演劇の部分は、原作だとまさに“偶然に偶然が重なって”みたいな感じに進んでゆくので、それをそのままアニメ—ションにすると、絵にリアリティを持たせる事で成り立ってるアニメが、説得力のないものになりそうだなと思ったんです。でも、ミュージカルの構成にすれば、アニメで強いところだと思いますし、キャラクターの偶然に偶然の出会いを演出すれば、同じご都合主義なって、すんなり見ることのできるものになるかなと思い、あんな形にしてみました。春から1番の盛り上がりにしたいパートでもありましたし。

森見先生から「パンツ番長の片思いの相手が、実は学園祭事務局長だった」というアイデアがあったという話も聞いて。ミュージカルならそれを盛り込んだおもしろい展開ができそうだったので、ミュージカルという形に落ち着きました。

みんなが納得できるテーマがある
──有名な作品なので、監督にも相当なプレッシャーがあったと思いますが。湯浅監督にとって、映画『夜は短し歩けよ乙女』はどのような作品になっていますか?

湯浅:僕も単なる森見先生のファンで、原作をリスペクトしながら制作しているので、ファンのみなさまにも満足してもらえると思います。森見先生がどう思っているのか、気になりますけどね。僕ができるベストは尽くせたかなと思います。


──森見先生に聞いてみたいことはありますか?

湯浅:アニメ化されることをどう思われているのかだったり、アニメーションの出来栄えをどう感じられたのかだったりも気になりますね(笑)。


──アニメーション制作に際して森見先生から「こういうふうにしてほしい」など、要望はありましたか?

湯浅:ありませんでした。『四畳半神話大系』のときはずっと“京都らしさ”を出してほしいと言われていたので、今回もそこは意識して制作していました。


──小説からアニメ化するにあたって、すごくシンプルに構成されているなという印象を抱いたのですが、やはり「構成はわかりやすく」というところは意識されたのでしょうか?

湯浅:そうですね。『四畳半神話大系』のときはとにかく“小説をアニメ化する”という意識が強くあったので、文章を前に出して、絵は控えめに展開するような感じで考えていました。今回の『夜は短し歩けよ乙女』では対照的に、映画ならではのことや、アニメーションらしさを強調したいということを心がけながら制作しました。

映画を制作するにあたって、また原作を読み返したんですけど、この作品は思っていた以上にいろいろな部分がつながっていることに気づいたんです。なので、そういう部分がわかりやすいように作りました。


──湯浅監督にとって、森見先生の作品の一番の魅力は何だと思いますか?

湯浅:表層的な部分で言うと、ユーモアと、言葉選びのうまさ・おもしろさですよね。それから、『夜は短し歩けよ乙女』もテーマの部分にも共感できました。表層だけで読んでしまいがちなのですが、奥にしっかりとしたテーマがあって、そのテーマにみんなが「なるほど」と納得できるところも魅力ですね。


──2017年5月19日公開の『夜明け告げるルーのうた』などでも湯浅監督は“天才”というキャッチコピーが多様されています。湯浅監督自身そのように言われることに対してどう思われているのでしょうか?

湯浅:なんですかね、天才ではないので、努力家と言われたいですね(笑)。他にキャッチな実績がないので、宣伝文句に使えるのならいいかなと思っています。


──最後に、実現したいことや、やってみたいことなど、湯浅監督のこれからのビジョンをお聞かせください。

湯浅:まだやってみたい作品もありますし、もっと仕事がやりやすくなるといいなといつも思っています。あと、どんどん新しい人が来てくれたらいいなと思いますね。それから、何でもおもしろいなと思ったことができればいいと思います。最近では、ヒューマンビートボックスを聞いていて、アニメにビートボックスで効果音と音楽をやってもらえたら面白いなとかも考えています。星を見るのが好きなので、星で何かストーリーができればいいなとか、自分が興味を持っているもので作品を作れたらおもしろそうですね。

最終的には、たくさんの人に見ていただいて、みんなが喜ぶようなものを作りたいなと思っています。努力していますが、まだまだこれからの部分もありますけど、『夜は短し歩けよ乙女』は見に来て欲しいですね。


──これからも楽しみなことがありそうな予感がします。

湯浅:楽しみなことはありますね。やはり、見たい映像は自分で作らないと。


──楽しみにしています! 本日は、ありがとうございました。


[インタビュー/石橋悠]

作品情報
■スタッフ
原作:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫刊)
監督:湯浅政明
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
キャラクター原案:中村佑介
キャラクターデザイン・総作画監督:伊東伸高
作画監督:濱田高行、霜山朋久
フラッシュアニメーション:ホアンマヌエル・ラグナ、アベル・ゴンゴラ
色彩設計:ルシル・ブリアン
美術監督:上原伸一、大野広司
撮影監督:バティスト・ペロン
音響監督:木村絵理子
音楽:大島ミチル
主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION
「荒野を歩け」(キューンミュージック)
制作:サイエンス SARU
製作:ナカメの会
配給:東宝映像事業部

■キャスト
星野源
花澤香菜
神谷浩史
秋山竜次(ロバート)
中井和哉
甲斐田裕子
吉野裕行
新妻聖子
諏訪部順一
悠木碧
檜山修之
山路和弘
麦人

>>公式サイト
>>公式ツイッター(@otome_movie)

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