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求められるkemuらしさとは。「拝啓ドッペルゲンガー」リリース記念インタビュー

求められるkemuらしさとは。「拝啓ドッペルゲンガー」リリース記念インタビュー

4年ぶりの投稿となったkemuの新作「拝啓ドッペルゲンガー」。

久々の投稿にもかかわらず、相変わらず痺れさせてくれる楽曲に仕上がっており、kemuらしさを感じることができた。一方で新しいことにチャレンジしている部分などもあり、伝説とも言えるボカロPの帰還にふさわしい作品となった。

そしてなにより驚きだったのが、kemuさんが正体を明かしたこと。インターネット上では噂となっていたが、それがついに公式に発表となりました。

今回アニメイトタイムズでは「拝啓ドッペルゲンガー」に関して、そして改めてkemuと堀江晶太さんの関係についてインタビューを行いました。早速ご覧ください。

──以前より噂されていましたが、「kemu=堀江晶太」であることをどうしてこのタイミングで明らかにしたのでしょうか?

堀江晶太さん(以下、堀江):先に結論を言うと、たまたまたこのタイミングになってしまったというだけなんです。発表した5月31日は僕の誕生日ということもきっかけなんですけど、元々kemu voxxという活動を始める際に「いつかkemu=堀江晶太であることを言いたい」と当時のメンバーとも話していました。いろいろ調整したりしかるべきタイミングを探っているうちにいつの間にか6年経ってしまった、という感じです。

──何か、起爆剤になるようなきっかけはあったんでしょうか?

堀江:それは昔からいっぱいありました。でもその都度、逆に「今じゃないな」という理由もあって。今回はたまたま「今じゃないな」という理由が一番少ないタイミングでした。

何かしらの節目にはしたいなとも思っていたので、たまたま誕生日がある月だったのでここに寄せようってことで、深い意味合いもこれ以上ないですね。

──常にタイミングは見ていた、ということですね。以前のインタビューでもうかがったと思うんですが、kemuとして活動を始めたきっかけはどのようなものだったんでしょう?

堀江:当時、所属していた制作会社の人たちからボカロをすすめてもらったのがきっかけです。ボカロの文化は知っていたし好きなボカロPさんもいたし、じゃあやってみようかな、と思ったんです。

ボカロに詳しい友人から意見やアドバイスをもらいつつ、クリエイターの人も紹介してもらって、「やってみなよ」っていうところからスタートしました。

面白そうな場所だなとは思っていたし腕試しをしてみたいという気持ちもあったんですけど、そこまで長い目では見ていませんでした。

──4年ぶりの新曲「拝啓ドッペルゲンガー」の発表はネットでも話題となりました。これもまたカッコ良さスロットル全開だなと感じたのですが、同時にkemu曲としての目新しさも部分も感じられます。曲調のアプローチなんかも、新しいことをしていこうという意図があるのでしょうか?

堀江:それはあります。といってもkemuはkemuなので、根幹を変える気は全くありません。kemuらしさは意識しているんですけど、この4年で僕もいっぱい音楽をやってきたので、そこで身につけた力を出したいなという気持ちはあります。

路線を変えるわけではなく、そのままでパワーアップしたkemuを作りたいなという感じです。リファレンスという、違う人の曲を聞いて、今作っている曲の音像やバランス、クオリティを調整する工程があるんですけど、今回はkemuの曲しか聞いてないんですよ。

なのでミックスやアレンジの具合も全て昔の自分の曲をリファレンスにて、過去の自分をライバルにしていました。

──確かに、アレンジのアプローチは違えどミックスの具合はkemu曲の系譜だと感じました。

堀江:今までのkemuの曲の流れで聞いても違和感なくしたかったので。その中で、いかにこの4年間でつちかってきたものを出せるかなというのが制作のテーマでした。なので終わらないんですよね、良い出来だなと思っていても聞き直したらもう1回やりなおしたくなる。

──kemuとしては4年ぶりの作品となるわけですが、制作体制やメンバーに変わりはないのでしょうか?

堀江:メンバーとしては一人減ってしまいましたが、残りの3人はkemu voxxとして変わらず活動しています。今回の「拝啓ドッペルゲンガー」についてはメンバー外にも協力者がいて、ボーカロイドの調整や仕上げにおればななさんに手伝ってもらっています。

すごく専門的な知識を持っている方で、僕がベタ打ちしたボカロのフレーズに抑揚や人間っぽさなどの感情成分を付け加えてもらいました。そうして調整してもらったデータを僕がさらにハモらせたりピッチを動かしたりしてエディットするという感じで、今回は作っています。

他には、僕の友人でクリエイターでもあるTAKU1175さんにイントロ部分の合唱をお願いしています。

──え、あのイントロは肉声なんですか?

堀江:男の人一人で8パートほど歌ってもらっています。イントロが一番目立ちますけど本編中に同じものをうっすらと貼っているんですよ。

──Cメロの「PRAY」といった男性コーラスの部分も同じ方ですか?

堀江:あ、そのデスボイスは僕がやっています(笑)。他にも、vivid undressというバンドをやっている女性ボーカルのkiilaさんにBメロに出てくる話し言葉のようなパートの元セリフを録ってもらいました。

歌詞を実際にセリフとして読んでもらって、その音声データを元にボカロに変換しています。

──話し言葉の打ち込みは難しいところですけど、なるほど実際に話してもらったその抑揚を参考にしているんですね。

堀江:そうです。そうして打ち込んだデータもおればななさんに渡してボカロ化してもらっています。

もう一人、今はメンバーではないんですけどkemu voxxとしての方針、動かし方のアドバイスをしてくれていたスズムくんという方も制作における大事なメンバーだと話しておきたいです。

メンバーやメンバー外を問わず、いろんな人のアイディアを取り入れて柔軟なスタイルで作っていこうというチームなので、スズムくんの意見やアイディアがなければkemu voxxのこれまでの作品はなかったと、僕は思っています。

──なるほど。作品全体はもとより楽曲制作の段階においても、チームで作っているんだというのを改めて感じさせますね。

堀江:元々kemuというのは曲を作るだけの役割なので、作品全体をkemu voxxで作っているというのはそういうことだと思います。なので動画やイラストに関してはあんまり口出ししてないんです。

最初にデモを出して「こういうお話でいこうと思う」っていうアイディアを決めるんですけど、今回のドッペルゲンガーというアイディアも動画を作ってくれてるke-sanβさんが提案してくれたんですよ。そんな感じでアイディアベースで作っていくし、曲が出来てきたらそのイメージで好きに描いてみてってイラストをお願いします。

──それって音源はまだ未完成の状態ですよね?

堀江:そうですね、まだ詞もあがってない状態の1コーラスです。やっぱり平行して進めていかないと間に合わないので、ある程度の段階で「こういうお話ですよ」っていう起承転結のあらすじを書いて、それを元に膨らましてもらって、絵にしてもらうんです。

そうして出来たものもいろんな人に見せてお互いで意見交換をして、各々の方面で各々の思うように創作やアイディアをぶつけていくスタイルです。

──司令塔がいて、そのディレクションでまわすという手法とはかなり掛け離れていますね。

堀江:商業ではそういうのが多いんですけどね。基本的にはクリエイターのわがままを聞くっていう風潮があります。僕が意図していないことが入ることも結構あって、ムービーを作っているke-sanβさんが意味深なワードを入れたりするんです。

──kemu作品はこれまで、偶然にしろ必然にしろ世界観に繋がりがあるとされてきましたが、「拝啓ドッペルゲンガー」もその系譜に連なるものとして捉えて良いのでしょうか?

堀江:そう考えています、僕たちも。とはいえ僕たちから全てを提示することはないので、じゃあどうしようかっていうのは連日連夜話しています。

バンドとボカロ

──続いて曲についてうかがっていこうと思うのですが、「拝啓ドッペルゲンガー」の歌詞の最初と最後にある印象的な言葉「どうもこんにちは 君の分身です」。この言葉にはアレンジャー、ベーシスト、ボカロPといった様々な立場を持つ堀江さん自身を俯瞰した視点が入っているように感じてしまうですが、実際のところどうなんでしょう?

堀江:前提として、kemu voxxとして書かれてた曲は全てフィクション、物語、お伽話です。なので、実際に存在する特定の誰かをフューチャーしたりコンセプトにして曲を書くことはありません。

この一文に関しても他の言葉に関しても同じです。そこは僕がやっているバンドPENGUIN RESEARCHとも棲み分けていて、バンドの方は現実のことを言いたくて、ボカロの方はお話を書きたいんですよ。

ここは明確にばっさり分けています。とはいえ書いている人間は同じなので、無意識に考えていることが流入することがあるのかなとも思うし、そういったものは作っている時はえてしてわからないんです。

実際に完成して世に出して、聞いてくれた誰かに「これってこういうことなの?」と言われて、そこで初めて気付くことがあるかもしれません。物語ではあるもののあえてそこを考えるとするなら、この曲は「僕から僕に」だと思います。僕自身もわからないけど、誰かと僕ではなく、僕と僕の話、な気はします。

──以前のインタビューでは、「いずれkemuとしての活動とバンドとしての活動が交わればいい」と仰っていたので、もしかしたらこの曲はそのアプローチの1つなのかなと勘ぐってしまいましたね。なんなら、kemu=堀江晶太というのを明らかにしたタイミングで、ドッペルゲンガーというキーワードですし。

堀江:それも仕上がってみて初めて、あぁそうだったかもと思うことですね。自分ではそんな気はもちろん無いんですけど、自分とは関係ない世界の話だとある意味で無責任に作ったものに限って、逆に自分の意思が入るんじゃないのというのは言われたことはあります。

──それはもう、本人には明言できない深さの話になってきますね。

堀江:そうですね、わかんないです。

──特に、kemu voxxはチームで作品を作っているじゃないですか。みんなで一つの目標を目指している時に、自分っていうものや自己のエッセンスを混ぜ込んでしまうのは、抑えめにした方が良いのかななんて考えたりしますか?

堀江:その抵抗はなきにしもあらず、です。少なくとも制作物においては主観を入れ過ぎないようにというのは、今までもこれからも変わらず意識していきたいと考えてます。kemu voxxにおいて一番大事なのって仕上がった作品、動画だと思うので、そこに関してだけは一個人の感情や主観に傾き過ぎないように思っていますね。

──言い換えれば、最終的に仕上がった作品が良くなるのであれば、多少は我が入ってしまったり「これちょっとやりすぎたな」というものがあっても許される?

堀江:作品が良くなればとは思うけど、そこは今のメンバーが楽しくやれる範疇であればいいかな、と。残りのメンバーが楽しくやることを尊重している人たちなんですけど、それって創作として良い空気がはたらくと思うんです。それは崩したくないなと思うし、そうすることが結果として一番効率が良いというのもわかっているので。

ものづくりしている人なら誰しもあると思うんですけど、モチベーションと成果物はリンクするんですよ。モチベーションや情熱が下がると良いものはできないので、良いものを作るためにはその人のモチベーションを維持することが大事だなと思っています。それは言わずとも各々がわかってるかなと。

──堀江さん自身のことでいうなら、アレンジャーとして、バンドとしては表現できない、あるいはそうした場ではちょっと振り切ってしまうような音楽は、kemu voxxというフィールドでやってみようという気持ちもあるんでしょうか?

堀江:ありますね。せっかくボカロなんだから生身の人間がやれないような、やろうと思わないような歌や音を全部やりたいなというのは、kemu voxx当初からの思いです。今となってはバンドもしているので、その差別化はより強まったかなと感じています。

弾けないものをやっちゃうのはカッコ悪いという風潮も一部にはあるんですけど、kemu voxxというフィールドにではそれに縛られたくないんです。「実際に弾けなくても歌えなくてもカッコよければいいじゃん」っていう。

なのでもう物理法則無視ですし、耳で聞いてカッコよければそれが最優先です。あんなローフレットからハイフレットに飛びまくるギターソロなんて僕絶対弾けないので、あれも分割して録ってます。

──現実ではないもの、フィクションを歌っていこうとするkemu voxxのコンセプトそのものとも噛み合っていますね。

堀江:そこはもうリンクさせています。そういう意味では今はバンドがあるので、自分の中でとてもバランスがとれている気がしますね。kemu voxxをはじめた当初はバンドをやるとは思ってもなかったので、今となってみれば、という感じです。

でもバンドも最近は演奏が難しくなってきてるから、バンドはギリギリ演奏できるところを追求して、kemuはいかに弾けないところを追求するかという風にもなっています(笑)。

──ライブがあるバンドと、作品第一主義のkemuとの大きな差ですね、そこは。

堀江:もうライブのことは一切考えずに作っています、kemuに関しては。バンドに関してはライブがあるので、一番触れて欲しい箇所が違うんですよね。kemuは音源や動画に、バンドはライブに触れて欲しい。

──触れて欲しい箇所が違うというのは、まさにですね。バンドがライブならボカロでそれにあたるのは何かと問われれば音と映像が合わさった動作作品ですもんね。

堀江:やっぱり目で見て欲しいですからね。

──その動画、作品を120%味わえる音作りはなんぞやというところになってくれば、実際に弾けようが弾けまいがというのは重要でないという考えは、むしろ自然な気がします。

堀江:別に楽器だけ聞いてほしいわけでもないし、そうした要素を考えた時に演奏の再現性っていうのは一基に優先度が落ちるんです。もちろん無茶しすぎると耳で聞いて変な感じがするので、そこまでは振り切らないようにしています。

kemuらしさとは

──最初の方でkemuらしさというワードが出てきたんですけど、堀江さんが考えるkemuらしさって例えばどういうものなんでしょうか?

堀江:一番は、「僕が思うkemuらしさ」じゃないんですよ。僕じゃなくて、リスナーや関係者が思うkemuらしさが一番そうだなと、実は思っています。kemuに限らず、僕はいろいろと人に聞くタイプの人間なんです。

周りからは自分でやるタイプだと思われがちなんですけどね。

──思ってました。

堀江:仕事でもなんでも1コーラスできたら必ず身内なり友人なりに聞いてもらって「これ好き?」とか、2パターン作って「どっちがカッコいいと思う?」とか、「どっちがキャッチーだと思う?」とか聞くんです。それと同じで、kemuらしさも僕自身はそんなにわかってなくて、人に聞いた意見、人が思うkemuの方が僕は大事にしたいなと思っています。

それを要素で紐解いていけば、ストーリー性を感じる歌詞だったり、うるさい音作り、忙しいフレーズ、クオリティでねじ伏せる感覚などのキーワードが出てくるし、そういうのは自覚していることでもあります。

あとは、僕が思っているkemuらしさでいうと……、ちょっと表現が難しいんですけど、何のジャンルでもなく、カッコいいと思った要素を集めたところに自分のジャンルができているっていうスタンスは崩したくないと思っています。

kemuをはじめた時はロックやメタルやラウドがやりたかったわけでもないし、そこを考えずに自分の好きなものだけ詰め込んで、それが崩壊しないようにバランスをとることだけアレンジャーの脳で考えるようにしています。

えげつなくカッコいいと思えるものを無心に積み上げていってものに対して「kemuらしい」ってジャンルができればいいなとは思っていたので、そのスタンスは変えずにいこうと思いました。

──カッコ良さというのはハズせないワードですけど、それだけで語れないこの絶妙な距離感がkemuらしさというものかもしれませんね。

堀江:ビブラスラップって打楽器が今回の曲に入ってるんですけど、あれも一般的にはギャグシーンや時代劇に使うような音なんですよ。でも本来はすごくカッコいい音で歴史のある楽器だし、そうした偏見も捨てていこうとは思っています。

既存の感覚にとらわれないで、自分ないし自分の信頼してる人がカッコいいと思ったものは貪欲に混ぜていきたいな、と。ぐしゃっと混ざり過ぎてカオスのようになってしまったとしてもそれはOKで、その結果としてkemuらしさが生まれるのであれば大歓迎です。

──そういえば、kemuのTwitterにも堀江晶太という名前が記されるようになりましたが、何か情報発信の内容やスタンスに変化はあるんでしょうか? 例えば何か告知があったりなかったり。 

堀江:そういうのはないと思います。そうした情報発信は僕があまり得意ではないので、オフィシャルインフォメーション的な機能はあまり期待されない方が良いかなと。kemuのアカウントであり堀江のアカウントでもあるので、発信内容はそんなに変え過ぎずにいきたいなと思っています。なので、情報が欲しい人はもっと他見た方が良いかなと思います(笑)。

──オフィシャルサイトの出番ですね。

堀江:kemuに関しては、今後もボーカロイドクリエイター以上でも以下でもないです。なので楽曲提供なんかもしません。そうしたものは商業である堀江晶太の領分なので、きっちり棲み分けていきます。

──ではバンド、PENGUIN RESEARCHとしての活動とkemu voxxとしての活動が交わることはあり得るんでしょうか?

堀江:どうでしょう、今のところはあんまり考えてないんですけど例えば「敗北の少年」は既にやってるんですよね。でもこの曲は、kemuとしてノンフィクションのことを書いた曲のうちの1つだからという理由があるので。

──新たにそうしたタイプの曲がkemuで生まれたら、それはバンドで演奏する可能性もある?

堀江:今は作る気はありませんけど、然るべきタイミングであればありえるかもしれません。でもあんまり混ぜ過ぎても面白くないので基本的には棲み分けつつ、クロスすることもあるかもしれませんが、今はなんとも、というくらいでしょうか。そういった長い目のプロデュースは苦手なので、今作るべき目の前の曲を作っていこうかと思います。

──そのうち、敏腕プロデューサーに「あのkemuの曲、バンドでやったら絶対ヤバいよ」なんて言われるかもしれませんね。

堀江:そうなったら他のプロデューサーや色んな人に「こう言われたんですけど、どうですか?」って、聞きに行くことになると思います(笑)。


>>kemu オフィシャルサイト
>>kemu オフィシャルTwitter

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