挑発的な態度のモデル仲間にヒジリはどのように応えるのか……？　「ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第32回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと音楽でお届けする連載です。

今回は、プライドが高く自信家、しかしその反面、誰よりも努力家な月島ヒジリのストーリーをお届けします。劇団アルタイルの活動をとおして、大きな変化と成長を遂げたヒジリにご注目ください！

劇団アルタイル『Wonderful Stage』
【あらすじ】
撮影現場でかつての仕事仲間に再会したヒジリ。キャリアも人気も同等で、以前はライバルとして意識し合っていたモデルだ。挑発的な態度で話しかけてくる相手に対して、ヒジリは……。

【ストーリー】
「オッケーです、お疲れさまでした！」
　カメラマンの声が響くと、お疲れさまです、ありがとうございました、とあちこちからねぎらいの言葉が上がり、現場の空気が緩やかにほどけていく。本日最後の仕事――ファッション雑誌のスチール撮影を終えたヒジリも、ふっと肩の力を抜いた。
「ヒジリ、お疲れ」
　声をかけてきたのは、顔見知りの男性モデルだ。彼とは年が近くモデルとしてのデビューもほぼ同じ、いわゆる『ランク』も似たり寄ったり――つまりは、ライバル的な存在だった。
「ああ、お疲れ」
「なんか、組んだの久々だな。最近あんま現場一緒にならないし。……あ、もしかして、仕事減らしてたりする？」
　――お前、ひょっとして落ち目なんじゃないの？
　暗にそう、言われている。
（そういえば、こういうヤツだったな）
　しばらく顔をあわせていなかったが、相変わらずだ。
「タイミングがあわなかっただけだろ」
「なら、いいんだけどさ。ほら、お前、去年ツキプロ内で部門移動しただろ。そっち忙しいのかなって……えっと、劇団アルタイルだっけ？　どうよ？」
　見下した態度がチラチラと透けて見える。
（まあ、気持ちはわかる）
　自分だって、最初はそうだった。

　寄せ集めの素人集団、けれど、ツキプロの新しい試みとして世間の注目度はそこそこある――そんなふうに評価を下し、劇団アルタイルに移籍を決めたのは去年のことだ。
　モデルとしての活動は絶好調だったから、知り合いの誰もが「なんで、いま？」と首を傾げた。
（いまだからに決まってる）
　落ちぶれてからじゃ、なにをしたって遅い。
（このままじゃきっと、どこかで頭打ちになる）
　明日も明後日も、自分の席があるとは限らない。特に、モデルは若さと外見の比重が大きい職業だ。
　――毎年次々現れる、将来有望な新人。
　――思うように伸びない身長。
　焦らなくても大丈夫だよ、なんて簡単に言うやつこそ、敵だと思った。
　芸能界で生き延びるには、もっとステップアップするしかない。そのためなら、なんでも利用してやる――。
　あの頃から、根本的な考え方は変わらない。
　……けれど。

「いろんな経験をさせてもらってる」
　そう言って穏やかに笑えるいまの自分が、我ながら少し不思議だ。
「まあ、正直スケジュールに関しては楽じゃないが。丸一年やってようやく、幅が広がる手ごたえも掴めてきた気がしてる。まだまだ先は長いな」
　歌やダンス、それから芝居。新しいことに取り組めば至らなさを痛感するし、自分がちいさく見える。
「だが、すごく楽しい」
　牽制でもなければ、見栄でもない。心からそう言える。
（確かに、あのころの俺は焦ってた）
　狭い井戸の底で「生きるか死ぬか」みたいな、壮絶な悲壮感を背負って、毎日必死にもがいていた。
（馬鹿だな）
　肩肘張りすぎていた過去の自分を思い出すと、思わず笑ってしまう。
「……ヒジリ、なんか変わったな。俺、てっきりあのユニットは、経歴の踏み台にするつもりなんだと思って……あ」
　相手の口からこぼれでた本音に、笑ってしまった。
「まあ、正直俺も最初はそのつもりだったんだが、あいにくアイツら、どいつも踏み台にできるほど低い場所にいる連中じゃなくてな」
　そう言うと、彼は驚いたようにまばたく。
（そんなに変わったか、俺は）
　自分ではわからない。けれど……悪い気は、しない。
「今度、Sargasのステージがあるんだが、よかったら観に来ないか？」
「行く、観たい」
「わかった。じゃあ、あとでゲネの案内を送る」
「てか、だったらまずメッセアプリのIDくらい交換しろよ」
　言われて、改めて連絡先を交換した。付き合いも長いのに、いまさらだ。メンバーに話せばきっと笑われる。
（……いや。俺らしいと呆れられるか）
　すると、スマホの画面に「絶対連絡しろよ！」とメッセージがポップした。顔を上げると、少々下世話な笑みとぶつかる。
「おまえをそんなに夢中にさせてるお仲間がどんなヤツらか、俺、興味津々だわ」
「夢中……気色悪い言い方をするなよ」
「じゃなかったらなんなんだよ、その、笑顔のバーゲンセールは」
「それもまた、ずいぶん安っぽい表現だな」
　そう言い返しつつ、また、自然と口許が緩んだ。

　じっとしていても世界は変わらない。
（俺はまちがってなかった）
　結果、世界は変わったし、いまも変わり続けている。
　たぶん、とても、いいほうへ。

今回登場した人物をご紹介！
◆月島ヒジリ（CV：菊地燎）
現役モデルで、上昇志向と自尊心が強い自信家。ただ、それに見合った努力もしているストイックさもある。