父との衝突によって自身が持つ熱意に気付かされたミカドは……。「ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第29回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと音楽でお届けする連載です。

今回は、常に穏やかで、余裕のある態度を崩さない護国寺ミカドを中心としたストーリーをお届けします。ミカドの意外な一面、胸に秘める熱い気持ちにご注目ください！

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劇団アルタイル『あの日の僕らへ』
【あらすじ】
国内外で活躍する人気俳優を父に持つミカド。ある日、そんな父と仕事の話で衝突してしまい、自分のなかに“劇団アルタイルのミカド”としての自負心と熱意が眠っていたことに気付くのだった。

【ストーリー】
「絶対に嫌です」
　迷いなく言ってから、ミカドは内心ひどく驚いていた。自分の口から出た言葉があまりにキッパリしていたからだ。
　そして、電話の向こうにいる父も驚いたに違いなかったが、思いの外あっさりと「それじゃあ仕方がないな」と言い、また連絡すると手短に告げて通話が切れた。

「誰？　いまの」
　声に振り返ると、タツヤが床に足を投げ出して座り、こちらを見ていた。
「タツヤ」
　やんわりと、けれど少しばかりとがめる声音でダイスケが言い、タツヤの肩を軽く押さえた。たぶん、気を遣ってくれたのだろう。
「父だよ。大きな声を出してしまってごめん。共有ルームを出て話をすればよかった」
「父さんとケンカ？」
　タツヤが首をかしげる。再び気遣わしげに口を開きかけたダイスケに、ミカドは笑いかけつつ、ソファへ腰を下ろした。
「父とケンカは……そういえばしたことがないな」
「一度も？」
「うん。とても陽気な人なんだ。それに、忙しくて滅多に家にはいないから、ケンカはしたくてもできなかっただろうな」
「めんどくさいよ、ケンカ。しなくていいよ」
　タツヤは眉をひそめる。それから、
「じゃあ、なにが絶対に嫌？」
　興味津々の様子で身を乗り出した。
　気が気でない様子のダイスケに、ミカドはもう一度、やんわり笑いかけた。
「ダイスケ、そんなに気にしなくて大丈夫だよ。聞かれて困る話じゃないから。
　父が今度テレビのバラエティ番組に出演するらしくて、ゲストとして来ないかと誘われたんだ」
「護国寺さんがバラエティに出るなんて、珍しいね」
「気が向いたんじゃないかな。先週アメリカから帰国して、しばらくは日本にいるようだし」
「……？」
　ポカンと聞いているタツヤに、ダイスケが「ミカドのお父さんはとても有名な俳優なんだよ」と耳打ちする。
「その……こんなことを聞くと少し不躾かもしれないけど、お父さんと一緒に出演するのは居心地が悪いもの？」
「いや。二世タレントって言われるのは慣れてるし、それほど気にしたことはないな。むしろいまは、露出すれば劇団アルタイルの活動をアピールできる……ぐらいの気持ちでいるよ」
「じゃあ、なんで嫌？」
　不思議そうにまばたくタツヤに、ミカドは続けた。
「収録の日が、握手会とぶつかってたんだ」
「あ……再来月の」
　こぢんまりとした規模で、スケジュールに折り合いのつくメンバーのみ参加することになっている。告知はこれからだし、欠席しても問題はないだろう。実際、父にもそう言われたが……。
「その日は、絶対に譲りたくなかったんだ」
　規模なんて関係ない。父の威光に照らされるだけの、何者でもない自分ではなく……劇団アルタイルの護国寺ミカドとして引き受けた、大切な仕事だ。なのにあのひとは、こちらの都合を聞かずに話を進めようとするから――
「……ああ、そうか。俺はさっき、ちょっと腹が立ったのか」

　父に否定の言葉をぶつけたことにも驚いたけれど、自分が怒ったということも新鮮だ。
　ケンカをしたことがないのは、不在がちで陽気な父のせいだけじゃない。
　自分だって、ケンカするほどの熱意をぶつけようと思ったことなんて、一度もなかった――いままでは。
（自分の中に、見知らぬ自分がいる）
　たぶん、ずっと、息をひそめて隠れていた。
（俺の中にこんな熱があったなんて）
　ちょっと、ビックリしてしまう。
「だとすると、あれはちいさなケンカだったのかもしれないな」
「……ミカドさん、気づくの遅いね？」
　タツヤの正直な指摘に、思わず吹き出してしまった。
「確かに、タツヤの言う通りだ」
　おまけに感情的で、短絡的だ。これでは、いつも感覚だけで突っ込んで行くヨウスケのことを笑えない。
（さて。ここからどうしよう）
　大いなる父をはね除けて進むのか――或いは。
（どうするのが「俺らしい」かな）
　自分らしさなんて、ひとりでいたら絶対に気づけない。
　自分以外の“誰か”と触れあって初めて、“自分”の輪郭が、クリアになってゆく。

「話し相手になってくれてありがとう、ふたりとも。ちょっと席を外すよ」
　ソファから立ち上がり、スマホをかざしてみせる。
「もう一度、父に交渉してくる。なんとか番組の後半だけでも出演できないか、って。親子共演となれば話題性もあるし、劇団アルタイルにとっては悪い話じゃないからね」
　ミカドの言葉に、タツヤとダイスケは「いってらっしゃい」と笑顔を返した。

　霧が晴れるように。雨が上がるように。毎日、世界が広がっていく。
　ひとりじゃ絶対に辿り着けない世界へ、一歩ずつ。

今回登場した人物をご紹介！
◆護国寺ミカド（CV：西野太盛）
ハリウッドでも活躍する大物俳優の息子という、いわゆる二世タレント。穏やかな性格で、いつもどこか余裕がある。