ペンギンリサーチ初EP『近日公開第二章』インタビュー

あらゆる感動と感情に、交じりっ気なく向かい合っていきたい。PENGUIN RESEARCH初EP『近日公開第二章』リリース記念インタビュー

2018年1月10日(水)、PENGUIN RESEARCHが新作EP『近日公開第二章』をリリース! アルバム名でもあるリード曲「近日公開第二章」は、アプリ『バンドやろうぜ!』のキャンペーンソングで、ほかにも配信シングル「千載一遇きたりて好機」を含む全4曲を収録。

昨年は1stフルアルバムのリリース、ワンマンライブ、そして年末にかけては年越しツアーを実施したりと、大忙しだったPENGUIN RESEARCH。今作はその一つの区切り、あるいは極致ともいえるタイミングの作品で、なおかつバンド初のEP盤としてリリースされます。

ペンギン成分全マシと呼んでいいほどの密度に仕上がった今作について、メンバー5人の胸中を伺いました。

――2017年はかなり多忙な一年だったと思うんですが、振り返ってみるといかがですか?

生田鷹司さん(以下、生田):前にジョンさんも言ってたけど、正直ずーっと何かしてたので、振り返ってみたことが2016年のことなのか2017年のことなのかがわからないんですよね。

神田ジョンさん(以下、神田):時系列がぐちゃぐちゃだよね(笑)。2年前のことが昨日のことのように感じられて、区切り無く今まできてるせいで記憶的にはひとつなぎな感じなんです。

生田:2016年1月に『ジョーカーに宜しく』をリリースをしたはずなんですけど、「じゃあ2017年の1月はなにしてたっけ?」みたいな風になるんですよ。

で、振り返ってみると2017年初頭はレコーディングしてたり、3月の『敗者復活戦自由形』のリリースの準備してましたとか。細かく振り返ると思い出せるんですけど、ざっくりと振り返るとごっちゃになるんですよねぇ。

神田:ヨシ、思い出しながらいこうか。ひとまず今年は『敗者復活戦自由形』のリリースがデカいですね。



新保恵大さん(以下、新保):で、3月からツアーをやって、ありがたいことに全公演SOLD OUTさせてもらって。特に最終日の新宿BLAZEは完売するギリギリまで、どうやったらもっと新規の方に来てもらえるかとかを試行錯誤してました。

生田:あー、やったやった。ちょうどその年の1月にRAB(リアルアキバボーイズ)と新宿BLAZEでツーマンをやってて、新宿BLAZEって700〜800キャパくらいじゃないですか。その時は「ここを俺たちが埋めるのか…」って思ってたんですよ。で、ツアーファイナルをやり、しかもその場で今度はマイナビBLITZ赤坂を発表する…しかもBLITZのキャパは今回の倍! 「…コレ、いけるのか?」って気持ちでした(笑)。



神田:でも、BLAZEで発表と同時に先行予約が始まったんですけど、そこでの応募数がすでにBLITZのキャパを超えてたんですよ。先行の期間も短かったと思うんですけど、今回のBLAZEもけっこう苦労したんだけどな…っていう。そこは正直びっくりしましたね。

――それは突然の飛躍ですね。要因はなんだと思います?

神田:BLITZはツアーの最終日っていうポジションだったんですけど、BLITZはツアーじゃなくて東京で1回だけなんです。今まで気持ちを抱えてた人たちがコレいくっきゃねぇっていう気持ちで来てくれたんじゃないかなぁと。

柴﨑洋輔さん(以下、柴﨑):時期も夏休みの終わりくらいだったので、若い人たちなんかは来やすかったんじゃないかなと思います。

新保:春のツアーをSOLDできたことで、SOLDするバンドというイメージを持ってもらえたのも大きかったかもしれませんね。先行でそれだけ数が多かったっていうのも、早めにとらないとっていう気持ちからだと思うので。

生田:で、BLITZを経て……そこから何してたっけ?

神田:その前にBLITZの話もっとしたほうがいいんじゃない?(笑)

生田:そうだ、BLITZの話しかしてなかった(笑)。実はBLITZにペンギンのメンバーで立つのは初めてじゃないんです。

新保:3月に『バンドやろうぜ!』のBLASTとして出演しているんです。

生田:なので、BLITZに立ったことはあるんですけど、やっぱり今までとは圧倒的に違うんですよ。目線的にもこういうまっすぐなハコから、全体をぐるっと見れるホールみたいな視野になる。そこに向けて今までのワンマン以上にリハもガッツリしましたね。

神田:その場に相応しいバンドになりたいなっていう気持ちは一層強くなりましたね。規模に合うというか、そこをもっと超えていけるような規模感のバンドになりたいなと。

生田:今までハコでやっていたような、熱量だけでワー! っといくのではなく、今回は初めて演出も入ったんです。僕たちだけがワーっとなるだけじゃなく、トータルで音楽やエンターテイメントを届けられるようなライブをやろう、と。初めてレーザーとか銀テープも出たりして。

柴﨑:『八月の流星』ではスクリーンに歌詞を映したりとかね。

生田:そういった新しい試みをたくさんできたなと思いますし、それを見たみんなが「ペンギンってこんなに大きくなったんだ」とか、そういうものを届けられたのはすごく大きかったと思います。

――そう聞くと、BLITZ以前と以降で語ってもいいくらいの出来事だったように感じますね。

神田:あとBLITZをやってみて思ったことがあって。ある日規模感が違うライブハウスでBLITZのような感覚でやってしまったことがあって、それは逆によくなかったんですよ。

僕たちの感覚なのでお客さんがどう思ったかはわからないんですけど、そういう時があったんです。この感覚はよくないと感じて、その次はグシャっと熱量スタイルで行ったんです。

なのでそれ以降は、「今日はこういうハコでこういう面子だからこういうライブをしよう」と全員で事前に統一してからライブに臨むようになりました。そこがズレてると結構おかしなことになるんですよね。この感覚はBLITZを経て得られたものかなって思います。

――なるほど。ホールっぽいノリをハコに持ってきてしまったというか、泥臭さみたいなのを忘れていたというか。

神田:そんな感じです(笑)。

新保:BLITZが終わってからもレコーディングやリハーサルで、メンバーとはほぼ毎日顔を合わせてましたね。ライブ、レコーディング、リハーサルをひたすらっていう感じで。vivid undressというバンドとツーマンツアーをして、ミナホみたいなイベントも多かったです。あとは日本工学院さんで初めて学祭にも出させてもらいました。

新保:ほかにもKAMAROCK FESTIVALやニコニコ超パーティーとか。文化祭シーズンだったのでイベントにもたくさん出つつ、『近日公開第二章』の制作もしつつで、ほぼ毎日メンバーで、という感じでした。

神田:その間に二人(生田さんと新保さん)がインフルエンザにかかったりとかもしてね。日本最速かってくらいの時期に(笑)。

新保:2人とも9月末頃にかかりました(笑)。

生田:しかも各々でかかってるんですよ、僕がB型で彼がA型なので。

――そのようなことがありつつ、もう気がつけば12月ですもんね。

生田:駆け抜けてきましたねぇ。

神田:ツアー始まったら一瞬だもんね。

――では、個人の面で2017年なにか思い出深かったことはありますか? 堀江さんから伺っていければと。

堀江晶太さん(以下、堀江):そうですね……いざ思い返してみると、本当に2016年と2017年の記憶がごっちゃになってきますね。

神田:一番記憶ないでしょうね(笑)。

堀江:やっぱり僕がkemuですって明かしたことですかね。個人のことでもあるけれどバンドのことでもあるので。言ったからといって何が変わるわけではないんですけど、自分のなかで大きな整理整頓が終わったかなというのはあります。それは今年のうちにやれて良かったなと。今年印象深い出来事といえばそれですね。

――まさに整理整頓ですね。

堀江:バンドとしてはやっぱりBLITZかな。BLITZってロックバンドの辞め時のひとつだと思うんです。BLITZワンマンをやってのけて、そこで終わるのもバンドの美しいかたちのひとつだと僕は思っていて、実際BLITZに立って辞めるバンドも多いし、それはそれで正しいと思います。

もちろん自分たちがそこで辞める気はないですけど、BLITZを発表してからそういうのを思っていて。メンバーにも言った気はするんですけど、バンドやっててただ楽しいとか、そういうのはBLITZで終わるかもしれない。バンドとしてピュアでいられる時期は、もしかするとBLITZで終わりかもしれない、と。

でもそこで終わる気もなかったし、自分にとってBLITZはある意味辞め時を失ったタイミングかもしれません。もちろん、悪い意味ではなくて。なのでBLITZは自分の中で大きかったなと思います。

――僕たちもいきなり「解散です!」と言われたらもうどうしていいものやらってなります。

堀江:そこは大丈夫です(笑)。あとは何かあったかな…あ、『ドラゴンクエストXI』は自分の中ではすごい名作だなと思っています。あれほど「コレだよ!」って思えるRPGがこの時代に出てきてくれることには、すごく大きな意味があると思うんですよね。

それはビッグタイトルのドラゴンクエストシリーズだったからかどうかは問題ではなくて、今は色んな技術が進歩して色んな見せ方や方法が広がっているのに、あえて古き良き王道な方法を選んで、その上ですごく良いものを作って、それを今の時代に生きる自分がプレイしても感動して満足できている。そうした実感がいちゲーマーとしても嬉しかったし、音楽を作っている側の人間としても「これでいいんだ」っていう勇気をもらえた作品でした。

――あ、その感覚わかります。2017年のこの時代に、あの王道をあのクオリティでぶつけてくる。

堀江:実はあの作品をプレイしたあとに作った音楽はかなり影響受けていて、別に斬新なことやアーティスティックなことに固執する必要はなくて、そもそも自分の性に合わないなと。だったらありきたりで恥ずかしいくらいカッコいいことというか、自分たちが「コレがいいんです」って思ったものを恥ずかしげもなく出せる、貫き通せるバンドにできたらいいなと思えるようになりました。

――柴﨑さんはいかがでしょう、2017年を振り返ってみて。

柴﨑:僕個人のことなんですけど、「敗者復活戦自由形」を出してからペンギンの楽曲も激しい楽曲が増えてきたというのもあって、自分がよりロックなキーボーディストになれたかなと、そんな感覚があります。ライブは体全体を使って表現するので、今年になってライブの疲労感がものすごいですね(笑)。

――これからは「激しく動く鍵盤にも注目!」とか、そんな言われ方もありえるかもしれませんね。

柴﨑:そうですね(笑)。鍵盤も激しい、激しいというかカッコいいんだぞというのは見てる人にちゃんと伝えたいなと。あとはやっぱりBLITZですね。当日の緊張感が全然別物で、サポートでBLITZくらいの規模で演奏したことはあったんですけど、サポートの時に感じる緊張感とは別物で。前日の夜は全く寝れなかったのを覚えてます。

楽しみというのもあるし、不安というか「どうなっちゃうんだろう」というか、ドキドキ感ですね。出番の直前までずっとドキドキしっぱなしでした。始まっちゃえば一緒なんですけど、その時のドキドキ感というのはよく覚えてますね。

――生田さんは2017年、どんなことが思い出に残ってますか?

生田:僕は普段PCでゲームをするんですよ。FPSが好きなので。もう何年もコンシューマー向けのハードというのを買ってこなかったんですよ、もう何年も。

――この流れ、ニンテンドースイッチを買ったというという話ですねッ!

生田:うぁー読まれてたー!(笑) いやもうあれって完全に今まで無かったスタイルじゃないですか。ゲームとかPC機器、ガジェット系ってそうだと思うんですけど、やっぱりエンターテイメントとして新しいものって、楽しさや感動も新しいんですよね。

それが、ゲームでここまで新しい体験を味あわせてくれるッ。携帯機としても持っていけるし家でも大画面でも楽しめる、それでいてあの高画質。そして今まで任天堂が出してきたゲームもプレイできると、これは買うだろうと! ニンテンドースイッチは、プライベートではめちゃくちゃテンション上がった出来事ですね。(ここまで早口)

――なんという軽快なトーク。

生田:個人はそんな感じなんですけど、バンドを通してのことは2つくらいあって。ひとつは、自分もわりと歌が上手くなったかなと感じました。

今まではライブの最中に歌いながら次の事を考えることが多かったんですけど、レベルの高い「敗者復活戦自由形」や「千載一遇きたりて好機」とかを歌ってるうちに鍛えられたのか、そうした場面でも余裕を持てることが増えたんです。RPGでいうレベルアップしていく感覚じゃあないんですけど、ライブやレコーディングを通してるうちに感じましたね。

――でもそこは聞いていても感じますね。特に「千載一遇きたりて好機」なんてすごく難しいと思うんですけど、安定感もパワフルさも感じるなと。

生田:リズムに関してもわりと感覚がよくなった気がします。いままで洋楽はほとんど聞いてこなかったんですけど、2017年に入ってちょくちょく聞くようになって。マルーン5とブルーノ・マーズとかが好きですね。よーよー(柴﨑さん)と一緒に車で帰ることも多いんですけど、そういうときによーよーが好きなグルーヴィーな曲をかけてもらったりしてるせいか、自分のなかでノリ方がちょっと変わってきたと思うんです。

――これは柴﨑さんがお好きなフュージョン系の影響かもしれませんね。

柴﨑:フュージョンも流しますし、ジャミロクワイなんかもよく流しますよ。

生田:あと、バンド面だとBLITZが完売したというのはやっぱり大きくて、初めてガッツリ演出もして、僕がいままで画面でしか見たことがなかったアーティストのライブみたいなものを、まさにライブを通して体験しているんです。

『近日公開第二章』の初回盤にはそのライブ映像も特典として付いてくるんですけど、僕らもそれを見て、こう、来たなという感覚というか。バンドや環境や色んな面を含めて成長を噛みしめられたと思います。

――新保さんの2017年はいかがでしたか?

新保:色々あったんですけど、夏に僕の大好きな蓮爾(はすみ)っていう二郎インスパイア系のラーメン屋があるんですけど、そこが突発的に限定メニューをやったんですよ。普段はなかなか行けないんですけど、たまたま行ったら普段は出していない「青辛担々麺」っていうメニューがあって、その日の麺がスーパー極太だったんですよ。うどんより太いくらいで。その麺を一口食べた瞬間に、もう涙が出てきて。

――ラーメン屋で涙、ですか…!

新保:「これこそ、俺が今まで探してきた理想の麺だ…」と心から思ったんですよ、本当に。普通の麺と比べるとかなり硬いほうですし、店主も他の二郎系とは違う独自路線をいってるんですけど、店主自身が良いと思ったものをひたすら突き詰めてる感じのお店なんです。

その姿勢がとにかくカッコよくて、お店でラーメンを食べるたびに「自分ももっとこうなんなきゃダメだ」って、ラーメンに説教されてるような感じがあるんですよ。で、その日はそれがもう突き刺さって、ラーメンを肴に焼酎を飲みながら本当に泣いてたんです。自分も頑張ろう、と。その一杯に出会えたのが、今年デカかったですね。

――僕もエビで似た経験があります。一口食べて感動で震えるような、衝撃が走る食ってありますよね。では最後、神田さんの2017年はいかがでしたか?

神田:2017年の印象とはちょっと違うかもしれないんですけど、やっぱりBLITZですね。PENGUIN RESEARCHというバンドで過ごしてきた全ての事象って、これまで僕が叶えて来られなかった夢を順次叶えていってるみたいな感じなんです。

僕はPENGUIN RESEARCHをやる前のバンドで「バンドの夢」みたいなのは一旦しまい込んで、まぁもう叶えられないんだろうという気持ちで他の道に行ったんです。

その道の先にPENGUIN RESEARCHがいて、そこから始まったことは全て中学の時に思い描いてた夢みたいなものをひとつずつ叶えていくみたいな状況で、この年齢とタイミングで体験できているなと思ってます。

BLAZEやBLITZはバンドマンにとっては憧れですし、そこをSOLD OUTできたというのはバンドとして印象的だったとかいう以前に、僕の人生というスケールで見ても、やっと来れたとか、来れてよかったとか、そんな気持ちはありますね。

――万感、ですね。

神田:それがこのバンドで良かったと思いますね。そしてこの先もまだ未来があって、次もZepp DiverCity TOKYOが決まったりしている。このバンドの後って、おそらくもう無いと思うんですよ、自分の中では。なのでこのバンドでどこまで行けるかというのは、僕にとって楽しみなことですし、やりがいのあることでもありますね。それこそ命懸けてもいいなと。…なんかスイマセン俺だけこんな感じで。

――いえいえ、むしろグっときてます。

柴﨑:ジョンさんのそういう話聞くと、俺エモくなっちゃうんですよねー。

神田:俺はこの中でも一番バンドマンなんですけど、叶えられなかったモノが多い人間だったので、それが叶っていっているのはすごく良いなと思います。

――ここからは『近日公開第二章』の収録曲について、一曲ずつポイントを絞って伺っていこうと思います。ちょうどさっき生田さんがリズム感について仰っていましたけど、1曲目「近日公開第二章」はサビの部分がかなりシビアで、裏拍がタイトな部分が続きますよね。

生田:「近日公開第二章は〜」の部分ですよね。あそこは難しかったぁ…。普通の裏拍だったらまだ大丈夫なんですけど、あの部分は高さだけじゃなくて歌詞も独特なんです。

「だいに〜」の「に」に向かっていくんですけど、「んに〜」って歌うパターンもあるし、歌詞によってはもっとパツっと出すこともできるんですけど、「に」という余りヌケない発音でどう聞かしてくかというのは悩みましたね。

――どういう歌い方でいくかみたいなのもレコーディングで悩まれたんですか?

生田:そうですね。最初はキーに当てるということから始めて、次にパワーを足していくようにして、かといって無理やりグァーって出していくのではなく、ある程度の主人公感を残しつつのパワーみたいなのを狙いました。ちょっと表現しにくいんですけど、明るいというか、主人公感のなかでも王道な部分を出すようにして。

――たとえば一年前の自分だったらどう歌っていたと思いますか?

生田:あー、もう音の高い部分が出てないですね。言葉って子音と母音があるじゃないですか。1年前の頃は子音を出すのがすごく苦手で、母音が前に出てきちゃうんですよ。「し」だったら「し」と「い」になるところが、どうしても「い」が前に出てくるという感じで。そこも最近は意識できるようになってきて、より言葉を届けられるようになったと思います。

――続けて、2曲目「方位磁針」。僕これが1番好きなんですよ。

神田:あ、わかります。

生田:ジョンさんも好きっていってるもんね。

――これボーカルのリバーブがすっごく絶妙のかかり具合で、それが果てしなく気持ち良いんですよ。さらにサビをDのルートステイ(ベース音の維持)で4小節歌いきってくれたというのが、よくぞやってくれたと。

堀江:そう、これしたかったんですよ。ルートステイは僕も好きな手法なんですけど、その反面としてわかりにくくなるというか、一聴して動いてるなというのがわかりづらいコード進行ではあるので今まではあまり使ってこなかったんです。でもこの曲はちょっとわかりづらくても見せたい空気感はこの進行しかないと思ったので。

――見せたい空気感、すごく得心のいく表現ですね。

堀江:ルートが動いちゃうと押しつけがましくなっちゃうなと思ったので、もうちょっと淡くて良いなとか、そういうところは考えてます。だからある意味で、温存したかったパターンではあるかなぁ。自分の作曲スタイルとして、熱量はいくらでも増やせるし、泣き感や派手みたいなのは足せるんですけど、そのさじ加減はいつもじっくり吟味してます。

なのでこの曲ももっと泣きっぽくもできたし、ドラマチックにもできたけど、このくらいの塩加減が一番自分が詩にしたかったシーンに似た匂いがするなと思って。そこへ寄せていく作業でした。

――3曲目の「ハートビートスナップ」はまさかのシャッフルだったのに驚きました。このノリは、ライブで皆が手を上げて一体になって揺れている画が見えるなぁと。

堀江:この曲は手拍子や指パッチンをやってくれれば嬉しいですね。そこは曲がリリースされてからお客さんが馴染んでくれればとは思いますけど、肩の力を抜いた一服できる曲が欲しいなと思って作りました。でもシャッフルをやったことないバンドでしたし、絶対に難航するだろうなとは思いましたけどね。

――もっと激しくいきたいのに、みたいな感じでしょうか?

堀江:こういう演奏って玄人っぽくやろうとするといつまで経っても終わらないんですよ。こうしたノリの時は往年の名盤やブラックミュージックがリファレンスになりがちなので、あれを求めていくといつまでキリがないんです。

その部分の舵取りはかなり大事で、もうちょっと玄人っぽくいくのか、あえてこのラインで押さえておいて、普段ガチャガチャしてるバンドが楽しくシャッフルに挑戦してみてるみたいな雰囲気でいくのか。

最終的には半々くらいになって、深追いし過ぎないで今できる中で一番楽しいところにしようということになりました。

――最後の転調する部分なんかは楽しさとアガり感が際立つポイントですね。

堀江:あれはもう自分でも趣味なんだなと(笑)。あと、今回は細井さんという始めての方にミキシングを担当していただいたんですけど、もう歴戦の名手というか百戦錬磨の人なんですよ。

さっき仰った「方位磁針」のボーカルのリバーブもそうなんですけど、作っている僕ら自身がどっち側にするのかなーと迷っている空気感をドンピシャで教えてくれるんです。「ハートビートスナップ」も僕の方でミックスまで持っていってたんですけど、レコーディングしたは良いけど、音作りとしてもっと派手にするべきか、あえてルーム感もきってコンパクトにしてしまうか、でもコンパクトにしすぎても演奏のちょっとしたムラが気になる…と言った感じに悩みながらミックスに行ったら、自分が思ってもいなかった場所に音があって、それを聞いた時に「あ、これだ」とすぐ感じました。

自分がミックスしていても絞りきれなかったんですけど、言われてみればこれが一番気持ち良いなっていう仕上がりだったので、どうやったんですかと聞いたら「俺が一番気持ち良いところに持ってきただけ」と。それは当然ではあるんですけど、これはこの人だからできたんだろうなと思います。

――ミックスは今回ほんと絶妙ですよね。騒がしさと聞こえ感のバランスが絶妙だなーと、4曲聞いて感じました。

堀江:そうなんですよ。考えようによっては今までの曲と比べて地味かなとも思うんですけど、今回は作品としても相応しいと思うし、個人的に別の視点から見て良かったなと思うのが、今回のようなミックスの作品を出しておくとこの先どっちにも行けるなというか。一回フラットな状態にできたので、ここからもっと派手にもしていけるしもっとポップにもしていけるなという、今後の可能性の余地をくれたミックスだなと思います。

――では最後、難易度ベリーハードの4曲目「千載一遇きたりて好機」について。2番の手前とかドリルみたいなグリッチがズキュズキュ入ってるのすごいですよね。

堀江:スライスものも好きなんですよ。人間の演奏では不可能なあぁいうエグい音を人力でやってみようと思って、レコーディングではあのバババって音がするエフェクターを実際に持ち込んでもらってるんですよ。で、踏んで弾いてもらってます。

――Stutter Editみたいなので切っているわけじゃないんですね。

堀江:ではなく、実際に弾いてるのでライブでも同じようにやっています。

神田:ちょうどレコーディングの前にエフェクターボードが完成して、その後に「千載一遇きたりて好機」ができて、そしたら追加エフェクターが必須になっちゃって、ボードからエフェクターが溢れるっていう状況になりました(笑)。

――そしてボーカルもかなり忙しいですよね。

生田:今まででいちっばん難しかったですね。とにかく早くて高いというのは間違いないので、レコーディングの時はちゃんとトップを維持できるようにはやろうと努めました。でも、歌っているうちにそこのコツがわかったというか。

「敗者復活戦自由形」までの歌い方は、思いっきり抜かすというよりかは下の重たい成分を若干残してガって出していたのを、「千載一遇きたりて好機」の時はほぼ上だけにシフトしてやったんです。そうしたらそこでのパワーの出し方がわかったんですよ。

――もしかしてサビ最後のD(レ)ですかね、ちょっとがなり感のある。

生田:そうですそうです。そのコツがレコーディング中にわかってからは、慣れればイケるかなと思えるようになりました。そこからライブを重ねるうちに、曲だけに集中しているというよりかは一歩引いた目線というか、みんなを誘導しながらというか見られるというか、気にするのはサビラストだけなので、そこ以外は余裕がもてるようになったかなと。

――堀江さんとしても、生田さんのボーカルの修練度みたいなのを見ながらメロディーを作ってるんでしょうか?

堀江:意識はしていますけどね。「千載一遇きたりて好機」については現状できるギリギリのラインを狙ってみたかったんです。なのでこの曲はわりと無茶させてるなとは思うんですけど、ぶっちゃけ物理的にどこまでいけるんだろうというのは一度見てみたかったんです。

難しさをマックス振り切った曲が一つあると、ボーカルも演奏も何かと今後の指標になるなと思ったんです。自分はもともとクラシックのピアノをやってたんですけど、クラシックのピアノって自分が弾けるはずもなさそうなものをやらしてくるじゃないですか。

そういう、一見すると不可能そうだけどひとつずつ紐解いて練習していったり、あるいは実戦で鍛え上げていくと体が順応していくみたいな、これはそんな曲にしてみました。みんながひーひー言いながら演奏していって、それが合致したときのスリリングな調和って独特なものがあるとは思うので。

――そうした難易度への挑戦はPENGUIN RESEARCHらしさにも繋がっていると思いますね。さきほどのお話にもありましたけど、初回盤には赤坂BLITZのライブDVDも収録されているんですよね。

堀江:このライブはMVチームの監督さんが撮ってくれていて、MVから僕たちを見てくれてる人たちなのでどこ見て欲しいかも全部わかってくれてるんですよ。

――(ライブ映像を見ながら)これめっちゃかっこいいですよねぇ。ちなみにライブ中ってどんなこと考えてるんですか?

神田:いやー、いろんなこと考えてますよ(笑)。

生田:バグりそうになります(笑)。

堀江:そこも難しい部分で、あんまり考え過ぎて理性的になりすぎるといろいろと抜けてしまうんですよね。やっぱりいいものを見て欲しいから品質的に駄目にならないよう理性で調整しつつ、でもここは攻めきりたいという部分もあるし、いつも悩んでるところですね。

神田:でもツアーとかやってると段々体に入ってくるので、頭の中で技術的に考える部分が減ってくるんですよ。その状態が一番良くて、手元も見ないで弾けるのでよりお客さんが見えるし、空間に対してより一体的になれるというか。

堀江:実際、「千載一遇きたりて好機」もC-3POのお面で弾いたよね?

神田:あー、やったね。視界ゼロのノールックで(笑)。

堀江:ハロウィンのイベントで、僕と神田さんと新保さんがC-3POのお面と全身タイツで演奏したんですけど、以外と弾けたんですよね(笑)。

柴﨑:僕だけ何故かサンシャイン池﨑の衣装だし(笑)。

一同:(笑)

――やっぱりPENGUIN RESEARCHを語る上でライブは外せませんね、いろんな意味で。そんなPENGUIN RESEARCHにとって、ライブってどんなものなんでしょう?

生田:そうですねぇ……ちょっと、ちょっと待って下さいね(熟考のため頭を抱える)。

堀江:一見さんからも見てもらえるキャッチーさと、音楽通にもなるほどと思ってもらえて、かつファンにとっても意外と思われる一言がいいなぁ。

神田:いやいやきっと素晴らしいまとめをね、してくれるんじゃないかと。

新保:生田先生、よろしくお願いします。

柴﨑:よろしくお願いいたします。

生田:うん、うん…待ってね……。

――やはりC-3POの流れで聞くにはこの質問はちょっと重かったのでは…?

神田:こんなモノが言えないようじゃダメですよ、バンドは!

生田:(より深く頭を抱える)

堀江:駄目だったら俺に回してくれてもいいよ。

生田:(さらに深く頭を抱える)

神田:すなわちライブに対して自分がどう考えているかということですからね。これが浅いようではね、もうね。

生田:あるには、あるんだ。でもありきたりになるから排除してるんだ。なんて言えばいいのかな………………。

(30秒の沈黙)

生田:えー、いいですか?

――お願いします。

生田:僕らにとってライブとは、人生をぶつけ合う場所。……みんな頭にハテナが浮かんでるね?

神田:ふむ、すなわち?

生田:僕たちもそうなんですけど、見に来てくれてるみんなもそれぞれ人生があって楽しいことや辛いことがあると思うんです。でも、今こうしてライブに来てくれている間は、僕たちは全力でそこにぶつかっていくし、楽しいことも辛いことも全部この場で出し尽くす気持ちでいる。そうやって色々な思いを皆が持ち寄って作り上げていく場所が、ライブかなと。

――もうこの熟考の沈黙タイムこそが、ライブに対していかに真摯であるかの答えだと思います。では最後、PENGUIN RESEARCHの2018年の目標や野望を教えて下さい。

堀江:あ、俺言いたいです。

――では堀江さんお願いします。

堀江:引き続きという一言に尽きてしまうんですけど、ライブにおいても曲においても相変わらずでいたいというか。その瞬間瞬間において良いと思ったことや素敵だなと思ったことを、混じりっ気なく偏見なく出していけるかを大事にしているバンドだと思うので、目標はやっぱり「相変わらずでいること」ですね。

神田:それをよりお客さんにもわかってほしいよね。僕たちを好きになってくれる人たちもきっと色んな人がいるはずですし、「このバンドはそういうノを大事にしてるんだ」というのをわかってもらえた上で、自分たちも柔軟になってくれればなと思います。

堀江:ライブはいろんな種類の感動があっていい場所で、それこそ同じ曲を聞いても受け取る感動が真反対ということもあり得る話ですし、ありとあらゆる種類の感動や感情があって良い場所だと僕は思ってます。

音楽とはそうした正解がないものなので、そのひとつひとつに向き合っていく姿勢は崩したくないですね。受け入れて向かい合っていくバンドでありたいし、それを見に来てくれる人たちであってほしいと思います。

――ありがとうございました!



リリース情報
■PENGUIN RESEARCH  New Release 『近日公開第二章』
発売日:2018年1月10日(水)
初回生産限定盤:CD+DVD 3,000円(税込)
【マキシシングル】PENGUIN RESEARCH/近日公開第二章 初回生産限定盤
【アニメイトオンライン】【マキシシングル】PENGUIN RESEARCH/近日公開第二章 初回生産限定盤


通常盤: CD only 1,600円(税込)
【マキシシングル】PENGUIN RESEARCH/近日公開第二章 通常盤
【アニメイトオンライン】【マキシシングル】PENGUIN RESEARCH/近日公開第二章 通常盤


<CD> (全形態共通)
先行配信ヒット曲 「千載一遇きたりて好機」 、アプリゲーム「バンドやろうぜ!」キャンペーンソング「近日公開第二章」を含む、PENGUIN RESEARCHの今が詰まった新曲4曲を収録。
M1:近日公開第二章 ※アプリゲーム「バンドやろうぜ!」キャンペーンソング
M2:方位磁針
M3:ハートビートスナップ
M4:千載一遇きたりて好機

<DVD> (初回生産限定盤にのみ収録)
Penguin Grand-prix Revolution@赤坂BLITZ 2017/8/20
M1 ジョーカーに宜しく
M2 嘘まみれの街で
M3 八月の流星
M4 雷鳴
M5 Alternative (PGR Ver.)
M6 敗者復活戦自由形
M7 シニバショダンス(Lyric Video)

■店舗特典
・「オリジナル・クリアファイル」
全国アニメイト(オンラインショップ含む)
※初回生産限定盤(VVCL-1140~1141)をお買い求めいただいた方ののみ対象となりますのでご注意下さい。

【PENGUIN RESEARCH 「近日公開第二章」特典DVDライブダイジェスト映像】
ライブ映像ダイジェストが彼らの公式YouTubeチャンネルで公開。彼らの圧巻のライブ・パフォーマンスを一度チェックして欲しい!



ライブ情報
■PENGUIN RESEARCH LIVE TOUR 2017-2018
PENGUIN QUEST~お台場に導かれし者たち~

※TOUR FINAL!!
・2018年3月25日(日)東京・Zepp DiverCity TOKYO OPEN/START 16:00/17:00
チケット料金:【スタンディング/2F指定席 前売】4,300円【当日】4,800円 各チケットドリンク代別
チケット好評発売中!

公式サイト

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