『ひもてはうす』オール声優出演イベント開催記念、石ダテコー太郎監督に作品の総括と今後の展開についてインタビュー
超重量打線のキャストをまとめる石ダテ監督のテクニック
――監督のエピソードを聞いていると、キャストさんが楽しそうにお仕事をしている様子が浮かびます。
石ダテ監督:今回はヘビー級のみなさんに集まっていただきました。『ひもてはうす』のキャストの皆さんは年齢を重ねれば重ねるほど、どんどんおもしろくなっていくタイプだと思います。
――豪華な声優陣こそ、石ダテ監督の財産ではないですか?
石ダテ監督:そうなんですけど、昔の巨人軍みたいに4番を打てるバッターばかり集まっているので、上手に打線を組まないとちぐはぐしてしまうこともあります。今回は特に経験者が多かったからこそ、初めは少しみなさんが自分のポジションを探るのにちょっと戸惑っているようにも感じました。サッカーで言えば代表戦ですよね。
――他の作品だとメインキャラクターを演じるみなさんですからね。
石ダテ監督:彼女たちをずっと応援してきたファンのみなさんは、そういう部分が見られたのもおもしろかったんじゃないかと思います。
特に今回『ひもてはうす』で感じたのは、久々にご一緒させていただいた三森すずこさんのポテンシャルの高さです。昔の印象からガラッと変わりました。年齢を重ねて、より一層……。
――より一層?
石ダテ監督:えーっと、キレイな言葉が見つからない(笑)。
一同:(笑)
石ダテ監督:より一層、あつかましくなったというか、図太くなったというか。
――ぜんぜんキレイな言葉じゃありません!(笑)
石ダテ監督:「いいのいいの、私はこれで」みたいな、他人にどう見られても構わない姿勢が、思い切りが良くてとても素敵なんです。
そして上坂すみれさんはこれまでにも増して、他所ではあまり開けてない引き出しをバンバン開けてくれたように感じます。精神的な拘束具を外せる瞬間をご自分で楽しんでいるように感じました。彼女も明坂さんみたいに、「またこんなことやらせてー!」とか嫌がってる素振りは見せる感じですが、いざお願いするとスイッチの入れ方がすごいんです。本当はこういうアドリブが好きなんじゃないか? と僕は思っています。
――そして、『ひもてはうす』から石ダテファミリーに加わったのは洲崎綾さんですね。
石ダテ監督:洲崎さんとは一回しかお仕事させてもらっていないのに、二回目に会ったときに「あっ、コーちゃん」って呼んでくれました。本人は覚えていないようですけど(笑)。なんなんでしょうねぇ。あの竹を割ったような性格がとても素敵な役者さんです。特に洲崎さんはキャラを自分のものにする剛腕ぶりとお芝居のテンポ感が素晴らしくて、それによってアドリブパートとの緩急が際立ちました。西さんとの掛け合いも期待通りでしたし、とても頼もしかったです。
――明坂聡美さんは、毎回イベントなどで「いやいや出演している」とおっしゃっていますが?
石ダテ監督:そうですね。いつも「普通こういう仕事はもっと新人の子に頼むものでしょ!!」って怒られます。なので僕は、「今回も何とぞよろしくお願い致します」って頭を下げてるんです(笑)。今回は関係値的にもキャラの立ち位置的にも座長のようなポジションでした。芸歴も長く器用で機転が利く人ですし、相変わらず頼もしいですよね。
――西明日香さんに関してはいかがですか?
石ダテ監督:そして西明日香さんは、とにかく一番ふざけてるんですよね(笑)。今回は特に猫役だったこともあってか肩の力が抜けていて、なんでも楽しもうとしてくれます。あの笑い声が現場にあるってことがとても心強いですね。西さんがいてくれるだけでなんでも面白くなっちゃうんですよ。
――みなさん個性的だと思います。
石ダテ監督:猫をかぶるのを諦め始めて自分の道を進もうとしている方々なので、全員おもしろいんです。厚かましさと可愛げが共存している、人生のマジックアワーみたいな時期なのかもしれません。どうしても20代前半だと、「これは言っちゃいけない」、「事務所に怒られるかもしれない」とか構えちゃうところがあると思います。でも声優を5〜6年やっていると余裕が出てきて、「まぁいいだろ! こんな感じで」みたいに、良い意味で行き当たりばったりな部分が出てくるので、面白い化学反応が起こりやすくなるんですよね。
――『ひもてはうす』の収録現場は、笑いがたえないのでしょうか?
江口P:収録のときに、ある関係者が初めてアドリブパートの見学に来てくださったんです。その方は見学が終わった後「アニメの収録って、こんなに楽しいんですね」と言ってくださいました。
――『ひもてはうす』の収録は楽しそですね!
江口P:なので僕はちゃんと言いました。「ウチの現場は特殊なので、他の現場とは違います」って(笑)。
一同:(笑)
江口P:後日その方に会った際に、彼は「別の収録も見学しに行ったんですけど、江口さんの言ってる通りでした。めっちゃピリピリした現場でした」と言ってました。いかに『ひもてはうす』が変わっているのかを理解してもらえたようです。
――『ひもてはうす』の収録で、怒ることはありましたか?
石ダテ監督:僕が怒ることなんか、なにもないですよ。むしろ僕がズケズケ言いすぎて怒られてますからね。お付き合いの長い方々には、「おい、おまえ!!」とたびたび怒られていました。
――監督が怒られる現場って、なかなかありませんよね(笑)。スタジオの雰囲気を作るテクニックはありますか?
石ダテ監督:いかに「ちゃんとしない」ことだと思います。
――ちゃんとしないんですか?
石ダテ監督:そうです。「コイツがちゃんとしてないから大丈夫か」と思ってもらえたら大成功です。例えば僕が時間ギリギリに汗だくになって走って現場に現れるとか、配った台本が誤字だらけとか。
――それはちゃんとしてませんね(笑)
石ダテ監督:あとは現場に用意してあるお菓子を僕が真っ先に食べちゃうとか。「ここは気を張らなくてもいい場所なんだ」という空気を作りたいんです。いまから大喜利とか馬鹿馬鹿しい即興劇をやってもらうのに、「仕事なんだからちゃんとしてください!」とか言っても、おもしろくなるわけがないです。いつもふざけてしゃべってる姿、そのまんまで録らせてほしいんです。みなさんに、いかに仕事を忘れてもらうか、が僕の役割です。
『ひもてはうす』の放送を終えて監督が手に入れたものは?
――石ダテ監督が『ひもてはうす』で学んだことはありますか?
石ダテ監督:たくさんあります。ひとつ挙げるとすれば、素材を出し渋ることです。
――出し渋ったとは?
石ダテ監督:たくさんおもしろい音声が録れているのに、序盤はあえて出し渋ったんです。最初から全力で出してしまったら、初めて観てくださった方が「きょとん」としちゃうかと思って。
――それは辛いですね。録ってあるのに。
石ダテ監督:いままでの作品は初めて加わるキャストの方が一定数いたので、物語の序盤は自然に初々しい感じが出ていました。ですが今回は重量打線です。軽いポジションの探り合いくらいはありましたけど、みんな第一話から堂々としたもんです。破壊力がありすぎてこれを序盤から存分に使ってしまうと作品としてのバランスが崩れてしまうんです。録れた音声を出し渋るのが、必要なことだったとはいえとてももったいなかったなぁと思いました。
――もったいないから、円盤に未公開アドリブパートを特典につけたのでしょうか?
石ダテ監督:それもありますね。先ほども言いましたが、いま円盤はあまり売れません。僕自身も記念品として買うけど、わざわざ封を開けてディスクを取り出し、プレイヤーで再生しません。だとしたら、「本編なんかおまけです」というくらい、パッケージには大ボリュームの特典をつけたかったんです。
――特典だけでも値段分の価値があるように?
石ダテ監督:僕個人の考えですけど、本当だったらネット配信で観たいんです。ケースを開けてプレイヤーを起動して、ディスクをセットして再生……これじゃ時間がかかる。配信だったらクリックだけで観られますから。
――そういう人、何人もいると思います。
石ダテ監督:なので、その面倒な行動をしてくださる方々のためにアドリブパートを多めに収録しました。たぶん2クールぶんくらいあるんじゃないかな? キャストさんたちから「まだ録るんですか?」と言われるくらいやりました。
――本編よりアドリブの方が長く収録していたのですか?。
石ダテ監督:もちろんです。みなさんキャリアのあるキャストさんだから、ほとんどミスなんてしません。台本パートは2〜3話まとめて録っても30分とか1時間で終わっちゃうんです。なので、その後4時間くらい、ずーっとアドリブを録ってました。
『ひもてはうす』の次なる展開、クラウドファンディング実施中
――『ひもてはうす』は現在、クラウドファンディングでおもしろい企画をやっていますが、どういった経緯で始めたのでしょうか?
アニメ『ひもてはうす』OVA 第10.5話 未放送エピソード制作プロジェクト
石ダテ監督:10話で放送しようと思っていた台本パートのアニメーションが、いろいろなアクシデントが重なって作れなくなってしまったので、それを映像化するためのクラウドファンディングを実施してみました。この10話のプレスコ音声を事前のラジオで放送したら、リスナーさんにもキャストさんにも、評判がとてもよかったんです。なのでアニメ放送はできなかったけれどクラウドファンディングでOVAを作ろうと考えました。でも、本当はクラウドファンディングがあまり好きじゃないんですよね。
――なぜですか?
石ダテ監督:お客さんの中で「参加した人・参加しなかった人」の温度差ができちゃうからです。参加した人は誇らしいけど、クラウドファンディングの存在を知らずに参加できなかった人は、ちょっと置いていかれた気持ちになるんじゃないかなと思います。そんな企画をやってたなんて知らなかっただけなので、なんにも悪くないのに疎外感を与えてしまうんじゃないかと。
――ですが今回はクラウドファンディングをスタートさせました。
石ダテ監督:はい。今回のクラウドファンディングは、事前に公開した音声で評判がよかったのに放送できなかったお話です。作る物の内容もはっきりしてますし、すでに観たいと思ってくださるお客さんがいます。目的と対象者が明確なので「じゃあやってみるか」と踏み切りました。でも、それだけじゃおもしろくないから、集まった金額によって映像のクオリティーが上がっていくような遊びを用意しました。これなら楽しんでもらえるかもしれないと思いました。
――ファンが制作に参加できている感覚になれて、楽しいですね。
石ダテ監督:ありがとうございます。そういう楽しみがなかったらクラウドファンディングって、「搾取のお知らせです」と言ってるのと同じじゃないですか?
一同:(笑)
石ダテ監督:ただの搾取のお知らせだとしたら、それは予算を工面できなかった僕たち制作側の不手際じゃないですか。だからやるからには参加者がみんなで遊べるお祭りであってほしい。成立するかしないかは置いといて、たとえ苦しい時でもそういう遊びをみんなで楽しみたいというメッセージを込めて企画しました。
――手描きのアニメになる可能性もありますね!
石ダテ監督:難しいとは思っていますが、ワンチャンありますね! 手描きのプレスコアニメなんて、ものすごく贅沢です。ディズニーとかジブリしかやってないんじゃないですか?
――その他に、一番下にすごい商品が売ってますけど。「石ダテコー太郎監督菓子折りプラン」(30万円)とは、なんですか?
石ダテ監督:ただの悪ふざけ商品ですけど、5000円とか1万円とかばかりだと、どう計算しても最終目標の手描きアニメ(3500万円)に届かないように見えちゃうじゃないですか。これだと「最初から手描きアニメを作るつもりなんかないだろ!」って思われちゃう。
――それはそうですね(笑)。
石ダテ監督:こんなワンクールのショートアニメに高額で売れるようなものなんてそもそもないんですから、ネタみたいな高額商品を作るしかないだろうってことになりました。とはいえ、こんなネタのために外部の方々に協力してもらうわけにはいかない。弊社バウンスィ内でなんとかしないといけないということで、僕が菓子折りを持って挨拶に伺うことにしました。
――目標はもちろん、1000%の某有名アニメーションスタジオの手描きアニメですか?
石ダテ監督:達成できたらおもしろいですね。こういう形でみなさんから資金調達させていただくなら、普段な実現できないような贅沢なお祭りにできたら、プライスレスな思い出として素晴らしいのではないかと思っています。
――某有名アニメスタジオは、すでにアタリをつけているのでしょうか?
石ダテ監督:いやいや、さすがに成立していないのに、この段階ではまだどこにも持っていけません(笑)。実現できそうになってから検討して、適したスタジオさんにお願いしようかと思っています。
――もし手描きアニメになったら、どのような映像になるのでしょうか?
石ダテ監督:どうなるんでしょう? 映像は予算と時間をかければ、かけただけよくなります。どんなにすごいスタッフと時間を使っても、お話の内容はゴキブリを退治してるだけですけど(笑)
――3500万円あつめて、ぜひ実現してほしいです。
石ダテ監督:僕はアニメ作品を作っている人間です。アニメを作るのは本当に楽しいんです。この気持ちを少しでも作品のファンのみなさんに感じてほしいと思って、初めてクラウドファンディングに踏み切りました。競馬でもそうですけど、100円でも賭けたら楽しいじゃないですか。馬券を買ってないレースなんて、ただ自分に関係のない馬が走ってるだけですから。
――1500円から参加できる商品に書かれていますが、応援メッセージは全員違うのですか?
石ダテ監督:クラウドファンディングの一番安いコースって、お礼のメッセージをよく見かけますよね? だったらウチもやろうということになりましたが、同じじゃおもしろくないから、ひとつずつメッセージの内容を変えることにしました。なんなら全メッセージを並べて読んでみたら初めて浮かび上がってくる物語がある、みたいなことが実現できたらおもしろいんじゃないかなって。
――でも全メッセージを変えるのは苦労しませんか?
石ダテ監督:会議で思いついたことを言っただけだったのに採用されてしまいました。ちょっと甘く考えてましたね(笑)