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映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督インタビュー

「すずさんにカメラをずーっと向けっぱなし」で作られた映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』|片渕須直監督インタビューで語られたアニメへの提案と多様性

「え!? それはぜひ! 押さえて押さえて!」

――監督の作品には、俳優さんと声優さんが混在していますが、どうしてこういったキャスティングになったのでしょうか。

片渕:そこにそんなに大きな区別を感じていなくって。みんな演技者、役者さんであるわけです。
『BLACK LAGOON』(※3)なんかは、声優さんの演技のポテンシャルってすごいんだよ、という意識でやってきたので、そうした場では、声優の人たちは自分たちにとっては仲間内という意識にもなってゆきます。


※3:広江礼威先生による漫画を原作とした、マッドハウス制作のTVアニメ。2006年放送。片渕氏が監督を務めた。


例えば、(北條サン役の)新谷真弓さんなどは、顔出しの舞台役者であり、声優の仕事もされている人です。うちの仕事場がある町の喫茶店で、作画監督の松原秀典さんががコーヒーを飲んでたら、たまたま新谷さんがおられて。「今こういうの作ってるんだよ」って松原さんが話したら「それは興味ありますね!」みたいな話になったりしたみたいで。新谷さんは、喫茶店の2階の狭いスペースで、演劇をしておられた。

(北條周作役の)細谷佳正くんなんかの場合は、以前、自動車会社のPVを作った時に出演してもらって、いい感じだな、と思って。その時に「広島出身なんだ。じゃあ今ずっと考えてる『この世界の片隅に』出てもらえるかな?」「いいですよ!」っていう会話をしたのがきっかけで。そこから何年か経って本当に演じてもらうころには、もう細谷くんがすごい有名になっていて。そんな出会いでキャスティングを進めていきました。

ただ、そんな中でも、すずさんっていうキャラクターを演じられるのは誰なんだろうっていうのは考えていました。

そんなときに、テレビドラマで演技しているのんちゃんを発見して。「この人ならいいかな」って思いはじめたら、もう、それ以外は考えられなくなりましたね。

「この人だったらハマるかな」ということを感じながらキャスティングしていくので、声だけの芝居、顔出しの芝居、360度にアンテナを張ることになる。

――ということは、ほとんどの方はオーディションしてないのでしょうか。

片渕:当初は、のんちゃんが起用できるかどうかというのもあって、すずさんに関してはオーディションもしました。ただ、最終的にやっぱりのんちゃんだな、ということになりました。

で、実は(黒村径子役の)尾身美詞さんは、すずさんのオーディションで来ていて。尾身さんは広島の原爆をテーマにした舞台をやってらしたり、こうのさんのファンでもあるというので、、「お義姉さんだったらできますか?」って聞いてみたんです。そしたら「やります!」って返ってきて。

その場でお義姉さんの台詞を読んでもらったら、もう最初から完成していたんです。なんでそんな演技が即興でできるのかなって聞いてみたら、「その場面が気になっていて、たまたま昨日漫画のそのページを読んできたからです」って。解釈も含めて、もう間違いないって感じでしたね。

白木リン役は、オーディションではないけども、いっぱい声を集めていて。というのも、のんちゃんのぼけぼけさに合うぼけぼけさの声の人を探していて。

 

――対照的な声の輪郭ということでしょうか。

片渕:普通この役って妖艶なイメージかもしれないけど、でも違うんですよ。すずさんに妖艶な人は近づかないから。自分と同じぼけぼけな人しか近づかないんです。

岩井七世さんはそんなボイス・サンプルの中におられれた。岩井さんの声は壁を張った感じがしない声で。ただ、最初にマイク前に立ってもらったときは、なんだか妖艶な声を役作りしてきていた。一回全部外してもらって。「あっ、私普段のままやればいいんですね」って(笑)。

(テル役の)花澤香菜さんは、ライムスター宇多丸さんのラジオ番組に出ていらしてて。声優の人にいきなりアナウンサーになってもらって、ニュースの原稿読んでもらうっていう企画でした。その時の花澤さんのおどおど感から、思わずテルちゃんをイメージしてしまいました(笑)。

(北條円太郎役の)牛山茂さんは『BLACK LAGOON』にも出てもらってますし、(浦野十郎役の)小山剛志くんは僕が作った作品には全部出ている人ですね。

(森田イト役の)京田尚子さんは憧れの人だし、(小林の伯父役の)佐々木望さんは広島出身で「なんでもいいから出してください」って言われて。「もうおじさん役しか残ってなくてごめんなさい」って言ったら「おじさんでいいです!」って返ってきて(笑)。

(堂本さん役の)世弥きくよさんと(刈谷さん役の)たちばなことねさんは役者さんなんだけど、朗読とか声の芝居もやってらして。(知多さん役の)瀬田ひろ美さんは原爆のお芝居をやってて……といった経緯ですね。

▲テル(CV:花澤香菜)

▲テル(CV:花澤香菜)

――収録はみなさん一同に会して行われたのでしょうか。

片渕:それはちょっと無理でした。特に、当時細谷くんは忙しくなっていたので。

――(水原哲役の)小野大輔さんはどういった経緯でしたか。

片渕:哲の役がいないよ、って言ったら「小野大輔が空いてます!」って言われて。「え!? まさか。それはぜひ! ぜひ、押さえて押さえて!」みたいな(笑)。

――小野さんのことはよく御存じだったのでしょうか。

片渕:そうですね。作監の松原さんと、小野さんは女性人気がものすごくて、かつ人気になるだけの世界を持ってるのだなあ、と話していたところだったんです。

あと、そのときは全然知らなかったのですが、実は大学の後輩だったんですよ。『この世界の片隅に』で僕は日大芸術学部の「日芸賞」というのをもらったんですが、翌年小野さんが受賞されていて。2年連続で『この世界の片隅に』チームが受賞しました(笑)。

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