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映画『るろうに剣心 最終章』撮影現場レポート&監督インタビュー

映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』緋村剣心と雪代縁の熱いアクションシーンを撮影レポート! 大友啓史監督のインタビューもお届け

大友監督「今回は複雑な感情を持つ戦い」

ここからは、撮影の合間をぬって行われた大友啓史監督のインタビューをお届けします。

——雪代縁役に新田真剣佑さんをキャスティングした理由をお聞かせください。

大友啓史監督(以下、大友):初めて会ったとき、抜群のポテンシャルは感じたのですが、まだ映像で彼のアクションを見たことがありませんでした。この役できっと、センセーショナルな彼のアクションをお披露目できる、それは一作目の佐藤健の時にお客さんが感じた驚きに匹敵するはずだ、そう思いましたね。

縁は単なる復讐に取り憑かれた人ではなく、少し違うものに取り憑かれた男。母親代わりでもありお姉さんであった巴という最愛の女性を剣心に殺されてしまったという感覚だけではなく、その心まで奪われてしまったという思いを抱いている。

いわば、義理の弟と義理の兄の戦いです。その繊細な感情表現を含め、トータルで考えると彼しかいない。役に対する取り組みやアプローチの仕方も他の人から聞いていて、まっすぐな人ですので、想像以上に繊細なお芝居と身体性という両面が発揮されていると思います。

おとといの撮影では、姉への思いを内向的に抱えて一人で佇むシーンを撮影していましたが美しかったですね。同時に狂気も孕んでいて、彼は若いけれど表現に起伏があるというか、とにかく撮ってて面白いんですよね。

佐藤健は、ここ何年かで若手俳優の中では特別な存在になったので、そこにぶつける年下の役者は誰が良いかなと思ったときに彼だ!とストレートに思いました。

——その縁の姉である雪代巴役の有村架純さんも今回から新しく登場します。

大友:有村さんは素顔と演技している姿が全く違います。スタートの声がかかった瞬間にスイッチが入る。まったく違う表情を見せてくれる。その率が1番高い感じですね。

よく役柄になりきる俳優さんをカメレオン俳優という言い方をしますが、有村さんはそれともちょっと違う気がしますね。なり切るというよりも、その役に自らのすべてを投げ出し、預けていく。何度撮っても見え方が変わるので撮っていて飽きません。

芝居についてあれこれ言ってしまうと、監督という立場上、その言葉が間違っていたとしても役者は受け入れてくれるんです。

なので、僕のスタンスは、最初はできるだけ本人の考えの中で消化してどういうことが起きるのか、まず演じて見せてくださいというスタンスです。

どういうシステムでそういう表情になるのか気になって「君たちのOSはどうなっているの?」と佐藤健に聞いたこともありました(笑)

一同:(笑)

大友:普通に考えて50代、40代、30代、20代と年齢によっても性別によっても捉え方や考え方は違うので、そういうところで映像は豊かになっていく気がするんです。そういう意味でも、有村さんは振れ幅を大きくしてくれる人だと思いました。

——幕末時代の剣心を描くにあたり、監督自身、剣心をどのように解釈されましたか?

大友:剣心は巴の死と共にいろんなものを捨てた人。今は新しい時代のために刀を振るい続け、別に自分の未来に何が起きるのか期待していないからこそ“るろうに”だと思うんです。

巴の意思を受けて剣心は生きている。そして、目に映る人々の幸福を守るために逆刃刀を振るう。それは、今は亡き巴の意思でもあります。

一方縁は、幼くして亡くした母親代わりでもあるお姉さんを求め続けている。その思慕の情は、一種狂気の域に達しています。天の意思=姉の意思とすら、思い込んでしまっている。

雨が降ったり、雷が鳴ったり。それらの天気の変化すらすべて姉の意思に感じてしまう。そういったナイーブな表現は、新田真剣佑の真骨頂ですね。しっかり成立させていますし、そこから縁の複雑な気持ちが浮かび上がってきます。

——今回見学させてもらったクライマックスシーンの演出プランなどがあれば教えてください。

大友:基本的にアクションの振り付けを含めて谷垣さんにお願いしているのは、“感情が見えるアクションにしてほしい”ということです。

縁はラスボスですが、剣心にとっては倒すべき敵ではない。そもそも、剣心は人を斬りたくない・誰かを傷つけたくない人ですので、縁は本来だったら戦いたくない相手なんです。

しかも、自分が手にかけてしまった巴という女性の弟で。剣心にとってはある種の贖罪の意識があり、彼の前に出ると「すまない」しか言えない。本当に何も言えなくなってしまう人と戦わなくてはいけない状況なので、「さぁ!戦いだ!」という気持ちにはならないんですよね。

また縁もそのニュアンスと同じものが感じられます。最愛の姉を奪われた憎むべき相手ではあるけれど、憎しみだけじゃない感情が彼の中に生まれてきていて。不思議な緊張感を持った、戦いの導入になってきていると思います。

鵜堂刃衛や志々雄と戦ったときはまっすぐな強い感情で向き合っていましたが、今回の縁との闘いは、巴を間に介しての戦いですからね、感情面では複雑にならざるを得ない。

なので、一振り一振りの動きにその感情が見えてくるといいなぁと。剣心は縁の感情を受け止めるしかないので、剣心は攻防というよりも縁の剣を受け止めていく。

その中から縁に対して、「俺が言えた義理じゃないけど、お前の生き方は違うんじゃないか」と。剣心なりの贖罪の念がアクションの合間に振り込まれているので、いつもの『るろ剣』のようにダイナミックなアクションにしつつも濃密な感情が迸るようなものになれたらとアクションチームにお願いしました。

話せばいいじゃん!と思うことを何で命を賭けて向き合わなければならないのかと思いますが、戦ってみないと分かり合えない、刀と刀をまじえないと分かり合えないこともあるということなんです。

剣心も無口な男ですし、あの時代の武士はこう思っている!と声高に言う人たちではないので、刀を合わせて初めて分かる思いがある。刀を通して自分の心を問い続ける物語になっているのは『るろうに剣心』の面白さだと思います。

剣心も縁を通して自分の心が鏡のように見えてくると思いますし、縁も同じ。そのプロセスは決して穏やかなものではないけれど、2人が和解していく戦いなんです。

——佐藤さん、新田さんとこのシーンについて何かお話されましたか?

大友:佐藤健くんとは「こう言うことを言いたい」「こう言ったほうがいい」という、俳優目線からのアウトプットに耳を傾けながら演出していますね。このスタンスは前作からずっと変わっていません。

新田真剣佑も現場で「こういう風に動きたい」という気持ちをちゃんとぶつけてきてくれるので、お互いのアイデアとそれぞれの役に対する解釈もできる限り受け止めた上で良い戦いになればと思っています。

ただ、クライマックスとしては軸を作った谷垣アクションらしい動きだけで十分に楽しめるシーンになっています。

——小岩井プロデューサーのほうから「今まで見たことのないアクションシーン」だとお伺いしましたが、具体的にどのようなシーンになっているのか教えてください。

大友:モーションキャプチャーや3Dなどでのアクション表現が主流になっていく中、『るろうに剣心』シリーズは、最初からあくまでも肉体での表現というアナログ性にこだわってやっています。

谷垣さんは香港というアクションの最前線で活躍されている方ですので、僕にとっては、それを日本の土壌で十分に活かせるような、そんな作品にしたいなと。

スケジュールや規模感を含め、香港だからできることもあると思うので、それを日本にどう持ち込むのか色々なレベルでやっていると思うんです。

それはアクションだけの問題ではなく、美術チームや装飾チームなどが手掛ける色々な仕掛けを含めて、総合力をアップしていくことでしか成立しない。

これまでの積み重ねでチームの中で許容できる範囲が広がってきているんです。たとえば、作り物も精度が高くなっていますし、そういう意味ではアクションの迫力は増していると思います。

アクションシーンが終わった後のセットは草一本生えないみたいな感じで全部破壊されているような感じです(笑)

一同:(笑)

大友:谷垣さんも、今までにないやり方含めワイヤーワークなども縦横無尽に駆使しながら、アイデアを詰め込んだ唯一無二のアクションを設計してくれていますね。

——実際に、新田さんのアクションを見られて監督自身、どう感じられましたか?

大友:精神的な面も含め、しっかりコンディションを整えてアクションシーンに臨むのは本当に大変なことです。特にるろ剣アクションはね、要求が高いですから。彼のアクションは大きくて正確ですね。映画の中で彼の体を見ていただければわかるようにちゃんと作ってきていますしね。

もともとロサンゼルスで空手をやっていたそうですし、素養は申し分ない。加えて縁というキャラクターをしっかりつかみ、ただ、アクションの段取りを覚えるのではなく、縁らしさをどう出していくのかもしっかり考えていますから。彼の性格と同じく、まっすぐで澄みきった殺陣を感じます。

まだ剣心と縁の立ち回りは撮影が始まったばかりなので何とも言えないですが、剣心を演じる佐藤健も縁のすべてを受け止める覚悟でここに来ているんだなと、立ち姿や何気ない仕草から縁や巴への深い思いが感じられます。

——撮影現場を見させていただいて、佐藤健さんの進化もすごく感じました。

大友:僕自身、彼とは20歳の時から付き合いがあるので、積み重ねてきた撮影時間を考えると、まるで自分の子供の成長を見つめ続けてきたかのような、そんな時間を過ごしてきたように思います。

やっぱり20代前半と20代後半の男は変わってくると思いましたし、彼はいろんなものを背負う立場になっている。剣心に戻ること自体5年ぶりではありますが、スルッと戻っていました。

“1回体に入れた役は意外と忘れないものですね”と本人も言っていて、佐藤健が剣心という役を演じるときに剣心であり続けてくれるんです。

ある意味、何かあったら剣心を撮ればいいという安心感があって、そういう主役が1人いるとすごく現場も楽になります。やっぱり『るろうに剣心』は剣心を軸に宇宙が回っているんだな、と。

しかも、佐藤健が演じる剣心を中心に回ってる感じが前作よりも強くなりました。力の抜き方も覚えたと思いますし、その裏では色々な努力を重ねていることが伝わってきますし、今の彼だからこそ幕末時代の剣心ができたんじゃないかと思うような表現がいっぱいあります。

彼はすごくシンプルに、剣心でい続けることを素直にやってくれているので、やっぱり説得力はありますよね。

——佐藤さんのアクションに関してはいかがでしょうか?

大友:前回までは「できるんだろうか?」という部分があったので、手を覚えて一生懸命についていくスタンスが強かったかもしれません。

これもまた芝居と同じく良い意味で抜き方を覚えたというか。アクションもやればできるので、体を動かして一生懸命練習をするというよりもアクション全体の構成を見ながら手を入れていくスタンスになったような気がします。

たとえば、今日のクライマックスシーンでは「こういう展開のアクションになるんじゃないか?」というアイデアの出し合いに時間を使うようになりました。彼がやりたいことを谷垣さんや僕たちも柔軟に取り入れながらうまくやっている感じです。

動きが速い遅いということではなく、成熟してもっと上を求めるようになった。そこに感情をのせていくにはどうすればいいのかなど、確実に次の段階に進んでいるような気がします。

——また、原作では砂浜で剣心と縁が戦いますが、今回はガラリと場所が変わっています。何か理由があったのでしょうか?

大友:砂浜だと足がとられて大変なんです。前回の反省ですね(笑)もっと良いアクションを見せるために砂浜は勘弁してくれという声が各方面から寄せられまして、その結果セットでやっています(笑)

あとは、そこまで(舞台を)広げる必要がないと思うんです。剣心と縁の戦いはいわゆる“私闘”ですので、私的空間でやったほうが密度も出るよねということになりました。

——その他、原作と変えているシーンはありますか?

大友:あまり言うと楽しみがなくなってしまうので……漫画原作の映画はどうしても原作と比較してしまいがちですが、僕としては真っ白な目で見ていただきたい気持ちがあります。

——では、原作ファンにとっても特別な「追憶編」を実写映画で描くにあたり、プレッシャーはあったのでしょうか?

大友:それもあまりなかったです。過去の話は重いドラマ構造があるので、どちらかというと僕の得意分野ですし、佐藤健も1番やりたかったのが「追憶編」でしたからね。むしろ、このスケジュールで撮り切れるのかという現実問題のプレッシャーが大きかったです。

とにかく深いお話ですので、掘ればどこまでも掘れますし、芝居も臨もうと思えばどこまでも臨める。やっぱり、そこを掘り下げ切ったどうかは皆さんに観ていただかないとわかりません。

実写映画は生身の演者たちがやっている面白さがありますし、「TheBeginning」の撮影では、思いがけない感情がほとばしる瞬間がたくさんありましたからね。

——これまで映画『るろうに剣心』の撮影を重ねて来ての“最終章”となりますが、心境に変化はありましたか?

大友:前回の2作目と3作目は前編と後編で繋がっていましたが、今回の“The Final”と“The Beginning”は繋がっていないので交互に撮影して大丈夫かな?という心配がありました。

明治の剣心とは違って幕末は京都の闇の時代。剣心の活動も夜の時間帯ですので、明治と幕末の時代背景では登場人物の有り様が全然違うんです。

明治を舞台にした“The Final”は振り切ったエンタメを目指していますが、幕末の時代を描く“The Beginning”は「龍馬伝」のような時代劇に近いものを感じます。

この違いを同時期に一気に撮影するメリットはあるのか?と思いながらやっていましたが、剣心は2つの時代を生きた男ですので、気持ちが繋がっていることは間違いない。

毛色が違う2作品になっているので、観る方は面白く楽しめると思います。

——監督自身、手応えは?

大友:手応えというか、僕の人生で経験したことがないハードな撮影になっているような気がします。どこか、同じスタッフで違う映画を撮っているような感覚です。

1つは逆刃刀、もう1つは真剣を使っているわけですから、立ち回りからすべての有り様が違います。剣心がキレッキレだった時代は人を斬ることに迷いを感じていないので、2作品で剣心の刀の扱い方がまったく違うんですよね。

血が流れるか流れていないかどうかで、何かが違う。だからこそ、撮影を交互にすることが思ったより大変なんです。髪型ひとつでも気をつかう必要がある。

本当にエキストラを含め、画面の隙間まで全部目が離せない。立ち回りひとつに血がついているか、剣心をどうやって若く見せるか、剣心の髪のポジションだけで年齢が変わります。

そういうことをひとつでも忘れてしまうと、作品に傷がつく大事故が起きる。でもみんなハードな撮影を続けていると行き届かないことがたくさん起きてくるので個人的には気が抜けません。

やっぱり小さい画面で観るのと映画館で観るのは全然違う。“映画”を体験していただきたい気持ちがあるので、そうなると幕末と明治2つの時代に入っていけるようにしなければなりません。

2つの時代があるということは、衣装合わせも倍以上なんです。そこは前回の2作目と3作目との大きな違いかな、と。

幕末の衣装合わせやキャラクター作りやロケハンを同時に行ったり、幕末の撮影をしながら明治時代のロケハンや衣装合わせをしたりしているので、とにかく走り続けていて、撮影が永遠に続くんじゃないかと思っていました。

今はやっと登頂が見えてきた感じです。

——最後に大きな質問になりますが、ドラマ作りにはない映画の魅力を教えてください。

大友:規模、かけられる時間、セット、ロケーション等ですね。映画はスクリーンが大きいので何でも飲み込んでしまう強いメディアだと思っています。

画面の大きさ、音や映像の表現の幅も大きいですし、そこで観た映画が“体験”になっていくものだな、と。

テレビは基本的に消費されていくメディアですが、映画は後世に残っていくことを考えて作っていかなければならない気もします。

[取材・文/福室美綺]

公開情報

『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』
『るろうに剣心 最終章 The Final』4月23日(金)全国ロードショー
出演:佐藤健、武井咲、新田真剣佑、青木崇高、蒼井優、伊勢谷友介、土屋太鳳、江口洋介
主題歌:ONE OK ROCK「Renegades」

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』6月4日(金)全国ロードショー
出演:佐藤健、有村架純、高橋一生、村上虹郎、安藤政信、北村一輝、江口洋介

監督・脚本:大友啓史
原作:和月伸宏『るろうに剣心−明治剣客浪漫譚-』(集英社ジャンプ コミックス刊)
制作プロダクション・配給:ワーナー・ブラザース映画
製作:映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

公式サイト
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(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
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