音楽
『プリ☆チャン』の夢を大切に|音楽家・松井洋平 ロングインタビュー

『キラッとプリ☆チャン』キャラクターソング・主題歌を手掛ける松井洋平さんが歌詞で描いたセカイを紐解く|圧倒的な愛情に満ちたソルルとルルナ。 “悪者”にはならないように、完璧ではない、論破ができるような歌詞に

TVアニメ『キラッとプリ☆チャン』シーズン3のキャラクターソングが、5月から3ヵ月連続でリリース中です。2021年7月21日(水)には『キラッとプリ☆チャン♪ソングコレクション ~ from MOONLIGHT MAGIC ~ DX』と『キラッとプリ☆チャン♪ソングコレクション ~ from MOONLIGHT MAGIC ~』が発売されます。

シーズン3でキャラクターソング「Despertar del SOL!」(ソルル cv.斎賀みつき)、「Lustro della LUNA 」(ルルナ cv.山村 響)、「Awakening Light」 (ソルル、ルルナ cv.斎賀みつき、山村 響)や、オープニング主題歌「ドリーミング☆チャンネル!」(Run Girls,Run!)の作詞を手掛けた、音楽家の松井洋平さんにオンラインでお話をうかがいました。

松井さんは『プリパラ』でも「Pretty Prism Paradise!!!」などの作詞を手掛けられてきました。(なお、7月21日に発売されるソングコレクションには「Lustro della LUNA ルルナ (cv.山村 響)」、「Awakening Light ソルル、ルルナ (cv.斎賀みつき、山村 響)」が収録されます)

松井さんにお話をうかがう中で感じたのは“言葉の持つ力”。『プリ☆チャン』の物語・キャラクターたちをより鮮やかに輝かせる言葉の一つひとつを、歌詞カードを読みながら改めて解き明かしたくなるような衝動に駆られました。このインタビューを読んでくれた皆さんにも、これまでとは違った発見があるはずです。

そんな歌詞が魅せる世界によって「時には聴き手の“人生”を変えてしまうこともある。だからこそ、責任がある」と松井さん。楽曲についての話を聞いていく中で、松井さんの作詞家としての矜持や姿勢も明らかになっていきました。

アニメイトタイムズでは、『プリ☆チャン』脚本家の兵頭一歩さんのインタビューも掲載予定です。お楽しみに!

『プリ☆チャン』からのオファーを受け、第一声は「無理かも!」

――松井さんといえば、『プリパラ』楽曲でもおなじみでしたが、『キラッとプリ☆チャン』(以下『プリ☆チャン』)の第3シーズンの楽曲のオファーを頂いたときはどのようなお気持ちでしたか?

松井洋平さん(以下、松井):まさかこの(物語後半の)タイミングで『プリ☆チャン』のお話をいただけるとは思ってなかったんです。僕は『プリパラ』のイメージが強い作家だと思うんですよね。メインで書かれている作家さんが他にいる中で、まさか自分にメインテーマのオファーがくるとは思ってなかったので、そういう意味ではプレッシャーがありました。皆さんが大切に作り上げてきた世界観を壊さず、何か新しいものを提示しなければなと。

――松井さんほどの方でもプレッシャーは感じられるんですね。

松井:いやいや、そんな“ほどの”って者でもないんですよ(笑)。それでも、今まで800曲くらい書かせて頂いてきたと思うんですが、毎回ビビってます。「ああ、もう無理だな」って(笑)。

――(笑)。松井さんは、シーズン3のオープニング楽曲の「ドリーミング☆チャンネル!」、さらにキャラクターソングの「Despertar del SOL!(ソルル)」、「Lustro della LUNA(ルルナ)」、その2曲を掛け合わせた「Awakening Light(ソルル&ルルナ)」の作詞を担当されています。それぞれどのようなオファーだったのでしょうか?

松井:今回いただいたオープニング曲が今までのオープニングの歌詞を何かしら使って組み合わせてほしいといった発注だったんです。それは「ああ、なるほど」という感じでした。

でも、ソルルとルルナの楽曲に関しては「2曲あって、合体して1曲になります。それをお願いします」と(笑)。

合体する曲自体は以前プリパラで「リンリン♪がぁらふぁらんど」(ファララの「サンシャイン・ベル」とガァララの「すた〜らいとカーニバル☆」の合体)があったので、「ああいうことかな」とは思ったんですが……ソルルとルルナはロジックで殴ってくる敵だったので、ロジカルな歌詞にしなきゃいけないなと。それを違和感なくあつらえるのはめちゃくちゃ難しい。それで「ああ、もう無理かもしれない」とは思いました(笑)。

――松井さん自身はそういった壁をどうやって乗り越えられているんでしょうか。

松井:これを壁だというとしたら……この壁を登る楽しさがあるんです。壁の向こう側に隠れているもの、その上に立ったときに見える景色って歌詞ができる前はまったく見えてなくて。ですから、まず俯瞰で見て、そのあと、一歩一歩とっかかりを見つけていきます。

作品の歌詞を書く時は、作品の要素があるので、つるっとした壁ではなくて。ボルダリングのような感じで、取っ掛かりがついているんです。ボルダリングって自由なルートで登れるわけじゃないですか。登っていく過程次第で楽しみ方が変わっていくと思うんですが、僕の場合は、どの言葉を持ってきて、どういうふうに登るのが良いのかを考えていく作業というか。僕にとっての作詞はボルダリングに近いのかもしれません。

――興味深いお話です。そしたら、『プリ☆チャン』の曲もまずは俯瞰で捉えた上で作られていったんですね。

松井:そうですね。『プリ☆チャン』にはこれまで関わってきていなかったので、『プリパラ』と『プリ☆チャン』の違いはどういうところかなと考えるところからはじまりました。

で、考えていった結果、プリティーシリーズの根本にある軸は変わりはないけど、視点が違うのかなと。『プリパラ』は、「み〜んなトモダチ!み〜んなアイドル!」その中での自分を見つめるような作品。一方の『プリ☆チャン』は、まずは自分がやってみるところからはじまっていく。みんなと一緒によりも、自分から扉を開くという、能動的なメッセージがある作品だなという印象でした。

作品だけではなく、『プリ☆チャン』『プリパラ』の曲、歌詞も改めて見て。『プリパラ』で自分がやってきたことをまず振り返ったあとに、『プリ☆チャン』ではどう見せたらいいのかなというのを俯瞰で見ていくような感じでしたね。

――『プリ☆チャン』を俯瞰で見たとき、それぞれのシーズンでどのような印象がありましたか?

松井: 1期は憧れの物語、2期が友情の物語、3期は愛情の物語と捉えました。それと同時に、過去、現在、未来の物語でもあるなと。

例えば、1期は白鳥さん、あいらさんなど、『過去』に憧れとして存在していた人がでてきて、その憧れが自分を作ってると自覚した上で、憧れを自分に変換して発信していくという物話で。

対して、2期で描いているのは現在。虹ノ咲さんを軸にして、友情がテーマになっていて。友情を作り上げていく過程で(虹ノ咲さんが)嘘をついていたというエピソードがありましたが、一緒に積み重ねてきた『今』に対して嘘はなくて。だからこそみらいたちもあたりまえのように受け入れられのかなと。

そして、3期は未来への話。そう考えたときにソルルとルルナの立ち位置が少し見えたような気がしたんです。見ているお子さんたちからしたら、『未来』というのは、自分のお父さん、お母さんの姿かもしれない。言ってしまえば、ソルルとルルナは庇護者だったわけじゃないですか。大人って子どもにとっての味方でもあり、敵でもあり、時にはラスボスでもあるんですよね。

――確かに親はラスボスかもしれない。

松井:いろいろありましたけど、二人が主人公たちに抱いているものは圧倒的な愛情で。自分が親ということもあって、ソルルとルルナを見たときに「これってある意味、親だよね」と。だから、ラスボスで圧倒的な強さを持ってるとは言え「決して、ソルルとルルナを悪人にしちゃいけないな」と考えていました。

ソルルとルルナが太陽と月という存在に分かれているのも、よくできているなあと。ネガティブとポジティブ。それってどちらも親の姿なのかなと。親というひとつの存在の中にある、ネガティブとポジティブ。そういった印象を受けました。

――未来への話、というのは最終回となった第153話「キラッとプリ☆チャンやってみよう!」で強く感じましたね。

松井:最終回がまさにそんな感じだったんですよね。これで終わるのではなく“あなたたちの人生の物語はこれからも続くんだよ”ってメッセージを提示してくれるような気がして。このあと描く世界では、自由に自分を発信していくんだよって、淡々と語っているなと。すごくいい最終回だなと思いました。ドラマティックさという意味では、その一個前のお話(152話 「みんな集まれ!未来のプリ☆チャン守るッチュ!」)がそうなのかなと。

――152話が放送された週の5月22日(土)・23日(日)には、プリティーシリーズの10周年を記念した「Pretty series 10th Anniversary Pretty Festival」が開催されました。松井さんもご覧になられていたようで。

松井:見させていただきました。アワードのコーナーといい、本当にプリティーシリーズでしか成り立たないようなフェスだなと。キャラの世界観が作品を飛び出しているんですよね。あの段階では、ほぼ作品が終わったあとのキャラクターたちじゃないですか。それを踏まえてみると、やはり物語は終わっても続いていくんだなと感じました。

一部を切り取った世界のなかに、きちんと前後の物語がある。それを発信できるのは、プリティーシリーズの歴史あってこそだなと思います。特にセインツのメンバーで歌った「プリマ☆ドンナ?メモリアル」は圧巻でしたね。自分で書いた歌詞ではありますが(笑)。

最初はRun Girls,Run!さんのカップリング曲として書いた曲だったので、プリティーシリーズの総決算というより、プリティーの魂の継承のようなイメージで作ったんですが、彼女たちが歌うと違った文脈が出てくるんだなと。当初は「これから『プリ☆チャン』が始まっていくぞ」という時だったので、あのキャストの皆さんで歌うことは想像していなかったんです。

――それが10周年の所感を感じさせるような曲になっていて。

松井:そうなんですよね(笑)。だからあの歌詞にしておいて良かったなって。でもあの曲に関しては、僕が作詞したというのもおこがましいなと感じています。いろいろな作家さんが作られた曲から言葉をいただいて作った曲なので、“作詞:プリティーシリーズ”なのでは?という気持ちでいます。

――ライブでは、ソルルとルルナのデュエット「Awakening Light」も披露されていました。

松井:映像も含めてビックリしました。同時に歌うのはすごく難しい曲なので、作詞したとか関係なく、思わず拍手を送っていました。



――拍手と言えば、話が変わっちゃうんですが、松井さんが作詞を手掛けられていた『ドリフェス!』の現場で松井さんをお見かけしたことがあるんです。席が近かったのですが、その時、曲が終わるたびに、松井さんが愛情いっぱいの拍手を送られていたことが印象的で。

松井:アッハハ! 見られていたんですね(笑)。いやぁ、ライブを見ているとつい嬉しくなってきてしまうんです。自分が書いたものを気持ちを込めて歌ってくれてるのは……どの現場でも感謝で、やってて良かったなと思う瞬間です。なによりたくさんのお客さんが喜んでくれていて、中にはその歌詞が人生すら左右することだってあるじゃないですか。そういう意味では責任も大きいなと感じます。

プリフェスは配信で見ていましたが、配信だからこそ3公演とも全部見たいなと。それこそ、ずっと拍手でしたね(笑)。僕は(ゴーゴー!マスコッツの)「おやくそくセンセーション」(作詞・作曲 浅利進吾さん)が大好きなんですよ。曲が技術の塊なんですよね。作詞・作曲じゃないとまず作れない構成で。マスコットを通して、プリ☆チャン全体を俯瞰するような曲になっていて。このタイトルで、曲の中で「お約束を宣誓してる」っていうのが最高です。本当に完成された楽曲だなと思います。聴いてて楽しいんですよね。

――聴いていて楽しいという意味では、NonSugarの「スパイシー♪ホット*ケーキ!!!」もそうだと思います。ライブですごく盛り上がっていましたね。

松井:作曲家の本多友紀(Arte Refact)さんの力が大きい曲だと思います。NonSugarの2作目としての曲で、しかも本編ではなくライブで初披露ということで結構なプレッシャーがありました。

インパクトのある言葉を持ってこないといけないけど「でもノンシュガーにとってのインパクトのある言葉って何がある……?」と悩んでいたときに――ある日息子とパンケーキを食べてたんですよね。よく“おかずホットケーキ”ってあるじゃないですか。見た目は甘いのに中身は辛い。「あ、これだな」と思って、「スパイシーホットケーキ!!!」というタイトルが思い浮かんだんです。

――松井さんの私生活での発見から生まれた言葉だったんですね!

松井:そういうことは結構多いんです。読んでる本からヒントを得ることもあります。そんな中で「スパイシーホットケーキ!!!」というタイトルが生まれて、改めて字ズラを見たら……「意味が分からないな」と(笑)。だったらもっと分からなくしようって思って、「スパイシー♪ホット*ケーキ!!!」にしました。♪はのんちゃんのイメージ。真ん中にはペッパーの太陽(*)を入れて、最後のビックリマーク3つは三人を表すと同時に、ちょっと強引に孔雀の羽……ちりの持ってる扇子を意識して。

――なるほど……! 他の楽曲にも言えることですが、松井さんの歌詞は表記の一つひとつにさまざまな意味を含ませていますよね。

松井:今は曲を配信で聴かれる機会が多いと思うんです。聴かれる機会が増えて嬉しいんですが、僕はCD・レコード世代の人間なので、歌詞カードを見て、楽しんでいました。だから僕もCDを買ってくれた人たちに対して「何かできたらいいな」と、歌詞カードの表記には毎回こだわっています。

例えば、ソルルの「Despertar del SOL!」とルルナの「Lustro della LUNA」もそうで。その2曲を合わせたルルナ&ソルルのデュエット「Awakening Light」では「月夜」を「月よ」に、「眩いくらい」を「眩い」「暗い」に表記を変えるなど、細かいことをやらせていただいています。ちょっとでも「面白いな」って思ってもらえたらと。

 

 

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