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映画『竜とそばかすの姫』レビュー【一部ネタバレあり】

映画『竜とそばかすの姫』レビュー|細田守監督が本当に描きたかった現代の美女と現代の野獣の真相とは?【一部ネタバレあり】

現代の野獣とは何か

従来の作品で描かれる野獣とは、醜く恐ろしい、力強い体を持っていながらも、それゆえに孤独で寂しくて脆い生き物でした。

『竜とそばかすの姫』の野獣(竜)も同じく脆さを持ち合わせ、しかも従来の『美女と野獣』とは比べ物にならないほど現実世界ではあまりにも弱い存在です。母親を失い、虐待を受け、成長の過程で大事なものが欠けてしまった兄弟。ただ弱くて寂しいだけの存在でした。

その抑制されたものが野獣となって「U」の世界に現れたのでした。

そういった展開は、『美女と野獣』という物語の起承転結を動かす装置でもありましたが、『竜とそばかすの姫』で描きたかった現代の野獣は、あの兄弟だけではないと思えます。

それは、あの兄弟以外の「U」の一般ユーザーたち、つまり私達です。

匿名で他人への誹謗中傷は日常茶飯事、承認欲求を満たすために叩く、叩くことが正義だと思い込む、それがマジョリティになっていく。

その結果、武術会で暴れてストレスを発散していただけの、ほとんど罪のない少年をあたかも凶悪犯罪を犯した野獣のようにしてしまったのです。その他大勢の醜い野獣が、寂しい少年を新たな野獣へと変えてしまっていたのです。

従来の『美女と野獣』に登場するような野獣には寄り付く人がいません。ゆえに野獣は本心では他人との繋がりを求めていました。しかし、現代の野獣は多くの人に干渉を受けている存在でした。

中にはあの兄弟を憂いた人たちの優しい言葉もありましたが虚しくも彼らを救えなかった。それは、もしかすると「誰かを助けている自分」に酔いしれる野獣の言葉だったからなのかもしれません。

現代の野獣に必要なのは、他人から得られる自己陶酔な言葉ではなく、混じりっけのない言葉と気持ち、そして行動ではないでしょうか。

これは物語だけではなく、我々が生きる現実にも当てはまることなのです。

救済と映画の役割

すずの真っ直ぐな気持ち、言葉、そして行動によって勇気づけられたあの兄弟。

二人は果たして、「救われた」と言えるのでしょうか。

個人的には、その答えは「NO」です。

いくら気持ちが前を向いたからって、1人の女の子が味方になったからって、そう簡単に解決する問題ではないでしょう。

食べないと決めた夜食をつい食べてしまうように、つかないと言った嘘を吐いてしまうように、気持ちや覚悟は脆く、それだけではどうにもならない問題が現実には山ほど存在します。

ゆえに誰かを助ける事はとてつもなく難しいことです。答えが出ないことなんて日常茶飯事なのです。

しかし、映画は「終わり」を用意しなければなりません。立派なエンターテイメントとして観客を楽しませるエンドが必要なのです。

では、そんな映画に現実の複雑な問題の答えまでを私達は求めるべきでしょうか?

私はこの映画を観て良かったと思う反面、今も複雑な思いでいます。ハッピーエンドで映画は終わりましたが、あの兄弟の日常は簡単には変わらないし、インターネットなどでの竜に対する匿名の誹謗中傷は無くなることはないでしょう。

自分なら一体どうすべきだったのか。いまだモヤモヤしている自分がいます。

そして、映画を観た方の中には、あの兄弟と同じような境遇を味わった記憶が蘇り、苦しい思いをした方もいるかもしれません。そう思うと、一層心苦しくなるのです。

しかし、この気持ちこそが、映画が体験させてくれる重要なものではないかと思えるのです。

自分では手に負えないような問い、日常的に考えないであろう問題に心を悩ませる。

たった2時間の間だけであっても、多くの人が同じ場所で同じ問題について考える機会をもたらすことに意味がある。些細なことであっても観客の心を変えるきっかけになる。

『竜とそばかすの姫』は、多くの人に問いを投げかけ、すずのような美しい心を宿すきっかけを作るための映画だったのではないでしょうか。

誰かに苦い記憶を思い出させ、都合よく救ったと見せかけて去っていくような作品では断じてありません。

人間は、どんなことでも忘れてしまう生き物です。それ故に上手く生きていくことができます。しかし、大切な思い出や考えなければならない問いは忘れるべきではない、忘れてしまったのなら思い出さないといけないのです。

素晴らしい映像や音、物語で感動しつつも忘れてはならないこと、考えねばならぬことを教えてくれるのが映画だと思います。

私達は何度も忘れ、何度も過ちを犯します。それなら映画をまた繰り返し見ればいい、そうやって何度も思い出せばいいのです。

屈指の名作映画である『美女と野獣』は、2021年の日本で『竜とそばかすの姫』を新しく生み出し、現代だからこそ考えなければいけない普遍的なメッセージを伝えてくれました。

この作品もまた受け継がれ、再び私達の前に現れ「なにか」を伝えてくれることでしょう。

そして、『竜とそばかすの姫』が新たな『美女と野獣』を未来に生み出していくことでしょう。

[文/ヨウイチロウ]

『竜とそばかすの姫』細田守インタビュー
『竜とそばかすの姫』細田守インタビュー

アニメ映画『竜とそばかすの姫』作品情報

全国にて大ヒット公開中!

ストーリー

自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・すずは、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。

母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。

曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<U>では、<As(アズ)>と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けた<As>としては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。

数億の<As>が集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。

やがて世界中で巻き起こる、竜の正体探し(アンベイル)。

<U>の秩序を乱すものとして、正義を名乗る<As>たちは竜を執拗に追いかけ始める。<U>と現実世界の双方で誹謗中傷があふれ、竜を二つの世界から排除しようという動きが加速する中、ベルは竜を探し出しその心を救いたいと願うが――。

現実世界の片隅に生きるすずの声は、たった一人の「誰か」に届くのか。
二つの世界がひとつになる時、奇跡が生まれる。

もうひとつの現実。もうひとりの自分。もう、ひとりじゃない。

原作・脚本・監督:細田守
企画・制作:スタジオ地図
製作幹事:スタジオ地図有限責任事業組合(LLP)・日本テレビ放送網 共同幹事

公式サイト
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