映画
『マトリックス レザレクションズ』 小山力也(ネオ/トーマス・アンダーソン役)インタビュー

映画『マトリックス レザレクションズ』日本語吹替版キャスト・小山力也さんが作品への思いを語る『マトリックス』という作品は、僕の人生とリンクしている作品

近年のアフレコ収録における変化

ーー吹替作品の魅力についてお聞かせください。

小山:吹替作品は情報量が多い。わかりやすいというのは言わずもがななんですが、日本語の吹替の伝統として、日本語ならではの芝居を大事にされてきたということがあります。

その歴史の上に立って、自分もやらせていただいているので、あくまでも音声ガイドにならないように、一つの人間ドラマとして日本語のドラマとして成立するように、なおかつ日本語のドラマがオリジナル作品を汚してはならないし、だからといって、日本語なりの日本人の与えた血が入っていないといけないと思いますから、その辺の混ぜ具合が微妙なところなんですが、それを大事にしたいし、そういう作品だからこそやる意味があるんだと思いますね。

ーー吹替作品とアニメーション作品との違い、意識は変わるものなのでしょうか。

小山:違うことは確かにあります。映画やドラマに関しては完成品があるので、とにかく完成品をどれだけリスペクトできるかということです。その上で、さらに日本語なりの面白さをどう越えるかということですよね。

吹替の時はいろんなことを考えるのですが、それが素晴らしい俳優さんであればあるほど、「本当に申し訳ない」という気持ちと、「やったね!」という気持ちの両方があります。

「あなたは本当に男前だし、足は長いし、芝居は上手いし、身体はキレキレで素晴らしい。でもセリフだけはもらっちゃったので、悪いんだけど、すみませんね、ごめんね」と思って、「その代わりに、あなたに失礼のないようにやりますから、許してね」という気持ちで演じるようにしていますね。

アニメ収録の場合は、その時の瞬間の声に合わせて、後から画を描き直してくださることがこの頃増えてきたので、逆に現場でどれだけ遊べるかということが重要になってきます。

ですから、自分で準備してきたものよりも、その瞬間に起こってしまったもの、ある意味、偶発的に起こってしまったものの方が面白いということが、この頃は増えてきましたね。

最近はリモートでたくさんの部屋を繋いでくださるスタジオがありまして、そこだと最大10人ぐらい一緒にリモートで収録できるんです。そういう空間があったりすると、全部別々のトラックでいっぺんに録ってくれますから、セリフが重なっても平気なんです。

今までのように同じ部屋で収録していると、テストは一緒にやって、本番テイクは分けることもありました。今は逆にいくら重なっても平気ですから、後から向こうで切るところは切って、雑音はカットできるので、好きなようにやらせてもらっています。

良い意味での功罪で、それが楽しかったりはしますね。昔は20人、30人一緒の部屋に入って収録するのは当たり前でしたが、今はそれができない代わりに、その掛け合いのセリフを同時にしゃべっていても、全部それぞれクリアに録ってもらえますので、助かります。

ーー今作の収録で、スタッフからのアドバイスなどはありましたか。

小山:全て任せていただいて、本当に申し訳ないぐらいでしたね。あまり具体的な演技の指針ということはなく、阿吽之息でやらせていただきました。

ただ、ディテールにはこだわっていますから、「そこはもう少しソフトにいきましょうか」とか、「あえてサラッと言った方がいいんじゃないですか」とか、そういった指示はありました。

ーー小山さんから録り直しをお願いしたことはありましたか。

小山:昔はけっこうあったんですよ。でも逆にそうすると、録ってくれなかったりするんです。「あ~、わかったわかった」とは言われるんだけど、「あいつがやるというからやるけど、録らなくていい」というのがけっこうあったので、今は「まな板の鯉」でいます(笑)。それもひとつの信頼ですよね。

自分としては、自分の満足のためにやっているわけではない。昔はそれがもっと極端で、収録の時にセリフがうまく言えなかったり、明らかに日本語が間違っている人がいたとしても、周りの方がとても良い演技をされていたらそちらが優先されるところがありましたね。「お前がオンエアで恥をかきなさい。お前ができていなかったんだから、こっちはそんなこと構っていられないよ。今はこっちの芝居が良かったんだから」というように。

今回の作品はずっと一人で収録しましたから、納得するまで繰り返しやった部分もありましたけど、時間としてはスムーズでしたね。

丸4日、リハーサルを設けていただいて、5日目に僕一人のために試写会をしていただいたんです。そこで作品全体を観せていただいて、次の日に2日間かけて録ったんです。だから、丸1週間『マトリックス』付けでしたね。時間の使い方としてはとても贅沢にやらせていただきました。

小山さんが語るお芝居における呼吸

ーー以前、インタビューで「お芝居は全て呼吸です」とお話されていたことが印象的でした。その呼吸というものについてもう少し詳しくお話していただけますか。

小山:もうその通り、100%それだけです。「息を吸って、吐いて、止める」です。バリエーションは大切ですけどね。呼吸ができれば、自然と感情は自分で想像しなくても正しい方向に導いてくれるような気がします。

一番怖いのは、悲しいセリフを言う時です。「とにかく、ここは悲しいセリフです」とか「ここはお涙です」ということで一色になってしまうと、とても薄っぺらいものになるし、作品に失礼なことになってしまうんです。

悲しいといっても、いろいろな悲しさがあるわけです。特に人間は感情が複雑に入り混じっていますから、涙と笑いというのは同時に起こることが多い。その涙と笑いの混じり具合が正確であるためには、呼吸がやっぱり大事だなと思いますね。

ーー呼吸というのは、吹替作品でもアニメ作品でも共通しているものですか。

小山:両方ですが、特にアニメの場合は、もっと自由ですね。アニメの方が自分の呼吸が遥かに自由にできるようにはなっています。

僕の言うことは全部受け売りなんですけど、人間というものは幸せになりたい生き物なので、「自分のいただいた役の幸せは何か」ということを考えて、それが生きる目的になりますよね。

すると、自然とその役のスタンスがわかってきます。地に足がついてくるし、役から人となりが見えてきて、人生の目的が見えてくる。そうすると、一つ“音声ガイド”から脱却できるということがあります。

たとえば、チョコレートの甘さと、生クリームの甘さと、カニの甘さは、全然違うじゃないですか。子どもでも「おばあちゃん、このカニは甘いね」というと、「この子でも、カニを甘いと思うんだな」とビックリします。

味覚というのはとても微妙で、繊細で、複雑なものですが、あらゆる言葉を越えて理解できるものですよね。

演技でそういう域にまで達したいと思うと、一面的に「これは甘い」、「これは辛い」、「これは悲しい」というのでは、何も表現したことにはならない、ということになるんでしょうね。

人間は幸せになりたいし、自堕落でいたようでもやっぱり目的が何かあるはずだし、特に僕らが演じるフィクションには、目的を持って人物が設定されているはず。それを具体的にフォーカスして、その瞬間、瞬間の呼吸を大事にすると、そういう人間が実在感を持ってくるのではないかなと思います。

ーーキアヌ・リーブスがいろいろな作品に出演しますよね。その役柄によって呼吸も変わってくるということですか。

小山:もちろん、同じ人間が演じますから、全然違うということはありえないです。ただ、ご自身が目的を持って演じられていると、やっぱり違ってきます。『コンスタンティン』※2と『マトリックス』(のキアヌ・リーブス)では全然違いますもんね。

※2『コンスタンティン』(2005):アメリカ合衆国のファンタジー・アクション映画。フランシス・ローレンス監督、主演はキアヌ・リーブス。小山力也さんはキアヌ・リーブス演じるジョン・コンスタンティン役を吹替。

ーー演劇、舞台で演じる際の呼吸も変わってくるんでしょうか。

小山:それは違うはずですね。乗ってくると、明らかにいろいろな新しい呼吸が出てくるはずだし、毎晩毎晩違うようにできてくるんだと思います。

舞台では、お客様によって全然違うこともありますしね。「何でこんなところで笑うんだろう?」と思ってビックリすることもあります。

ーーそういったことが芝居に活きることもありますか。

小山:それは大いにありますね。お客様のリアクションに期待しすぎてしまうと、予想と違う結果になった時にガクッとしてしまうこともありますが…。僕なんか舞台(役者)としてはまだまだドヘタな方で、勉強が足りないんですけど、そういう経験はありますね。

だから、前もって期待してはいけない。決めてかかってはいけない。その瞬間、瞬間を大事にするためには、やっぱり役の呼吸を呼吸するということなんです。

日本語と英語ではブレスの位置が全然違いますから、そこに合わせるのは難しいんだけど、それを楽しみにやりどころとして、面白みとして演じていくと、そこが合ってきたりはするんですよ。

ーー22年前の作品『マトリックス』と今回の作品『マトリックス レザレクションズ』では、キアヌ・リーブスの呼吸にも変化があるでしょうし、小山さんご自身の呼吸にも変化はありますよね。

小山:きっとそうですよね。ただ映像に極力僕も合わせているように努力しているはずだし、スタッフもそのようにしてくださっているはずですけどね。具体的なブレスの位置とか、息遣いの大きさ、激しさの部分ではオリジナルに合わせてくださっているはずだと思います。

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