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on BLUE/from REDの裏側|BLってどうやって作られているの?【BL塾】

そもそもBLってどうやって作られているの?多くの読者を惹きつけて止まないon BLUE/from REDの裏側【BL塾】

独自のデザイン性を放つ装丁の創意工夫

阿部:もう一つこだわりを感じるのは、なんといっても装丁だと思います。キャラクター単体のイラストを使用したり、雑誌のようなレイアウトだったり…はたまた表紙だけでなく帯までもデザイン性を感じる作品がとても多い印象を受けています。

鹿:シュークリームでは「FEEL YOUNG」からコミックのフォーマットは特に決めていなくて、作品に合わせて凝ってなんぼという土壌は、私が新人時代から自然とあった会社です。一つひとつの作品をデザイナーと一緒に打ち合わせして、凝ったデザインの表紙をつくることが売りでした。

なので、「on BLUE」でも裏表紙にバーコード、背表紙にレーベルのロゴを必ず置くこと以外は、価格が飛び跳ねない程度に好きにすることにしました。

石橋:具体的にどのように装丁を進めているのでしょうか?

鹿:デザイナーさんに作品の刷り出しを読んでもらい、編集者がプロデューサー的な立場でどう売っていきたいか意図を伝え、あとはデザイナーさんにお任せすることが多いです。デザイナーさんにもなるべく自由な発想を持ってもらい、デザインにおける“ミラクル”を期待しています。

ももんが:たぶんデザイナーさん自身もフォーマットをいじっていいという案件は楽しいのではないかと思います。紙の素材も帯の高さも含めフォーマットが決まっていないので、「ほかではできないことができる!」といろんなアイデアが出てくるのかもしれません。

例えば『赤のテアトル(※4)』の帯に足をかけたデザインとか、『ポルノグラファー』シリーズの表紙の背景に原稿用紙を使うとかは、自由だからこそ生まれたデザインだと思います。

鹿:人外ファンタジー『ニィーニの森(※5)』のカバーで、“イタリアで発見された古文書の解読できない謎文字”をアレンジして使ったデザインも仰天のアイディアでした。

ももんが:あのデザイン、本当に大好きでした!!!!内容も名作で、今の時代だからこそ読んでほしい、という作品です。ぜひこれを機に読んでいただけたら…。


※4:赤のテアトル

 
緒川千世先生の作品。独占欲に葛藤するゴーストデザイナーと歪んだ愛を捧げる健気なミューズのめくるめく逆転主従ロマンス・ストーリー。

※5:ニィー二の森

 
SHOOWA先生の作品。人間から動物へ、動物から人間へ種族を変えて不思議の森に住まう住人たちを描いた切なく感動の人外BLファンタジー。


ももんが:編集者としては「ほかと少し違うことをしたら目立ちそう」「手元に置きたい大切な本になってもらえそうか」などは意識しています。

はむはむ:どれだけ凝ったデザインであっても目立たない方がリスキーなので、どれだけ人目を引けるのかは必ず意識していますね。ボーンデジタルの単話作品を合わせると毎月200作品以上がリリースされます。紙・電子問わない書店での見え方やTwitterなどのSNS上で目に留まるかは考えなければならないポイントです。

鹿:「on BLUE」作品の単行本の表紙にキャラクター単体のイラストを起用したのも、新刊台で目立てればと思ったからなんですよ。

私はシュークリームに入社する前、約3年ほど書店営業をやっていました。書店には視力0.3でも裸眼で行く人が多くいるんですよ。ということは、表紙が目立たなければ新刊台に並んだ時に負けてしまう。逆に印象が強ければ手に取ってもらえる。その経験則からフォーマットにとらわれず、キャラクター単体でも「絶対大丈夫!」と思って挑戦しました。

阿部:私の中で、秀良子先生の『宇田川町で待っててよ。』がすごく印象的な表紙の一つでして。キャラクター単体で横顔のイラスト、ピンク単色の背景に目を奪われ、思わず表紙買いをしてしまった作品です。今のお話を聞いていて、思惑通りだったのだろうなと(笑)。

ももんが:『宇田川町で待っててよ。』の時は前任の担当編集だったので、詳しいことは存じ上げていないのですが、ジェニアロイドさんという「FEEL YOUNG」からお付き合いのある方に装丁デザインをご依頼していました。当時、BLの装丁デザインをされたことがない会社だったので、いい意味で“BLっぽい”という先入観が一切なく、ああいったデザインになったのだと思います。

ちなみに過去のデータを見ると、配色のアイデアには水色や黄色もあったようです。

阿部:ほかの色になる可能性もあったんですね。

あとは紀伊カンナ先生の『エトランゼ』シリーズの表紙も好きです。キャラクターを目立たせるイラストではなく、背景込みで一枚のイラストとして魅せる表紙に惹かれます。

鹿:最初のデザイン打ち合わせの時に、紀伊先生ご自身は顔アップのデザインが来るだろうと思っていたのですが結局背景込みになってしまって。当時顔アップのデザインが多く出ていたから期待していたんですよね。帰り際に「なんだよ〜背景有になっちゃったじゃないか〜」とぼやいていました(笑)。とはいえ、やると決めたらすごくいい絵を仕上げてくれる方なので、結果素晴らしい表紙絵が来ました。

阿部:裏話が楽しすぎる件について……。石橋さんはお好きな表紙ありますか?

石橋:僕はBL塾で最初に読んだ作品がはらだ先生の『ワンルームエンジェル(※6)』だったので、印象に残っていますね。オレンジのカラーにBLっぽくないイラストがすごく良かった。


※6:ワンルームエンジェル

 
はらだ先生の作品。惰性的な日常を送る幸紀(30代)と記憶喪失の「天使」は奇妙な同棲生活で繰り広げられるハートフルストーリー。


ももんが:俯瞰でワンルームを箱庭のように切り取ったイラストは、はらだ先生からのご提案でした。ただそのイラストを起用するには、引きの絵になるのではらだ先生の絵だと気づきにくい、キャラクターが見えづらくなってしまうかもという懸念点がありました。その懸念点を踏まえ、オレンジといった強い色をベースにし、天使くんの羽がちゃんと見えるように、塗りも単色を置いていくなどデザインを落とし込んでいただいたんです。細かいこだわりが詰まっています。

でも本当はもっとやりたいことがあって。

石橋:あれ以上に!?

ももんが:本当は天使だけを印刷した透明なカバーを上にかぶせたかったんですよ!透明カバーを外すと天使のいない部屋のイラストになるような……。けれど、表紙に加えてクリア素材に白インクでイラストを刷ると価格がすごいことになってしまうから、はらだ先生と「悔しい!」と呻きながら断念しました(笑)。

一同:あははは。

ももんが:その代わり、カバー下に天使のいないバージョンのイラストを刷りました。関わった人たちのこだわりが詰まった思い入れのある装丁デザインです。

石橋さんがおっしゃるように、BLっぽくない装丁デザインに作品の内容も相まって、普段BLを読まない方にもたくさん手に取ってもらえました。

石橋:そのこだわりのおかげで、新しい作品との出会いが生まれているのだなと改めて感じます。

レーベル設立から11年「on BLUE」オススメ作品紹介

石橋:みなさんのこだわりを聞いたところで、オススメ作品のお話もお伺いしたいです。せっかくなので、ぜひ担当作家さんの作品をご紹介いただきたいなと!

阿部:ですね! まずは「on BLUE」作品からお伺いしていきます。鹿さんは紀伊カンナ先生、ダヨオ先生、夏野寛子先生を担当されているとのこと。担当編集から見る先生方の作品の魅力を教えてください。

鹿:紀伊先生はずっと好きだった同人作家さんで、しつこくアタックした末に執筆していただけた作家さんです。『海辺のエトランゼ』は打ち合わせなしで突然送られてきたネームで、それがとても素晴らしく連載することに。そして今に続く「on BLUE」の看板作品となりました。“心が洗われるようなボーイズラブ”と帯でうたった文言は、ゲラを読みながら私が心から思っていた感情で、そこに共感の声をお寄せいただくことが多くてうれしかったです。

夏野寛子先生は「on BLUE」創刊6年目に出会った才能です。美大の院で「漫画を描くことに挑戦してみようかな」と同人誌を出されていた頃に依頼しました。なんとまだ2冊目の同人誌で、ダイヤモンドの原石のような方でした。『25時、赤坂で(※7)』は、夏野先生が芸能界がお好きなので提案してみたら、想像の100倍の輝きで打ち返してくれました! 私は顔厨なので、夏野先生の描くキャラクターに読者さんと同じ勢いで毎度ノックアウトされています。

また、ダヨオ先生の『ロンリープレイグラウンド』シリーズのスピンオフ『悪人の躾け方(※8)』も激しくオススメします。これは「前作の悪役がより強い攻に出会い、受にされてしまう」というスピンオフで、40代後半の不倫社長が20代前半のド攻な清掃員にこらしめられます。単行本の巻末に収録されている番外編としては異例なほど「続きをたのむ!!」とラブコールをいただいた作品です。おじさんが悔しそうに抱かれる、とてもエンタメ性に満ちた作品なのですが、物語が生まれたのは「元・不倫おじさんなんて幸せにしてはいけない!こらしめよう!」とダヨオ先生が思ったからだそうで、すごく「アップデートされたエンタメ感覚」だなと感じます。そう、ダヨオ先生って本当に光のBLの描き手なんですよね。


※7:25時、赤坂で

 
夏野寛子先生の作品。新人俳優の白崎由岐と大学時代のサークルの先輩で超人気俳優の羽山麻水、同性愛ドラマで共演する二人の関係性が繊細に描かれている。

※8:悪人の躾方

ダヨオ先生の作品。余裕最強若造vs元バリタチ悪態社長という攻め同士のカップリングを描いた物語。


鹿:また、on BLUEといえば山中ヒコ先生が特別な縁がある作家さんです。ヒコ先生は「on BLUE」創刊号の特集作家として始まりを飾った作家さんなんです。創刊一年目を大きく支えていただいた『500年の営み(※9)』という名作を描いてくださいました。

そのあと長らく一般誌連載をされていた時も数年間ラブコールし続け、また「on BLUE」へ帰還していただけた時はとてもうれしくて。その際、『イキガミとドナー(※10)』という孤独なヒーローと癒やし手のSF作品を提案してくださいました。設定からストーリーまで、“恋とドラマ”を同時並行で動かしていく構成がいつもお見事で。クレバーさにたびたび感動させられています。


※9:500年の営み

 
山中ヒコ先生の作品。亡くした恋人の3割減な残念ロボットといじっぱりな青年の痛切な未来ラブストーリー。

※10:イキガミとドナー

 
山中ヒコ先生の作品。国を守る最強戦闘種“イキガミ”とその“ドナー”である平凡な教師の切ないファンタジー。


阿部:続いて、ももんがさんは「on BLUE」では紗久楽さわ先生、はらだ先生を担当されているとのこと。お願いします!

ももんが:私はそもそも江戸時代が好きでBLの題材としていいなと思っていました。とはいえ、BL界でのちょんまげはどうもウケが良くないらしい……。そんな中、紗久楽さわ先生の描く髷頭を見て「あれだけ魅力的な色気を放っていたら絶対BL読者にも萌えてもらえる!」と思い、お声がけしました。

紗久楽先生は本当に江戸に執心していて、尋常じゃないくらい江戸風俗にお詳しい方です(笑)。ただ好きなだけじゃなくて、すでに一回すべて噛み砕いていて、その噛み砕いたものをどう出すか、という段階にきていたんですよ。江戸時代を知ってほしいし好きになってほしいから広めたいけど普通に描いても読んでくれる人が少ない、と当時感じられていて。そこで生まれたのが『百と卍(※11)』でした。ただの世界観として江戸をなぞるだけでなく、一度噛み砕いたからこその細やかな描写や温度感といいますか、リアルな生々しさがあって、入り込みやすい世界を描いてくださったと思います。

それでも最初は、髷頭のBLって本当に大丈夫なのだろうか……と紗久楽先生とすごくドキドキしましたけど(笑)、発売時にTwitterの書影出しで大反響をいただき、発売前に重版がかかりました。とても印象に残っている作品です。


※11:百と卍

 
紗久楽さわ先生の作品。元火消しの伊達男と陰間あがりの日常を描く「江戸BL」。BL初の快挙「第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門」優秀賞を受賞。


ももんが:はらだ先生は商業デビューをされて初コミックスが出るか出ないかのタイミングでお声がけをしました。その時はから既に、ほかにはない“エロの名手”という印象があったのですが、同時に二次創作時代や短編作品時代からすごくキャラ立てやお話づくりが秀逸で唯一無二だと感じていました。

なので「on BLUE」で作品を描いていただくにあたって、“物語を魅せる作品”がいいとお話したところ、はらだ先生が温めていた初期作のリメイクのお話をいただきました。お話の構想だけを聞いた時、きっとBLの概念を新しくする作品だし、特にはらださんの読者に多い若い方にすごく響くだろうと思い、ご執筆を進めてもらったのが『ワンルームエンジェル』です。はらださんのストーリーテリング技量が存分に発揮された、まさに“物語を魅せる作品”を描いていただけたと思います。

石橋:本当に『ワンルームエンジェル』は名作です……。

阿部:はむはむさんは「on BLUE」では、akabeko先生と相葉キョウコ先生を担当されているそうですね。ご紹介お願いします!

はむはむ:akabeko先生は入社初期からずっと担当させていただいています。デビューから尖った作風で話題の作家さんですがご依頼した頃はまだ同人執筆をされていて、その頃から変わらず、人間の綺麗なだけではないに面に救いを与えてくれるような作風に惹かれています。あと、すごく恋愛関係の密度が濃い作品を描いてくださる方ですね。

「BLアワード 2019」のディープ部門で1位を受賞した『落果(※12)』は根強い人気で、特に「落果スピンオフ」は続編希望のお声をたくさんいただきましたし、akabeko先生もこのふたりをもっと描きたいと言ってくださったので、現在は「from RED」で続編「蜜果」を連載していただいています。


※12:落果

 
akabeko先生の作品。ヤンデレ執着攻めと勝ち気なコールボーイ、人肌に飢えたバツイチ男とチャラめ家政夫青年など刺激的な物語の短編集。


はむはむ:相葉キョウコ先生は他誌での長期連載を終えられようとしている頃にお声掛けさせていただきました。商業作品もずっと楽しませていただいていたのですが、攻め厨の私としては特に攻めの雰囲気がすごく素敵だと感じていました(笑)。そこで相葉先生に「on BLUE」で企画した「攻め特集(vol.44掲載)」の目玉になるような漫画を描いてもらえませんか?とご依頼して誕生したのが『ディレイル(※13)』の第一話なんです。攻め視点のBL作品は実は少なくて、受けの視点を通して攻めのキャラクターは語られることが多いのですが、そんな中であえて攻めの視点で攻めキャラが輝くようなお話をつくっていただきました。

第一話と同じストーリー軸でありながら、受け側の視点でも楽しめる第二話は、これまた他にない構成で話題になりました。『ディレイル』は相葉先生でなければ起こせないミラクルがいくつも重なって生まれたお話でしたが、いつもご提案したことに120%で応えてくださるんです。編集者としても本当に嬉しく楽しい瞬間です。


※13:ディレイル

 
相葉キョウコ先生の作品。光とハル、ルームシェアをする親友同士の二人が織りなす執着ラブストーリー。


阿部:個人的に「BLアワード2020」次に来るBL2位を受賞した『狼への嫁入り〜異種婚姻譚~(※14)』、書店やSNSなどを見ていてすごく話題になっているなと感じているのですが……。


※14:狼への嫁入り~異種婚姻譚~

 
犬居葉菜先生の作品。冷たい跡取り息子狼族と隠れ強気な村育ち兎族、異種ケンカップルの人外結婚BL。


はむはむ:最近はファンタジー物を読んでくださる方が増えたことで、やはり「on BLUE」でも『狼への嫁入り』や『龍の夫―亡国の神―(※15)』などは話題になりましたね。ファンタジーの世界観に取っつきづらさを感じてしまう方にこそ、「嫁入り」「婚姻」といった王道のBL設定が組み合わさったこの2作品はぜひおすすめしたいです。


※15:龍の夫―亡国の神―

 
須嵜朱先生の作品。番(つがい)に憧れる龍と孤独な軍人、永年の愛に変わる人外BL。


阿部:石橋さんはファンタジーがお好きですから、刺さりそうな作品群ですよね。

石橋:たしかに! これまでファンタジーBLってそんなに読んでこなかったので、これを機に読んでみたいですね。

最近はオンラインゲームをプレイする人が増えたり、「なろう系」小説が流行ってたくさんアニメ化されたり、ファンタジーの敷居自体がどんどん下がっているので、BLにもその流れが来ているのだろうなとお話聞いていて感じました。

ももんが:いつからかBL漫画って1冊完結が暗黙の了解のようになってしまい、それだと色々な意味で難しくてファンタジーを描こうと思う人はなかなか現れなかったんですよ。けれど最近は単話連載が主流になってきたので、人気が出たら長尺で続けやすいですし、中国BLがすごく流行したことで長尺の物語が日本でも浸透していくのではないかと感じています。

お手軽に1冊で楽しむBLの時代が長かったですが、今後はさらにもう少し長いスパンで楽しむBLが増えてくるかもしれないですね。

石橋:どの作品も気になって、今回も選ぶのが大変そうです(笑)。

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