音楽
『ルパン三世 PART6』大野雄二&藤原さくら対談インタビュー

「ルパン三世のテーマ」生みの親・大野雄二 ×『ルパン三世 PART6』新EDテーマ歌唱・藤原さくらロングインタビュー│曲作りは「良い曲ができただけじゃ駄目。無難じゃなく、尖ってて、棘があるものが良い」

楽曲作りに欠かせない鉛筆削りと消しゴムのこだわり

──さきほど”儀式”とおっしゃっていましたが、大野さんは曲を書かれるときは鉛筆を削られるところからはじめるとか。

大野:そう。「やるか!」ってときの自分の中のケジメみたいなものが、三菱Uniの2Bの鉛筆を6本くらい鉛筆削りで削ること。でもね、鉛筆削りってさ、──ってこんなくだらないこと話して大丈夫?(笑)

──もちろんです! 気になります!

大野:鉛筆削りって芯が均等には出ないのよ。知ってる? 同じだけ出ない。要するに、まっすぐに鉛筆を刺して機械が全部正確に削っていたら均等に出るんだけど、そうじゃないからずれちゃうことがある。そんなこと気づく人いないでしょ?

──はじめて聞きました。

藤原:私もです。大量の鉛筆に向き合ってこないとわからないことですよね。

大野:そう。もう何十年と大量の鉛筆に向き合ってきたから分かることで。電動鉛筆削りを何台つぶしてきたか……。

藤原:刃が駄目になっちゃうんですか?

大野:そう。もう切れなくなっちゃうの。鉛筆がザラザラになっちゃう。今ね、ちゃんとした文房具屋に行かないと鉛筆削り自体売ってないんだよね。あっても色がやたらカラフルだったり、子供向けだったり。

藤原:大人で鉛筆を使う方が減ってるのかもしれませんね。シャーペンもあるし。

大野:俺のようにいっぱい鉛筆使う人もいるんだけどね。でね、今、ウチで現役で生きてる電動鉛筆削り機は3台。あと手でまわすやつね。これもやっぱり必要なの。

藤原:なんでですか?

大野:調整するために。電動でとりあえず作っておいて、そのあとは手でやるの。電動だと先が尖れすぎちゃうから、強く書いちゃうとプチッと折れちゃうんだよね。それを消そうとすると(譜面が)真っ黒になるから大変なんだ。プチ、といかないようにするために他の紙に何回か試し書きしてから書くようにしてる。

そんなことを50年ずーーっとやってきてる。だから俺、紙の重さもすごく詳しいよ(笑)。A3の用紙を1曲に3枚使ったとして、5曲書いたとしたらそれだけで15枚。40枚くらいのものを持つと、結構な重さになる。でも誰も紙を重いなんて思わないじゃない? 

藤原:確かに。

大野:あとどんどん年を取ってくると、消しゴムをどこに置いたか忘れてイライラするから、もう譜面のまわりを囲んでたくさん置いておくの。

藤原:(笑)。

──まわりにいくつも(笑)。

大野:人間ってどれくらい馬鹿か分かると思うよ。例えば消しゴム2個くらいしか置いてないとするでしょ。で「あれ? ない」って思って探すと、とんでもない場所に置いてあったりする。

藤原:神隠しのようになりますよね。

──足でも生えたのかなってくらいの場所にあります(笑)。

大野:でしょ?(笑) 消しゴムもさ。16分音符とかの曲だと(細かく書き込むから)失敗して消すと他の音符がちょっと消えちゃうんだよ。これがね、音符が2個でも消えると悔しいわけよ。「せっかく書いたのにーー!」って。下手すると音符が消えたことに気づかず進んじゃうこともあるから。譜面間違いに繋がって危ないのよ。

藤原:アニメイトタイムズさんの記事には鉛筆と消しゴムのお話がたくさん載りますね(笑)。

──(笑)。貴重なお話です。藤原さんもさきほどおっしゃってましたけど、最近はパソコンやアプリで譜面を起こされる方が多い中、アナログで貫かれているということに改めて感銘を受けました。

藤原:やり方が一貫されてるところがすごいですよね。

大野:ああ、この間ストリングスの若い人も言ってたな。「全部鉛筆で書かれてるんですか!? こんな人最近見たことない!」って(笑)。

イントロは「掴めば良いってわけじゃない」

──大野さんは楽曲のイントロを特に大切に作られている印象があります。

大野:うん。イントロってものすごく大事で。掴みだから。かと言って、ただ掴めば良いってものではない。最初の印象を強くしつつも、(Aメロ以降と)つながりがなければいけない。

だからイントロっていうのがいちばん難しい。(聴き手が)間奏まで聴いてくれたらしめたもん。だって相手がまずイントロで「ん?」って興味を持ってくれたってことだから。例えば──A、Aダッシュ、B、Bダッシュみたいな曲だったら、イントロを厚めにしたら、Aは薄めにはじまってBが厚くなったり変化したり。

そういう構成は当たり前のように感じるかもしれないけど、結局はいろいろな人がいろいろなことをやってきて、それでもその構成が良かったからそうなってるわけで。俺はずーっとやってきて、反逆の限りを尽くしてきたけど、やっぱり(それ以外だと)駄目なことが多いね。

──反逆の限り! すごくいい言葉ですね。

藤原:(インタビュアーのメモを見て)「反逆の限り」、メモされてる(笑)。

大野:ずーっと書いてると逆らいたくなるわけ。この歳になって改めて思うことは「昔からやってきていることはすごいんだな」と。誰もが反逆を繰り返してるのに、結局戻ってる。それはやっぱりその方法が良いからで。最近はサビ始まりの曲も多いけど、たまにそういう曲もあるからこそ良いわけ。全部がサビ始まりになったら、それはもう「頭」と一緒なんだと思う。

──では誰もが知る名曲「ルパン三世のテーマ」が完成したときというのは、大野さんとしてはどのような心境だったんでしょうか。

大野:うーん、そうだな……。まず伝えておきたいのは、俺は重要な曲を書く時は最初に文字で情報やイメージを整理するの。「この曲はどんな曲になるべきなのか」。時間や季節、犯人を絞り出すみたいに。ルパンに関しては季節はどう、っていうのはないかもしれないけど、例えば「時間」だったら「朝じゃねぇな。昼でもないな。どちらかって言えば夜」。そうしたら、夜というイメージで絞れるじゃない?

藤原:確かに……!

大野:そういうことを全部字で書く。あと、打ち合わせで言われたリクエストとかも全部書いて。「じゃあ、こういう曲は当てはまらないな」「違うな」って考えながら、作るべき曲のイメージ範囲を狭めていく。

大まかな節ができるまでは手をつけずにうろうろするのよ。さっき言ったように4、5日は「ああ、やらなきゃやらなきゃ」って頭の隅で思いながらね(笑)。でも、ルパンで言ったら最初の4個の音──「たったったた〜たったた〜♪」(※歌詞のある「ルパン三世のテーマ」で言うと<真っ赤な薔薇は~>の部分)ができたときに、「あぁ、もうできたも同然だな」と思った。

そのあとの流れは、変な話、長年やってると自然とメロディが出てくるから。それで頭ができたらサビは「ってことは……」と続けて出てくる。3通りくらい思いついて、その中で順当なものを書いた。特にメインテーマは、劇中で何度も流れるものだから、あまりカッコよくて先走った曲よりも順当なもののほうがいいかなと。

ある種必然がないと駄目なの。偶然にできたものだといわゆる一発屋になってしまう。必然でできるようになれば、一発屋じゃなくて作り続けることができる。だから俺は、結構計算して曲を作ってるね。

藤原:なるほど……すごくいい話を聞きました。

──最近、最初の旋律が実はマカロニ・ウェスタンのコード進行になっているということを明かされていましたね。

大野:さっき言った頭の4つの音のあと、しばらくあってGmからC7に移るんだけど、その次にE♭、その次にFにいく。これはまさにマカロニ・ウェスタンのコード進行。でもみんながこれだけ聴いててそこまでわからなかったってことは、曲として繋がってるからなんだろうね。

──今回のサントラに収録されている「THEME FROM LUPIN III 2021」は「どうしよう、どうしよう。もうネタ切れです。だってメインテーマのアレンジどんだけやって来たのさ」という言葉からはじまるコメントを寄せられていましたが……。

大野:うん、アレンジに関してはずっと困ってる(笑)。オープニングとかじゃない二時間スペシャルものとかだとまだアレンジしようがあるんだけど、77年から秒数が決まってるからね。ルパンが始まったときから、今でもTVシリーズのメインテーマ、エンディングテーマ、どちらも尺が変わってない。しかも最初に作った「ルパン三世のテーマ」のイントロとかメロディをお客さんがしっかり覚えてるからそう簡単に取り外せないの。ある意味ね、あの曲はもう頭から終わりまで全てがメインメロディになっちゃったわけで。イントロ、サビ、サイレンが鳴るところ、みんなが全部を覚えてるわけで。

──確かに全部覚えています。私にとっては生まれて初めて聴いたジャズかもしれません。

大野:そういう人も多いんだろうね。みんなが覚えてるフレーズがなくなると違和感を持つ人がいるから、イタリア(が舞台)のPART4のときはマンドリンを使ったり、フランスが舞台のPART5のときはアコーディオンを使ったりして、最近はメイン楽器の音色で変化をつけているね。それで、今回はロンドンだから「ロックでいってみるか」と。

──それで今回はギターの和泉聡志さん(Yuji Ohno & Lupintic Six / Gt)のギターをフィーチャーしているわけですね。

大野:和泉くんはね、15年前(Yuji Ohno & Lupintic Six に)入ったときは譜面の“ふ”の字も読めない男だったわけ。でも敢えてメンバーに迎え入れたのよ。当時はYuji Ohno & Lupintic Fiveだったんだけど、全員がジャズ・ミュージシャンだったわけ。で、和泉くんだけまったくジャズを知らないロック畑の人。ジャズ系のギターを入れたほうがまとまりはあるんだけど、それだとつまらないじゃん。せっかくなら、ジャンルやルーツが違う人が入ったほうが面白くなるだろうなと思ったんだ。

藤原:なるほど……!

大野:で、彼がいいって。だから加入後も一からジャズを教えるなんてことはなくて、俺は彼に「君は別枠だから好きなように弾いちゃっていいよ」って言ってたね。

藤原:それはうれしい言葉ですよね。

大野:それと一緒にやりだしたら、和泉くんは喋りがうまいわけよ。だから「司会もやってよ」って(笑)。彼の偉いところは、向上心のかたまりでジャズもクラシックギターも自分自身でものすごく勉強してるんだ。

でも、途中でジャズっぽいプレイをやりだしたことがあって、俺怒ったんだよね。「こっちに近づいちゃ駄目! 君はなんでこのバンドにいるのか分かってるのか!」と(笑)。ロックな感じをやめちゃ駄目だと。俺は彼の演奏を信頼しているし、だからこれ以上はないってくらい今回メインテーマでギターをメインにした。

──和泉さんとしてはすごく喜ばれていたのではないでしょうか。

大野:だと思うよ。ご褒美かな。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS・NTV
(C)モンキー・パンチ/TMS・NTV
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