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『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』福田己津央監督が「愛」というテーマに向き合った理由とは【インタビュー前編】

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』福田己津央監督インタビュー前編|恥ずかしくて誰も使わなくなった今だからこそ、「愛」というテーマに向き合った

現在、全国の映画館で大ヒットを飛ばしている『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。

本作は、2002年にTVアニメが放送され、新たな『ガンダム』ファンを多数獲得し、大きなムーブメントを巻き起こしたTVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』、そして2004年に放送された『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の約2年後を描いた「ガンダムSEEDシリーズ」の最新作です。

アニメイトタイムズでは、『SEED』及び『SEED DESTINY』、そして『SEED FREEDOM』でも監督を務めた、福田己津央氏へのインタビューを実施。

前編となる今回は、現在の心境や、作品のテーマでもある「愛」について、気になるシーンの意図などについてお話を伺いました。公開後ならではの踏み込んだ質問にお答えいただいた内容となっていますので、是非ご一読ください。

※本インタビューには『SEED FREEDOM』のネタバレが含まれますので、ご了承ください。

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機動戦士ガンダムSEED FREEDOM
C.E.75、戦いはまだ続いていた。デュランダル議長の死により、デスティニープランは消滅したが、同時に大戦終結後の世界を安定させる指標は失われた。各地で独立運動が起こり、ブルーコスモスによる侵攻はくり返され、人々はさらなる戦乱と不安の最中にあった。事態を沈静化するべく、ラクスを初代総裁とする世界平和監視機構・コンパスが創設され、キラたちはその一員として、各地の戦闘に介入する。そんな折、ユーラシア連邦からの独立を果たした国・ファウンデーション王国から要請があった。ブルーコスモス本拠地へのコンパス出動を求めるものだ。要請を受け、キラたちはラクスを伴い、ファウンデーション王国へ向かう。作品名機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM放送形態劇場版アニメシリーズ機動戦士ガンダムSEEDスケジュール2024年1月26日(金)キャストキラ・ヤマト:保志総一朗ラクス・クライン:田中理恵アスラン・ザラ:石田彰カガリ・ユラ・アスハ:森なな子シン・アスカ:鈴村健一ルナマリア・ホーク:坂本真綾メイリン・ホーク:折笠富美子マリュー・ラミアス:三石琴乃ムウ・ラ・フラガ:子安武人イザーク・ジュール:関智一ディアッカ・エルスマン:笹沼晃アグネス・ギーベンラート:桑島...

当初は、ストライクフリーダムがやられて新型が登場する予定だった!?

――ついに劇場版が公開され、非常に大きな反響が起こっています。現在の心境をお聞かせください。

福田己津央監督(以下、福田):とてもありがたいなと思っています。自分としては、やっぱり『ガンダムSEED』なので、あまり「新作を作った」という感じではないんです。僕はフィルムが出来上がるときが一番緊張するんですが、今回はそこからだいぶ時間が空いてしまっているので。今は「皆さんがこれをどういう風に受け取ってくれるだろうか」っていうのが一番の関心事ですね。

やっぱり今回は、ライターの両澤(千晶)がいないのでね。プロットはもちろん作ってくれていたんですが、そのプロットのセリフや、後藤(リウ)さんに書いてもらったものをまとめて、自分がセリフを直しているので、今までの『SEED』とは違うところが結構あったと思うんです。それがちゃんと受け入れられるかなという不安はありますね。

――まだ、その不安は払拭されていないような感じでしょうか。

福田:まあ正直に言っちゃうと、だんだん後半に行くにつれ、自分のペースになってしまっているなって感じはしますよね(笑)。 今はもう、止める人がいないんだなって。

でも、どれもこれも、もともとは両澤のプロットにあったことですから、そんなにおかしなことはやっていないはずです。ただやっぱり、セリフ一個一個のニュアンスで、お芝居の感じとか、与える空気が全然違うんだなということは、すごく実感しています。

――最初に発表されたのが2006年で、公開までかなり時間が空きましたが、18年経ったからこそ実現したこと、苦労した点などがあれば教えてください。

福田:まず大きいのは、これは当時も今も変わらないのかもしれないですが、 当時から「MSは3Dでやります」ということは言っていて、そのためにはすごい量の3Dモデルが必要だったんですよ。

当時のCGの制作からも「これ本気でやるの?」みたいなことをかなり言われていて、絶対に実現できないような雰囲気だったんです。けど今のスタッフは、 『SEED』を見て育ってくれた世代も多いので、 作品に対する愛情が強いというか。よくぞこれだけの物量をこなしてくれたなという感謝の気持ちは大きいですね。

――最初に企画が決まった時から、変わった点はあるんでしょうか?

福田:いろいろあるんですが、まずTVシリーズをやっていた当時にうまくいっていなかったところがあって。劇場版はそれを少しでも何とか補正しようと思いながら作っていたんですが、その補正に関してはある程度うまくいった気がしています。

具体的に変わった部分としてはキャラクター周りですね。最後まで両澤は見届けてはいないですが、 一応、彼女が作った方向性に合わせてあらゆるものを動かしたつもりです。特に愛については当初はもうちょっと薄かったかなと。

――恋愛要素の配分が変わったような感じだったんでしょうか。

福田:恋愛というよりは、愛そのものですね。まず、両澤は「恋愛映画がよく分からない」と言っていたんです。誰が誰を好きなのとか、それって言葉に出さないとダメだとか、そういったことをよく言っていましたね。

例えば「愛の物語」って言った時、それが何をもって愛の物語なんだっていうことが書きにくいと。もっと具体性がないとダメだということで生まれたのが、「資格と価値」というテーマで、愛するには資格がいるのか、 愛される価値とは一体何ぞやというところに最終的に行き着いたような形でした。

その辺は全てのキャラクターというか、いろんなキャラクターがそれを体現するように元々組んでいるはずなんです。それが一番大きいのはやっぱりアグネスで、オルフェたちについてもそうですね。

ただ、彼らはあくまでもメインのキャラクターではなかったので、 最終的にはラクスにそれを背負わせるために、「彼女もアコードの一員だった」という設定を自分が加えました。それが、いわゆる「資格と価値」というテーマの最たるところになったかなと思っています。

それが、遺伝子が全てを決める、 運命が全てを決めるっていう社会に対する一つの回答じゃないかという気がするんですよね。そこから彼女自身が抜け出していくというのが、本作で描きたいと思っていた部分で、そこが企画当初から変わった点になると思います。

あとは、メカについても変わったりしましたけどね。

――可能な範囲で、メカ周りがどのように変わったか教えていただけますか?

福田:一番最初は、ストライクフリーダムが頭からいて、途中でやられて新型になるって話だったんです。 でも、両澤からするとそれはカッコ良くないと。「新型で勝つんじゃなく、最後は旧型で勝つ方がカッコいいでしょう?」と言われて、「なるほど」と思いました。

――デザイン面で作るのに苦労したり、こだわられた機体はありますか?

福田:自分が言ってもあんまり説得力がないかもしれないですが(笑)、 一応、「どういう機体がこの世界に理屈として成立するか」っていうのはいろいろ考えました。

まず、2回戦争をやっているので、あの世界って経済とかがいろいろ疲弊しているんですよ。もともと核を封じられて基幹産業のエネルギーが不足している。その時点でかなり人口が減っているので、 しょっちゅう戦争をやるわけにはいかないっていう。 テロが起こったり紛争があったりしても、迂闊に軍隊は出せないだろうなと。

なおかつ軍縮っていう、軍よりも産業の復興とか発展とかにお金をかけなきゃいけない流れもあって、言い方は悪いんですが、「なるべくローコストで戦争をやるにはどうするか」みたいなことはいろいろ考えました。

――大河原(邦男)先生に対しても、そういう点を踏まえたオーダーをされたのでしょうか。

福田:ありましたね。なので、ライジングフリーダムとイモータルジャスティスは、本来頭や肩だけ変えて、ボディとか変形機構は全部一緒にするつもりだったんです。……と言ってはいたんですが、上がってきたデザインは全然違うものになっていて(笑)。

――でも、それがカッコよかったので採用したのでしょうか。

福田:そうですね。結局『SEED』ってキャラクタードラマありきですが、最終的に「メカもキャラクターなんだ」というところに落ち着いたので。

――企画が再始動する前から、すでにメカは一通り揃っていたのでしょうか。

福田:ええ、もう発注されていました。大河原さんはその時点で一回上がってもらっていたくらいだったので。(資料を)探せば、当時描いてもらったバージョンも出てくると思います 。

ブラックナイトスコードとかは、ベースの機体は同じなんですが、初期の構想だともっと数が多かったですね。あとは、上下分離型というか、ビグ・ザムとジオングみたいなメカが合体してデストロイになるみたいな機体を考えていた時期もありました。

――先程、「愛の要素が強くなった」という話もありましたが、そもそもどうして愛のドラマがもっと必要だと監督は考えられたのでしょうか。

福田:これは90年代や2000年代からそうなんですが、「愛」って口にするのは恥ずかしいですよね。作品の中で語った瞬間に「何にもないなこれ」と感じるぐらい、薄っぺらいもの(という認識)だったと思うんです。

それから20年ぐらい経って、「恥ずかしいから誰も使わなくなった今なら出してもいいかもしれないな」と。右を向いても左を向いても愛、これも愛であれも愛みたいな、そういうわけの分からない状態に今はなっていないですし、そもそも結婚したくないという時代の作品ですからね。

パートナーとは何ぞやとか、結婚が人生や人間関係のゴールでもスタートでもない、そういう価値観が多様化した時代だからこそ、「愛」っていうのをもう少しストレートに言っちゃってもいいのかなっていう気がしたので、それをちょっと強く出しました 。20年前とは、世の中の価値観がちょっと変わってきたことを感じているからこそのワードです。

――世の中の「愛」への感心が薄くなったからこそ、その大事さをあえて語っているような。

福田:そもそも、もう男女の愛って限定しちゃうとダメな時代じゃないですか。

ただ、元々「愛」という言葉をどういう時に使っていたのかを考えると、親子愛とか家族愛とかだったら愛の前には別の単語がつきますよね。つまりそれは「愛」とは少し違うんじゃないかっていう。単純に「愛」って言った時には、もうちょっとミニマムな何かだよねっていう想いがあって、そこに向けてストーリーを作ってもいいのかなと。

(C)創通・サンライズ
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