
互いに刺激を受けながら演じた、花奈と修羅の朗読|『花は咲く、修羅の如く』花奈役・藤寺美徳さん×修羅役・日笠陽子さんインタビュー【連載第7回】
日本テレビ・BS日テレほかにて放送がスタートしたTVアニメ『花は咲く、修羅の如く』。本作は、人口600人の小さな島・十鳴島に住む花奈が、高校で放送部に入り、仲間と共に大好きな朗読を深めていく物語。『響け!ユーフォニアム』の武田綾乃が表現する高校生の心の成長を、新鋭作家むっしゅが繊細な筆致で描く青春ストーリーとなっています。
第12話、『Nコン』に向かう朝。花奈は浜辺で第1話のときに読んだ『春と修羅』を朗読する。そして、まったく別の場所で『春と修羅』を読む修羅。2人の才能が、違う場所とはいえ、重なっていくシーンは、最終話の見どころでした。
最終話後のインタビューは、花奈を演じた藤寺美徳さんと、花奈が憧れる修羅を演じた日笠陽子さんの対談です。
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修羅のオーディションで、意識していたこととは
──日笠さんは、原作に対してどのような印象を持たれましたか?
日笠陽子さん(以下、日笠):原作コミックスの発売記念PVを録らせていただいたこともあって、もともと作品は知っていたんです。だからあの素晴らしい作品がアニメ化するんだ!って思いました。そこから修羅でオーディションを受けさせていただくことになったのですが、改めて修羅目線で原作を読んでいくと、当時見えていた景色と、まったく違うものが見えて、全然違う感情が湧き上がってきたんです。
オーディションは、まぁ気楽というか(笑)。好き勝手、思うままにやったんですけど、合格をいただいたときは、一気にプレッシャーを感じてしまって……。読者それぞれに修羅の解釈があるだろうし、声を題材にした作品で、朗読が上手いとされる役なわけですから、やっぱりプレッシャーですよね。
──確かにそうですね……。“読み”も、“美しい読み”とか、いろんな形容詞が付きますから。修羅目線だと、具体的にどんな風に変わりましたか?
日笠:若者たちが部活で切磋琢磨する。そこで少しぶつかり合って、ケンカみたいな感じになったりすると、第三者目線で見ると微笑ましいというか。だから最初は、成長していく姿を、大人として見ている感じだったんです。
でも修羅として読んでみると、華やかな絵柄なのに影を感じるような作品に、私はちょっと見えてしまって……。どこか達観していて、それすらも物語に見えていて、「でもそれって虚像なんじゃない?」って言っちゃうような感じというか。
──ちょっと冷めた感じでもありますね。あと気になったのは、オーディションを好き勝手やったということですが、こちらについてはいかがでしょう?
日笠:当時、自分の中で「こういうお芝居をしたい!」というのがあったんです。それは、削ぎ落としていくということなんですけど、それまでの自分は、乗せて乗せてプラスして、というお芝居を十年以上やってきていたんです。ある意味、表現しようと思えば、いくらでも表現できるけど、それをあえてしないようにしたかったというか。
たとえば「楽しかったね」と言ってるけど、心の奥底では楽しくないと思っているとか、「ありがとう」って言っていても、心では泣いているとか。言葉からだけでは感じ取れない、人間の心の部分が表現だと思うので、それをどこまで出すのかにこだわりたかったんですね。だから緩急を付けつつ、でも“急”は少なめでというのを、オーディションではやっていました。
でも本編では、もっと削ぎ落としていった感覚があるんです。観ている方に想像の余地を与えるやり方に振り切った感じではありました。
──修羅は、会話が少ないということに関してはいかがでしたか? ほぼ朗読だったと思うのですが。
日笠:いや、本当にそうなんですよ! それは本当につらかったです(笑)。普通の台詞を話せるみんなが羨ましくて羨ましくて! でもそれが、修羅っぽくなるというか……。
人と会話をそこまでせずに朗読ばかりする。朗読だけ見ていて、周りは雑音であるという感覚に近くなるんですよね。だから台本から、箱に押しやられている感覚があったので、すごく孤独でした。みんなが部活動で、きゃっきゃしているのを横目で見ながら「羨ましいな…」みたいな。
藤寺美徳さん(以下、藤寺):ほかのキャラクターとの会話が、本当になかったですよね……。
日笠:休憩時間はお話をしてくれるけど、どこか学校とは違う場所にいる人間みたいな。私も、もしかしたら壁を作っていたのかもしれないなと思ったけど、どうだった?
藤寺:私はそんな感じはあまりしませんでした。
日笠:え!? 壁、なかった?(笑)。
藤寺:はい。私はすごく緊張していたんですけど、日笠さんがすごく明るく話しかけてくださって……。「声優をやって、どのくらいになるの?」って話しかけてくれたのが、すごく嬉しかったんです。
──壁、作ってないじゃないですか!(笑)。
日笠:おかしいな。しかもなんか暴かれた感が……(笑)。カッコつけて、壁を作って孤独にとか言っておきながら。でも、ちょっと先輩面して現場にいたつもりだったんだけどな。
藤寺:本当にカッコよくて! マイク前に立たれて修羅の朗読をされているときは、私も花奈ちゃんと同じように、憧れてしまいました。こんな朗読を自分もできるようになりたいなって思いました。
日笠:そう思われなければいけないというのが、プレッシャー過ぎて(笑)。この作品の音響監督は濱野高年さんですが、ある程度キャリアを重ねてきた私に対しても、「あとはやっといて」とかではなく、かなりみっちり録ってくださったんです。なのでお恥ずかしながらテイクもかなり重ねていたんです。でも、リテイクを繰り返しやっていると、迷子にならない?
藤寺:なります……。ディレクションをいただいて、修正するんですけど、行き着く先が自分の想像していなかったところだったりするので、濱野さんの指示にしがみついていこう!みたいな気持ちはありました。
日笠:アニメは音と絵をすり合わせていく作業だったりするからね。でも私はどこかで、すり合わせるだけでなく、ディレクションの斜め上を行きたいっていう感情があったんですよね(笑)。もちろん、一緒にいいものを作りたいというのが前提ですけど、それもある意味バトル!みたいな感じで……。
──せめぎ合いみたいなものがあったんですね。藤寺さんは、言われたものに応えるのに精一杯だったと思いますが、そこは音響監督との関係性もありますよね?
日笠:もちろん、ざっくばらんに話せる間柄というのはありますね。濱野さんが音響監督をやり始めた頃は私も新人で、それこそドラマCDとか、ゲームをやられているときから一緒だったので、そういうバトルができたというのもあるんです。ただ安心感というか、信頼感を感じながらアフレコができたと、私は思っています。