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小林靖子が紐解く『岸辺露伴は動かない 懺悔室』の特異性【インタビュー】

岸辺露伴は刑事でも探偵でもなく、ただの“漫画家”である――『岸辺露伴は動かない 懺悔室』脚本・小林靖子さんの言葉を通して、シリーズの“特異性”を紐解く【インタビュー】

実写映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』が、2025年5月23日(金)より全国公開されます。

舞台はヴェネツィア。取材旅行に訪れた漫画家・岸辺露伴が、教会内の「懺悔室」で耳にする“告白”をめぐって、物語は静かに、しかし確実に動き出していきます。

原作は、荒木飛呂彦による『岸辺露伴は動かない』シリーズのルーツ『エピソード#16 懺悔室』。シリーズ5年目にして、ついにこの原点ともいえる物語が映像化されました。これまでの実写版も手がけてきた脚本家・小林靖子さんは、今作について「今だからこそ描けた」と語ります。

なぜ今、「懺悔室」なのか。脚本の制作過程や、露伴と泉京香の関係性、そして今作の鍵を握るマリア(演:玉城ティナ)について――。長年『ジョジョ』と向き合ってきた小林さんの言葉を通して、『岸辺露伴は動かない』シリーズが持つ独自の性質を紐解いていきます。

 

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岸辺露伴は動かない 懺悔室
漫画家・岸辺露伴はヴェネツィアの教会で、仮面を被った男の恐ろしい懺悔を聞く。それは誤って浮浪者を殺したことでかけられた「幸せの絶頂の時に“絶望”を味わう」呪いの告白だった。幸福から必死に逃れようと生きてきた男は、ある日無邪気に遊ぶ娘を見て「心からの幸せ」を感じてしまう。その瞬間、死んだ筈の浮浪者が現れ、ポップコーンを使った試練に挑まされる。「ポップコーンを投げて3回続けて口でキャッチできたら俺の呪いは消える。しかし失敗したら最大の絶望を受け入れろ…」。奇妙な告白にのめりこむ露伴は、相手を本にして人の記憶や体験を読むことができる特殊能力を使ってしまう…。やがて自身にも「幸福になる呪い」が襲いかかっている事に気付く。作品名岸辺露伴は動かない 懺悔室放送形態実写映画シリーズ岸辺露伴は動かない(実写)スケジュール2025年5月23日(金)キャスト岸辺露伴:高橋一生泉京香:飯豊まりえ田宮:井浦新マリア:玉城ティナソトバ:戸次重幸水尾:大東駿介スタッフ原作:荒木飛呂彦「岸辺露伴は動かない 懺悔室」(集英社ジャンプコミックス刊)監督:渡辺一貴脚本:小林靖子音楽:菊地成孔 新音楽制作工房人物デザイン監修・衣裳デザイン:柘植伊佐夫製作...

 

「懺悔室」は五年という歳月に値するエピソード

──ドラマシリーズの初回から拝見していますが、ここまでシリーズが広がっていくとは思いませんでした。

脚本・小林靖子さん(以下、小林):そうですね。まさか5年もやっているというのは……。最初から3話構成のパッケージとして成立していたので、それで終わってもおかしくなかったはずです。ただ、スタッフ間でも「続きをやりたい」という声がありまして、「もしかしたら続くのかも」とは思っていました。

 

 

──やはりファンからの反響も大きかったのでは?

小林:あまり直接耳にすることはありませんでしたが、身近な人たちがわざわざメールをくれたりして、「ああ、ちゃんと観てもらえているんだな」と感じることはありました。

──これまで小林さんが脚本を担当された実写シリーズの中で、特に思い出深いエピソードはありますか?

小林:やっぱり最初の年(第1期)ですね。まだシリーズの方向性も固まっていなくて、手探りでやっていたところがありました。小説(『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』)からエピソードを持ってきたり、結構バラエティに富んだシリーズだったと思います。

振り返ってみると、「普通のドラマとして成立させよう」という意識もどこかにありましたね。もちろん“普通”のドラマではないのですが(笑)。例えば、京香と婚約者のストーリーとか、少し綺麗にまとめようとしていた気がします。そういう手探り感も含めて、思い出深いです。キャスティングも完全には決まっていない段階だったので、書いては「これでいいのか?」の繰り返し。皆さんと話し合いながら進めていました。

 

 

──その1年後には、人気エピソード「六壁坂」を中心とした第2期が放送されました。

小林:最初から「六壁坂」は「実写向きの題材だな」と思っていました。サスペンス性もありますし、動きも多い。もちろん、露伴自身はあまり動かないですけど(笑)。

横溝正史的な世界観で、因習のある村や古い家柄とか。完成した映像も雰囲気のあるものになっていたので、やれて良かったと思っています。

──その後もシリーズは続いていき、このたび『岸辺露伴は動かない』シリーズのルーツである「懺悔室」が遂に映像化されます。スタッフコメントでは、「ドラマはもう五年目ですが、このファーストエピソードに辿り着くには必要な時間だったと思います」と綴られていましたが、何故そのように感じられたのでしょうか?

小林:ロケ地の問題もありますし、内容的には露伴が“聞き役に徹する”エピソードなので、初見の方に観せるものとしてはハードルが高いです。

視聴者の皆さんにご支持をいただき、2年、3年……と続けてこられたからこそ、2作目の映画に手が届いた。「ああ、これがついにできる環境になったんだな」と。やはり「懺悔室」は、これだけの年月がかかるに値するエピソードなのだと思います。

 

原作の“先”を描いた理由

──「懺悔室」の物語については、どのような印象をお持ちですか?

小林:やはり「露伴が“聞き役に徹する”」というのは一つのキモと言いますか。この物語が“ファーストエピソード”として成り立っている由縁なのかなと。「事件そのものを完全に解決しない」というスタイルも、「懺悔室」の時点で既に確立されています。

──このシリーズは、最後に謎や神秘的な部分を必ず残していきますよね。

小林:露伴が刑事でも探偵でもなく、ただの“漫画家”だからこそ、成り立っていると感じます。自分の興味が満たされると「あ、分かりました」という感じで、バタンと扉を閉めてしまう。それはシリーズの持ち味でもあるので、大事にしているところです。

──映画化にあたっては、原作の要素を膨らませる必要があったと思います。

小林:皆さんとの話し合いの中では、「同じくイタリアが舞台の『岸辺露伴 グッチへ行く』と合体させる」という案がありました。『背中の正面(2021年放送)』のような形式ですね。

ただ、今回はちょっと無理があるというか……全く違う現象なので、少し厳しいのではないかと思いました。加えて、原作の完成されたコンパクトなエピソードは、変にいじらない方がいいかなと。そういう流れで、今回は他の部分を膨らませつつ、「懺悔室」だけでやりきる形にしたんです。

 

 

──そのうえで、原作の“先”を描くような内容でもあるなと。

小林:やっぱり「ポップコーン対決」が盛り上がるんですよね。ただ、それをクライマックスに据えると、もっと露伴を関わらせる必要が出てきます。そういう展開も考えてみましたが、やはり原作の雰囲気が壊れてしまって。我々としても「原作をそのまま描きたい」という意識が強くあったので、その“先”を描くという構成に落ち着きました。

──実写版ならではの要素として、「仮面」や「ペスト(黒死病)」など、ヴェネツィアのロケーションを活かしたモチーフが複数登場しています。これらを取り入れた意図についても、お聞かせください。

小林:『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』には、ルーヴル美術館という「パリにしかない場所」が頑として存在していました。一方、今回は教会というステージさえあれば、成立してしまうんですよね。

例えば「日本の教会に懺悔室があって〜」みたいな。無理やりですけど、やろうと思えばできてしまいます。そうではなくて、イタリアに行く“意味”をどうしても付けたかったんです。ただ「映画だから海外に行きました」にはしたくない。監督やスタッフの皆さんと相談しつつ、現地の文化を取り入れて、物語全体にヴェネツィアらしさを反映させました。

 

 

──実写版の鍵を握る「マリア(演:玉城ティナ)」のキャラクターは、どのように構築されたのでしょうか?

小林:原作にも少女時代は登場していましたが、「その少女が“呪い”の中で育ったら、どうなってしまうのかな」と。そこから少し陰のある感じと言いますか。「毒親」とまでは言いませんが、そういった背景を持つキャラクターとして作っていきました。

──仮面職人であるマリアに、露伴が共感を示す場面も印象的でした。

小林:露伴はシリーズを通して、「人助けのためには動かない」キャラクターです。だからこそ、京香がいない限りは、何かしらの“共感”がないと関わっていかないんですよね。ですので、彼女が“ものづくり”をしている人間であり、自分のベストを追求しているという部分に、露伴が共感するという流れにしました。

 

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