映画
「得意を封印」子安武人が挑んだ新しい吹替え表現とは?

映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』子安武人が語る“ヒーロー像”と家族の絆|「リード・リチャーズは新しいところを探りながら、再認識できた役柄」

 

得意とするところを封印

──今回の作品でリード・リチャーズ役を子安さんが演じると聞いた時に、声の想像が全然つきませんでした。

子安:それでいいと思います。僕もそうだと思います。違うようにやっているんです。今までの僕だったら、もうちょっと渋かったり、低めの声だったり、少し圧があったりというところがあったかもしれないんですけど、今回はそういうのをいっさい封印しました。

今作でのリード・リチャーズを演じるペドロ・パスカルさんのお芝居がそういったお芝居なので、それに合わせたお芝居をしました。だから、今作では「決してロートーンになりすぎない、圧を入れすぎない」という指示があった上で、吹替えをやっているので、いつもの僕を想像していくと、「あれ? 何か違うな」とか「どうしたんだろう?」とちょっと感じるかもしれません。

ペドロさんのビジュアルの、「渋い感じでかっこいい、ダンディなイメージの低い声にしない」という演出意図が前提にあるらしいです。

だから、低音で声を響かせるようなお芝居ではなく、「中音ぐらいで、普通の一般人、おじさんがしゃべっているような感じにしゃべっているのが理想」という、そんな感じの指示がありました。

 

 

──リード・リチャーズは天才と呼ばれていますが、今作では家族を巻き込んでしまったという後悔を感じました。

子安:今作のリード・リチャーズは、完全無欠のヒーロー像とか、何でもできるという立ち位置ではないんです。彼は人間として当たり前に悩むことに悩んでいたり、改善したいことに一生懸命に取り組んでいたりする人間です。だから、ヒーロー的、超然的なお芝居を求められていない。ともすれば、自信がないようなお芝居をされているんです。

今回のリード・リチャーズは、リーダー然とした「引っ張っていくぜ」みたいな感じの人間像からはちょっと離れています。天才とは言われていますけど、科学者が力を手に入れて、地球の平和というものを託されて、「どうすればいいんだ」と思い悩むようなお芝居をされています。

それが今作の『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』では、リード・リチャーズに求められているお芝居で、ペドロさんはそれをやっていらっしゃって、それに合わせた吹替えのお芝居をやっています。

ペドロさんの声を吹替えるというよりも、ペドロさんがやっているリード・リチャーズの吹替えを僕が担当しているということで、なるべく彼がやりたいであろうお芝居をくみ取って、僕自身の我というか、そういうものは封印しています。

──これまでにない新しい子安武人さんを感じました。

子安:ありがとうございます。僕もあまり経験したことがなかったし、もし何も言われず、好きにやらせてもらえるんだったら、絶対に選ばないんですよ。やっぱり得意なところはもうちょっとあるし、僕のよさはちょっと低めになった時の響きとか、そういうところでしゃべる時のちょっと色っぽい感じとか。たぶんみなさんが思うであろう、かっこいいところとか、もうちょっと渋く低くやってほしいなと思うのを僕だって想像できているんです(笑)。

ですけど、そういうようなお芝居をすると、今回のペドロさんのリード・リチャーズのお芝居とは合わないので、新しいところを探りながらやりました。だから僕の中でも、「まだまだ僕にはこういうものがあったんだな」と再認識できたとても有意義な吹替えの仕事だったような気がしますね。

 

日本版声優は意外性のあるキャスト

──今作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』の見どころや聞きどころをお聞かせください。

子安:映画としては、家族、愛、絆というものが根底にあって、それがテーマです。そういった戦い以外での心の交流みたいなところは見どころになるし、ペドロさんのお芝居が本当に繊細です。あのダンディな渋いイケオジからは想像できないようなチャーミングなお芝居がところどころにうまい具合に入ってくるんですよ。

「何でこんなかわいい表情やしぐさをするんだろう」というところがあって、ファンが見たら、「ペドロ、かわいい~!」と思うんじゃないのかなというお芝居がいっぱいあって、それはひとつの見どころであるかもしれません。

それから何といっても、これは“ファースト・ステップ”です。この作品はこの後の『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』に繋がる話なんですよ。今作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』として見るだけでも充分面白い作品にも関わらず、ここからどう繋がっていくのか、想像できないですし、全くわからないので、これは見ておいた方がいいですよ(笑)。

いきなり『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』を見ても、たぶん大丈夫だと思うんですよ。でも今作を見ておくと、繋がりがよくわかりますし、何よりも『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』のお話として、非常によくできたヒューマンドラマですね。

あとは、敵もかっこいいんですよ。宇宙神ギャラクタスも恐ろしくて、「こんなやつに勝てるのかよ」というヴィランです(笑)。

日本版声優は、意外性もあるので、ぜひ見られる環境があれば、日本語吹替版も面白いんじゃないかと思っています。

 

家族は本当に大事で、助けられている存在

──今作では家族やヒーローがテーマとなっています。子安さんにとって、家族やヒーローとはどのようなものですか。

子安:僕は家族に救われている人間なので、家族は本当に大事だなと思うし、家族っていいなと思っている人間なんです。

仕事は楽しい仕事ばかりじゃなくて、辛い仕事もあるし、苦しいこともあるし、プレッシャーに押しつぶされそうなこともある。でも、そういうものから、家に帰って来た時に、「この空間は何て癒される空間なんだろう。」と思えるようなリセットができる。それが僕にとっての家族です。

例えば、妻の顔を見たり、会話をしたり、一緒にゲームをして遊んだり、息子の顔を見たり、息子とくだらない話をしたり、娘にちょっかいを出したり、出されたりとか(笑)。そういうようなことをしていると、小さいこととか、悩んでいたこととか、別にどうでもいいかなと思えるようになりますね。

ヒーローは憧れる架空の存在ですよね。それはTVやスクリーンの中で、僕ができないことを具現化してくれて、やってくれる人たち。それが現実にいるとは、認識していないですね。「もしかしたら、いるのかもしれない」と考えるのは、非常に楽しいことではあるけれど、そこまで現実と交差してはいないです。でも、「ああいうふうになれたらいいな」と思うのがヒーロー。

だから、それを今回は叶えられて、ヒーローを演じさせていただけたのは、非常に嬉しかったです。ただ、思い悩んでいましたけど(笑)。彼は完全無欠じゃなかったので、ちょっとそこは僕のヒーロー像とは違って、すごく人間味があって、よかったことではありましたけど。「リードも頭はいいけど、意外と悩むことは俺と一緒じゃん。それはそうだよな。人間だもの」と思いながらね(笑)。

 

 

──お芝居を演じられる上で、子安さんが大切にしていることは、どんなことですか。

子安:既成概念にとらわれないこと、思いこまないことですね。「こうでなくてはいけない」とか「こうあるべきだ」という考えは極力排除して、「こういうキャラクターだから、こうやればいいんだよな」というようなアプローチは考えないようにしていますね。

「常にナチュラルに、フラットに、自分の心と身体を置いておけなければいけないな」と思っています。

──ありがとうございました!

 
[取材&文・宋 莉淑(ソン・リスク)]

 

作品情報

ファンタスティック4:ファースト・ステップ

あらすじ

宇宙でのミッション中のアクシデントで、特殊な能力を得てしまった4人の宇宙飛行士。天才科学者であり、チームのリーダー、リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック(ペドロ・パスカル)は、身体がゴムのように伸縮自在となる能力と卓越した知性と発明の才能を持つ、チームのリーダー的な存在。リードのパートナーであるスー・ストーム/インビジブル・ウーマン(ヴァネッサ・カービー)は、身体を透明化する能力の持ち主で、チームの精神的支柱としてメンバーを支えるしっかり者。スーの弟、ジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチ(ジョセフ・クイン)は、全身を炎に包み、高速で空を飛ぶことができる、若く陽気なチームのムードメーカー的存在。そして、リードの親友で、岩のような強固な身体を持つベン・グリム/ザ・シング(エボン・モス=バクラック)は、たぐいまれなる怪力の持ち主。そんな特殊能力を持つ4名で構成された彼らは、ニューヨークのバクスター・ビルに拠点を置き、時には“家族”、時にはヒーローチーム“ファンタスティック4”として活躍している。

キャスト

リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック:ペドロ・パスカル(子安武人
スー・ストーム/インビジブル・ウーマン:ヴァネッサ・カービー(坂本真綾
ジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチ:ジョセフ・クイン(林勇
ベン・グリム/ザ・シング:エボン・モス=バクラック(岩崎正寛)
シルバーサーファー:ー(上田麗奈
ギャラクタス:ー(楠大典

(C) 2025 MARVEL

(c) 2025 20th Century Studios / (C) and TM 2025 MARVEL.

 

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