
展示方法にもこだわる新作イラスト満載の個展は「創作に浸ることのできる空間」へ──個展『黎創』開催記念・風李たゆ先生×えびも先生【対談インタビュー後編】
展示方法にもこだわり抜いた新作イラストのエピソードを深掘り
──今回の個展では新作イラスト11点が初公開されるとお伺いしています。
風李:今日は出来上がっている新作イラスト(取材時点)を数枚お持ちしました!
大きなテーマは一貫して「自分のルーツ」。そこから作品それぞれに派生して全く違うインスピレーションや表現で制作し
えびも:この模様はどうやって描いているんですか?
風李:これは一定の範囲をすべて手描きでブワーッと描いて、コピーとペーストでパターンを反転させるなどしながら重ねて作りました。超ランダムに描いたんですよ!
えびも:えぇっ!? 並んでいるパターンならわかるんですけど、その方法で作れる細かさなんですか!? 目にパッと入ってくるコントラストを、派手な色を使わずに白だけで表現するのは色を使うよりも難しいハズ……。
風李:「白って200色あんねん」という名言がある通り、白にも色々なバリエーションがあるので、実は少しずつ白を使い分けています。
ています。
▲風李たゆ『式』
えびも:レースと扇子の透けている透明感のある素材と、立体感のあるお花のしっかりした部分の描き分けが繊細ですごい……!
風李:レースの部分は特に、柄を手描きしてブラシを作って描きました。あえて手描きの質感を残すことによって、引きで見たときに「完璧すぎない」ところが本物の布っぽく見えたりするんですよね。
風李:そして次にこの絵は、日本を象徴する花の一つである菊を主として描きました。“大掴み”や“雲咲き”などの種類をイメージしています。白くてホイップクリームのような菊ってかわいいなと思っていたので、キャラクターもそのシルエットなどを踏襲しています。結果的にクラゲのようにも見えるところが、また面白い絵になったかなと思います。これは半透明のすりガラスっぽいアクリルに印刷する予定です!
えびも:絵によって印刷も違うんですね!
風李:そうなんです! 絵によってはホログラムっぽい紙と布を組み合わせたりしようかなと思っています!
えびも:この神社の階段のイラストはどのように展示する予定なんですか?
風李:これはですね……リアル掛け軸にします!
えびも:掛け軸!? かっこいい!
風李:この絵は、私にとって思い入れの深い話を画描いた1枚なんです。
両脇が森に囲まれ、長い石の階段が続き、いくつもの石の鳥居が並んでいる。何年も前からその神社の風景だけが夢の中に出てきていたんです。でも「あの神社はきっと、いつか行く場所なんだろうな」と思って調べておらず……。
そんな中、数年前に家族旅行で初めて九州に訪れたことがあって。ある場所で弟が偶然見つけた色褪せたポスターを指して「私(風李)が好きそうな神社があるよ」と教えてくれたんですよ。そこにはなんと、夢で何度も見ていた景観とそっくりな神社の紹介が書かれていたんです。
もしかしたら夢で見る以前にどこかでこの神社を見ていたのかもしれませんが、それがまさか普段行かない旅行先で、きっかけとなったポスターもたまたま発見しただけ、というのはすごい奇跡だなと。
ポスターを見てから急いでその神社に行きました。少し小雨が降っていたので観光客の方が全然いなくて、いわゆる人払い?が起きたかのような雰囲気だったんです。
えびも:ロケーションが最高ですね。
風李:家族みんなで雨合羽を着て霧のかかった幻想的な境内を歩き、ご参拝をして「すごくいいところだったね」と帰ろうとした時。目線の上あたりに光っている穴があって。
えびも:そこから物語が始まるんじゃないかと期待しちゃいますね(笑)。
風李:(笑)。脇にあった階段を上まで登ってみたら、その光の穴は岩壁にできた巨大な風穴だったんです。それを見たときに家族と「まるで生まれたところに帰ってきたみたいだね」と同じことを感じて。不思議な感動がこみあげてきて思わず涙を流したのを覚えています。
──運命的な出会いといいますか。
風李:強烈な体験でした。ここに至るまでのエピソードと、階段を登って光る穴まで辿り着いた出来事を経て「帰るべくして帰ってきた」ような感覚になって。現実離れしたイメージを表現する手段として掛け軸が候補に上がったんですよね。
今回の展示において一貫して“キャラクターを描きたい”という目標はあったのですが、この絵はかなり背景と人物を溶け込ませて描いています。偶像っぽいというか。実際の体験や記憶を元にしつつ、夢の中で見ていた、朧げで不明瞭な様を重視して描きました。なのでタイトルは「夢」です。
えびも:エピソードのインパクトが凄まじいです。
風李:こんな裏話も含めて面白い絵になってはいればな、と(笑)。
えびも:そのエピソードを聞いたら絵の見方が変わりますよね。
──また、風李先生と関わり深い『VS AMBIVALENZ』とのコラボイラストも新規作成されたとか。
風李:『VS AMBIVALENZ』からデビューした『XlamV(クランヴ)』のメンバーを描かせていただきました。
改めてご説明させていただきますと、通称“ビバレン”とは、アイドルを目指す男の子たちが “VS AMBIVALENZ”と言う名のオーディションに挑むお話です。
彼らは作中、“砦アリーナ”と呼ばれるライブステージの地下深くにある施設で、1年間もの間、ライバルたちと共同生活を送りながら様々なオーディションの課題や人間関係を乗り越えていきます。
そのドラマや楽曲は主にYouTubeで展開していて、候補生たちがファンの皆様へ活動をアピールする”候補生アカウント”なるものもX(旧Twitter)でご覧いただけます。
そしてその様子や楽曲をご覧いただき、実際のファンの皆様の投票によって、最終的に誰がアイドルとしてデビューできるのかが決まる……と言うコンテンツです。
えびも:声優さんも一人二役で、珍しい構成ですよね。
風李:そうですね! いわゆるレッド、ブルー、グリーン……などのアイドルとしての“担当カラー”を2人1組で互いに競うのですが、このそれぞれのライバル同士を声優さんが一人二役で演じているのがとても特徴的です。
地下施設から地上に上がってデビューし、ステージに立つことを目指す物語ですが、その様子と今回の「夜明け」のテーマをどのように重ねていこうか考えました。
「地下での経験を経て、ファンの皆様から愛情を受けた彼らがアイドルとして花を咲かせる」という様に、”夜から朝にかけて開く花の光景”を重ねてみようと思いまして。イラストにおける時間帯を「夜」「夜明け」「朝」と3段階に設定し、桜と共にメンバーそれぞれの情緒を引き出した作品にしました。
──襟元もとても可愛いです。
風李:衣装は少しだけ制服風で、学ランっぽかったりワイシャツだったりします。
一番年齢が若くて15歳の子もいて、本来ならみんな学業真っ只中の子達がアイドルオーディションを受けているので、彼らの等身大の姿を表現したいと思って少しだけ学ランに見えるような衣装を誂えました。
えびも:眼差しがいいですよね。流し目!
風李:こちらは『襖画群猫図』と名付けた作品でして、実物も本当にミニ襖にします。
刀を持ったアクションめいた動きを描きたかったのと、数年前に落書きしたボブカットの子が好評だったことから、今回の展示でもぜひ出したいなと。
風李:せっかくなら1人だけではなく、仲間たちと一緒に登場させたら賑やかで楽しいかなと思って、あと4人デザインを考えました。自分がこれまで人生を共にしてきた歴代猫ちゃん達の名前だったり、身体的特徴をちょっとづつヒントにさせてもらっています。最初に落書きで登場し始めた真ん中のボブカットの子だけは完全に架空の子です。
えびも:各イラストに楽しい情報がいっぱいあって、背景がしっかりあるから知るだけでも楽しいです。
──こちらの絵にはどのようなテーマがあるのでしょうか?
風李:テングガイの写真を前に見かけて、造形がとても面白くて覚えていたんです。
これがなぜ「テングガイ」という名前なのか調べたら、天狗の横顔に見えるからついた和名とのことで。イラストでも随所が天狗の鼻や顎、横顔に見えてくると思います。
他にも展示の一つに牛若丸(源義経)をモデルに描いた絵があって、そちらは自分のご先祖様が源氏の家臣だったとの言い伝えから着想したものなのですが、牛若丸と言えば”幼い頃に山で天狗と修行をしていた”という伝説があるので、その絵と意味を掛けています。
本当はテングガイの由来の通り横顔を描こうと思っていたのですが、あまり納得がいかなくて……。試行錯誤していくうちに、貝と同化しているように見える女の子の天狗に決まりました。遠目で見た時に、貝の標本のように見えると面白いなと思って、下にネームプレートをつけるなどの工夫をしています。
えびも:やはり1枚1枚の展示の仕方へのこだわりがすごいです。これは画像ではなく実物が見たくなる……!
風李:次のこの絵は、えびも先生にきっとお気に召していただけるかも……!
えびも:(絵を見ながら)うわぁ! 好きです! ありがとうございます! 私、着替えがめっちゃ好きなんですよ。
風李:私もです! 特に、着物って脱ぎ着すること自体が楽しいんですよ。ボタンなどはなく紐と布だけで着るので、折り紙を折っていくような工程がすごく面白くて。
私の友人に古武術の師範代をされている方がいるのですが、その方にモデルになっていただいて、今回の資料として実際に着付けていく様を全方向から500枚以上写真を撮らせてもらいました(笑)。
えびも:さらっとおっしゃっているけれど、お友達もすごい(笑)。そんなことある!?
風李:(笑)。写真をもとに「この手の動きが描きたい」「この布のシワを描きたい」と、フェチを感じた部分をピックアップして描きました。意図的にカラー部分と 線画 部分を分けていて、線画 部分は実際に紙にペンで描いたクロッキーなんですよ。普段、デジタルで描いているとデッサンがだんだんと惰性になってしまうので、時々クロッキーをして感覚をリセットするのですが、それ自体も自分らしさかなと思いまるごと作品にしてみました。
デッサンや布のシワ感を練習していること自体を絵にしているので、背景は本当にそのまま練習絵なんです。そして、着付けが進むに連れてカラーの絵になっていくという。構成まで含めて、自分らしさを形にできた一枚かもです。
えびも:このポーズ込みで茶目っ気があるところが可愛いです。
作品全体を通してアニメっぽい塗りも完璧なのに、厚塗りっぽい塗りや少しアナログ風のタッチの線画もあって。どうしてそんなに全てを使いこなせるんだろうと思いました。
もちろん、描かれてきた枚数で洗練されているのだと思いますが、本当はこれが得意でこれが苦手なんだろうみたいなものを全然感じなくて、全てがハイレベルすぎる……!
人の心を掴むキャッチーさや表情の愛らしさに加えて、リアルなデッサン的な気持ち良さがずっと成立しているから、どこにもストレスがないじゃないですか。風李先生って苦手なことはあるんですか?
風李:キャラクターを描かせていただくお仕事が多かったので、実は背景が苦手なんです。
えびも:本当です……? すごい神社を描いていたじゃないですか!
風李:すんごい苦手です(笑)。最近までパース線を理解していなかったくらい。
えびも:ええ、嘘だぁ〜。ちょっと「苦手」について解説してもらってもいいですか(笑)。
風李:(笑)。究極、苦手なものも苦手なままでいいとは思うんです。とはいえステップアップは続けていきたいとも思っているので、普段よりも、もうちょっとだけ実物っぽい風景を描くのを頑張ったものもあります(笑)。
ひとえに背景と言っても写実的な風景だけではなく、モチーフの構成でグラフィック的な背景を作るのも技術が必要ですよね。画面の構成力も「背景」に含まれているので、そういった意味でうまく背景をまとめ上げることも今回のチャレンジでした。
▲風李たゆ『赤銅月下演舞図』
──最後に本個展の魅力と共に読者へのメッセージをお願いします!
えびも:同じ業種の方との対談が初めてで、緊張で上手に話せないかなと思っていたのですが、想像していたよりもリラックスして臨むことができました。とても楽しかったです。逆に喋りすぎてしまって、シンプルに時間が足りませんでしたね(笑)。
風李先生のお話を聞いているだけでもとてもワクワクしました。皆さんも絶対に実物の個展を見に行ってください! 私も実物を見に、会場に行きたいと思います。
──本当に個展の開催が待ち遠しいですよね。
えびも:正直にお話しすると、現在ご活躍されているイラストレーターさんの多くがデジタルで活動されていますし、個展と聞いても「画像で絵を見ることができるしな」と思って個展へ行くということに魅力を感じていなかったんです。
だけど今回、テーマや印刷方法を聞いて「やっぱり違う!」と思いましたね。これは画像だけじゃダメなんだと。この対談をきっかけでに「こんな展示方法があるんだ」と興味が湧きましたので、私と同じような考えの方たちにもぜひ行ってほしいです。
風李:嬉しいです……! 今回は私からのラブコールに応えていただき本当にありがとうございました!
えびも先生は勝手にミステリアスな方だと思っていたのですが、恐れ多くもどこかシンパシーを感じていた節もあり、描いている時の共通の感覚などをお互いに共有できて本当に嬉しかったです。
えびも:シンパシーというところで、私も2歳ぐらいから自然と絵を描いていたので、描き始めたタイミングも似ているなと思っていました。私も実家で猫を多頭飼いしているので、そこも似ているなと(笑)。
風李:ええ! そんなところも!? 光栄です! それぞれあ互いに背負っているコンテンツがありますが、えびも先生の絵やお言葉を励みに、私ももっとコンテンツ作りを頑張りたいと思いました。
今回の個展は、これまで応援してくださっている皆様と、私が関わっているコンテンツのファンの皆様はもちろん、同じように作り手側の方々にもご覧になっていただけましたら幸いです。
「創作に浸れる空間」を目指して現在鋭意製作中ですが、今回の対談を通して良い意味でまたプレッシャーが高まりました!(笑) 良い展示になるように引き続き準備に励みますので、是非お気軽に個展に遊びにきてくださいませ!
そして最後に、この対談をご一緒してくださったえびも先生のご活躍を、今後も一ファンとして楽しみにしております。えびも先生、そしてアニメイトタイムズ様、ありがとうございました!
▼インタビュー前編はこちら
【取材・文:笹本千尋 編集:西澤駿太郎】
風李たゆ初個展『黎創』開催概要

主催:株式会社アプリボット 株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ
開催日程:2025年11月22日(土)~11月26日(水)計5日間
開催場所:Studio Sola(東京都渋谷区神南1丁目3−10 神南アール B1F)
入場:入場無料
■個展『黎創』公式サイト
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