
一番大変だったのはアラバキ!? 巨大怪物体のオーディション! シンカリオンにプロレスをさせる苦労など今だから話せる『シンカリオン』プロジェクトのCGのないしょ話|山野井 創さん×滝田 勇介さん×久能木 亮さんロングインタビュー【シリーズ10周年記念】
CGスタッフから見た第1期延長の裏側
──ゴールデンウィークに行われた『シンカリオン』シリーズ10周年SPトークイベントでは「戦闘シーンも監督と話してイメージを膨らませている」という話がありました。戦闘シーンの制作においては、監督の意向を叶えるようにCGチームが指示に従うのか、それともお互いに提案し合って作るのか、役割の比重はどうなっているのでしょうか?
山野井:戦闘シーンに関しては監督、CG演出、CGディレクターという三人で編成されています。監督は作画の方も含めて全体を見る人、CG演出は作画的な演出視点からCGを見る人、そして実際にCGを動かすCGディレクターという役割です。
監督からは演出打ち合わせでやりたいことのオーダーが出るんですけれど、実際に作っていく中でCG演出とCGディレクターからも演出の方向性の打ち返しをしながら作っていることが多いんじゃないですかね。
──そのスタイルになったのも、脚本に先行してCGモデルを作っている制作体制が影響していますか?
山野井:いや、それよりも分業するための側面が強くて、経緯的にも色々とあるんです。第1期の池添さん(池添 隆博監督)の場合、もともとSMDEでは『テンカイナイト』という別作品の3DCG演出をやっていらっしゃった方なんです。第1期の制作が始まる時に池添さんが監督になるという話を聞いた時、うちのメンバーは池添さんが監督ならCGも一緒に見てもらえると沸き立っていたんですけれど、現実的に考えると、監督とCG演出を兼務するのは時間的に無理だろう、と私は推測していました。
実際、第5話あたりまで制作が動いたところで、池添さんの時間が全然取れなくてチェックが進まないという事態になったんです。それで大畑さんに来てもらって、監督は作品全体を見てもらい、CGだけを統括する演出を別で立てるというスタイルに変えていったんです。それが今のスタイルになった一番大きな理由だと思いますね。
──第1期で延長が決まった時はプロデューサー陣も大変だったとおっしゃっていましたが、製作初期からそういったひっ迫があったということはスタッフ側も相当大変だったんじゃないですか?
山野井:いや~大変でしたね。あの時は「マジでどうする?」という状態になったんですよ。1回目の延長時は、下山さんや池添さんとも、今まで構成していたものを少し組み直して1クール作る形でいけると話していたんです。
そこから2回目の延長という話になった時に、これは厳しいと。何が厳しいって、もうスケジュールリソースを全部使い切っているんですよ。それに加えて第64話までにお話が綺麗に収まっちゃっているから、1クール延長しても倒す敵がいないし。追加で作るとしても、独立したエピソードになっているぐらいじゃないとダメだといった状況で。
そんな状況もあったので、2回目の追加時には「キリン」という新たな敵を出して、如何に打ち切り感を出さないで終わらせるかを考えながら作っていました。
また、作画側からは「このスケジュールでは普通には作れません」と言われてしまって。確かあの時は、新規で作れる作画が1話あたり180カットくらいで、残り全部をCGでやるような話になったと記憶しています。
滝田、久能木:(苦笑)
山野井:そこで小プロ(株式会社小学館集英社プロダクション)さんには今の状況だとCGパートが5、6分になってしまうので、対応する分の予算交渉をして制作したんです。
だから、スケジュールはタイトになっているのに制作する物量は増えるという謎の事態が起きていたんです。まあ、当時の状況だと作画スタッフを追加で集めるのも難しかったでしょうし、CG側がやった方が良いという判断で間違いなかったとは思っています。幸いにもCG側は外注も含めるとスタッフのリソースがそれなりにあったので。
滝田:「あった」というよりは「あった方」くらいのニュアンスですけどね(笑)。
山野井:それもあって、どうにかなるだろうという見込みで制作していた感じですかね。
──そんな状況で第73話では実写とCGを組み合わせて都心の上空を飛ぶというチャレンジをしたんですね。
山野井:ずっと捕縛フィールドの中で戦っているから、最終盤ではシンカリオンも捕縛フィールドの外に出て戦うようなカタルシスが欲しいという話を下山さんが本読み(脚本会議)の時にされたんです。
下山さんの言っていることもわかるんですけれど、本編では日本列島の情景を古賀さん(第1期第2期美術監督)がめちゃくちゃ頑張って丁寧にアニメとして表現してきてくださってるじゃないですか。もしシンカリオンが捕縛フィールドの外に出て戦うとしたら、CGで描く背景も同じレベルを目指さないといけない話になってくるわけなんです。
ただ、それをそのまま目指すのは無理があるので、「可能性があるとしたら」という議論の中で、空中戦のみを作る話をしました。当時のCGディレクターにも「ヘリコプターを飛ばして空撮して、その映像にシンカリオンたちを合成してからレンダリングをしなおしたら、イメージしてるアニメっぽい映像になるんじゃないか?」と話はしたんですよ。そうしたら全く本気にしてくれなくて。
2週間ずっとやり取りをしても全く埒が明かなかったので、CGディレクターが「やれないことはないけど」と言ったのを言質にして、本読みでは「空撮との合成はできるので、それで脚本を書いてください」と言って進めてもらいました。
そこからは実際にヘリコプターを飛ばすための手配や飛行計画と合わせて、どういう映像を撮りたいかというカメラワークのイメージをGoogle Earth Proを使って作ったんです。そのイメージをヘリコプターのパイロットに見てもらって、イメージに合わせてルートを飛んでもらうといった流れでした。
実際に上がってきた映像に関しては、一旦24フレームの静止画にしてもらい、それを1枚ずつAfter Effects上で加工をかけてからシンカリオンを合成しています。それから改めてレンダリングし直すみたいな流れでしたね。
CGでアニメ的な嘘をつくことの難しさ
──シリーズを通して例外的に捕縛フィールドやキャプチャーウォールの外で戦う話もあります。この場合は3Dと2Dが同居することになりますが、スタッフ間ではどのような連携を取っていましたか?
久能木:『シンカリオン』シリーズに限らず、僕らの仕事ではキャラクターがCGで、背景は2Dの美術さんというパターンがあるので、それと同じシステムで作っていたと思います。
美術を発注するための原図を作画さん、CG側のどちらから出すのかで毎回スケジュール調整が大変なんです。それがあるから『シンカリオン』シリーズでは、基本的に捕縛フィールドのような空間を作って分離することで、3Dと2Dで完全分業する制作コンセプトになっているんです。
──第3期の第21話ではツクモが乗る「シンカリオン N700Sかもめ」がキャプチャーウォールの外に出て、海上で水しぶきを上げながら戦います。サンドウカトラスで倒した時の水のエフェクトなど、CGで水を表現するのは大変な印象がありますが、何か苦労はありましたか?
久能木:これは、キャプチャーウォールを含む背景を作っているデザイナーがいるんですが、彼に水の背景もお願いしたんです。最初は、いわゆるシミュレーションを使った水の表現をテストしてもらったんですが、そのデータを僕ら以外の協力会社さんも使うことを考えるとあまり得策ではなかったので、今のような背景になっています。
水のエフェクトに関してもシミュレーションでしぶきなどは作っていますが、あれもデータが重いんです。最終的には同じようなエフェクトに見えるけど、もっと軽いものを僕が作って、それで表現できる部分は置き換えてもらっています。
──水のエフェクトが重いと言っても、さすがにアラバキほどは重くないですよね?
久能木:手間の部分ではアラバキと近しいものはあるかもしれません。水の表現自体はCGソフトがすごく進化しているので、以前よりもかなり楽になっていると思っていますし、それもあって色々な作品でも取り入れられていると思うんです。
水よりも僕がちょっとCGと相性が悪いなと思っているのは「アニメ的な嘘をつく表現」の方ですね。例えば、物体がA地点からB地点にすごい勢いで迫ってくる映像を作ろうとした時、アニメでは現実の物理法則とは異なる表現をするといったことは多々あると思います。
しかし、CGソフトの映像は物理シミュレーションなので、現実の動きと連動したものが表示されるんです。時速50kmぐらいの速さのものを演出したい時、演出的には時速500kmぐらいの速度で動かさないと表現したいイメージにならないのに、その物理法則の嘘をシミュレーションするのがCGではなかなか上手くいかないんです。
それが上手くシミュレーションできるようになると、もう少し手軽に2Dの中に3Dが取り入れられるのではないかとは個人的に考えています。
「シンカリオン H5はやぶさ」五稜郭流・デスティーノのないしょ話
──物理やアニメ的な嘘の話に近いかもしれませんが、CGのロボットは動きが軽く見えることがあります。おそらくCGならではの課題だと思うのですが、シンカリオンの重量感を見せるためにはどんな工夫をしてきましたか?
滝田:僕が第1期の頃に監督たちから言われたのは「新幹線は現実の技術で作られているのだから、当然それが変形したシンカリオンも現実の技術の延長線上で作られているはず」という考え方です。シンカリオンも油圧シリンダーや工事現場の重機といったものの延長線上にあるはずだから、そういう動きを目指してほしいという指示ですね。
近未来の凄い技術で変形しているように見せるかもしれないけど、あくまで現実的な地に足着いた技術の延長線にあるように動かしてほしいとはよく言われていたので、それを意識していた人は多かったのかもしれないです。
山野井:「タメツメ(アニメーションの動きに緩急をつけること)」の指示は結構いっぱい入っていたよね。
久能木:そうですね。特に初速の動き出しと最後の止まる瞬間の挙動に関しては、僕も当時はたくさん言われました。
山野井:他のアニメでも良いんですけれど、殴るようなシーンをコマ送りで見てもらうと、殴り出すまでのタメの数カットがあってから、次はいきなり腕を振りぬいて殴った後のコマになっていると思うんです。この挙動を意識することが重さの表現の源泉にあるのかなと思います。
──そんなシンカリオンにプロレスをさせるのも相当な苦労があったと思います。ファンの方からは必殺技の動きに関連した質問も頂きました。
また、あのシーンにまつわるエピソードをお聞かせ頂けると幸いです。
(アウラの黒髪 さん)
久能木:シオンのあれはシナリオに出てきたんでしたっけ?
山野井:いや、あれは本読みの時に「シンカリオン H5はやぶさ」の必殺技をどうするかって話になりまして。剣や銃とかハンマーならイメージできますが、エルダドーザーのブレードが両腕にくっついているだけなので、その両腕で何をするのかイメージしづらかったんです。それで、ブレードで何かを掴むとしたら格闘技しかないという話になったけど、ただ格闘技をやるだけだと恐らくお客さんにはウケないと思ったんですね。
これまでの「シンカリオン H5はやぶさ」の運転士は、第1期が初音 ミク、第2期が月野 メーテルという個性の強い運転士たちばかりです。でも、第3期ではそういうことを一切やらないという指針があったので、オリジナルキャラクターの五稜郭 シオンがシンカリオンに乗ることになった時に、何か特徴づけるならプロレス技じゃないか、と僕が本読みの場で話をしたんです。
プロレス技ってシンカリオンだと、非常に手間がかかります。だからSMDE社内としては絶対に嫌だったと思います。だけど、シオンのキャラ付けをどうにかしなければならないという話でもあるし、新日本プロレスさんから正式許諾を頂けたこともあって、プロレス技でやりましょうという話になったのが大きな流れです。
──CG側がプロレスを嫌がるというのは、やはりシンカリオンと敵のぶつかり合いでパーツが埋まってしまうことの調整が大変とかですか?
久能木:普通の人間同士のプロレスなら良いんですけど、シンカリオンは突起物が多いんですよ。
滝田:突起物が多いとCG同士のめり込みも多くて。
久能木:もちろん実際にめり込みが発生しないように作りますが、映像上で見えないところは絵としての勢いを優先するといった作り方をしています。
──めり込みなどで困った時は、シンカリオンのパーツを外して調整することもありますか?
滝田:「五稜郭流・デスティーノ」ではそんな調整はせずに、めり込もうとも一旦作ってからAfter Effects上で同じパーツを重ねたりして、めり込みが無いように見せたりするとかです。でも、やっぱり工数はかかりましたね。
──結論としては、シオンがプロレス技を使ったのは山野井さんのご趣味だったということで良いのでしょうか……?
山野井:僕は全然知らないんです。ただ、SMDEのCGデザイナー側にプロレス好きがたくさんいるんですよ。そういう人たちにシンカリオンで相撲を取らせるよりは、プロレスさせた方がテンションが上がるんじゃないかという感覚があっただけです。
久能木:あと、第3期のCG演出を担当して頂いた宮尾さん(アクション監修・宮尾 佳和さん)もプロレスに結構詳しかったんです。山野井さんが技の説明をした時に、宮尾さんの中では完全に映像が見えていたみたいで、絵コンテも割とすんなり上がってきた記憶があります。
──全部の必殺技で絵コンテを作るんですか? それとも変形バンクと同じように頭の中で組み立ててからVコン(ビデオコンテ)に進むんですか?
山野井:第1期に関してはコンテがなかった気がします。
久能木:完全に無かったんでしたっけ?
山野井:少なくとも序盤はなくて、技によってプロセスが違ったかもしれません。当時のコンテを全部引っ張り出したら、必殺技はバンクとしか書いていない話数もあれば、コンテがちゃんと描かれている話数もあったりして……そんな感じだったような気がするけど。
必殺技だと「カイサツソード」に関しては「改札機が出てきて、そのゲートがガチャンと閉まるような技が良いと思う」と安田さん(CGディレクター・安田 兼盛さん)に説明したのをよく覚えてる。
だから、第3期も序盤は僕が必殺技のコンセプトを宮尾さんに説明して、それからコンテを切ってもらって技を描いていたような気がする。「リクソウセイバー」なんて最初これだもん。
▲第3期の制作当時に山野井さんが描いた「リクソウセイバー」のイメージ資料
▲アニメでの「リクソウセイバー」
山野井:『シンカリオン』シリーズは武器と必殺技の名前がイコールじゃないですか。これも結構難しくて。タカラトミーさんからシンカリオンや武器のデザインコンセプトは来ますが、必殺技の演出はこちらでやらなければならないんです。
久能木:武器の名前が必殺技のアイデアの取っ掛かりになっていないと、イメージを膨らませづらいんですね。
山野井:それが第3期で「シンカリオン H5はやぶさ」がプロレス技を使う理由にも繋がってきて。シオンと「シンカリオン H5はやぶさ」に関しては、そういった周辺状況があったのも大きいかなと思います。













































































