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CGスタッフ鼎談 『シンカリオン』プロジェクトのCGのないしょ話

一番大変だったのはアラバキ!? 巨大怪物体のオーディション! シンカリオンにプロレスをさせる苦労など今だから話せる『シンカリオン』プロジェクトのCGのないしょ話|山野井 創さん×滝田 勇介さん×久能木 亮さんロングインタビュー【シリーズ10周年記念】

2015年3月16日にプロジェクトが発表された『新幹線変形ロボ シンカリオン(以下、シンカリオン)』。子どもから大人まで愛されるプロジェクトとなった本作は、プラレールなどの玩具から始まり、音楽やTVアニメなど幅広い展開を見せています。

2025年には10周年を迎えたことを記念して「シンカリオン10周年プロジェクト」がスタートし、新たな玩具展開やイベントなど様々な施策で盛り上がっています。

そんな『シンカリオン』シリーズのCGを支えてきたのが小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(以下、SMDE)。今回は『シンカリオン』シリーズ10周年を記念して、SMDE所属の山野井 創さん、滝田 勇介さん、久能木 亮さんによるスペシャル鼎談が実現!

かっこいいシンカリオンの裏にはスタッフの情熱と苦労の歴史あり。『シンカリオン』シリーズ10周年だからこそ実現した、2万字に及ぶロングインタビューをお楽しみください!

 
※編集部注:記事内では各シリーズの表記を以下の通りとします。
プロモーション用アニメ → PV
TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』 → 第1期
TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』 → 第2期
TVアニメ『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』 → 第3期
劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』 → 劇場版

▲左から滝田 勇介さん、山野井 創さん、久能木 亮さん

▲左から滝田 勇介さん、山野井 創さん、久能木 亮さん


 

目次

玩具と一緒に高め合ってきたシンカリオンのデザイン

──今回は『シンカリオン』プロジェクト10周年を記念して、シリーズを通したCG関連のお話を伺えたらと思います。まずは皆さんの『シンカリオン』プロジェクトにおける仕事内容や役割を教えて頂けますか?

久能木 亮さん(以下、久能木):久能木です。第1期と劇場版でCGアニメーターを、第3期ではCGディレクターを担当していました。

滝田 勇介さん(以下、滝田):CGアニメーターの滝田です。僕はTVアニメが始まる以前、玩具で展開していた頃のPVから関わっています。PVの新幹線のカットは全て僕が担当しています。第2期だけは第13話あたりから参加したので少し間がありますが、それ以外は、ほぼ全てのシリーズに携わっていました。

山野井 創さん(以下、山野井):山野井です。僕は2人よりも更に古参で、東京おもちゃショー2014に展示された「Project E5」の立像制作から始まって、PVやTVアニメ、劇場版の全てに参加しています。

実はシリーズごとに少しずつ肩書きが違っていて、第1期が「アニメーションプロデューサー」、第2期は「制作プロデューサー」、第3期では「CGプロデューサー」という肩書きになっています。

──シリーズごとにそこまで肩書きが変わるのは珍しいことですか?

山野井:レアじゃないですかね。と言うのも、僕たちが所属するSMDEは元請けでなく、『シンカリオン』のTV版ではCGパートのみを請け負うポジションなんです。その中でアニメーションプロデューサーや制作プロデューサーといったポジションを持っているのは少しレアな例だと思います。

──今回は「CGスタッフ鼎談」と銘打っていますが、一口にCGスタッフと言っても色々なお仕事があると思います。皆さんの主なお仕事は「モデラーがデザインしたシンカリオンに動きをつけるアニメーション担当」という認識で良いでしょうか?

山野井:そう考えてもらうとわかりやすいと思います。

 

 

──過去のインタビューでは「シンカリオンのデザインに4ヶ月かかった」という話もありましたが、まずはシンカリオンのデザイン過程について教えてください。

山野井:あれはデザインで「4ヶ月」というよりもデザインとモデリングで「合わせて4ヶ月」というのが正しい認識です。最初に行われたデザインコンペの話をご存知ですか?

──以前にインタビューさせて頂いたプロデューサー鼎談で少し伺いました。

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山野井:デザインコンペの結果、最終的にタカラトミーさんのデザイン案がベースになるんですけれど、完成形の一部にはSMDEのデザイン案が取り込まれたりもしています。色々な要素が混ざっているのが初期のデザインなんです。

それをベースにタカラトミーさんが玩具のデザインを起こしたので、それから改めてSMDE側でCGモデルを作り直す流れになります。普通のアニメであれば、おそらく玩具からCGモデルを起こす際に、一度は線画でデザインすると思うんです。でも『シンカリオン』シリーズの場合は、玩具から直接CGのモデリングを行う流れなんです。

普通ならあるはずの途中段階を飛ばしてCG側でまとめて担当しているので、その分だけCGチームの作業期間が長くなるのが「モデリングに4ヶ月かかっている」ことの理由ですね。

基本的にPV版の『シンカリオン』シリーズの玩具は「シンカリオン E5はやぶさ」「シンカリオン E6こまち」「シンカリオン E7かがやき」あたりは共通した変形機構やギミックになっています。最初に「シンカリオン E5はやぶさ」を作るのに4ヶ月かかって、その次からは徐々に制作期間は短くなっていきます。

また、TVアニメでは変形機構の違うシンカリオンが出てきますが、変形ギミックが変わると、またそこで4ヶ月かかるといった具合で。新しいギミックを持つシンカリオンが登場する度に、制作に4ヶ月ほどかかってしまうのが実情かなと思います。

──モデラー側でデザインしたものに対して、皆さんはアニメーション目線で指示を入れたりはしますか?

山野井:それはCGディレクター側で担当している部分ですね。

久能木:当然、アニメーションとして考えた時に動作や可動の問題が出てくるので、その時は「ここはちょっと無理じゃない?」といった話はします。もちろんモデルディレクターもその点は理解しているので、タカラトミーさんと調整案を擦り合わせたりして最終的なデザインが完成しています。

──玩具もシリーズを追うごとに関節が可動するようになるなど進化していますが、玩具の進化がデザインに影響を与えることはありますか?

久能木:僕は「相互作用」だと思っています。実際にタカラトミーさんの方でも、こちらが映像用のCGとして起こしたかっこいい部分を、玩具で再現するために試行錯誤をしてくださっているそうなんです。もちろん、こちらからデザイン変更の相談をした時に、玩具としての仕様やこだわりがあるから変更しないで欲しいといった要望を頂くこともあります。

だから、どちらか一方が影響を受けるというよりは、両者の相互作用で進化しているのではないかと考えていますね。

──シリーズ初期から携わっている滝田さんはデザインを振り返ってみていかがですか?

滝田:僕もタカラトミーさんに相談したことがあるんですが、CG側が肩のパーツを上げてデザインしたら、それがかっこよくて何とか玩具にも取り入れた、といったお話は伺っていました。だから久能木の「相互作用」という言葉は本当に良い表現だと思います。お互いに高め合ってコンテンツを作っているのですから。

──その辺りはファンも感じているようで、事前に質問募集したところコメントを頂きました。

第3期ではシンカリオンのシーンがこれまでのシリーズよりグッとカッコよくなった印象があるのですが、イケロボに見せる演出の工夫があれば教えて頂きたいです!

(エビ さん)


久能木:これは個人的な意見ですが、過去シリーズの積み重ねがあってのことだと思います。シンカリオンがかっこよく見える顔の角度やポーズは、シリーズを通して試行錯誤して作ってきた部分です。そのノウハウを活かして、かっこ悪く見えないように気を付けて作っていたところがファンの皆さんも印象に残っているのかもしれません。

 

巨大怪物体とアンノウンのデザインプロセス

──巨大怪物体やアンノウンといった敵側のデザインの流れも教えてください。

山野井:シリーズごとに制作の流れが少しずつ異なるんですけれど、大まかに共通しているのは「シナリオ制作前に巨大怪物体やアンノウンのデザインがある」ということです。

第1期ではシナリオ制作に入る前に約20体分の巨大怪物体のラフがあって、オーディションのように各話の展開に合うものが選ばれてから、改めてCGでデザインしているんですよ。その際、ラフとしては20体くらい描いても実際に採用されるのは10体くらいなので、決定したものだけを清書してモデリングする流れになっています。

制作が進むにつれてシリーズの方向性が見えてくると、その延長線上で巨大怪物体やアンノウンのデザインも決まってくるといった流れです。ただ、第3期は僕が大元のラフを描いているアンノウンが何体かあったりします。

──具体的にどのアンノウンか教えて頂けたりはしますか……?

山野井:5体ぐらいのアンノウンのラフを描きましたよ。シナリオ会議中に色々なオーダーが出てくるので、その場でオーダーに合わせたラフを描いて、シナリオ会議が終わった後に監督の確認が取れたらすぐに正式デザインに入る流れだったんです。

ツクモが戦ったアンノウンのラフがこれですね。

 

▲「アンノウン27」のラフ

▲「アンノウン27」のラフ

 
山野井:これは重機が四本腕になっているやつ。

滝田:これは覚えがあります。作りながら「手が多いな~」って思った。

 

▲「アンノウン31」のラフ

▲「アンノウン31」のラフ

 
山野井:あとはバネでピョンピョン跳ぶやつもデザインしました。

久能木:最終的に案山子みたいなデザインになったやつですね。

 

▲「アンノウン25」のラフ

▲「アンノウン25」のラフ

 
山野井:これが途中まで色を塗ってみたアンノウン33(イド)のラフ。大元はこれだったんです。

 

▲「アンノウン33(イド)」のラフ

▲「アンノウン33(イド)」のラフ

 
滝田:悪そうですね。

山野井:第3期はそもそもデザイナーではない人間がイメージ(ラフ)を描いて作るスタイルだったので、シリーズごとに少しずつ作り方が違ってきているんです。

──脚本があった上で敵をデザインしていると思っていたので、その流れはかなり意外です。

山野井:逆なんですよ。基本的には先にデザインを作っておいて、脚本家さんがお話を作る上で使いたいものを選んでもらうスタイルです。

捨て案が必ず出るような制作スタイルは、他の作品と違っているところかもしれません。この作り方は第1期でシリーズ構成を担当した下山さん(下山 健人さん)が、戦隊ヒーローがこういう作り方をしているらしいという話をされていて採用したものです。

制作スタッフからすると、シナリオが上がったらすぐに絵コンテに入ってほしいじゃないですか。でも、シナリオが上がってから敵のデザインを作っていると絶対に絵コンテに間に合わないんです。

その前段階で「敵キャラクターのデザインがある」というステータスにするためには、ラフを何パターンも作る形式の方が無駄なお金は出てしまうかもしれないけど、その分の時間は圧縮されるという考え方で作っていました。

──贅沢な作り方ですね。

山野井:最初に何体もラフを作る時は、それぞれコンセプトを決めるようにしています。第3期であれば「廃棄物」というテーマだったので、まずは実在する様々な廃棄物の写真やテキストを資料にまとめています。

久能木:みんなでアイデア出しをしましたよね。

山野井:第3期のアンノウンですが、まずは色々なテーマの切り口で資料を集めています。身の回りの色々なものをテーマにして、そこから巨大怪物体やアンノウンのラフやデザインになっていくというプロセスです。

山野井:これは実際に第1期の時の不採用になった巨大怪物体たちです。

 

▲巨大会物体のラフ①(デザイン 統月 剛)

▲巨大会物体のラフ①(デザイン 統月 剛)

▲巨大会物体のラフ②(デザイン 統月 剛)

▲巨大会物体のラフ②(デザイン 統月 剛)

 

──個人的な疑問になりますが、多くの巨大怪物体がメカっぽい造形なのに対して、第1期に登場したマイティクラブだけ本物のカニみたいになったのは何か理由があったのでしょうか……?

 

山野井:不採用のデザインを見ると、リアルな生物系のデザイン案も意外とあるんです。その中で唯一採用されたのがマイティクラブだったんでしょうね。

続・シンカリオンが土偶と戦った理由

──敵キャラクターのデザインと言うと、以前プロデューサー鼎談をさせて頂いた時に、初期のPVで土偶と戦った理由が思い出せないという話になったのですが、初期から関わられている滝田さんは何か覚えていますか?

 

滝田:ちょうど僕も土偶が選ばれる会議にいたんです。他にも色々なデザインがある中で、シンカリオンと戦うならどれが良いかを当時のCGスタッフたちで選んだ記憶があります。

ただ、以前にプロデューサーさんたちがおっしゃっていた話と少し違っていたのは「日本を代表するなら、やっぱり土偶じゃないの」という感じで、ほぼ満場一致で土偶が選ばれたんです。なぜ土偶だったかと言えば「日本っぽい」という点があったんじゃないかなと思いますね。

山野井:あれはたしか「できるだけ単純なデザインの敵キャラクターで」という意図もあったと思うよ。

滝田:たしかに当時ラフを出す時に、なるべくシンプルな形状が良いと話していた覚えはありますね。

──ありがとうございます。10年越しの謎が少し解明された気がします。

 

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