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CGスタッフ鼎談 『シンカリオン』プロジェクトのCGのないしょ話

一番大変だったのはアラバキ!? 巨大怪物体のオーディション! シンカリオンにプロレスをさせる苦労など今だから話せる『シンカリオン』プロジェクトのCGのないしょ話|山野井 創さん×滝田 勇介さん×久能木 亮さんロングインタビュー【シリーズ10周年記念】

 

「新幹線のいない写真」を撮るCGスタッフのロケハン

──これまでスタッフインタビューを何回かさせて頂きましたが、ロケハンの話になると必ず山野井さんのお名前が挙がります。そもそもCGスタッフの方々はロケハンでどんなところを見ているのでしょうか?

久能木:僕も何回か一緒にロケハンに行かせて頂いていますが、基本的には実際にアニメ本編のカットで使うアングルや画を見つける作業かなと思います。

山野井:CGを合成するためのレイアウト写真を撮りに行く感じなので、色々な画角で撮影したり、同じレイアウトでも列車が無い時の写真を撮ったりします。それらとCGを合成して背景にしていくといった作業がメインです。それが「実際のカットに使う素材のロケハン」ですが、それとは別に「ストーリーを構築するためのロケハン」というのもあります。

シリーズが始まる度に、大宮と京都、可能だったら名古屋にメインスタッフを連れて行って、各鉄道博物館で新幹線や鉄道の概要や歴史といったことを一通りインプットして、それから本読みに入るのが恒例の流れなんです。

新しいスタッフが入る度に僕がツアーコンダクターやっているので、必然的にスタッフインタビューで名前が挙がりがちという話ですね。

 

 

──山野井さんの解説はファンも聞いてみたいと思いますよ。

山野井:僕自身はそこまで鉄道に詳しいわけではないんですけれど、さすがに『シンカリオン』シリーズにずっと携わっていると、各鉄道博物館に何があるかもだいぶわかっているんですね。この鉄道博物館では何が見られる、ここは推しスポットです、といったことを毎回一通り説明しています。

それもやはり第1期の全76話が基礎になっていて、その上に第2期と第3期が乗っているということは避けられない事実なので、舞台装置としての鉄道博物館は作品においても強い意味を持っています。その説明を担当しているが故に、僕だけロケハンに行く回数がやたら多いというのも理由としてあるかなと思います。

久能木:私は、山野井さんは「鉄道の写真を撮らない鉄オタ」だと思っているぐらいの知識があると思っていますよ。

山野井:僕が撮る写真は実際にレイアウトで使うことになるので、鉄道が写っていてはダメなんです。後でCGなどを合成するためには鉄道が無い状態の絵が必要だから、必ずそういった絵を撮って帰るのが僕の使命です。

例えば、新幹線がホームに止まっている状態の写真を撮ったら、同じアングルで新幹線が出発した後の絵を撮って、その2枚を参考にしてCGを合成してもらう形でやっています

人の手で描いたレイアウトって絵としての完成度は高いんですけど、CGの新幹線のパースが上手く乗らないんです。写真だと絶対にパースが付くので、そこに合成する方が確実です。だから、新幹線の車両を合成する絵に関しては、「必ずCG側からレイアウトを出すように」と指示しています。

あと、同じ風景を撮る時は高さを変えて何枚か撮影するようにしています。僕の目線だと170cmくらいの大人の高さになりますが、胸の前にカメラを構えると140cmぐらいでハヤトたちと同じ目線の高さになるんです。そうすることで同じ場所でも目線が異なる写真の使い分けができるようになります。

 

 

──ロケハンで大変なことはありますか?

山野井:第1期の第74話で一般人が線路を走るシンカリオンに向かって手を振る場面があるじゃないですか。多分あれは僕がやったロケハンの中で一番きつくて、一泊二日で埼玉県の大宮市近辺から兵庫県の相生まで全部回ったんですよ。

あの場面で使われている背景は、基本的に800系新幹線が走っているところ以外は全部写真を撮っていて、それに合成していく流れだったんです。あの時は、さいたまスーパーアリーナ、名古屋でZepp Nagoyaと中日ドラゴンズの二軍練習場の近くで2カット、それから兵庫県に行って相生近辺の写真撮って、最後に新神戸の駅を撮った気がします。

── 一泊二日で新幹線に乗っては降りてを繰り返したということですよね?

山野井:そうです。凄く大変だった。当時の板井監督の希望もあったので、やれるだけはやってみようと進めましたが、あのシーンはコンテが先に無かったんです。人がいない写真を使ってカット割りを考えて、そこに後からキャラクターを乗せるやり方をしています。

──滝田さんと久能木さんは、山野井さんがドッと写真素材を持って帰ってきて、そこに新幹線を合成していったんですね。

久能木:いっぱい合成したのは覚えていますね。

山野井:もう一つ凄く大変だったのが第63話の東京駅・中央迎撃システムの回。カイレンと戦う前に、東京駅の新幹線ホームに全てのシンカリオンが並ぶカットも。

大変だったんですよ。先ほども言った通り、合成のためには列車がいない状態の絵が欲しいわけじゃないですか。だけど、あんなに頻繁に列車が出入りしている東京駅で、全ホームが空の状態なんて発生しなくて。

あれは交通会館の屋上から撮影したんですけれど、時刻表をずっと見ながら、できるだけ列車がない状態の撮影をチャレンジしました。たしか12月の頃だったから日が傾くのも早くて、最初の方に撮った写真が使えなくなったりして。それに加えて凄く寒かったのを覚えています。

 

第3期の軸にもなった「ボクセル」の表現

──逆に第3期では「メタバース」という取材やロケハンが難しいコンセプトがありますが、メタバースを表現するにあたってチームで共通認識や概念を作ったりはしましたか?

 

 
山野井:CG側はそれほど意識していなくて、どちらかというと作画側が頑張ってメタバースの概念を作っていた方が大きいと思います。

久能木:僕は第3期の制作が始まる前に『SSSS.GRIDMAN』や『SSSS.DYNAZENON』のようなアニメを見て、それをヒントにした記憶がありますね。目指すところが少し似ているかもしれないと思ったのと、かっこいいサイバー的な要素をどこかに感じられるようにしたくて見たと思います。

──シリーズを通して担当されている滝田さんにとっても初めてのメタバースでしたが、何かメタバース関連で印象的なことはありますか?

滝田:やっぱり変形バンクにボクセル(3次元空間における最小の立方体要素。2次元空間の最小単位の正方形をピクセルと言うのに対し、3次元空間の立方体をボクセルと言う)を入れたのは「これは来た!」と思って、その延長線上で必殺技も考えてみようとなりました。だから「ボクセル」は第3期の中でも一つの柱になったんじゃないかなと思います。

──ちなみにボクセルはどなたのアイデアだったんですか?

久能木:僕ですね。第3期の玩具の変形機構が、今までと違って顔が逆向きに出る仕様だったんです。最初、それに合わせた演出を試したんですけど、あんまりかっこよく決まらなくて。それならメタバースのイメージで生成する表現の方が良いかもしれないと思って、ボクセル状態で顔が現れるアイデアを採用しました。

 

 
山野井:メタバース的な演出だと、第3期の第13話でファントムシンカリオンがキャプチャーウォールをバキッと割って、中からアンノウンが出てくるじゃないですか。あれは僕がイメージを描いて、久能木にテストケースを作ってもらって完成させています。

 

 
山野井:このイメージを久能木に見せながら、こんな風したらにファントムシンカリオンとアンノウンが別空間から出てきた印象になるんじゃないか、みたいな話をしたんです。

 

将来CGスタッフを目指す方へのメッセージ

──事前アンケートを行った際に「将来CGスタッフになりたい」というコメントを何件か頂きました。最後に皆さんからこの質問への回答を頂いてインタビューを締めくくりたいと思います。

CGを作れる人になりたいです、自分の好きなようにシンカリオンを動かせるなんて運転士で整備士さんみたいだからです。どうしたらCGスタッフさんになれますか?

(いぶき さん)


私は現在高校生です。
CGでアニメーションなどの作品を作る仕事に携わるために、志望すると良い学部や学科を教えて頂きたいです!
また、「モノの構造を考える」「デッサンの練習をする」といった、日ごろやっておくとCG制作をする際に役立つ事があれば、是非それも教えて頂きたいです!

(むんぐ さん)



 
久能木:いぶきさんへの回答としては、まずはたくさんのエンタメ作品に触れて欲しいです。今はネット上にCGに関する教材や解説がたくさんあるし、その中には無料で触れるソフトもあります。まずは自分の好きなように一回作ってみて、それができたら次は動かしてみるとCGを作る感覚がわかるかなと思うので、僕はそれをオススメしています。

CGは専門学校で学ぶ人が多くて、SMDEのメンバーも専門学校を卒業してから入ってくるパターンが多いです。むんぐさんが大学に進学したい場合は美術系になると思いますが、今は映像を学べる学科もたくさんあります。アニメーションをやりたければ絵か映像を学べる学科、モデラーだったら造形学科などが良いかなと思います。

滝田:CGの専門学校に通ったり、絵を勉強したり、今ならプログラミングの勉強とかも大事です。ただ、僕はCGが好きという気持ちで行動した結果、こういう業界に繋がったら入るのでも良いと思います。

質問を頂いたお二人に共通して言えるのは、ハヤト君の言葉を借りるわけではないですが「好きなものは好きなもののままでいいんだよ」ですね。好きなもののために行動し続けることが大事なんじゃないかと思いますよ。

山野井:僕は大学に入った時に、小学校から高校までのノートや教科書、文集などを全て一度処分しようとしてたんです。その時に、小学校4年生か5年生の時の文集を見たら「僕は将来、映画監督になりたい」と書いてあったんです。

高校卒業の段階ではそんなことは完全に忘れていたんですよ。でも、「小学生の時にそんな風に考えていたのか」と思って、その方向でサークルとかを決めたら今こうなっているんですね。

だから、何かをやると決めたら、最後までやるということが大事なのかもしれないです。もしくは将来の夢って意外と忘れてしまうものなので、どこかに書いておいた方が良いかもしれません。

ただし、CGスタッフになりたい場合は、まさに久能木が言ったような専門的な知識がある程度必要になってきます。今はYouTubeなどでCGのことは幾らでも勉強できますが、おそらくポートフォリオ無しで採用してくれるCG会社は無いと思います。ポートフォリオを作るとなると、ごく一部の特別な才能を持った人なら独学でも作れるかもしれませんが、普通の人であれば一度ちゃんと学校で勉強した方が良いのではないかと思います。

一方で、僕が他の人とは違うのは「大学に行ってから改めてCGの専門学校に入った方が良いよ」というスタンスなんです。文学や経済など学部は問いませんが、これまで僕がやってきた中での感覚値だと、こういった知識と表現力の二刀流がないとCGの仕事は結構きついかもしれないです。「CGをやりたいから、CGのことだけ勉強します」と言っている人って頭打ちになってしまう印象があるので、できれば学校を2つぐらい出ておいた方が良い気がします。

でも、一番は「将来の夢を忘れないようにしよう」ということですね。

──長時間にわたるインタビューをありがとうございました。

 
取材・記事:岩崎 航太、編集:太田 友基、撮影:二城 利月

 
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・TBS
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所Z・TX
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/ERDA・TX

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