
『あそびのかんけい』が『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』と並んで「このライトノベルがすごい!」3冠達成! なぜ“3”冠がすごいのか、作品の魅力は? まるっと解説します!
『あそびのかんけい』の魅力
時系列に沿った展開ではない独特なストーリー
『あそびのかんけい』のストーリーは、各章ごとに、常盤の目線で書かれたチャプター、歌方の目線で書かれたチャプター、両者の目線で書かれたチャプターといった、視点の切り替わりもストーリー全体のリズムをより豊かにし、時系列が切り替わっていることを暗に意味していきます。
このことは、『あそびのかんけい』のストーリーが時系列に沿った展開ではないことと無関係ではありません。チャプターごとに大きく視点が変わることで、時系列に沿った展開ではないと読者に印象付ける効果がよりわかりやすくなっています。
ちなみに、もくじには各チャプターのサブタイトルとともに「クルマザ」開店日を「Day1」とした「開店から何日目なのかを表す記載」(「Day176」、「Day58」、「Day93」……のように)が並んで明記されているため、各チャプターの時間軸が判断可能です。
時系列に沿っていないことで、物語の伏線を回収できたり、「あの時の発言はもしかして……?」といった気づきがあったり、物語をより深く楽しんでいけるでしょう。
例えば、『あそびのかんけい』では、「3」という数字が、とても重要な意味を持っています。常盤が作中の序盤「Day176」で、サイコロの数字の1から6のうちの1つがランダムに書かれている飴を適当に1個手に取り、包装をほどくシーンがあります。その飴に書かれた数字が「3」でした。「『3』は1でも6でもない、それでいて平均期待値よりは少し低い数字。なんというか、とても自分らしい数字だ」と常盤が語っています。
サイコロの平均・期待値は「3.5」なので、それと比べて少し低いということから、自分自身は平均よりちょい下の人間かもなという自嘲を含んだ常盤の自己分析でしょう。作中でも印象的な場面です。
さらに、同じ「Day176」の最後の場面では、「まずはサイコロを振らなきゃ、恋(ゲーム)は始まらないっしょ」と小鳥遊が言っていたことを思い出した常盤。「サイコロを振り、3が出たら告白する」と決めて、サイコロを振ると、この「3」が出てしまいます。このシーンと同じ時間軸にて、小鳥遊が自分の口の中にあるサイコロの形をした飴の出目の数字を舌でなぞりながら確認し、「3」だと判明。その後、「……好きピナンバー、かな」と小鳥遊がつぶやくシーンでは、「え、小鳥遊さん、常盤のこと本当は好きなの!? 実は両思いなの?」と、読者さえも小悪魔的に翻弄してきます。
そして、『あそびのかんけい』1巻の最後のチャプター「Day1」の最終ページ。深崎暮人先生の挿絵に描かれた小鳥遊が手に持っているサイコロの出目の「3」! この挿絵の直前に、いたずらっぽく笑みを浮かべた小鳥遊が「あそびの、かんけい」とつぶやくシーン。読者全員がおそらく、「え、どういうこと? 小鳥遊は常盤のことがやっぱ好きなの? でも、Day1だよ?」と序盤の「Day176」の伏線を回収しつつ翻弄されてしまうことでしょう。
こうした時系列ごとに記載されていないことで生まれる「翻弄」は、まるでボードゲーム終盤に、他のプレーヤーに“大逆転神プレー”を決められて翻弄されて負けてしまうこともある「ボードゲームあるある」を彷彿させているのではとも、思ってしまうのは私だけでしょうか。
登場人物たちがそれぞれ抱える『ひみつ』
常磐は小鳥遊のことが好きなことを、歌方さんは自分がちょっと有名だった女流棋士であることや常盤のことをちょっといいなと思っている自分の気持ちも秘密にしています。そして、秘密がなさそうな、宇佐や小鳥遊にも実は大きな秘密が。
なんと小鳥遊の超絶イケメン彼氏こと宇佐は、歌方さんが金髪のかつらを被り、男装した「レンタル彼氏」だったのです。ボードゲームカフェに通うお金に困っていた歌方。そんな中、会社経営者で元棋士、さらに歌方の叔母で将棋の師匠でもある巽 真理狭(たつみ まりさ)が、「レンタル彼氏」のアルバイトをやってみないかと歌方に頼んでいるところに、「レンタル彼氏」を依頼しに小鳥遊がやってきてしまうところから、本作は急展開。
歌方が男装した“宇佐”と小鳥遊とは、「レンタル彼氏」という「遊びの関係」になってしまうことに。ちなみに小鳥遊は “宇佐”が歌方だとは知りません。
なぜ、小鳥遊は「レンタル彼氏」を依頼してきたのか「本当の理由」も『あそびのかんけい』の秘密の1つとして、ストーリーに残り続けていきます。作中では、「バイト先の同僚にイケメン彼氏がいるって言ってしまったから依頼しにきた」と、小鳥遊は語っていますが、「本当にそれだけですか?(笑)」と読者は思ってしまうことでしょう。
こうした秘密が、周りの人たちにバレちゃうのではというハラハラドキドキが『あそびのかんけい』の魅力の1つになっています。
歌方はレンタル彼氏の宇佐で、その宇佐と付き合っていることにしている小鳥遊のことをめっちゃ好きな常盤のことを少しずつ気になっていく歌方……。
『あそびのかんけい』の登場人物たちの「遊びの関係」を文章で書くと、登場人物たちのこじらせている感情と本作のドタバタラブコメ要素がはっきりとしてくるのではないでしょうか。
最大の魅力! 実際のボードゲームの駆け引きと登場人物たちの心理戦がリンク
ドタバタラブコメ要素だけで『あそびのかんけい』が書かれていたら、『あそびのかんけい』は、このライトノベルがすごい!2026で、3冠を取れなかったのでは、と私は思います。
ではなぜ、3冠を取るような高い評価が得られたのか。
『あそびのかんけい』の最大の魅力は、ボードゲーム中の登場人物たちによるコミカルな、そして、時にはシリアスな心理戦にあります。ボードゲームの進行度や戦略がそのまま登場人物たちの心情を表すエッセンスにもなっている点をとても巧みに書いています。
顕著に書かれているのが、物語終盤「Day165」にて、常盤の高校中退理由の発端となった元教師の羽切が「クルマザ」に来店し、常盤たちとボードゲームで遊ぶシーンです。「クルマザ」に来店した羽切と常盤、偶然居合わせていた宇佐の3人で「ハゲタカのえじき」というボードゲームで遊ぶことに。
「ハゲタカのえじき」は、手札に1から15までの数字が書かれたカードを手札として持ち、その中から1枚を場に出していくゲームです。場には他に、ハゲタカカードという−5から+10までの数字が書かれた得点を表すカードの山札があり、そこからもカードを1枚引いて場に出していきます。ハゲタカカードがプラスの値のときは、一番大きい数字を出したプレイヤーが、ハゲタカカードがマイナスの値のときは、一番小さい数字を出したプレイヤーが得点カードをもらえるというルール。
また、同じ数字のカードを出したプレイヤーたちが最大・最小の数字のカードになってしまった場合、無効となり、2番手の数字を出したプレイヤーが得点をもらえます。
(例:ハゲタカカードがプラスの数字のカード、そして3人で遊んでいる場合に15が2人、3が1人の場合、15を出したプレイヤーが最大の数字で得点をもらえる対象のプレーヤーですが、数字が2人でダブっているため無効。3を出した1人のプレイヤーが得点をゲットできます)
この「ハゲタカのえじき」というボードゲームは、「はじめまして」どうしだと、パーティゲームとして、わいわい気軽に楽しめます。ですが、気心が知れた相手だと、「えー、なんでこんなに同じ数字のカード出しちゃうねん! 気が合いすぎでしょ!」問題が発生してしまいます。カードの数字が被らないような戦略性が必要になってきますし、逆に、“相手が出しそうな数字のカードをわざと自分も出していく”というネガティブな戦略も可能になってしまいます。
このことは大きな問題を生み出していく点に注意しなければなりません。
例えば、3人で「ハゲタカのえじき」を遊んでいて、1位争いをしていて得点が拮抗しているプレーヤー2人と、大きく遅れをとってしまった3位のプレイヤーが1人いるとしましょう。彼らがこのまま“普通に”プレーしていれば、1位は得点が拮抗しているプレイヤーどうしで、力量や運が相手よりも上だったプレイヤーが勝利することになると予測できます。
ですが、もしも、3位のプレイヤーが“自分自身の勝利ではなく、1位争いをしているどちらかのプレイヤーを勝たせたい、もしくは負けさせたいと思った場合”、1位争い中のプレイヤーのうちどちらかと“同じ数字が出るようなカードの出し方”を意図的にしたら、どうでしょうか。
100%とはなりませんが、“普通に”プレイしたときよりも高い確率で、どちらかのプレイヤーと同じ数字を出すことに複数回成功し、順位を決めさせかねないという現象が発生してしまいます。つまり、「1位争いをしている当事者どうしの実力ではなく、他の順位の人の意思によって、1位が決定づけられてしまう」という遊んでいるボードゲームの本来の楽しみかたから外れた問題が、生まれてしまうのです。
このことは、ボードゲーム界隈で「キングメーカー問題」と呼ばれています。多くのボードゲームに内在する根本的な問題点として、昔から今までずっとボードゲーム界の悩みの種として存在し続けている厄介ごとです。
前置きが長くなりましたが、『あそびのかんけい』では、羽切、常盤、宇佐の3人で「ハゲタカのえじき」を遊びながら、同時に、羽切と常盤の過去について語られていく印象的なシーンに「キングメーカー問題」を巧みに織り交ぜて書いています。羽切が家族の病気の治療費を妻の実家から借金していたという過去が語られるゲーム中、なぜか常盤は1人でひたすらマイナス得点を引き受け、他の人を勝たせていくというプレイングをして、ゲームを簡単に終了させていきます。
実世界での羽切の生活状況と同じマイナスな状況を、なぜ常盤がボードゲームで背負ったのか。この謎は、常盤の高校中退理由と合わせて、『あそびのかんけい』の重要な核心部分に触れていきます。きっと、この謎の理由を知ったあなたは、パニックになるとともに、常盤という人物の別の側面を知ることになるでしょう。そして、『あそびのかんけい』という作品が単なるドタバタラブコメ作品ではないということに気づくのではないでしょうか。
「ボードゲーム」というキーアイテムを利用しながら、『あそびのかんけい』に隠された秘密へと肉薄していく作中の描写は、大変秀逸な表現になっています。是非、ご自身の目と心で、秀逸な表現の数々を味わって欲しいです。
【まとめ】『3冠』さえも『あそびのかんけい』を彩る装飾に!?
恋愛要素だけでなく、ボードゲームをプレイする中で、登場人物たちのさまざまな「ひみつ」をめぐる心理戦が最大の魅力の『あそびのかんけい』。
本作を最初から最後まで読んだ方はきっと、「2週目はDay1から時系列に沿って読み直して、伏線の再確認や謎の答え合わせをしてみよう」と思ってしまうことでしょう。お気に入りのボードゲームは何度も遊んでしまうように、『あそびのかんけい』を何度も楽しんで欲しいという葵せきな先生の遊び心が見え隠れしているようにも感じられます。
また、登場するボードゲームで遊んだことがある方やボードゲーム上級者のかたほど、より一層、『あそびのかんけい』の深淵に踏み込んでいけるという葵せきな先生のボードゲーム愛も感じられることでしょう。
「ボードゲーム」を利用した秀逸な表現の数々が、このライトノベルがすごい!2026の受賞につながった最大の要因だと思います。
さらに、作中の「3」に秘められた想いを考察してしまうと、「3冠」受賞ということも、作品のエッセンスなのではと思ってしまうのは私だけではないはず。このライトノベルがすごい!」2026の選考委員の方々の最大の賛辞も、「3」に込められているのではと、深読みしてしまいます。
今後の展開がまったく先読みできない『あそびのかんけい』。今後の展開から、目が離せません! 1巻を読んだ方は、すぐに2巻も購入して読んでしまうと思います。
葵せきな先生、深崎暮人先生、“3”冠受賞、おめでとうございます!
[文/田島 悠]
作品情報
『あそびのかんけい』特設サイト:https://fantasiabunko.jp/special/202505asobinokankei/
『あそびのかんけい』公式X:https://x.com/asobinokankei
ファンタジア文庫公式サイト:https://fantasiabunko.jp/
ファンタジア文庫公式X:https://x.com/fantasia_bunko













































