
シャフトの50年の軌跡とアニメ界の進化の過程を見せつつ、“ずっと変わらない大切なもの”も伝えたい――「シャフト50周年展」開催記念 株式会社シャフト・久保田光俊社長インタビュー
シャフト作品を観て入社したスタッフも増加。若い人の斬新なアイデアから起きる化学反応に期待
──50年続いていると、「シャフト作品を観て、入社したいと思った」という社員の方もいるのでは?
久保田:そういう人たちが増えてきています。10代は特に感性が刺激される年代だと思いますが、「アニメを作りたい」とか「こういう作品に関わりたい」と思い始めるのは作品を観て5年から7年くらいでしょうか。なので今は、シャフト作品を観て入りたいと思ったという人も増えてきました。逆に『月詠』や『ぱにぽに』を観たことがない人も多くて(笑)。『化物語』以降のうちの作品からすごく刺激されて入ってくる人がとても多いですね。〈物語〉シリーズや『まどか☆マギカ』を観て、「いろいろなアニメがあるんだ!?」と感じてくれたのかなと。入社面接で話してみるとそういう話がよく出てきます。だからこそ今後の作品づくりの中心となっていく若い人たちの感性を刺激したり、感情を揺さぶらせるようなアニメを作らないといけないのかなとも思っています。
──続々と入社される方たちが新しいエッセンスを加えながら、シャフトイズムという幹を太くしていくんですね。
久保田:そうなったら本当に嬉しいなと思っています。新しいものを生み出していくのはなかなか大変なことだなと思いますし、僕ら自身も新しいものを生み出していくために苦しんでいます。刺激を受けて入ってきた若い人たちが新鮮なアイデアを出したり、我々の感性を刺激するようなものを与えてくれれば、また新しくて、おもしろい作品が生まれるのではないかなと信じています。
そのためにはもちろんアニメの基本的な技術があることが必要ですし、柔軟な考え方ができるようになるためには新しいアニメだけ観るのではなく、古いアニメや実写映画などいろいろなものに触れることも必要かなと思います。ほとんどのクリエイターは過去の作品に刺激を受けて作品を作っていますから。若い人たちのアイデアが新芽のようにほんの小さなものであっても、そこから予想外の化学反応が起きることも意外と多いんです。そんな化学反応がアニメのストーリーやビジュアルに出てきてほしいなと願っています。
シャフトの軌跡をたどりつつ、来場者の記憶を呼び起こすような展示に
──今回「シャフト50周年展」が開催されることになった経緯と感想をお聞かせください。
久保田:まず40周年を迎えた2016年に「MADOGATARI展[SHAFT 40th ANNIVERSARY]」を開催しました。その時は、生の絵や素材は非常に楽しいものなので、そんな温度感を少しでも伝えられたらいいなと思って、普段あまりお見せすることがない絵コンテや原画、セル画などの中間物をたくさん展示しました。
そして50周年を迎えるにあたっては、「特に大きくやらなくてもいいかな?」と思っていました(笑)。そう考えていたところに、講談社さんやアニプレックスさんに協力いただけることになりました。
今回は記念的なものというより記録的なものにしたくて。50年という長いアニメの時代の中で、シャフトのことを少しでも思い出してもらえたらいいなと。「シャフトはこの時にはこんなアニメを作っていたんだな」と50年の軌跡をたどりながら、皆さんが作品を観ていた時代やその時のことを思い出せるような展示になるかもしれません。過去の作品で展示できるものは拾いつつ、お伝えしながら、「この頃はこういうアニメがあったな」という記憶に少しでも繋がるものになればいいなと思っています。
そしてアニメ制作は結局、人との関わりや繋がりが大切で、シャフトのアニメーターだけではなく、たくさんの人たちがアニメに関わってくれていたことも伝わればいいですね。なので「MADOGATARI展」の時のように作品にフォーカスしたものよりは、作品を作ってくれた人にフォーカスしてできたらいいなと考えています。
──「シャフト50周年展」には、社員の方々はどんな形で関わられているのでしょうか?
久保田:基本的には社内でプロジェクトチームを立ち上げて、展示する内容を選んだり、決めたりしています。今の仕事の環境や状況もあって、すべての社員に直接関わってもらうことはできませんが、どの原画を展示したらいいのか意見を聞いたり、展示用にコメントをもらったりなど、手助けしてもらっています。
──「シャフト50周年展」の詳細が発表された時は驚きました。まずビックリしたのは、2025年12月27日(土)から2026年1月6日(火)までと、2026年1月8日(木)から1月18日(日)までで展示内容を変えるそうですね。しかもそれが、ショップフロアも含めれば5フロアで展開されるというのがすごいなと。
久保田:それでもスペースが足りないくらいです。すべての作品をご紹介することは不可能で、しかも1タイトルごとにやっていくと結構膨大なスペースが必要になってしまうので、「本当はもっとお見せしたいのにな」と泣く泣くあきらめたものもたくさんあって。展示物を選んでいく作業の中でも50年という年月の長さを改めて実感しました。ただ展示に関しては、関わった社員やスタッフも含めて、みんなでやり遂げた仕事、作品を実感していただける形になっていると思います。
皆さんにわかりやすく伝わるようにというコンセプトで構成を考えましたが、良いとこ取りすると散漫な印象になってしまうので、少し絞り込んでいます。例えば「OPだけにしよう」とか割り切るけれど、濃い内容になるように意識しながらやってみました。皆さんが一番印象に残っているであろうところは触れながら、アニメはたくさんの人たちによって作られていることや、1本のアニメを作るためには膨大な数の絵を描かなければいけないことなど、物理的なエネルギーが費やされていることをちょっとでも伝えられればいいなと思います。
──展示作品が既に発表されていますが、シャフト作品に触れたファンがどの世代でも楽しめるように網羅されていますね。展示企画をこれまで取材する機会はありましたが、複数の階に渡って展示されているケースは珍しいなと。階を上がることで、シャフトの歴史の歩みを体感できるのもいいですね。
久保田:そんな展示になればいいなと思いながら構成していますが、なかなか難しくて。例えば原画、特に動きがあるものになると100枚単位になってしまうので、1カットを展示しただけで1フロアが埋まってしまうので(笑)。展示する原画を惜しみながら、苦しみながら選んでいきましたが、楽しかったのも原画の選定作業でした。「どれを使おうかな」と一生懸命悩んでいる時間は作品とじっくり向き合えた幸せなひとときでした。
アニメ界の進化の過程を見せつつ、ずっと変わらない大切なものも伝えたい
──私がアニメを観始めた頃はセル画が全盛で、雑誌や展示、イベントなどでも目にする機会がありましたが、デジタル主流の今ではセル画をあまり目にする機会がないので、そういった意味でも貴重だなと思いました。
久保田:セル画も少ないながらもお見せしたいと思っています。今年公開した『ヴァージン・パンク Clockwork Girl』は、梅津泰臣監督がまだ紙と鉛筆で作っていますので、そういうものも展示しようと思っています。
一方で、同じく今年放送された『忍者と殺し屋のふたりぐらし』など、ここ数年の作品はフルデジタルになっているので、その素材や描き方の違い、アニメーションのツールの進化も感じてもらえるものにできたらなと。一番古い時代のフィルムで作っていた頃のセル画や背景、動画なども少しだけ観ていただけるようになっています。僕らの世代にとっては懐かしく、若い方たちにとっては「これは何?」と不思議さと新鮮さが同居する感じになると思います。
──アニメが好きな親子が訪れたら「パパ、これ何?」「これはセル画といってね……」みたいな会話が会場の随所で見られるかもしれませんね。
久保田:そうですね(笑)。僕はアニメの進化はものすごく速いなと思っていて。最初はセル画で作っていた時代が30~40年あって、その後は最新式のデジタルのシステムが導入されて、作画もデジタルになって、CGなども含めて、ハイブリッドなアニメ制作に変わっていきました。更にここ数年でアプリやツールもアップデートしていく時代なので、この先はどうなっていくのかわからないくらい速い進化の中で、僕らもその進化に負けないように変化や進化をしていきたいなと思っています。ただどんなに進化しても、人が想像して、絵を描いて、それが動いてアニメになると信じているし、例えタブレットを使うようになっても手で描くことは変わりません。絵の美しさや素材の意味など一番大切なことを、展示を通してお伝えしていきたいと考えています。
また僕らが作ったアニメが皆さんの元に届いて、感想などをSNS等で気軽に発信できるので、それらを僕らが見ることができるようになって。そんな感想や反響を受け取って、今後の制作に活かしたり、励みにしながら進化していく、そういうキャッチボールだと思っています。SNS等の進化で、ファンの皆さんとの繋がりもより身近になったように感じています。この展示会でもどんな小さな意見でもいいので、いただけたら嬉しいです。
──会場にはシアターフロアもあって、シャフトのこれまでのアニメがスクリーンで観られるのも嬉しいです。
久保田:(取材時点では)どの作品を、どんな形で上映しようかと相談している最中です。なるべく皆さんに喜んでもらえるようにと考えていますが、これも選ぶのが大変で(笑)。作品名は聞いたことがあるけど観たことはないというタイトルもいろいろあると思うので、どんな作品を上映するのか、楽しみながら選びたいと思っています。ちなみに、観たいシャフト作品はありますか?
──『爆烈エトレンジャー』や『まほろまてぃっく』(2001年10月~12月)など、懐かしいアニメを観たいです。
久保田:あと今はアニメの先行上映会などで、多くの人たちと一緒に劇場でアニメを観る機会も増えましたが、昔はみんな一緒に観るどころか、劇場で観ることも珍しかったと思います。まあ僕らはラッシュ(未編集の映像素材を試写すること)をスタッフで観ることは今も昔もありますけど。昔は今のように大勢の人たちが集まって、同じ作品を観て、その後語り合ったり、SNSで感想をつぶやいたりすることがなかったので、昔の作品でそういう体験をしてもらえたらいいなとも思っています。
──話は少しそれますが、昔の映像をデジタルマスタリングした作品を取材した際、元の映像を観てみたら、映像のあのザラつきが懐かしくて。当時はこの映像を違和感なく観ていたのかという驚きもありました。
久保田:それはありますよね。昔録画したアニメのビデオを観直してみたら、映像がすごく粗かったりして。今回は、昔の作品をそのまま上映するのか、デジタルマスタリングして上映するのかはまだ決まっていません。そもそも上映する作品自体が決まっていないので。ただ昔のままの映像なら感慨深いですし、デジタルリマスターして観たら新鮮さを感じると思うし、スクリーンで観られるだけでも嬉しいと思うんです。「こういう作品が観たいな」というご意見もいただければ参考になります。











































