
恐竜の色が判明したのはイカのおかげ!? 2026年夏アニメ『プラノサウルス ガチコセイブツ部』をきっと見たくなる! 爬虫類研究家・富田京一先生による“ガチ”の恐竜&古生物講座
学術的に正確な「プラノサウルス」の表現の数々
──「プラノサウルス」というコンテンツは富田先生が監修を務められていますが、具体的にはどのような要素を監修しているのでしょうか?
富田:恐竜のラインナップに関しては、基本的にバンダイスピリッツの皆さんの領域ですから、お任せしています。どちらかと言えば、候補に挙がった恐竜に対して、私の方から「よく似た系統で別の種類にした方が面白いですよ」といったアドバイスは何度かさせていただきました。例えば、トリケラトプスのような角竜(つのりゅう)を出す時に「パキリノサウルス」を推薦したりですね。
他にも、アロサウルス系で出すならギガノトウルスが良いとか、まだ未公開なので具体的な名前は伏せますが「最新の研究だと、実際には存在しない可能性が高いので、別の恐竜に変えた方が良いんじゃないか」とか「この種類は論文ごと否定されて消える可能性があるので避けた方が無難ですよ」といった視点からもアドバイスをしています。
バンダイスピリッツ宣伝担当:アニメに登場するCGや動きのビジュアルチェックも先生にお願いしています。
富田:例えば、アニメに登場するアンモナイトのCGをチェックした際、何故か一番上の触手が2本だけビヨーンと長く伸びたデザインになっていたんです。しかし、アンモナイトの触手が一番上から伸びているのはありえないので、体の中心部から伸ばすように修正してもらいました。
また、恐竜は関節の可動域に制限があるので「こんなに股を開く動きは無理ですよ」といった指摘はよくさせていただいています。アニメなので画面の面白さを重視して、とある場面では恐竜がガニ股で走るカットがあったのですが、この動きでは恐竜でなくなってしまうので修正をお願いしました。
──学術的に正しいように細かく監修されているんですね。
富田:アニメで恐竜の大人と子供が登場する際は、それぞれの「体に占める眼の大きさの比率」や「くちばしの長さ」なども監修しています。と言うのも、市販されている恐竜の商品の多くは大人の、しかもたいていはオスの姿しか再現されていないので、アニメに子供の恐竜を出すとなると、どのようなデザインにするか、あるいはメスの姿をどう表現するかという点まで踏み込んでアドバイスをする必要があるからです。
ティラノサウルスの前足は「補助輪」の役割!?
──ティラノサウルスなどは前足が小さいイメージですが、そういったところの動きも細かく指示されましたか?
富田:恐竜の前足に関しては、後ろ足のようにガチガチの構造にはなっていないので、もう少し柔軟に動かせるんです。体全体の比率から見れば異様に小さくて可愛い前足に見えますが、ティラノサウルスの場合、あの小さな前足でも並みの恐竜であればパンチで殺せるくらい強いです。サイズは小さくても片手で200kg以上の重量を持ち上げられるほどだったので、牛くらいのサイズの恐竜であれば殴って殺せるくらいの力があったはずです。他にも、獲物を押さえつける時にも役に立ちますし、小さくても意外とあなどれない前足だったと私は思っています。
それに加えて、これも恐竜の特徴の一つと言えますが、足腰が非常にしっかりしている反面、前足の構造はかなり大雑把にできているんです。もちろん前足は動きにも限界はあるので、例えば恐竜が「猫パンチ」のような動作をすることはまず不可能です。
恐竜が楽な姿勢で動こうとした場合、肘が地面に対して垂直よりも前に出る(前方に大きく振り出す)ことは、骨格の構造上ほとんどできません。博物館などには、スピノサウルスが前足で器用に猫パンチを繰り出して魚を捕らえているような映像がときおりみられますが、それは体と骨の構造的に不可能です。
そこには、恐竜は2足歩行に適応した動物なので、前足の作り自体は多少いい加減でも生存競争において許されてしまった背景があります。
──具体的にはどういうことですか?
富田:陸上を歩く巨大な哺乳類の代表格である「ゾウ」と恐竜を比較してみると面白いことがわかります。ゾウの体の重心は肩甲骨のすぐ後ろ(前足側)にあるので、ゾウの足跡を調べると、後ろ足の足跡よりも前足の足跡の方が2倍近く大きいんです。つまり、ゾウは構造的に前のめりの姿勢で歩いていることになります。
一方、四足歩行の大型恐竜であるブラキオサウルスなどは、重心が骨盤の手前(後ろ足側)にあるため、恐竜と哺乳類とでは重心の安定度が全く異なります。
哺乳類は歯や顎が発達しているために頭部が重く、どうしても常に前のめりになってしまいます。その上、足腰の頑丈さも恐竜には及ばないので、歩行時にバランスが不安定になりがちです。しかし、恐竜は後ろ足が圧倒的にしっかりしているため、前方が多少不安定でもびくともしません。
基本的に恐竜は鳥に極めて近い生き物なので、一度は手羽状に進化した手を、草木を食べる生活には四つ足が便利ということで改めて前足として進化させています。そのため、前足は後ろ足ほどは大きくないんですね。トリケラトプスの足跡や手の構造を見ると、ほぼ前習え状態で四つ足歩行していることがわかります。
植物食(草食)へと進化する過程で、一度に大量の植物を消化するために内臓が巨大化し、体が急激に重くなっていきました。「さすがにこの巨体を2本足で支えて歩くのはしんどいな」となった結果、彼らは再び四つ足で歩く生活へと戻っていったのです。
犬や猫、馬、牛などは手首が進行方向を向くようになっています。しかし、四つ足の恐竜の多くは、前足が斜め前か横を向いてしまっています。これは鳥のようになりかけた前足を、無理やり四足歩行に戻したゆえの歪みなんです。それでも彼らが何不自由なく生活できたのは、後ろ足が圧倒的にがっしりしていて、彼らにとっての前足はあくまで「補助輪」に過ぎなかったからです。腰や骨盤だけで全体重のすべてを支えていることこそが、恐竜を恐竜たらしめている最大の特徴なのです。
全ての恐竜には羽毛が生えていた!? 最新の恐竜事情
富田:ここまでお話してきた恐竜の定義は、1842年にイギリスの生物学者リチャード・オーウェン博士が定めたものです。ちなみに、映画『ジュラシック・ワールド』でヴェロキラプトルを訓練している主人公も「オーウェン」という名前ですが、これはオーウェン博士へのリスペクトから名付けられたものでしょう。
オーウェン博士が遺した恐竜の定義は、約200年が経過した現在でも全く揺らいでいません。ただし、オーウェン博士が亡くなった後にわかった新事実も幾つかあり、その代表例が「おそらく全ての恐竜には羽毛が生えていた」ということです。正確に言えば、恐竜の先祖の段階で、既に体には羽毛が生えていたことは確かです。
何故ここまで断言できるかというと、恐竜ではない翼竜にも羽毛が生えていたことがわかっているからです。これは、恐竜と翼竜が進化の過程で枝分かれするよりも前の、原始的な爬虫類の段階で既に羽毛が生えていたことを示しています。博物館の展示などで「恐竜が進化して鳥に近づくにつれて羽毛が生えてきた」といった解説を見かけることがありますが、あれは学術的には誤りなんです。
鳥のように「空を飛ぶための空力学的な特性が高い羽毛(風切り羽)」や「卵や子供を抱っこして温めるための保温性が高くて柔らかい羽毛」に関しては、確かに鳥に近いグループの恐竜になってから発達したものです。しかし、羽毛そのものは、恐竜の“き”の字も誕生していないような遥か昔の段階から、既に存在していたと考えられています。
──子供の頃の図鑑には羽毛が生えた姿はなかったので、この学説を聞いた時は驚きました。
富田:もう一つ、オーウェン博士の死後にわかった発見で大きいのは「恐竜は完全には絶滅していない」という事実です。
先ほど「大半の恐竜は体を丸めて穴に入れなくて滅んだ」とお話ししましたが、全ての恐竜が地球上から消え去ったわけではありません。よくテレビ番組などで「鳥は恐竜の親戚です」と紹介されることがありますが、学術的には親戚などではなく「鳥は恐竜そのもの」です。
実は、鳥は飛ぶ能力以外は、初期の恐竜からそれほど大きく変化していません。鳥には余計な角などもついていないので、原始的な恐竜の生き残りが現代の鳥であるとも言えるわけです。
恐竜を巨大化させた「頑丈な骨格」と「呼吸効率」
──アニメではテトリとカンナが数十メートル級の恐竜を見上げて驚くシーンがあります。恐竜の平均は豆柴サイズとのことですが、一方で図鑑の主役になるような30メートルクラスの超大型恐竜も存在していました。彼らは一体なぜ、そこまでの巨体に進化したのでしょうか?
富田:そこには複合的な要因が考えられますが、1つは、先ほどからお話ししている通り「骨格が圧倒的に頑丈であった」ことにあります。あらかじめ恐竜の体には大きくなれる余地が備わっていたと言えるかもしれません。
そして、もう1つの理由として挙げられるのは「異常なまでに発達した呼吸システム」です。私たち哺乳類の肺と違って、恐竜は体内の至る所に空気袋を備えていて、空気が体内を循環し続けることで肺の毛細血管に絶えず酸素が送られ続けるという、もの凄く呼吸効率が良い動物だったんです。
この「頑丈な骨格」と「呼吸効率」という、体が大きくなっても大丈夫な2つのポテンシャルが備わっていたわけです。
──大きくなるためのエリートみたいな生き物だったんですね。
富田:そんな恐竜たちの大型化が本格的に始まったのは、三畳紀(さんじょうき)の終わり頃、今から約2億2000万年前と言われています。
当時の地球は、マントルの上を漂っていた大陸同士が衝突して超大陸「パンゲア」が形成された時期です。一つの大きな大陸になったため、海からの湿った空気が届かない内陸部が乾燥した結果、周辺地域はもちろん地球全体も乾燥へと向かっていってしまいました。
この乾燥によって自然環境に何が起きたか。当時、地球上に繁栄していた植物たちが生き残るために劇的な変化を遂げて、植物の体のつくりが「サボテン化」してしまったんです。
誤解のないように補足しておくと、本物のサボテンが地球に誕生したのはもっと後の白亜紀(はくあき)の頃です。三畳紀の終わり頃に、スギやマツ、イチョウといった当時のあらゆる植物の体の構造が、まるでサボテンのようになってしまった時期があるという意味です。
気候が極端に乾燥すると、植物が光合成を行うための「光」「二酸化炭素(CO 2)」「水」という要素のうち、「水」が相当に欠けてしまいます。その結果、見た目が歪で中身がスカスカな植物ばかりが生い茂る時代が来てしまったのです。しかも、小さいとすぐに草食動物たちに食べ尽くされてしまうので、大きいけど中身がスカスカな植物が乱立する状態になってしまいました。
そんな過酷な時代に、たまたま恐竜が誕生したんです。
そして、実は恐竜の大半は植物食(草食)です。地域によって多少の差はありますが、肉食恐竜が比較的多い環境であっても、肉食恐竜1割に対して植物食恐竜9割くらいの圧倒的な割合になります。
そんな彼らが、栄養がほとんどないスカスカの植物を食べて生き抜くためには、とにかく量を食べて栄養不足をカバーするしかありませんでした。たくさん食べるためには、当然ですが詰め込む体や内臓も巨大化させる必要があります。そうして大きな胃や腸の中で大量の植物をじっくりと発酵させて、スカスカの植物から少ない栄養素を極限まで絞り取るという生存戦略の結果、彼らの体はどんどん巨大化していったのです。
──そんな理由があったんですね。
富田:ただし、ここで言う「巨大化」は、まだ牛や馬くらいのサイズ感のお話です。体が大きくなることには弊害もあって、それは「動きが鈍くなること」です。動きが鈍いと肉食恐竜に簡単に捕まってしまうんですね。
生存効率だけを考えるなら牛や馬くらいのサイズで進化を止めておきたかったところを、それでは肉食恐竜の餌食になってしまうので、自らの体を難攻不落の要塞のように大型化して、敵から身を守る方向へ舵を切るしかなかったんです。
植物食恐竜が要塞のように巨大化していくと、今度は肉食恐竜たちも彼らを仕留めるために負けじと体を大きく進化させていきます。ただし、肉食恐竜は巨大化に限界があって、アフリカゾウより重い肉食恐竜は一種類も知られていません。
──ティラノサウルスとか重そうなイメージがありますが、実際はそれくらいなんですか?
富田:図鑑などに「スピノサウルスは体重21トン」などと書かれていることがありますが、信憑性のある学術的なデータで言えば、史上最も重い肉食恐竜はティラノサウルスの約8~9トンです。そして、現代のアフリカゾウの最大個体は約11トンくらいなんです。
では、どうして肉食恐竜がアフリカゾウより大きくなれないかと言えば、地面に生えている草木を食べる植物食恐竜とは違って、生きている獲物を追いかけて狩りをしなければならないからです。そこに巨大化の限界が生じてきてしまいました。
一方、どれだけ俊敏に走ったところで肉食恐竜から逃げ切れないことを草食恐竜はわかっているので、あるグループは自分の体を頑強な要塞のように巨大化することで、物理的に捕食できない存在へと進化していきました。また、親や年長者が自分の仲間を守ることで群れや社会全体を維持していたこともあり、どんどん巨大化する方向へ突き進んでいったんです。最も大きな草食恐竜は、全長35メートル・体重100トン弱まで達したことが確実視されています。
──肉食恐竜と草食恐竜とで体重の差がすごいですね。
富田:ただし、恐竜全体の進化の視点から見ると、草食恐竜は「小型化に失敗した」とも考えられます。
あまりに小さいと心臓の鼓動が速くなりすぎて寿命が短くなるといった側面もありますが、基本的には体が小さい方が食べる量は少なくて済みますし、天敵から隠れる場所もたくさんあるので生存効率が良いはずです。
しかし、三畳紀の地球では厄介なことに、恐竜と同時期に哺乳類も出現してしまったんです。これによって生態系における小さな生き物の席を哺乳類に取られてしまいました。恐竜たちもできるだけ小型化しようとする種類の方が多かったので、大半の恐竜は豆柴くらいのサイズしかありませんが、哺乳類の平均サイズはさらに小さいネズミほどです。
それで、小型動物の席を哺乳類たちに奪われてしまい、逆に大型動物の席は空いていたので、恐竜は大型種の方が多くなっていったのです。




































