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- 藤崎萌恵
- 大阪府在住のライター。小説、漫画、アニメ、映画など“好き”を追い続ける。

すう先生の大人気BLコミック『キスは捜査のあとで』が、渡部 秀さん&齋藤璃佑さんW主演で実写ドラマ化。渡部さん演じる天然人たらしのアラフォー人情派刑事・多古井平助と、齋藤さん演じる毒舌エリート後輩・塩野 秀が織りなす、ノンストップ・ラブコメディです。
第5話では、多古井と塩野が水族館デートへ。塩野は自身の想いを素直に伝え、多古井はその想いに触れながら幸せを実感していました。一緒にたこ焼きを作り、会話を重ねていく2人の親密度はさらに深まっていきます。
本稿では、ドラマ『キスは捜査のあとで』第5話「好きなら毎日でも」をレビュー。多幸感溢れるデートから一変、多古井の言葉が塩野を傷つけてしまいます。
※本稿はドラマ『キスは捜査のあとで』第5話までのネタバレを含みます。
多古井の優しさに対して、塩野は「期待を持たせるほうがよっぽど残酷」と指摘していました。衝突してすれ違ってしまった2人ですが、事件の合同捜査を経て多古井は塩野にきちんと向き合い、おもいきって彼を水族館に誘います。
主題歌「なつめき」をバックに映し出される、多古井と塩野の多幸感溢れるデートの時間。2人の手と手が繋ぎたがっているかのような、あと少しで触れることができる距離。イルカショーを無邪気に楽しむ多古井を見つめながら、塩野の顔もほころんでいました。
塩野が水族館ではしゃぐ多古井の写真を嬉しそうに撮る一方で、多古井もまた撮られるばかりではなく塩野の“笑顔”を引き出して連写。もう塩野からの一方通行の恋ではないのだと、多古井から塩野に向ける表情や眼差し、声のトーンからもその変化を見いだすことができます。
“デート”のお誘いを受けてどれだけ嬉しかったのか、この日をどれだけ楽しみにしていたのか。デートの準備に余念のない塩野は、水族館の生き物に関する豆知識を次々と披露。その詳しさに多古井が驚いていると、「調べました。多古井さんに楽しんでほしくて。いい思い出になったらいいなって。大切な人とのデートだし」と塩野は素直な気持ちを伝えます。
そんななか、お土産売り場で期間限定のボールペンを手にする多古井。彼が何気なく口にした「お前のも買おっか?」の一言に、衝撃を受ける塩野。まさか“お揃い”を提案されるなんて、考えもしなかったのかもしれません。
多古井が好意的になってきたものの、塩野は多古井が自分と同じ熱量で想ってくれているとはおそらく考えていないはず。そのためか、多古井との進展を大切にしながらも、どこか片想いの名残りのような奥ゆかしさが見え隠れしています。また、“男同士”であることに対する多古井の迷いも察知しているであろう塩野は、どこか気遣うような姿も見られました。
そうしたなかで自分に向けてくれる多古井の特別な好意。多古井の何気ない言葉の後、塩野は即断即決でレジへと向かってボールペンを2つ購入しました。「なんか学生カップルみたいですよね。おそろい」と塩野ははにかんで、多古井も嬉し恥ずかしの表情に。
多古井が誘ってくれたことについて、「嬉しい」よりも先に「ホッとした」という言葉が出たことも含めて、表情や視線だけでなく、言葉のひとつひとつから塩野の感情が見て取れるようになってきました。塩野が語る愛の言葉は、多古井の心にしっかりと届いているはずです。
手を掴むきっかけがあったとはいえ、多古井が自ら手を繋いだのもその証。塩野はというと、居酒屋であんなに大胆に多古井の指に自分の指を絡めていたのに、いざ多古井から手を繋がれると固まってしまうんですね。その瞬間、2人のドキドキが伝わってくるようでした。
しかし他人の心ない一言が、2人のあいだにわずかな距離を作ってしまいます。水族館デートでは、多古井が実感していく塩野への特別な想いと、周りの目を気にしてしまう彼のためらいも浮き彫りになりました。
たこ焼きの準備をする塩野の後ろ姿を眺めながら、多古井が幸せを噛み締めている様子も。多彩な表情を見せてくれる多古井ですが、こんなふうに至福に浸る表情は初めて。なんて愛おしい瞬間なのでしょう。
塩野がたこ焼きを買って食べるのは日常茶飯事らしいですが、自分で作って食べることも多いのか慣れた手つきで焼いており、多古井はというと悪戦苦闘。煽られてムキになる多古井を愛おしそうに見つめながら、塩野もまた一緒に過ごす時間を心に焼き付けているかのようでした。
まさか多古井を招いて一緒にたこ焼きを食べる日が来るなんて、かつての塩野は想像したでしょうか。多古井は塩野の部屋に入ることも全く警戒しなくなっているどころか、安らぎすら感じているようです。密かに恋心を抱いていたかつての塩野に思いを馳せる度、この幸せがずっと続いてほしいと願わずにはいられなくなります。
たこ焼きは毎日でも飽きないし、好きなものは毎日でも飽きないという塩野の真意に、多古井は気づいているのか気づいていないのか落ち着かない様子に。そして、多古井に対して「かわいい」を連発する塩野と、照れる多古井の永遠のやりとりが、あまりにもかわいい。たこ焼きをつつきながら交わす会話には、ほんのり甘さも漂っていました。
実写ドラマ化で印象的なのは、仕事ではクールな塩野がひとたびスーツを脱ぐと、エリートの顔から等身大の恋する青年の姿があらわになること。プライベートと仕事のコントラストがはっきりしており、逆にデートから職場の場面へと切り替わる瞬間にもまた塩野のギャップにやられてしまいます。
好きな相手とどれだけ距離が縮まっても、職場では一見変わらない距離で接することで、逆に心を掻き立てられるわけです。
本部出向の内示が下り、真っ先に塩野の脳裏をよぎったのはおそらく多古井のこと。塩野はどこか思い悩む様子を見せながら、その日の夜、多古井と会う約束をします。
塩野との関係を隠そうとする多古井ですが、全てを見抜いている同じ刑事課の江川(演:工藤 遥さん)には正直に話しており、仲の良い現場を目撃した居酒屋の大将(演:矢柴俊博さん)にも本音を打ち明けるように。「めちゃくちゃめんどくせぇヤツ」と言いながらも惚気にしか聞こえず、幸せを隠しきれない多古井の表情が塩野への愛情を物語っていました。
しかし、居酒屋に入ろうとした塩野が偶然耳にしたのは、多古井が発した残酷な言葉。どんな理由があったとしても、本当の意味が別にあったとしても、言ってはいけなかった言葉。だけど多古井が言いたかった言葉ではないのも、塩野を守りたかったのも分かります。今回は多古井の“誰にでもいい顔をする”体質が、良くない方向へ作用してしまいました。
厳しいけれど「自分のことも相手のことも否定するようなことを言うな」という大将の言葉通り。ここで多古井にきちんと諭す大将の存在は、重い意味を持ちます。
いつしか塩野に惹かれるようになり、恋愛対象にはなり得ないというかつての多古井の無意識の思考は覆されていきましたが、いざデートをすると“男同士”に対する周りの目が気になるように。だけど、それ以上に塩野と過ごす時間が幸せで楽しいことも確か。
多古井の中ではもうとっくに答えは出ているはずなのに、拭いきれない“迷い”もまた原因となり、塩野を深く傷つけてしまったのです。
期待した分だけ傷つくと知りながらも、期待を募らせていたであろう塩野の傷は相当深い。塩野が持ち始めた希望は、最悪の形で絶望の底へと沈んでいきました。第4話で塩野が多古井に忠告していた言葉をなぞるかのような展開に。
“キス”も“好き”も全部忘れるよう多古井を突き放す塩野。誰に何と思われても言われてもどうでもいいと強く振る舞う彼が、ここまで悲痛な感情をさらけ出して言葉を振り絞るなんて。「合わなかった」という塩野の精一杯の言葉に、胸が締め付けられます。多古井に合うのは、“男である自分”ではないのだと。
もしかしたら塩野は、多古井にもうあんなことを言わせたくなくて、多古井のために身を引く決意をしたのでしょうか。傷ついたのは自分なのに、“大切な人”を守りたいゆえに。胸ポケットに挿していたお揃いのボールペンを外したのも、きっと詮索されて困っていた多古井のためなんですよね。
塩野から“終わり”を突きつけられ、塩野を傷つけてしまったことを知った多古井は、自身の言動を後悔してもしきれないでしょう。彼はいかに誠意を尽くして想いを伝えられるのか、ここが大きな見せ場になりそうです。塩野が考える以上に、多古井は塩野に夢中なのだから。
第5話は不穏のまま終わりを迎えましたが、本部出向で物理的に離れる前に、再び2人の想いが交差することを願うばかりです。
| 作品名 | キスは捜査のあとで |
|---|---|
| 放送形態 | 実写ドラマ |
| スケジュール | 2026年7月26日(日)~ ABCテレビにて |
| キャスト | 多古井平助:渡部秀 塩野秀:齋藤璃佑 江川まり子:工藤遥 長谷川次郎:金井勇太 八木保:ドロンズ石本 大将:矢柴俊博 松雪みすず:菊川怜 |
| スタッフ | 原作:すう『キスは捜査のあとで』(Jパブリッシング) 脚本:村田こけし 演出:大内隆弘 浅見佳史 プロデューサー:藤田洋平 寺川真未 川西琢(ABCリブラ) 制作協力:ABCリブラ 制作著作:ABC |
| 主題歌 | 「なつめき」OCTPATH |
